続続13話 まさかのお客です。<魔境≒辺境>
あ~、だからなんか二人とも変なのか。
二人のそばに行ってレシィを抱きしめた。そうするとアンディが私らを抱きしめてきた。ふふふ、いいよねこれ。
「心配してくれてありがとう。嬉しい」
「怒ってない?」
上目使いのレシィ。なんて小悪魔!
「二人に怒る理由が無いわ。びっくりしたけど。ふふ、今日もたくさん遊ぼうね!」
やっと笑顔を見せた二人に私もホッとした。
アンドレイが女の子を抱きしめている!?との何処かのオッサンの声を無視して、亀様に護衛たちをこちらに寄越してもらう。
変な術を掛けられたなんて思われたら面倒だから、護衛さん方には是非このオッサンどものそばにいていただきたい。
結果。初体験の方々にも遊園地はわりと好評でした。お昼までみっちりと遊びまくりました。
今回新たに造った物はゴーカート。と言っても固定コースをなぞるだけ。カートは五台。全体像はミニ〇駆の巨大版。
侯爵夫人の車椅子から発展改造した車はもちろん浮いております。アクセル、ブレーキ、ハンドルと、寝不足になるほど親方たちと設計図を書き直した。見てよこの車体の滑らかなラインを! まあ、幼児がキコキコとこぐあの車体だけれども。
ジェットコースターがお気に入りのアンディの為に皆で頑張ったよ!
「お嬢!スゴイ!楽しい!」
隣のコースを走るアンディの笑顔にこちらはガッツポーズで答える。良かった~!
レシィは今日もメリーゴーランドでご満悦。次までにはコーヒーカップ作るからね!
自分で速さを調整出来るゴーカートには、侯爵は安心して乗れた様子。夫人も楽しげに乗ってくれた。
護衛含めたオッサンたちはかなりうるさいけれど、笑ってる。
よしよし。
ここは誰もアンタ等を狙わない。寝室でまで気を張っているアンタたちの休憩所だよ。毎日お疲れ様。
お昼は遊園地側に新築したホテルで食べてます。五階建ての最上階が食堂。見晴らし良いでしょ? 遊んで疲れた体に階段は辛いのでエレベーターも造りましたよ~。右は上り専用、左は下り専用って分けての設置だけど。
それを見た学園長と一悶着。さっさと最上階に上がって飯を食え!
今日は料理長ハンクさんが指揮をとりました。ハンクさんの希望で彼は屋敷固定の料理人で、ホテルは元副料理長にお任せのはずだったのだけど・・・初めての客が国王とか不憫過ぎる。
元副料理長がガタガタ震えながらハンクさんに泣きついたので急遽助っ人に。
そうして落ち着いた調理場からいつもの美味しいご飯が作られ、それをアンディたちはニコニコと食べる。
毒見でもある護衛たちは運ばれて来た食事に自分たちよりも先にあっさりと口を付けた侯爵たちに目を丸くした。
「此処ではそんな心配は要らん。温かい内に食べるといい」
モグモグと咀嚼しながら薦めたから、隣の夫人に注意を受けた。ぷぷ。
王を迎えたと言っても絢爛豪華なホテルではない。言うならば品の良い宿屋だ。王都で泊まった宿を無断で参考にしたので、いつかあの宿の主人を招待しよう。
カトラリーは鉄だけど、食器はほぼ木でできている。フルコースなんて無いのでそれ用のマナーも無い。テーブルクロスは言わずもがなのスパイダーシルクだ。元々汚れが付きにくいが、魔法で加工してあるのでより汚れない。洗濯係に喜ばれるクロス!
主と共に食事をすることがない皆は戸惑ったが、前回お供をした侯爵家の侍従さんと侍女さんがさっさと食べていたので、恐る恐る口を付けた。全員が手を付けてから、王の食事が始まる。
「・・・旨い・・・」
「良かった。僕もこのスープ好きなので嬉しいです」
アンディが嬉しい事を言ってくれる。
そういや、さっきのプリンも王はうまいって言ってたな。良かった。
最後のデザートは小さく盛られたアイスクリームとレモンのシャーベット。バニラビーンズが無いけれど、これはこれで美味しいのでメニューになった。皆さん初体験らしく大騒ぎ。お代わりはお一人様一回ですよ!冷たい物は腹が下りますからね!
「ここは魔境か」
イエ、辺境です。
なんだ突然、失礼なオッサンだな。
何事かと思えば、執務室から見える木陰でアンディがちびっこたちに絵本を読んでいる姿が見えた。向こうの方ではレシィがタイトを相手に皆にダンスのステップを教えている。おお、あんな難しいものを! 運動神経のいいタイトだから、あんなに身長差があるのにレシィの足を踏むことはなく、踏まれることもない。・・・その神経私に分けてくれェ・・・
「子供たちはあんな顔をするのだな・・・」
「私たちもこちらに来てから、あの子たちのあの顔を見ることができました」
夫人が慈愛に満ちた表情になる。
サレスティアよ、と王がこちらを向く。
「城の庭に同じ物を造れ」
「お断り致します」
即答に、私以外の息を呑む音がした。
「王都の何処かでもよい」
「お断り致します」
「・・・王の命令だぞ」
鼻で笑ってしまった。おっと。
「無礼だぞ」
護衛たちが色めき立つ中、侯爵が言葉だけ間に入る。
「何の助けも下さらなかった方の、命令だけは聞けと仰いますか」
護衛が動こうとするのを王は手で制した。
「お前が貴族ならば、国王の命令は絶対のはずだが?」
目が鋭い。纏うオーラが変わった。・・・あぁこれが国王か。ヘェヘェ、畏れ多いですね。
「そうでしたね」
負けじと、ふてぶてしくニッコリと笑う。
それが気に障ったのだろう、王の眉間に皺が寄る。・・・ふん。
「では、あの遊具は差し上げましょう」
え?と何人かの声がした。
「ご自分等で王都までどうぞお運び下さいませ。私たちは領地から出ますので後はお好きにどうぞ」
「どういうことだ」
いぶかしむ国王。
「貴方の治める国など興味は無いと申し上げました。なので、他所へ移ります。領民全てで」
「・・・それが許されるとでも思っているのか?」
「許されなくとも構わないと申し上げます」
睨み合いが続く。まあ、私は笑顔だけど。
「私には、それだけの力がありますから」
私の淑女の笑みに国王の眉間がさらに深くなる。
「この国に何かあった時にはアンディとレシィは助けましょう、友だちですから。もちろんラトルジン侯爵家の皆さんも。アンディたちの安らぎですし、うちの親方たちとも仲良しですからね」
あ~、イライラする。
「・・・まさか、我が子を喜ばす為に、その我が子を人質にはしませんよね?」
国王とは、それを選ばなければならない時がある。
難儀な職だ。
私だってそれくらいはわかっているつもりだ。認めたくはないが。
認めたくないから、長い時間、睨み合った。
誰も何も言葉を発しない。ありがたい。
ふと、王の雰囲気が弛んだ。
それを見た周りもホッと弛んだ。
私はまだ、目を逸らさない。
「・・・全く、人質の無い奴は扱い難い」
もう少し。
「キンキラキンの狭っ苦しい部屋で人の裏ばかり見ているからですよ。たまには外に出て大声出して笑えばいいんです」
「・・・なんだ?」
難しい顔をしつつきょとんとする。器用だな王様。
「国王とは、職業です。そして貴方は、一人の人間です」
じっと王を見る。王も私を見てくる。
「人間は、程よい休みを必要とする生き物です。一日起きていられますが毎日はそれを続けられません。だからこそ、国王を支える者がいます。貴方はもっと、貴方への信頼を信じていいんです」
王が揺らいだ。
そのまま王は、学園長、侯爵を見る。
「王よ。ここには亀様がいます。畏れ多くも彼は私たちの友です。優しい彼は私たちの望まない輩を領地に入れないでくれています。ということは、現在、ドロードラング領には、貴方を信頼する人間がいるということです」
王が執務室にいる全員を見回す。
「私以外は、貴方の信頼が間違っていない人たちです」
最後に私を見て、ニヤリと笑う。
「思ってたより多いな」
私もニヤリとする。
「有能な方ばかりですよ? うちに来てあれだけ遊べるのがいい証拠です」
なるほど、と王がフッと笑う。
「で? 城の庭に何か造ってくれるのか?」
うわっ! この切り返し、アンディともあったな!
「お断り致します。金を持ってるヤツはドロードラングに金を落として行きやがれ。で、ございます」
一拍置いて、国王が笑った。
ひとしきり笑って落ち着いた頃に、そうだな、お前たちが居ない所で遊んでも面白くなさそうだな、と窓の外を見ながら言った。
後ろから鼻をすする音がした。
何事かと振り返れば、クラウスが泣いていた。何事!??
「どうしたの!?」
駆け寄れば、膝をついたクラウスに抱きしめられた。
主従の関係を崩さないクラウスには珍しい行為だ。なので、マークには遠く及ばないが腕を必死にのばして背中をポンポンとする。
「私は、ジャンに、報えているでしょうか?」
ジャン?お祖父様?
「何かよくわからないけれど、クラウスがここを守ってくれたから今があるのよ。クラウスにも感謝しているけれど、あなたを残してくれたお祖父様にも感謝しているわ」
答えになってるかな? 泣いてる理由がよくわからないんだけど。
「いつもありがとう、クラウス」
ぎゅっとされて、それからスッと離れた。
「この命の限り、おそばに」
いつもの笑顔で言われたのでホッとする。
よろしくね!




