続続9話 友情です。<友人一号>
『お嬢? 今いい?』
「お兄ちゃん!こんばんは!一週間ぶりね!元気してた?」
『こんばんは、お嬢。僕も妹も元気だよ。君も元気そうだね』
「おかげさまで~! 最近子供たちを引き取ったから賑やかなんだー」
『あ。王都のスラムの一つが無くなったのは、君が関わっていたのか』
「あ。バレた」
こんな直ぐに関連付けるとは、うっかり「バレた」なんて言っちゃったよ。まあいいか、お兄ちゃんだし。ちょっと笑ってるし。
『関所を出た形跡が無いから少しだけ話題になったんだ。分散したのだろうって結論になってた。どうやって連れ出したの?』
「もちろんうちの大魔法使いに頼んだのよ。花束と違って今度は魔力感知に引っ掛からなかったでしょ?」
笑いながら種明かししたけど、お兄ちゃんは笑いながら聞いてるから嘘だと思っているんだろうな。君の大魔法使いは凄いね、なんて言ってるし。実際見たら何て言うかな? お兄ちゃんも気絶するかな? びっくりはするよね、きっと!
『王都のスラムはいつも問題に上がるのだけどいつも解決案が出ないんだ。予算が無いっていうけど、国の収支がどういう予算を組んでいるのか、おおよそしか僕にはわからない』
納税はきちんとされているらしいから、支出はどうにかならないのか。今は戦時でもないしその分余裕があると思うのだけど。
お兄ちゃんはそう言うが、戦時じゃなくてもいざというときの為の予算は取っておくものよ。無駄にしか思えないし、賄賂や着服されたり問題もあるけど、流行り病なんかに備えないとね。
「スラムの人は住民登録されてないから予算が出ないって聞いたよ。いないはずの人には税金を使えないって。教会だってお布施は教会の取り分だし、孤児の分はほぼ寄付金で賄っているんでしょ? それに、教会に行けばタダで面倒を見てもらえると思われても困るわ。一所懸命働いてる人のやる気が無くなっちゃうもの」
『そうだね。ただ保護するだけじゃなくて、その後の生活も支えなきゃいけない。・・・予算だけで莫大になる』
あれもこれもと出てくるからお金なんて足りなくなる。
ほんと経営って難しい。私には辺境田舎領地でいっぱいいっぱいだわー。
「お兄ちゃん、考えることは大事だけど固定観念に囚われることは危ないわ。特にお兄ちゃんは王族だから決断が難しいことが多いでしょ。迷ったら誰かに聞いてよ?」
『うん。だから今聞いてるよ。・・・国の中枢にいたとしてもできることなんて限られているのがもどかしいよ』
「そうね、国の端っこにいても同じ様に思ってるわ」
『お嬢は助けたじゃないか』
「全てじゃないわ、ごく一部よ。それに、領地が人手不足じゃなければ連れ出したりしなかった」
『ふぅ・・・難しいね』
「・・・難しい。でも、なるべく引き取る気でいるわ。お兄ちゃんには期待外れになるかもだけど」
『お嬢は頼もしい』
そう在りたいけれど、皆がいるから頼もしげに見えるのよ。私自身は張りぼてよ、悔しいわ。
『あ!そうだ。こっちが本題なんだった』
お兄ちゃんが慌てて話題を変える。何だ?
『妹がね、誕生会にお嬢を招きたいって言うんだ。誘ってもいいかな?』
頭を殴られたかと思った。
実はまだお兄ちゃんには私の素性を明かしていない。彼の中で私らは旅芸人のままだ。王族に招待を受けるなんてとてつもない名誉だ。断る理由がない。
だけど私はドロードラングだ。
現在も調べてもらっているが、我が家は、ま~!悪い話しか出てこない。評判が悪いを通り越して、奴隷王みたいに言われている。それなのに領地が貧乏なままなのは何故か? そしてそれでも即お縄にならないのは何故か?
叩いてホコリどころか、そのまま袋に詰めて燃えるゴミに出すしかないくらいな家になってた。
まあ、後始末の為にゴミの分別はするけど。
クインさんという伝も出来たことで着々と証拠を確保してる。
『・・・難しい? それとも嫌?』
芸人とは基本、下層の人間だ。貴族に気に入られて芸を誉められても、その生まれ育ちを蔑まれる事が多い。貴族に囲われたとしてもあまり変わらない。仲良く付き合っているところは少ない。
それもあってお兄ちゃんは難しい?と聞いてくれてるのだろう。それに「嫌?」と聞いてきたということは、私が王都に近づきたくないと思ったのだろう。ということは、
「お兄ちゃん、私らのこと、調べた・・・?」
『・・・あの宿に問い合わせた。中央の詰所にも。旅芸人としかわからなかったけど。でも、君がどこかの令嬢なのは話の中に出たし、君の従者たちの対応でわかっていた。それにギルドや商家ならあのリボンを使ってどんどん売り込んできたはずだ。本当に、お茶会で皆が妹に注目するくらいに素敵な物なんだよ?』
商売に貪欲でない商家なんて田舎者だろうとも有り得ない。他に目的があるはず。でもそんなこと見当もつかない。僕を取り込みたかったかとも思ったけども、あれから何も無い。夜にちょっと話をするだけだ。同じ国と見当をつけて年頃の女の子のいる貴族を調べた。結構な人数がいたけど、確認出来なかったのは一人だけ。
『確認出来なかった令嬢と君を繋げて考えていいかは、正直今でも迷っている。・・・でも、僕は君と友人だ。君を知りたい。名前を、教えてもらえないか?』
別に、ここでお兄ちゃんと切れても私に損はない。短い付き合いだけど、私の素性を知っても騙していたかと罰したりはしないという信頼はある。
ただの知り合いで、ギリギリ友達だという曖昧な関係でいいと思っていた。だって私は奴隷王の娘で、お兄ちゃんは王子なのだ。身分どころか、存在に開きがありすぎる。
でも。
「僕は君と友人だ」なんて言われちゃあ、腹をくくりますかね!
「では改めまして。私はサレスティア・ドロードラング。ドロードラング男爵家の娘でございます」
お兄ちゃんの息を呑む音が聞こえた。しばしの間があく。
『僕は、アンドレイ・アーライル。アーライル国第三王子だ。・・・そうか、やっぱり、ドロードラング男爵令嬢か・・・正体がわかってすっきりした』
これで終わりか・・・
お兄ちゃん、ちゃんと友達が出来るといいな~・・・
『それでさっきの話なんだけど、誕生会の招待状を送っていいかい?』
「はあ!?」
『え?何で驚くの?』
「驚かずにいられるかーっ! え!?結構重要な事実だったと思うけど?無視!?」
『今の僕の最重要事項は、妹が焦がれてやまない謎の旅芸人をどうやって妹の誕生会に間に合うように招待するかだ。奴隷王が何だ。グズッた妹を宥める方がよっぽど大変だ!』
「甘やかし!」
『妹の可愛さは国一番と評判だ!』
「確かに!」
『そうやって皆がチヤホヤするから我儘なんだ。お嬢に会ったときのあの大人しさはまやかしだよ』
衝撃の事実!!
『あの距離感は僕も初めてだったけど、妹も心地好かったみたいなんだ。お嬢たちと会えて本当に楽しかったんだ。僕と二人きりになると、お嬢たちにまたいつか会いたいねって言ってる。すぐにバレそうだからこの通信機のことはまだ内緒にしてるんだ。話せるとわかったら、きっと会いたいってずっとグズることになる。面倒だ』
お、おおおお何だ? 私の方が混乱してきた! 優しい兄かと思ってたら普通の兄だった! あれ? 招待されるのいいけど、何か面倒が増えたんじゃない? あれ~!?
『とにかく、僕はお嬢を支持する。この誕生会を巧く使ってよ。君にとって悪くないと思う』
ハッとした。
『こんなことしかできないけど、あの花束に少しでも報いたい。友人一号だからね。友達は大事にするよ』
「・・・ありがとう、お兄ちゃん。絶対、誕生会に行く」
朗らかに言うお兄ちゃんに泣きそうになる。
まだお互い子供だから、深い意味はそれほどないかもしれない。
それでも、だからこそ、いっぱいいっぱい考えてくれたのだろう。
9才のくせに男前だな!
招待状は領地の方に送ってもらうことにした。開催日は半年後。それまでにすること、出来ること、出来なかった場合のこと、たくさん会議で話し合う。
もちろん日課も欠かさない。
スラムの子達はさすが子供と言うべきか、一月もするとほぼ大人と同じ分量を食べるようになって、肉付きも良くなってきた。体を動かすことも息切れしなくなったし、農作業も頑張っている。
一応様子を見てるけど、眠りも深くなって、作業で疲れても一晩でケロッと起きてくるようになった。自分達の部屋の整理もするようになった。驚きの成長だ。
す巻きにされていたのにね~、なんて笑って言うお母さんたちは、実はとても喜んでいる。肩車を出来るようになって喜んでいるのは、子供たちよりオッサンたちの方だし。
まあ、年相応にはヤンチャなのでお仕置きも何度かしたけどね~。
***
夏の終わり頃、ギルドから討伐依頼があった。そろそろトレント大量発生の時期らしい。あ!この間の森に葡萄狩りに行かないと!人手が増えたからいっぱい採れるぞ~!
と行ったら、でっかい茸が一体歩いて来た。
いかにも毒を持ってますよと言わんばかりの真っ赤な傘に、石突き部分には老人の様なしわしわの顔がある。顔の脇から人の手が生え、ずんぐりとしたら足をちょこちょこと動かしてこちらに近づいて来る。全長二メートルくらい? 口の辺りには薄い緑色の空気が漂っている。うげ。
葡萄狩りというのんびりイベントのつもりでいたから今回は女子供多数だ。避難させなきゃと思った時、薬草班長のチムリさんが叫んだ。
「お嬢! あのお化け茸を確保!!」
私も皆と呆気にとられる。マジで!? チムリさんは私に向かって走って来る。
「やつの吐く息は毒だから吸わないで! がっつり茹でて毒抜きをして、がっつり乾燥させれば高級薬剤として使えるし、良い出汁が出る!」
「よっしゃあ!! 任せなさい!!」
守りの為に前に出ていた男衆を押し退けて、魔法発動。
トレントで鍛えた技を見よ!
秘技! 薄切り!!
縦にスライスされたお化け茸がヒラヒラとその場に溜まる。もはや茸の面影は無し。モンスターの名残は赤色だけ。
鼻息の荒い私とチムリさんががっちり握手をするのを見た誰かが言う。
「・・・ほんと、とんでもねぇ・・・」
お化け茸を保存袋に入れてから、予定通り、葡萄狩りをしました。
いっぱい採れたー!!
数日後にトレントも狩りました。今回も良い木材になってくれたわ~!
お読みいただきありがとうございます。
薬の原料については、ファンタジーということでスルーしてもらえると助かります(((^^;)
8才、もう少し続くことになりました……どこをしくじった…?
ではまた次回、お会いできますように。




