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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
8才です。
24/191

続続8話 弟です。<サリオン>


・・・・・・また、一段と太ったわねぇ。


両親を前にしてそれしか思わない。


今の時期としては冬の終わりで、ぼちぼち色んな物が芽吹いてくる季節。まあ、移動に楽な季節なので、年明けからはだいぶ経つのだけどやっと新年の挨拶に王都の屋敷に来た。私は子供なので遅れても良しという建前に乗っかった。


にしても、領地に引っ込んでから初めての王都は全てが面白い。もっと探索してから屋敷に来たかったな~。


しかし、この趣味の悪い内装、誰が指示したんだろ? 友達呼べないわ~。


「おおサレスティア、生きていたようで何よりだ。クラウスも久しぶりだな」


・・・うん。三年ぶりに会う娘に「生きていたようで」だ?

おかしいだろ。


「お父様もお母様もお変わりなくお元気そうで何よりです。領地の方はクラウスに手伝ってもらいながら滞りなく治めることが出来るようになりました。本日はその報告もお持ちしました」


クラウスが嘘っぱち帳簿を渡す。


「・・・ふうん。よくわからんが大した事はないな。土産はないし、まあとりあえず領地は好きにするといい」


はあ?


「あ、ありがとうございます。お母様も、そのようにしてもよろしいでしょうか?」


「ええ。私には関係の無いことだもの。サレスティアの好きになさいな」


「・・・ありがとうございます。これからも邁進させていただきます」



・・・ああ、力が入らない。こんなに見ている物が違っていただろうか?

・・・ああ。私が変わったのか。



「ああそうだ。お前に弟が出来たんだがさっぱり大きくならなくてな。領地に連れていってくれないか。途中で死んでも構わない」


・・・え。


「・・・・・・承知しました。連れて行きます」


この人たちは何を考えているのだろう・・・私が理解出来ないだけなのか。

・・・理解、しなければ、いけないのか・・・・・・ああ、吐きそう・・・


「・・・では、これにて、失礼させていただきます」


「うむ」


ここの屋敷の侍従長がドアを開けてくれる。廊下に出た所で振り返った。両親は、こちらを見ていない。

ドアが閉まるまで、その姿を見ていた。


「お嬢様、クラウス様、お坊っちゃまの部屋へご案内致します」


ぼそりと侍従長が言い、それに付いていく。

二階の北の端にその部屋があった。

ドアを開けてもらい、中に入る。

部屋の唯一の家具のベッドには、ガリッガリに痩せた小さな小さな子供が横になっていた。目は開いているが、天井に向けられたまま。ベッドに触れる程近くに寄ってもこちらを意識しない。


「・・・・・・もう、どうしたらいいのかしら・・・」


何だって、うちに関わる人は皆痩せているの? 何で両親だけあんなに太っているの? 何で皆逃げ出さないの!? どれだけの人が苦しんでいるの!?


ぁぁぁぁあ、腹が立つ。


「・・・こんな家、潰れてしまえばいいわ・・・」


そうよ! 学園卒業まで待つことないのよ! 

よし。


「ねぇ! ええと、あなたの名前を教えてちょうだい」


侍従長が目を見開く。え?何か変?覚える気が無かったから本当に知らないんだけど。

クラウスが笑って教えてくれた。


「お嬢様、普通は侍従たちには"お願い"はしないのです。全て命令です」


「ああそうか、そうだったわね。私には関係ないわ。っていうか、今さら私の命令で動く人なんているの?」


「おりますとも」


「・・・その言い切り方が嘘くさいのよ。まあいいけど。で?あなたの名前を教えてよ。私はサレスティア・ドロードラングよ」


呆然としていた侍従長が再びの質問に狼狽える。それでも覇気の無い声で答えてくれた。


「はい。私はクインと申します」


「クインさんね。家名を名乗らないということはあなたも奴隷商から来たの?」


「はい。そうでございます。旦那様と奥様以外、屋敷にいる者は皆奴隷です」


「そう・・・ありがとう。この子の名前は?」


「サリオン様です」


「サリオンか~。ふんふん、良い名前じゃん。歳は?」


「3才になられました」


「・・・3才・・・こんなに小さいのに・・・そっか、生命力が強いのね~。やるわねサリオン」


ベッドのそばに立ち、サリオンの頬に手を伸ばす。

小さなベッドなので楽に届いた。


「サリオン、初めまして。お姉ちゃんのサレスティアよ。これからは私と暮らすことになったのよ。仲良くしようね」


何も動かない。

頬に当てていた手を全身にかざす。うん、衰弱だけね。

おでこにキスをした。お姉ちゃん頑張るよと気合いを込めて。


弟のちっちゃな手をとり、振り返る。


「クラウス、私、気合いが入ったわ」


クラウスがにっこり微笑む。


「クインさん。ドロードラング家が無くなってもあなたたちの家はあるから。引っ越せるまでもう少し辛抱してちょうだい」


クインさんがまた目を見開く。


何時(いつ)とは断言出来ないけど、それまで生きて。その(あと)は、好きに生きて」


クインさんの疲れきった形だけの笑顔が、希望の無い日々を想像させる。

今は動けない。

絶対、ぐうの音も出ないほど、けちょんけちょんにしてやる! 何かを!


「お嬢、今いいッスか?」


天井からヤンさんとダジルイさん、バジアルさんが降りてきた。クインさんは驚いて声も出ない。


「何がわかった?」


「警備は全くいません。侍従、侍女っぽいのだけですね~」


「洗濯場では(たらい)が持てなくて難儀してました。シーツを干すだけで息が切れていました」


「調理場は肉が大量にありましたけど料理人も痩せてました。聞き耳立ててましたら、腐りかけなら従業員にも肉が振る舞われるそうです」


はあ?

クインさんを見ると、彼は戸惑いながらも頷いた。そして驚きの事実を知る。


「私たちの一日の食事は朝一回で、生卵が一つとクズ野菜と旦那様と奥様の前日の残り物です。私たちの為に調理場の火を使うことを許されてませんので、下げ渡された肉は調理中の隙をみて焼きます・・・」


倒れるかと思った。

すかさずヤンさんが後ろから支えてくれる。・・・ん? 


「・・・ちょっと、これ、羽交い締めじゃないの?」


「え? 暴れだすかと思いまして」


これだよ。ヤンさんの態度にクインさんの目がこれでもかと開いた。


「暴れてもいいと思うけど! 私は穏やかに事を進める気で来たのよ! それが!」


「はいはい。お嬢は普段賑やかなだけなのに怒りの頂点に達するまでが早いんですよ」


「それに、今暴れたりしたらカシーナさんがそれこそ飛んできますよ?」


ダジルイさんの言葉で冷めた。

おぉ~。カシーナさんはスゲエな~。バジアルさんが笑う。

あんたね、彼女の怒りを浴びてごらんよ!笑ってられないからね!? 時代錯誤な体育教師の竹刀なんて目じゃないからね!? 教育ママより怖いのよ!?

内緒にしててちょうだぃい!!


「とにかくクインさん。食事はこっちでどうにかする。他に困っていることはない? まあ、たくさんあるとは思うけど」


「い、いえ、いいえ、とんでもございません。今のままで結構でございます」


「そんな腹に力の入ってない声で言ったって説得力無いわ」


「服も替えましょう。皆さん背格好が似てるので、クインさんと侍女の誰かの寸法を測ればいいでしょう」


「ダジルイさんが言うならそうね。任せるわ。後は?」


「今必要な物はそれでいいと思います。他の物は折を見てその都度準備しましょう」


クラウスが()めた。異議なし。


「父や母に忠誠心を持っているなら、渡した物を後で捨ててもいいわ」


おろおろしていたクインさんに一言かける。


「もったいないから誰かにあげてくれるといいけど、あなたが決めていいんだからね」


クインさんの目が潤む。


「それから、弟のお世話をしてくれて、ありがとう」



母は妊娠に気付かず便秘だと思っていたらしい。あまりの痛みに医者を呼んだら赤ん坊を産み落とした。

男の子だったから後継ぎだと喜んだ。領地にやった娘はもう使い物にならないだろうから。

しかし、やたらと泣く赤ん坊に早々に嫌気がさし育児放棄。娘の時はいた乳母は今回ケチって雇うこともしなかった為、母親の役目をする者もいない。

泣き声が煩いと、屋敷の外れの部屋に移した。


なんとか従業員で世話をしたが、元々子育てなどしたことも無ければ、赤ん坊に触れた経験もない、大人が世話をする姿を見たこともない。小さい体が怖くて抱き上げることもできなかった。


そんな中母は、可愛くないからもう知らない、要らない、と言い切った。


乳をあげることも出来ず、小麦粉を溶いたものや、主人夫妻の為の新鮮な牛の乳を少量くすねて飲ませたりした。パンを溶かして食べさせる頃には泣くこともなくなった。


侍従や侍女の入れ替わりが激しく、サリオンが生まれてからずっと残っているのはクインさんだけ。人数がジリジリ減っていき、その為に仕事量は増え、サリオンの様子を見られない日もあった。

だんだんと痩せていくサリオンに何ができるでもなく、それでも、口に入れたものは飲み込んでくれたのでそう続けてきた。

そうして今日、私たちが来た。



跪いて静かに泣くクインさんを抱きしめる。正座した私の膝の上に彼の頭を乗せ、すみませんと何度も言う背中をさする。なんて細い背中。


「ありがとうクインさん。そして皆。あなたたちがいたから、サリオンは今、生きている。ありがとう」


これは怒りなのか呆れなのか、両親に対してなのか自分に対してなのか。

湧き上がる感情をもて余しながら、クインさんを抱きしめる。


ふと。

大きな手が右肩に触れる。・・・クラウス。

ちょっと強めに左の肩に触れる。・・・バジアルさん。

優しく背中を擦る。・・・ダジルイさん。

頭をグリグリと撫でる。・・・ヤンさん。


ああ、なんて心強いのか。

そうだ。私には、助けてくれる人がいる。たくさんいる。


私は恵まれている。


うん。


「手を、借りるわ」


「「「 仰せのままに 」」」


恭しくも不敵に笑うところが頼もしい。


「お嬢が一番悪い顔して笑いますよね~」


「ガハハ! 確かに」


・・・ヤン! バジアル! 領地に帰ったらジェットコースターの刑にしてやる!









お読みいただきありがとうございます。


全然話が進まず、中弛み?中。すみません。

一話との差が激しいな~。



では、また次回。


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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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