続2話 色々です。<黒魔法>
カン!カンカン!カ、カン!
木剣の打ち合う音が聞こえる。
ニックさんが元傭兵とわかってから、マークや他の男の子たちが稽古をつけてもらっている。マークがいつも騎士を目指して体力作りをしてるのに釣られた男の子たちがちょっとずつ増えて、そこそこの人数になっている。
格好よく「木剣」と言ったが、実のところは「棍棒」である。端材、廃材から私が作った物。マークが涙目で言い張るのでうちでは木剣で通すことにした。
マークの剣は鍬に打ち直されて頑張ってるよ!
言うと怒られるので黙っている。
最初は護身術を兼ねた運動をして体力をつけようって目的だったのに、すっかり少年格闘部になってしまった。またマークの年下への面倒見の良さも発揮され、団結力が高い。
そのせいで女子が交ざりにくくなってしまった。
別に仲が悪いわけではないし、性別的に適度な方法があったりするので、ニックさんとルイスさんは別に良いんじゃね?と言う。
まあね、私のお転婆具合を誤魔化すために発案したのであって、本気で強くなりたいわけではない。
私の前世は貧乏で長期休暇は毎回山に籠っていた。
木登りがしたい! 川で泳いで魚も捕りたい!
サレスティアの体はお嬢様なのでまだまだ鍛えなければいけないが、前世ではもう6才で木に登って木の実を採ってたのよ!家族に猿と言われる程登ってたのよ~。素手で崖も割といけたのよ~。
夢だった、木から木へ飛び移るってのを魔法でカバーして出来んじゃね?と思ったらウズウズするのだ。
一度、皆の目を盗んで一人で木登りしようとしたら、一メートルも登れずに終わったのが悔しかったわ~。
「あ、いた。女子はあちらでやってますよ?」
男子部の方が稽古時間が長いので、いいなぁと眺めていたらルルーが迎えに来た。
「ごめん。木剣のいい音が聞こえたから覗きに来ちゃった。マークは頑張ってるわね!」
「そうですね、早く真剣を買うために頑張ってますよ」
剣を鍬に加工されたマークの落ち込みようは長引き、とうとうニックさんが、自分から一本取れたらヘソクリで買ってやると言ってしまった。ただし一番安いヤツだからなと釘を刺されたけど。
それでもマークは嬉しかったようで、ニックさんと対戦する時はものすごく気合いが入る。
・・・その対戦姿を見るルルーの姿を見るのが最近の楽しみだ。ドライなクールビューティーかと思えば、なかなか可愛いじゃないの~。
「ルルーから見てどう? 一本取れそう?」
「そうですね、動きも様になってきたんじゃないですか? まあ、私は素人なのでわかりませんけれど」
「そうよね。私もわからないけどニックさんにはまだまだ余裕があることはわかるわ」
「・・・報われるといいですね」
「応援したら? ルルーの声で奮起するかもよ?」
もはや6才児にしてオバハンである。まあ実質そうなんだけど。でもルルー可愛い!
「せっかく集中しているのに、そんなことできません」
これだ。でも耳が赤いですよ! うふ。
はあ~、いつか恋ばなできるかな~? 恋人がいたことないのでまったく参考にならないけど・・・・・・兄、姉にはいたのにな~?
「さ。行きましょう」
二人は私の専属だからね、チャンスはいっぱい作ってあげるからね!
そうして、ルルーと手を繋いで女子部へと向かった。
***
「は~ぁ、いまだに信じられない、大蜘蛛飼育・・・」
私に付いて来たニックさんがげんなりする。
「任せっぱなしでご免なさい。大人しくしてる?」
「ええ。元々大人しい部類の生き物らしいですからね。餌さえ出しときゃ糸も出してくれます。こんな爺でも楽に世話が出来てますよ」
そう、ここは大蜘蛛の飼育場。と言っても森の一部を風魔法で空間を区切って蜘蛛を閉じこめているだけの場所。餌台に一匹につき一羽分の鳥肉(いつも狩ってる野鳥)を置いておけば、暴れず共食いもせず、二週間は糸を吐き出してくれるいい子達である。
おかげで領民全員の下着も替えが出来上がった。野郎連中には従来のに比べて頼りない感があるようだが、概ね好評。
ここの担当者はロドリスさんというお爺さん。農業一筋だったけども、最近作業がキツくなったということで、ここの管理を頼んでる。餌を台に置いて糸を回収し、後は蜘蛛の観察。大雑把な生態しかわからなかったので何かあれば記録したい。
ここに足を運ぶ女子は私だけ。良い生地の原料だろうと規格外の大きさの蜘蛛は受け入れられないらしい。でも、子供たちは度胸試しで近くまでは来てるようだ。たまにロドリスさんと一緒に糸を運んでいる。意外なのは、蜘蛛は静かな環境を好むようで、子供たちが近づくと木に登って隠れるらしい。餌としてロックオンすると思ったのに、お腹が満たされると無駄な物を狙わないのは助かる!
なので、最近の子供たちの遊びは隠密ゴッコである。蜘蛛に気づかれずにどれだけ飼育場に近づけるか、ジリジリ動く姿が可愛い。ちなみに今のところ全敗だって。
「この広さだと十匹で丁度いい感じですよ。それぞれの縄張りから動きませんね」
「おぉぉ、ここ、十匹もいるんだ・・・」
「そっかー。もっと生産するには別に区切らないと駄目か。ニックさん、腰が引けてるわよ?」
「蜘蛛は無理」
「こんなに大人しいのに。ねえ?ロドリスさん」
「本当にびっくりするくらい大人しいよ。油断してしまうから子供たちには気を付けさせないと」
あ、今まさに私が油断してる。気を付けないと!
「餌の問題もあるから、しばらくは規模をこのままにするわ」
「子が出来たらどうしますか? いや卵はありませんが、これからのことです」
「うーん、数によるわね。体が大きいと産卵の数も少ないと思うけど、多かったら処分だわね。残念だけど」
「ですよねぇ・・・」
残念でもしょうがない。愛着湧くんだろうな。毎日一緒だもんね。大蜘蛛だけど。
「ていうか、雄、雌の違いがわからん。どっちもいるのか?」
あ。
ニックさんの疑問にロドリスさんと見つめあった。
***
「あー、テステス」
『なんすかそれ?』
「音の調子を確認する為のおまじないよ」
『へー。じゃあ俺も。あー、てすてす』
「ちゃんと聞こえるわよー。じゃあルルー代わってー」
『え、何で?』
「私以外でも問題なく使えるか知りたいのよ。ハイ!ルルー」
「ぁ、あー、てすてす。ルルーです。聞こえますか?」
『マークです。聞こえます。ははっ!ルルーの声がすげえ近い!変な感じ』
ルルーがピシリとなった。
確かに変だろうけども、言っちゃ駄目だろ、言葉を選べよマーク!
『やっぱりルルーの声って近くで聞こえても良い声だな』
天然!まさかの天然タラシ発言が出ましたーっ!マークってこんな子だったの!?
私はビッタリくっついてるから聞こえるけど、ルルーは安定の耳だけ赤い無表情。でもボリュームとしてはばっちり!
本人にしか聞こえない。
え~ナニコレ、もしかして私の出番無くてもルルーが頑張ればかなり良い感じになれる?
まあいいけどー。まー、いーいーけーどーー。
これまた試行錯誤でやっと出来たよ、通信機!機械じゃないけど!
その昔、兄弟でサバイバルゲームもどきで遊んだ時のトランシーバーより遥かに高性能! ちょっと前のガラケーくらいにはクリアに聞こえる。
今はその有効距離を測っているところ。トンネル出入口から百メートル程横にずれた場所です。マークがいるのは山向こうの出口。領地の端から端で使えることができたので、山が邪魔してもいけるかどうかのテスト中。
よし。山もクリア。後は肝心の距離だけど、買い出しの時にテストだなー。
魔法の媒介として純度の高い宝石がよく使われる。
領内にそんな物は無いし、両親の質の劣るお宝は全部売り払ってしまった。
落ち込んだ私は見つけました、黒魔法!じゃじゃん!
・・・お祖父様は魔法がまったく使えなかったはずなのにこんなにも魔法書を収集してたんだろ?・・・憧れか?憧れたんだろうなー、魔法ってカッコイイよねー。
そして読んで思った。
黒魔法と括られる生け贄を必要とする危ない魔法は、貧乏魔法使いが宝石を買えないから出来たものだと!
切ない・・・!
何故にそう結論づけたかというと、血って、ものすごく使えるのよ。色んな要素を増幅させるんだわ。魔力の底上げを恐ろしい程にしてくれる。
貧乏人が宝くじに当たって身を持ち崩す程に圧倒的なもの。
魔法使いとして、それくらい魅惑的なもの。
そりゃあ禁忌となるわ。私も気をつけなきゃ。
命に一番近いものだから?とぼんやり予測してるけど、真相は謎。だって「魔力」の説明が私には出来ない。ひどい魔法書には「天からの授かり物である」と載っている。赤ん坊か!
今回作った通信機は、木製イヤーカフに、私の血玉直径一ミリを魔法で加工して付けてある。乾いたり酸化すると精度が落ちるので、水・風魔法でコーティングから始まり、あれもこれもと重ねがけをしてもびくともしない。こんなに小さいのに・・・恐いわー。
ただ、魔法使いの血の方が一般人より重ねがけをしやすい。私が何か魔法的な物を作る時はクラウスがそばにいてくれるので、協力してもらった結果分かった。クラウスの血も能力を限定すれば問題なく使えるが、あれもこれも付けたいの!
乙女は欲張りなのよ!
やっぱ通信機器に溢れた世界出身としては、買い出し班も心配だし、魔物と対峙することの多い狩猟班も心配。ついでに領地周辺の情報、王都情報も正しく手に入れたい。狼煙や手紙じゃあ、遅い。
乙女は欲張りなの!
ただ、いろいろとアレなので、常時通信できないようにして起動スイッチ代わりに合言葉を募集したところ、一対多数で「お嬢」になりました。そこは早めに改良したいと思います!




