13話 まさかのお客です。
お兄ちゃんことアンディからラトルジン侯爵の訪問の連絡があったので、その日迎えに出たら予想外の事態に見舞われた。
「いやあ、すまんなぁ・・・こういう事になってしまった」
申し訳なさそうな侯爵を恨めしく見つめると、すまん!と両手を合わせて頭を下げられた。
その侯爵の後ろに控えている今回一緒に行く侍従にまじって、辺境田舎領地だろうと貴族なら成人前の子供でも知っている顔が二人いた。
二人、である。
・・・なんだってこの二人なのか・・・いや、ある意味話が早くなると喜ぶべきか・・・
挨拶の為に膝をつこうとすると、その一人が手で止めた。
「そんな挨拶はいい。今回私は侯爵の侍従だからな。畏まらんでよいぞ」
・・・面倒な設定で来たなぁ。
「そうじゃ、ワシらはただの侍従じゃ」
侍従の仕事舐めてんのか。
私は大きなため息を隠しもせずに吐いた。
それを二人は面白げに見ている。
「お伺い致しますが、お二方は侯爵様とご一緒に一泊のご予定でしょうか?」
「いや、日帰りだ。夕方には戻りたい」
「畏まりました」
「畏まらんで良いと言うたのに」
「・・・はあ、ではおいおいということでご容赦下さい」
鷹楊に頷く国王と学園長。
繰り返す。国王、と、学園長。
なにこの面子!!? やってらんねぇよっっ!!
***
「ご免なさいね。私が張り切って動き出したのがいけなかったようなの。屋敷から出なかったのに車椅子もあっという間に見つかってしまって・・・」
「僕も、急に前倒しで勉強を進めたから変に思われたみたいで・・・」
「私も魔法の勉強を急に始めたから・・・」
「検証を頼んだ魔法陣が巡りめぐって学園長に渡ってしまってな~、呼び出されたのだ・・・」
四人がそれぞれ言い訳をする。
日常に張りが出たのは何よりですよ。単純に嬉しいです。
魔法陣だっていつかは追求されると織り込み済みでした。
だけど! 国王と学園長がまずやって来ると! 誰が予想してたよ!? 最後の最後だろうよ!? 会うならば謁見の間あたりの断罪シーンだと思ってたのに! ツートップのフットワーク軽すぎるだろう!?
「お嬢様、まずはお茶にしましょうか?」
ご一行を連れて領地に戻ってもまだパニくってる私をクラウスが気遣う。流石クラウス、平常運転ね。
「いえ驚いてますよ。ただお嬢様の驚きように冷静になっただけです。私はお嬢様の侍従ですから、主の動揺を助けなければいけません」
にこりとするクラウスに私も少し冷静になった。よし、仕事しよう。
「では改めまして、皆様おはようございます。案内を務めますサレスティアです。どうぞよろしくお願いします」
現在午前九時過ぎ。朝からの準備が大変だったろうから軽くお茶にしませんかと提案。よく見れば、他の侍従さんたちの顔色が微妙に悪い・・・ですよね! うちの料理長新作のクリームプリンでしばしの現実逃避をどうぞ!
「うまい!」
侍従だからと、侍従さんたちと同じテーブルにつこうとしたのを、侍従さんたちも今日はお客様なので、ゆったり座っていただきます!と押し切り、問題の二人を侯爵たちと同じテーブルへ。ほら!六人ずつで丁度いいでしょう!
侍従さんたちは総入れ替えではなく、前回スケボーに興味を示した侍従さんと、眼鏡を作った侍女さんが今回も参加。二人ともそっと目礼したので、私もそっとサムズアップしておく。
・・・しかし・・・
「何だ?顔に付いているか?」
優雅にナプキンで口周りを拭く王。
「いえ。・・・執事服が似合わないなぁと思いまして」
皆噴いた。あ、ごめん。
「ほら、だから言ったでしょう。ほっほっ」
「学園長もですよ」
はっはっは!と今度は王が笑う。
「二人みたいな偉そうな侍従見たことないですよ。変装が下手ですね」
ピシリとあちこちから聞こえた気がした。あ、ごめん。
「最初に確認したいのですが、お二人は何を目的にいらしたのですか?」
「何だ、聞けば答えるのか?」
「まあ、侯爵様には全てをお見せしましたので、もう今更ですから。時間は限られていますので、本題を片付けて後はゆっくりしていって欲しいです」
王が目を丸くする。
「変ですか? 遊んで休んでもらうという観光地にしようと思って領地改革してますので、ついでに感想を教えて下さいよ」
「観光地?」
「ご存知でしょうがわが領は売り物が弱いのです。量産がまだ難しいので、売りに出るだけで売上げが無くなってしまいます。なのでお客にこちらに来てもらえればと思い、観光地化を目指しています」
「ここに?」
まあ、現状難しいだろう。なんたって奴隷王の出身地だ。領地に一歩足を踏み入れたら売り飛ばされる、くらいは思われているだろうな~。
せっかく来てもらったからには王家御用達な看板をもらいたい。
私がいなくなっても遊具は消えたりしないからね。
「ワシは魔法の流れを見たい」
学園長がすぐに言った。
「畏まりました。では休憩中に眼鏡から作りましょうか。え~、眼鏡を必要としている方はいらっしゃいますか?」
見回すと国王と学園長が手をあげた。
・・・何なのこの二人・・・
二人の向こうで、おずおずと手をあげた侍従さんと侍女さんが二人ずつ。あ、今回は眼鏡ツアーか。さっそくネリアさんに眼鏡の縁を在るだけ持ってきてもらう。
今の魔力の流れは何だ?との学園長からの質問には通信機ですとだけ答え、私のイヤーカフを渡した。
まずは侍女さんから縁を選んでもらう。先にお二人に、と震える侍女さんに、「世界共通で女性に優しくですよね?」と彼らを圧す。で、ネリアさんが調整する間に侍従さんにも選んでもらう。「今日は侍従ということなので、先輩からですよね?」とまたも圧す。で、最後に二人のもとへ。
「ほぅ! なかなかの技だな!」
縁の細工への王のお誉めの言葉に軽く礼をしつつも全く動じる事なく調整するネリアさん。学園長にも同じく。・・・格好良い!
カシーナさんに針を持ってきてもらい、今度は侍従さんから針を使ってもらう。ちなみに針は一人ずつ消毒を繰り返しました。目の前で消毒を繰り返した方が安心するかと思って。
「そんな量で?」
ひとしずくにも満たない血の量を見て、製作中に学園長が呟く。
「眼鏡のレンズなんて小さいですので、このくらいあれば間に合います。問題点を挙げるなら、血を出すのが苦手な人は無理だろうということと、本人にしか丁度良くないので眼鏡を誰かに貸すことが出来ないということでしょうか」
説明してる間に完成。ハイ、次の方~。
流石に学園長の血は凄かった。私の魔力をほとんど使わずにすんだ。
国王のも同じく。王家の血には魔法の素質が混ざっている。直系はバランス良く魔法が使えるらしいが、王家特有の光魔法が王族の証拠。へ~。
王の時は、針を刺すのに周りの方が緊張したのは仕方がない。
出来上がった物を二人でお互いに交換して見てる。
「おぉ、確かに見辛いな」
「何とまあ・・・」
「眼鏡はお支払いいただけますか? それとも賄賂にしますか?」
冗談のつもりで言ったのに、王は目を細める。
「賄賂の見返りは何だ?」
「私の弟、サリオンと領民の保護です」
乗ってきたのでスルッと言ってみた。
王はニヤリとして、高くつくなと言った。
「それを成すために無い頭から案を捻り出しているんです。眼鏡一つで済むなら逆に相手を疑いますね」
「ワシは賄賂でもいいぞ」
「色々面倒になるので金を持ってるヤツは払いやがれでございます」
そう学園長に返すとまた空気がピシリとなった気がした。
はっ! 背後に冷気を感じる・・・そうだ、カシーナさんがいたんだ・・・しまったーーっ!!?




