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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
8才です。
25/191

9話 友情です。


ドロードラング領の屋敷には赤ちゃん部屋がある。日中、親同士で何人かずつ入れ替わりで赤ちゃんの面倒をみている。

現在、乳児~2才まで合わせて十人程度。

その中にサリオンも参加。赤ちゃんの誰よりもじっとしている。

その姿を見た誰もが言う。


「おぉ~、静かなお嬢がいる」


ぅおい!!

似てるけど! どこから見ても私とサリオンはそっくりだけど、「静かな」ってなんだ!? 異議有り!




両親の屋敷を出て宿に着くまで、サリオンはクラウスが抱っこした。乳母車なんて物は無い。一応、二人で屋敷を訪ねた事になっているので、ヤンさんたちは付かず離れずの距離を保つ。


宿に着いてからシーツに包まれた小さなサリオンを抱っこしてみた。余裕で抱っこできた事に嬉しいやら切ないやら微妙な気持ちに。


サリオンの事を皆に説明し、すぐに領地に帰る準備をした。領地にいるハンクさんには連絡済みなので、今ごろクインさんたちのお弁当を作ってくれてるだろう。

あんまり観光できなくてごめんなさいと謝ると、皆は色々楽しかったと言ってくれた。・・・うん、今度はゆっくり観光しようね。


マークとニックさん、ザンドルさん、バジアルさんは居残り。三人にはマークの手伝いをしてもらう。

スラムにはマークの友達がまだ何人か残っていた。どうにか日銭を稼いでいた人もいたけど、大抵は日常的に軽犯罪をおかしていた。そしてそのほとんどが薄汚れて痩せこけていた。


もう! やっぱり腹が立って一人ずつ抱きついてきた。ついでに診察。病気無し!真っ黒になった自分の服に可笑しくなって笑った。


それから役所に行き、スラムの子供たちをうちの一座で引き取りたいがどんな手続きが必要かと聞いたら、住民登録されてない連中なので好きに連れていって構わないと言われた。どうせ犯罪者になるか奴隷に連れて行かれる。芸人になるのがまだいいだろうと、窓口のおじさんはため息をつきながら言った。


「おたくら昼間に広場で大騒ぎになった一座だろう? たまたま広場を通ってな、座長さんを覚えているよ。芸をしてた子供が自然とよく笑っていたから、おたくの一座は働くには良い所だと思う。スラムの子供たちは教会の保護からもあぶれた子達でね、国から保護の為の予算なんか出たこともない。情けない話、治安の意味でも連れていってもらえると助かる。その代わりと言っちゃあ何だが、」


え、交換条件?


「おたくらがここに来たこと、兵士や貴族には黙っておく」


一応、クラウスが座長として窓口のおじさんとやり取りしてるのだけど、ちらりと私を見たので頷く。


「・・・それは、スラムの子への同情ですか? 私たちへの打算ですか?」


おじさんは、眉尻を下げて口元だけニヤリとした。


「両方だ。俺ではあいつらの面倒を見きれない」


ということで、あっさりとマークの実家連中は全員引き取ることができた。最後に「ありがとう、頼んだ」と言ったおじさんが印象的で・・・いい人に当たったかな。


総勢五十人の孤児たちは生意気盛りで、とりあえず大人の男に世話を任す。動けない様に()()()にされてる子もいた。いやいや元気で何より!これからが楽しみだね~。

とりあえず風呂だ風呂!



そんなこんなで孤児プラス世話人は置いといて、まずは一座として王都を出る。リボンをつけた子供たちの印象しか無かったようで、王都関所をあっさりと出られた。人数確認も雑。助かる~。


主要街道を人目の無い隙に領地へ移動。サリオンを部屋に連れていき、お母さんたちにお願いする。その後、ハンクさんたちに準備してもらってた弁当(とりあえず、豚バーガー、野菜スープ、干した果物)を持って、両親は近寄らないと聞いていた王都屋敷の調理場へ移動。クインさんはいなかったけど話は通っていたようで、料理長が頭を下げて弁当を受け取った。


よく噛んで食べるように念を押して、スープカップも洗わずに保管箱に入れるように言って(料理人として片付けをしたいようだけど両親にバレるから駄目と押しきった)、次はスラムへ。す巻きにされてる子が全体の半分になってた。あれまあ。

・・・まあ、そのまま移動するけど。


移動してみたら子供たちのあまりの汚さに物言いがついた。


「風呂の前に川で汚れを落として来な!!」


春先だから勘弁してあげて~! 

川の水温はまだ低いので、水魔法で大きな水玉を空中に出し、その中に子供たちを放る。お湯というにはぬるいけど、服ごと靴ごと、巨大な洗濯機のように水玉の中で流れのままに子供たちが動く。息は亀様に頼んだので水中でも大丈夫。一人当たり十秒程度すすがれて、ペイっと出される。

それを風魔法でさらっと乾かす。濡れたままだと服が脱げないからね。乾かされた子供からお母さんと侍女たちに風呂場に連れて行かれる。よろしく~。


左手で水玉を撹拌、右手でドライヤー。ニックさんが水玉に子供らを放り上げ、乾いた子供をバジアルさんが受け取ってお母さんに渡すという流れ作業。


十人も洗うと水玉が真っ黒に濁ったので、水温を下げて種蒔き前の畑にその泥水を撒く。新しい水玉を出して次の十人を放る。そうやってついでに畑に水を撒きながら、子供らの下洗いを済ませた頃には風呂場から悲鳴が聞こえてきた。

・・・お年頃がお母さんに服を脱がされるのを嫌がっているんだろうけど、無理無理勝てないよ!


うちの子たちも大騒ぎでタオルを運んだり、服や下着を運んだり、靴は足りないので余り布で作っていたスリッパを持っていく。急遽作った雑魚寝部屋のシーツを換えたり、出来上がった料理をテーブルに運んだりと賑やかに手伝っている。


しばらくの間はスラムメンバーは男女一緒に一部屋に押し込むことに。

部屋数がギリギリなのと、急に仲間を引き離すのも良くないって理由から。だいたい、いくらマークがいるとしても知らない場所で知らない人間に囲まれたら不安だろう。今だって風呂でガツガツ洗われて実は怖がっているだろうし。・・・慣れないと疲れるしね。


案の定、目は開いてるけど意識のないまま、こざっぱりとした子供たちが広間へ運ばれて来る。荷物か。女の子たちは髪に櫛を入れられ、試作中のリボンの髪飾りを着けている。おお可愛いな。


運ばれた食事の匂いで覚醒すると、途端に料理をロックオン。スラムメンバーもメニューはハンバーガー、野菜スープでデザートはプリン。食べ方をざっくり教えて、お代わりあるからと声掛けする。愕然としたスラム年長組を気にせずスラム年少組は即食べ始めた。


いやぁ、むせることむせること。誰も取らないよ。

スープをぬるめにしてくれた料理人に感謝! それでも年長組はちびっこたちの世話をしながら食事をとる。


お代わりをしたのは男の子が二、三人だけ。皆、胃が小さくなってるのだろう。Mの模様の世界展開のバーガー屋のSサイズセットでお腹一杯だなんて・・・食べさせ過ぎたかな? チムリさんに胃腸薬を用意してもらっとこ。当分はこの子らの食事は気をつけなきゃ。

ハンクさんももっと見込んでたようで、うちらの夕飯もハンバーガーになった。イエ~!手掴みご飯~!



「今日からここがあなたたちの部屋よ。トイレと調理場の場所は覚えた? マークは隣の男部屋にいるからわからない事は聞きに行ってね。とりあえず今夜はゆっくり寝てちょうだい。明日から少しずつ説明するから」


何人かはもうイビキをかいてる。お疲れさん。それでも年長組はまだ私を観察してる。女子が一人、意を決したように発言。


「あの、あなたは、魔法使いなんですか?」


「そうよ。まだぺーぺーだけどね」


「だから、私たちは連れてこられたんですか?」


「ん?どういう意味?」


「・・・孤児は、魔法の実験に丁度いいと、聞いた事があるので・・・」


・・・ほんっと、どこの外道がそういう事を言うのか・・・


「お嬢、顔が怖いって。まあスラムってそういう所なんですよ。一応、働き手として来て欲しいと説明はしたんですけど、俺らの日常じゃ想像できないんです。犯罪が当たり前ですから」


私の知らない世界だ。

でも。


「あなたたちには畑を耕す事から手伝ってもらう予定よ。ご飯は一日三食。風呂は毎日入ること。服も靴もサイズの合ったものをあげる。スラムが懐かしくなるくらいこき使うから、ご飯はしっかり食べなさい。じゃあマーク、頼むわね」


「了解です」


おやすみなさいと言って部屋を出る。

扉を閉めてため息を一つ。


《我に出来る事は?》


背負った亀様に首を横に振る。


「ありがとう亀様。充分過ぎる程に力を借りてるわ。もう背負ってなければ落ち着かないくらいに頼っているのよ」


《ほんの少しだ》


「ふふ、そんな優しい事を言うと、もっとお願いしちゃうわよ?」


《構わない。乙女というのは欲張りなのだろう?》


噴いた。

亀様が!「乙女」って!

・・・ありがとう。


「・・・亀様には引き続き、領民と領地の守りをお願いするわ。騎馬の民も。あとお兄ちゃんとクインさんたちも。これからも増えるわよ?」


《任せろ。大陸中でもやれるぞ》


「おお~!頼もしい! その時はお願いします」


《うむ》


さて、今夜はサリオンと一緒に寝ようっと!

赤ちゃん部屋に向かったら、亀様がとんでもない事を言った。


《サリオンだが、何かに憑かれている様だ》


はあ!?







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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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