15話 断罪。
シリアス回です。…たぶん。
魔力をかなりに消費したのだと、目覚めてから気づいた。
だよね~。四神ではないとはいえ、話す魔物は高位だと聞いてたのに、すっかり忘れてた。
白虎と狼と私の魔力は5:2:3で混ざりあい、白と黒に別れた。白虎の力を抑えるのが楽だと二頭が言ったのでホッとした。この時に私の魔力が狼を上回ってしまったから主従契約が成り立ってしまったのだろう。
今度は五日間寝込んでしまったので、久々の全員説教が行われた。・・・正座の形に足がくっつくんじゃないかと思った。人数が増えたから長いのなんの・・・
亀様いわく、私の体が大きくなったから前回より回復が早かったとのこと。皆がおっかないので、一人、心の中で自分の成長をそっと喜んだ。
サリオン、というか白虎だけれど、狼が白黒二頭になった事を喜んだそうだ。そう説明した二頭の尻尾が揺れていた。良かった白虎に怒られなくて・・・騎馬の民たちにも怒られなくて良かった・・・
狼たちは基本白虎の眷属のままらしい。本人(?)たちにはわかるそうだ。まあ、二頭には自分達の仕事をそのまま頑張ってもらいたい。白虎が完全復活するまでの風系魔物の取りまとめを。
私がピンチの時は駆けつけてくれるらしいので、そこは一応の安心である。うんうん、迷惑にならない程度にどこまでも走っておいで~。
白虎はとりあえずサリオンに合わせて一日ほぼ睡眠の生活をしてる。
この間サリオンの体で動いた分、筋肉痛になったそうだ。なのでつまらんと言いつつもサリオンの筋力アップ体操をしている。皆で抱っこもおんぶもするから体操頑張って!
白虎のおかげで起き上がれるようになり、食事も固形物が多くなってきた。量はまだまだ少ないけど、サリオンがご飯を食べてる姿に感動である。
耳と揺れる尻尾にもデレデレだ。
やはりこの姿は良かったらしい。
目覚めた時には猫耳カチューシャが出来ていた。
狩猟、土木、鍛冶、服飾、細工、薬草班の合同開発だそうだ。
どんだけの力の入れようだよっ! おかげで可愛いのができたよっ!
・・・あの厳ついオッサンたちをも魅了する白虎サリオン・・・恐ろしいコ!!
・・・子供たちにカチューシャ着けて、うんうん、出し物一個増えるな。ラインダンスとか?だとすると尻尾も要るな。相談しよ~、そうしよ~。
そうやって英気を養い、来るべき両親の断罪の日に、備えた。
***
その場所は王城内にあった。
四角く、石壁に囲まれた部屋。罪人は両手を後ろに枷をされ、二人の兵士に槍を突きつけられながら部屋の中央に連れてこられる。
王や役人は罪人の正面に、聴衆は部屋の壁に沿って設置されている椅子に座る。
罪人の現れる場所は三メートルは低い。この部屋は小さな四角いコロッセオのようだ。
私はクラウスと、王から遠い後方の隅に座った。
今さっき、母親の審議が終わった。彼女は、自分はただ家で大人しくしていただけだと言い張った。全ての罪は旦那にあると。なりふり構わずに涙と涎と失禁で無実を訴えた。
自分は無知なので罪は無いと。
自分の親というより、こんな大人が目の前にいることが受け入れられなかった。
私も何かの罪であの場所に立たされたらああなるのかとぼんやりしていると、隣に座るクラウスに手を握られた。
そうだ。私の守る者は彼女ではない。
私は望んでこの席についた。王に許しをもらった。行く末を見なければいけない。
結局、彼女の罪は許される事は無く、連れられて行きながらも、二人の子供の事は一言も発しなかった。自分の実家名を連呼しただけだった。
失禁の跡を掃除してから、父が入ってきた。
思っていたより、いや、先程の母が印象的だったので余計に堂々として見えた。
「ジャック・ドロードラングの審議を始める」
審議のやり取りは国王と罪人とで行われる。
この三十畳程の部屋には、王には嘘は通じないという魔法が掛けられているそうだ。
罪状を読み上げられ、違いありませんと応える、その表情は見えない。声の調子でどんな表情をしてるのかすらわからない。
私たちの間にそんなものを理解するまでの時間は無かった。
「奴隷を奴隷として扱って、何の不都合があるのでしょう?」
王の、何かあるかとの問いに父がそう応えた。
「この国は奴隷を廃止してはいません。そして必要とされています。需要と供給と市場があるのに、何故、罰せられなければならないのでしょうか?」
あぁ。
「スラムの子供たちなどただ死んでいくだけです。それならば少しでも役立ってから死ねばいい。どうせ国の保護も無いような価値の無い人間です。それを有効活用しただけでございます」
国王がそっと息を吐く。
「我が国の奴隷制度は戦争奴隷にのみ適用される。そなたの言い分は受けられぬ。それにだ、未成年の売買は罪だ。需要があろうが認めてはおらぬ」
彼の肩が少し揺れた。
「私の取引先は、認めていないと言ったところでどうにもならないでしょう?」
笑ったらしい。
それに対して王も、鼻で笑った。
「そなたのお陰で貴族の数が大分減ることになった。これで納税も滞りなく行われることになろう」
まさか、と彼が呟いた。
「膿は出さぬと傷の治りが遅いそうだ。大怪我であったが、結果としては良かったな」
王がニヤリと笑う。領地で見た顔と全然違う。
「馬鹿な!? あり得ない! 伯爵だぞ! 姫が降嫁した事もあるんだぞ!」
「だから何だというのだ。そのような昔の事、血も薄まったであろうよ。意味などもう無い。奴らなど最早ただの膿だ」
彼は弁解をするのかと思いきや罵詈雑言を浴びせた。取引のあった貴族の名前を片っ端から並べたり、名のある大商人もいると騒ぎ、王だろうと簡単には捕らえることはできない筈だと。
王が止めなければ、罪人だろうと気が済むまで喋れるらしい。そうやってポロっとさらなる真実をこぼす事があるそうだ。まあ、今回、新しい事は無さそうだけれど。
後ろ手の枷は鎖が付いていて、その端を兵士が握っている。彼は前のめりになってもその場を動けない。動けたところで三メートルの壁は登れない。
彼奴に嵌められたんだと言って、とうとうその場にひざまずいた。放心したようにも見える。馬鹿な馬鹿なとぶつぶつ言っている。
「断罪に処す。・・・そなたには子供がいたな。何か遺す事はあるか」
王が、母の時には聞かなかった事を父に聞いた。彼は、子供・・・とぶつぶつ言う。
ぶつぶつと、言うだけだった。
兵士が彼の両脇を抱えて立たせ、王に一礼して出口に向かう。
ほぼ正面で彼の顔を見た。
チラリと目が合った。
合ったと言っていいか迷うほどの一瞬だった。
そして彼の視線は、私の隣に座るクラウスに注がれた。
目がカッと開く。この距離でも充血しているのがわかる。さっき暴れたから、髪もぼさぼさだ。
「クラウスっ!! お前か!! お前のせいかっ!!」
唾を飛ばし涎を垂らしながら先程よりも強く叫ぶ。
ゆらりと立ち上がり、その様子を静かに見下ろすクラウス。
それが気に障ったのか、ますますヒートアップする男。
邪魔をするなと言ったのに。親父の犬が。あの領地で朽ち果てればいいものを。当主印を渡した時に勝手にやれと言っただろう。金は全部私の物だ。お前にはやらん。サレスティアにも何もやらん。売り飛ばすはずだったのに気持ち悪くなりおって・・・等々。
私の名前をまだ言えたんだ。ねぇサリオンは?
残念だけど、お父様のものはもうその体しか残って無いよ。
領地にあったのは全部売り払ったよ。一級品なんて無かったけど、少しは助かったよ。
お父様、私、ここにいるよ?
「サレスティア」、ごめん。
あなたの両親、助けられない。 助けたい気も、起きない。
・・・ごめん、サレスティア。
クラウスにも叫び尽くしたのか、静かになった。またぶつぶつと何かを言っている。
そうして兵士に連れられ、男はいなくなった。
「刑の執行は、明日行う事とする」
終了の合図に王が颯爽と部屋を出る。それを確認した後、ギャラリーが各々席を立つ。彼で今日の審議は最後だった。
私は、それをぼんやりと見送っていた。
その間、クラウスは立ったままだった。
誤字報告ありがとうございますm(_ _)m
>「膿は出さぬと傷の治りが遅いそうだ。大怪我であったが、結果としては良かったな」
> 王がニヤリと笑う。領地で見た顔と全然違う。
>「馬鹿な!? あり得ない! 伯爵だぞ! 姫が降嫁した事もあるんだぞ!」
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ここの「伯爵」はキルファール伯爵の事なので、このままとします。




