12話 またのお越しを。
本日も晴天なり。
星が綺麗です。
前世も田舎育ちなので星空なんて飽きるほど見たけども、やっぱり綺麗と思う。
あんなに懸命に覚えた星座が一個も無いけど、それでも懐かしいと思う。
その星空から、ふよふよと光の玉が二つ降りてくる。
亀様に続くバージンロードの先にその大きな光の玉が止まる。
一拍置いて光の玉が弾けると、ライラを横抱きにしたトエルさんと、ルルーを横抱きにしたマークが現れた。
四人とも真っ白な衣装だ。
花嫁はそれぞれに花冠をし、ドレスも花冠の花に合わせた意匠になっている。花婿の胸襟には己の花嫁の花が飾られている。
新婦を降ろす動作はゆっくりと、目が合うとそれぞれにはにかみ、そして、観客に向かってお辞儀をする。
弾けた光はたくさんの小さな光になって辺りを漂っている。
それが、ゆるりと亀様の像に向かって動き出した。
合わせて、二組の新郎新婦が進む。
《今宵、二組の新たな夫婦を迎える事を、嬉しく思う。空に輝く星の数ほどに、お前たちの日々が心豊かに過ごせる事を、我は望む》
亀様の言葉に、四人が揃ってお辞儀をする。
《新郎トエル、新婦ライラ。前へ》
二人が亀様に寄り、像に手を置く。
《二人の・・・婚姻を結ぶ証に、誓いの言葉が要る。・・・新郎トエル》
「はい」
《健やかなるときも、病めるときも、どのような時も、変わらず、妻となるライラに愛を捧ぐことを誓うか?》
「誓います」
《新婦ライラ。健やかなるときも、病めるときも、どのような時も、夫となるトエルに愛を捧ぐことを誓うか?》
「・・・はい、誓います」
《二人の誓いを受け取った。今この時より、二人は夫婦となった。その命の限り、二人に幸があるように、誓いの口づけを》
ライラが堪えきれずに流した涙を、頼りない顔のトエルさんが苦笑しながらハンカチでそっと拭く。
そして、ライラの耳元で何かを囁くと、にこりと微笑んだライラの頬に手を触れ、口づけた。
会場から拍手や口笛が聞こえる。おめでとうと誰もが祝福の言葉をかける。
その光がゆっくりと二人に集まっていく。光は足下をフワフワと巡る。
《新郎マーク、新婦ルルー。前へ》
亀様の言葉に皆の視線がマークたちへ移る。そこには、ぼたぼたと泣き崩れかけたマークと、それを宥めるルルーがいた。
《・・・・・・大丈夫か、マーク?》
思わず呟いた亀様にマークが懸命に頷き返すと、二人は進み出て、像に触れた。
ひぐっ、ふぐっ、と、マークが堪える声が響く。
ルルーが苦笑しながらもハンカチでマークの顔を拭く。
落ち着いたところで亀様が始めた。
《新郎マーク。健やかなるときも、病めるときも、どのような時も、妻となるルルーに愛を捧ぐことを誓うか?》
「ち、誓います!」
《・・・うむ。新婦ルルー。健やかなるときも、病めるときも、どのような時も、夫となるマークに愛を捧ぐことを誓うか?》
「はい、誓います」
《二人の誓いを受け取った。今この時より、二人は夫婦となった。その命の限り、二人に幸があるように、誓いの口づけを》
向かい合う二人。マークは目も鼻も真っ赤だ。周りの誰もがマークが最後までちゃんとできるのか心配する、妙な緊張感があった。
「ルルー・・・俺・・・」
マークが何かを言いかけたのを、ルルーは人差し指で押さえた。
「私、マークとここに立てたらって、カシーナさんの結婚式からずっと思ってた。・・・とても、とても嬉しい。・・・私と出会ってくれてありがとう、マーク。・・・大好きよ」
そうして、ルルーがマークの肩に手を置き、背伸びをして口づけた。
黄色い悲鳴が響く。もちろん私も入ってるよ! まさかのルルーから! 素敵だーっ!キャーーッ!!
拍手やら口笛やらこっちは大忙しだ!
マークは固まっている。しっかりしろー!
ルルーはほんのり頬を染めている。
そんな二人の足下にも光が集まって、クルクルと巡り始める。
二組の夫婦のそれぞれにクルクルクルクルと回っていたのがピタッと止まると、光たちは一瞬で夜空にかけ上がり弾けた。
音の無い花火に歓声が起きる。
光はまた、ふよふよと降りてくる。ゆっくり、ゆっくりと降りて、ギャラリーを含めた辺りに漂う。
ほぅ、と、息を吐く気配があちらこちらにある。
うっすらと光沢のある白い衣装に、漂う光が淡く反射する。
夜に、ふわりと輝く二組の夫婦。幸せそうに笑ってる。
歌が聞こえる。
インディの明るく伸びやかな声が会場に響く。それは、お祝いの歌。今夜は少しだけ厳かに歌い上げる。
屋敷の玄関前で歌うインディにスポットライトがあたっているように、小さな光が集まっている。
そのインディに向かって、二組はゆっくりと歩き出す。
歌いながら、インディが二人の花嫁に両手を差し出す。二人は、夫と腕を組んだまま、その手に自分の手を乗せた。
瞬間。花が溢れた。
それはギャラリーまでも巻き込んだ光と花の大波だった。子供たちのきゃあきゃあと言う声が聞こえる。思わず頭を押さえてしまう人々。ふっふ~、幻ですよ~!
その波が去った時にまた、歌が聞こえてきた。今度はいつもの三人の声で。
騎馬の民の、少しオリエンタルな模様の揃いのドレスに身を包み、三人で喜びの歌を歌う。男たちは、今度は少しゆったりとした服に変わり、トエルさんは弓を、マークは剣を持って、ふわりと剣舞を始める。
ふわり、くるりとする度に、弓や剣から花が舞う。
そして歌の終わりには、トエルさんが天に向かって光の矢を放つ。
また、夜空に花火が咲いた。
大歓声の中、五人は並んでお辞儀をした。
チリンチリン
可愛い音が聞こえる方を見ると、二つのカートを従えたハンクさんがベルを鳴らしている。
インディがハンクさんの所へ行き、二人で花で飾付けられたケーキを運ぶ。それぞれの夫婦の前に置き、ハンクさんがそれぞれにナイフを渡す。
夫婦で手を握りあうようにナイフを持ち、ゆっくりとケーキ入刀。
「おめでとう」
ハンクさんのお祝いに大きな拍手がおきたら、マークの涙線が決壊。
歓声と爆笑と、愉快に混沌とした中、そのまま食事会に。
やっぱり今日のご飯も美味しい!そして美しい! サラダのニンジンが飾り切りに!キュウリが!大根が!
お肉のつけあわせ野菜も綺麗に盛られて、食べるのがもったいない~!
「食べるのが勿体ないですわね・・・」
夫人が思わずといった感じで呟いた。
「肉が! こんなに厚いのに柔らかい上にこの旨味! どういうことじゃ!?」
蜂蜜酒に少々漬け込んで、ハーブ塩で味付けた大豚の肉も好評のようで良かった!
あ、ハーブ塩、お土産にいります? 結構使えますよ~。
「スープが美味しい・・・」
ありがとお兄ちゃん!たくさんのクズ野菜を煮込んで作ったんだよー・・・クズは内緒だな。
「お昼のケーキと違う! チーズみたいな味がするのに、ケーキ・・・なんで?」
おお!この国にはチーズケーキって無いの? なら、売れるかも!
侯爵家ご一行の思わず漏らした言葉を脳内にメモしながら自分も食べる。は~、うまーーっ!!
実に有意義な食事会になりました。
・・・余談。
酔っ払った二人の新郎が、うちの嫁の方が可愛い美しいと喧嘩を始め、殴り合いに。酔っ払った観客が煽りに煽り収拾がつかないと、その嫁たちが私の所へ来た。
・・・ほうほう。祝いの席で嫁を比べて殴り合いだと?
人間用ハリセンで二人とも夜空の星にしてやった。
嫁を比べるとは何事だ!!
うちの娘は皆もれなく可愛いわっ! 馬鹿者が!!
煽った奴らは二人を探しに行け! 千鳥足でしっかり探してこいや!




