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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
9才です。
48/191

続続15話 断罪。<ジャン・ドロードラング>


剣聖


それを賜った後、騎士団から近衛に配置換えされた。

どうやら自分の働きはだいぶハスブナル国に恐怖を与えたようで、ついでに他国への牽制に目立つ(ところ)へいろという事らしい。


近衛用の部屋に引っ越してしばらく経つと、暗殺者が現れるようになった。

毎晩一人、多ければ五人。何の苦もなく返り討ちにする。

どうせ夜は眠れないのだ。毎晩暗殺者を迎える準備をしていた。


手が震える。


・・・ここは戦場ではない・・・


自室の鉄の匂いに吐き気が止まらない。いつも綺麗に掃除されているのに・・・



三月(みつき)ぶりの兄上は、自分を見るなり泣きながら抱きついて来た。・・・苦しい。

王に、自分を文官への配置換えを嘆願したという。文官になれば手の震えは止まるだろうか?

まあ、あり得ない事だ。兄の訴えは幾度も上げられたが、全て却下された。


暗殺者とは思っていたよりも遥かに存在してたらしい。ほぼ毎晩襲撃された。



年明けにジャンに会えるかと思ったが、雪がたくさん積もってしまい、雪かきをしなければ家屋敷が潰れそうで年始の挨拶どころではないと手紙が届いた。俺も会いたかったのに残念だ。という一文に、泣きそうになった。

残念だが、まあ自分もきっと仕事だ。会えたとしても一言くらいしか交わせなかったろう。


またいつか会える。


暗殺者はたまに王を狙って来る者もいる。その度に警備は何をしてるのかと思う。近くまで来られると掃除も洗濯も大変になるので、懐に投げナイフを常備するようにした。

暗殺者の質が落ちたのか気配が隠しきれていない。

狙い易い。



兄の結婚が執り行われた。めでたい事だ。

そのめでたい日に、鉄の匂いの気配のする近衛服で出席しなければならない事が居たたまれなかった。この日の為に新しく作ったのに。


兄も義姉も幸せそうで、自分も心から喜んだ。

お前の婚約者が決まったぞと、小柄な伯爵家ご令嬢と会った。驚いたが、兄の結婚式で顔合わせをしたことを申し訳無く思い、ご令嬢にそれを伝える。


貴方がお忙しいから我が国は今平和でいられます。頼ってしまうことが心苦しいですが私に貴方を支えさせて下さい。


慎ましく微笑む彼女に少しの癒しを感じた。



その夜も暗殺者は現れた。不粋だ。

次の日も、その次の日も。





「クラウス!」


休みの日に兄の買い物に付き合っていたら道端でジャンに会った。


「・・・ジャン! どうして王都(ここ)に?」


「年始の挨拶だよ。スゲェ雪だって手紙に書いたろ? 王様にも遅れますって出したんだ。で、今日挨拶してきて今から帰るところさ。城に行けばお前と会えると思ってたのに休みだって聞いたからさ、びっくりさせようなんて企んだ事を後悔してたところだ」


ははっ! 会えたな!


相変わらずの笑顔に、気を失った。




侯爵邸の自室で目覚めた。そばにはジャンがいた。


「よぉ。眠れたか?」


辺りは暗い。


「・・・すまない。帰るところだったのに・・・」


「いいさ一日くらい。まあアレだ、年始のすっぽかした分だな。宿代が浮くわ、飯は豪華だわ、お前ん家最高だぜ!」


がっはっは!と笑うと椅子から立ち上がりベッドに腰を下ろし、手を伸ばして額に触れてきた。

あたたかい・・・


「まだ冷えてるな・・・よくまあここまで頑張ったな。お前やっぱり真面目な馬鹿だろ。ははっ。 ・・・・・・辛い時は辛いって言うもんだ。 お前の兄貴はそれを待っている」


あたたかい。


「戦場を離れりゃあ楽になるだろうと軽く見てたわ。しっかりしてても18だったな。年が明けたから19か?・・・悪かった」


大きくごつごつとした手のひらが視界を遮る。

暗闇が、あたたかい。


「お前は何を我慢してる? 俺にも教えてくれよ」


優しい、声。

目が熱い。


・・・私は・・・


「うん」


「わ、私は・・・もう・・・誰かを殺す為だけの刃を! 持ちたくないっ・・・!!」


涙が出た。子供のように泣いた。

ジャンはずっとそばにいて、ずっと手を添えていてくれた。



そうして落ち着いた頃。手を外されたので起き上がった。

少々恥ずかしかったが、ジャンを見れば今までになく優しく笑っていた。


「任せろ」


そう言って今度は頭をガシガシと撫でてきた。

何かが晴れていくような気がした。


帰り際、ジャンは木刀を寄越した。


「クラウス、お前は腕が立つ。が、まだ若い。今度は木刀(これ)で相手を気絶させろ。難しいだろうが修行だと思えば出来ない事も無い。気絶なら後の掃除も洗濯も減るぞ? なんてな!がっはっは!」


一緒に見送りに出た兄も呆れている。


「クラウス、任せろと言ったが少し時間が掛かる。悪いがそれまではその木刀を俺だと思ってお守りにでもしてくれ」


「絶対に折れなそうだな・・・」


どういう意味だ、兄さんよ! 世話になっといてなんだが、あんた少々失礼だな! 美人嫁に逃げられろっ、いや、捨てられろっ!


そうしてジャンは、姿が見えなくなるまで兄と大声で罵りあいながら帰って行った。



その年の武大会はなんとジャンが優勝した。


領地が遠いし大会のある時期は収穫期で忙しい。収穫期など、領民の殆どが殺気立つ。力試しに行きたいなどと言える雰囲気ではないし、大会の事はいつも終わってから思い出す。

殿堂入りした奴が17才と聞いてびっくりしたよ。まあ、納得の強さだったな~。


そう言っていたのになぜ大会に出ている!?


自分の定位置は王のそばなので全ての試合を観れた。

やはりというか想像以上に圧倒的な試合内容で、誰もが驚いた。

優勝が決まった瞬間、こちらを見た気がした。


表彰式で褒賞は何が良いか聞かれると、王の斜め後ろに立つ私を真っ直ぐ見た。さっきのは気のせいではなかった。


「クラウス・ラトルジンを、我が領屋敷の侍従長として迎えたい」


歓声に沸いていた会場が一瞬静まり、今度は罵声が飛び交った。


「王よ。王都では文官を目指していた少年を騎士団に入れるほど文官が余っているのでしょう? 一人でいいんで融通して下さいよ」


剣聖を侍従長にするとは!など、剣聖は王から賜ったのだ!不敬だ!など、褒賞はやれぬ!など、一人で帰れ!などの野次が投げつけられても、ジャンは王を睨んだままだった。・・・睨むなど不敬だぞ。


だけど。


剣聖がいなくなればまたハスブナル国が攻めて来るではないか!と聞こえた時、


(やかま)しいわっ!!! 剣聖だろうがっ、一人の騎士に全てを押しつけていることに恥を知れっ!!!」


ジャンが吼えた。

辺りが鎮まる。


「クラウス一人が我が国を守っているわけではございません。たくさんの人間が()ります。剣聖一人が表舞台から消えたとしても、強国であるという働きをする者たちです。どうぞ、その者達の忠義を讃えていただきたい。それを、信用していただきたい」


しばらくの沈黙の後、国王が私を振り返る。


「お前を手離すのは軍部の縮小に匹敵する。・・・ラトルジン。ドロードラングの侍従長になりたいか?」


国王が、私に意見を求めた。

膝をつき、頭を垂れ、答えた。


「許されるならば」


そうか、と小さく聞こえた。と、国王はジャンに向かい高らかに宣言した。


「あいわかった! ジャン・ドロードラングへの褒賞に、クラウス・ラトルジンを侍従長にすることを認める!」


ざわめきが起きる。


「剣聖ラトルジンは不死ではない! ならば、彼がここを去ることは早いか遅いかの違いだ! 剣聖がいなかろうと、我が国の強大さは変わらない! それをこれから証明していこうぞ!」


国王の宣言に涙を堪えた。


そうして大会は終了し、私はジャンに付いてドロードラング領へ向かう。





「馬車だと時間がかかるんだよな~」


「すまないが、私も嫁さんを連れて行きたいんだ」


「申し訳ありませんジャン様。クラウス様について行きたいので、どうぞご容赦下さいませ」


へぇへぇ~。

そう言いながらも荷物を馬車に積み込むのを手伝ってくれている。


「何度も聞くが、荷物が少ないのではないですか?」


「クラウス様、私は貴方を狙う為にお父様がたまたま思い出した庶子ですので、本来はドレスなど必要ないのです。必要な物はきちんと入っておりますので心配無用ですし、足りなくてもどうとでもなりますよ」


ニコニコと荷物を積み込む彼女が眩しい。

ジャンのところで侍従長になるにあたり、色々な所から圧力が掛かってしまい貴族籍剥奪となった。まあ、剣聖を返上したことが不敬に当たるという事なのだが、逆に身軽になって喜んでいる。

しかしその事で兄には迷惑を掛けたし婚約も解消するはずだった。


彼女の家は剣聖でもなければ侯爵家でもない男に用はなかったのだが、彼女は一人で手続きを済ませ飛び出してきてしまった。

玄関でトランクを一つ持ち、「私も庶民になりましたので、どうぞおそばに置いて下さいな」とにこやかに微笑む彼女を思わず抱きしめてしまった。それはいまだに義姉上にニマニマとされる。


もちろん、嫁にするなら彼女しかいないと思っていたので拒む理由は無いのだが、だからこそ苦労をさせるのは忍びない。


「剣聖であることも素敵でしたが、お兄様からたくさんのお話をお聞きしました。私は頑張り屋さんのクラウスさんを支えたくて来ました。貴方を好きなのです。迷惑ならばはっきりとそう仰って下さい」


「迷惑だなんて! 私も貴女が好きです。ただ、給料も減りますし、お洒落もあまりさせてあげられないかもしれません。きっと苦労を掛けます。・・・でも、貴女に隣にいて欲しい」


「実はお洒落は苦手です。ふふ。それでも良いのであれば、どうぞ、そのお隣に末長く置いて下さいませ」


面倒だから結婚はうちに着いてからにしろよ~!

ジャンの声に二人で我に返った。

兄がどんな話をしたのか気になったが、ミレーヌが傍にいることになったのが嬉しかった。



ドロードラング領に着いても、しばらくは暗殺者が現れた。

だが、木刀のお陰か妻の存在か。手の震えも吐き気も無く、毎夜よく眠れるようになった。


結局私たち夫婦には子供ができなかったが、その代わり領地の子供たちや、ジャンの子を可愛がった。




ジャンがいたから、助けてくれたから、私は幸せになれた。


彼は天に召される時、自分はとてもいい人生を送れたと笑った。


ジャックは母親が早くに亡くなったせいか、俺に似たのか、何だか頑固だからな、・・・いつか、助けを求めてきたら、その時に助けてやってくれ。






結局、君の息子は最後まで私に助けを求めなかったよ。


だからと、こうなった事は彼だけのせいでは無い。


・・・・・・すまない、ジャン。


・・・力になれず、すまなかった・・・ジャック。





***





今回の捕り物は、ドロードラング男爵を尻尾切りにしようとしたキルファール伯爵家が黒幕だと報じられた。号外新聞が撒かれ、刑の執行される日は刑場の周りは大混雑だった。

国史史上、戦犯以外では最大の人数が処刑された。








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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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