続続7話 攻略対象です。<歌姫の恋>
皆がトエルさんをお調子者とか能天気っていうけど、私、お嬢が来る少し前に、彼のそういうところに助けられていたことに気付いたの。
朝に会うと、また会えたから今日も頑張ろうかな。夜に会うと、明日も会えたらいいね。・・・会う人皆に言ってたから、皆と一緒にお調子者って思ってた。
そして、皆で痩せ細って力尽きていく中で、トエルさんのお母さんが亡くなったの。
その時は手があいていたから埋葬に参加したわ。知ってる人も知らない人も亡くなって埋葬するのに人手が必要だったから。行って初めてトエルさんのお母さんと知ったの。トエルさんは何も見てない様な目で手伝いに来た私達に頭を下げたわ。
いつもの彼と全然違う姿に、直ぐにお母さんを追ってしまうんじゃないかって不安になった。埋葬が済んだお墓から動かないトエルさんに声を掛けたわ。腕を掴んで、やっと私を見たけど、いつもヘラヘラした顔してたのが嘘みたいに表情が無くて、衝撃だった。腕を掴んでも何も言えなくて、でも心配で離れることも出来なかった。
そうしていたら、・・・ああライラか、君に会えたから今日も頑張ろうかな・・・って、そう言ってヘラッと笑ったの。トエルさんが笑ったのに私の方が泣いちゃって・・・フフ、すごい慌ててた。
辛いだけの日常を、彼は笑って過ごしてた。
私にはできなかった。
だから本当は、彼と会えるとホッとしてた。
ああ、好きだな、って、思ったの。
「だけど、だからって何もできなくて。だって私だけが特別な事なんて何も無いんだもん! 皆と一緒。一日会えなくても次の日にバッタリ会えば、さっきも会ったねみたいな感じで、やあって言われるだけなのよ! 完全に私の片想いよ! 皆で彼の事をバカにしてたから誰にも相談をしづらいし・・・死ぬ前には告白しようと思い詰めてたら、お嬢が来て、あれよあれよと忙しくなって、会えなくなって、やっと興行にトエルさんが参加したと思ったらリズさんとの恋人役をやっちゃうし、騎馬の民達ともすっかり仲良くなっちゃって楽しそうにしてるし、王都に来たら物凄い数の人がいるしで大混乱だったの・・・」
はい。ただいま宿にて女子会中です。女子は大人からチビまでいます。
ライラ、まだ混乱してるな~。まあその原因に私も噛んでるようなので謝っておこう。
「なんか、ごめんねライラ。全然気付かないうちに思い詰めさせちゃったね」
「いえ! 私こそ八つ当たりです、すみません。領地が回復しなければ私達に未来は無かったんですから。お嬢が居てくれて感謝してるのは伝わってますか・・・?」
「ぷ! 何でそんなに不安げなの?伝わってるわよ!だから興行も協力してくれてるんでしょ? 嬉しいよ」
はにかむライラが可愛い!
でもすぐでっかいため息を吐いた。
「油断してたんです・・・領地でトエルさんの恋の噂なんて全く無かったし、興行もすぐ移動だったから、まともな出会いなんて無かったじゃないですか。だから、そのうち振り向いてもらえればいいかなって。でも、ここに常駐するようになったらこの人の多さです、トエルさんの良さに気付く女が出てきますよ! もしくはトエルさんに好きな人が出来ちゃう!・・・と思ったときに、お嬢の言葉が聞こえて、・・・突撃しちゃいました・・・」
恋は盲目とはよく言ったもんだ。でも三年の片想いか~。
ライラが18才で、トエルさんが確か23才か? 年齢差はおかしくない。
お調子者で通ってるトエルさんだけど、仕事はしっかり出来るので結構頼っている。狩りに行けば大豚を一人で背負って帰ってくる程の力持ちだ。あの頼りない笑顔が株を下げているんだろうな~。子供らの面倒も率先してみてくれるので実は大人気。
ライラはライラで色んな事をやっている。私の侍女として、歌姫として、洗濯も掃除もしっかりしてるし、最近はお母さん達にまざって料理もしている。カシーナさんの結婚を機に淑女教育に花嫁修行も加えられたので、今やトエルさんよりライラの方が忙しい。
なんとかしてあげたいなぁ。と思ったら、ドアがノックされた。
「あの、トエルですけど、・・・ライラいます?」
ライラが声にならない悲鳴を上げ、落ち着くかと渡していた亀様を抱き潰している。
「あー!いるいる!ちょっと待って!」
おおおおおじょじょお嬢~!
口をそんな感じに動かして、私にすがりついてきた。
「付き添う? 出直してもらう?」
うううぅぅと涙目で唸るけど、美人はどんな顔しても可愛いな!
「あの、すぐ済むんで、出てこられませんか?」
すぐに済むと聞いてライラの顔色が青くなる。私らも戸惑う。断りに来たの!? ライラを振るの!? うちの歌姫を!?
「よし!表に出ろや!トエルさん!」
「ええええ!?? 何でそうなるんスか!??」
ドアの向こうで狼狽えている姿がわかる。
ライラの手に力が入る。大丈夫?
「骨は拾って下さい・・・」
任せとけ!
そしてライラは自分でドアを開けた。ちょっと怯えたトエルさんが、私じゃなくライラが出たことにホッとしてた。
「・・・俺、ライラに求婚に来ました」
え? 皆でポカンとしてしまった。
「本当は俺、マークのこと笑えないんだ。どんどん綺麗になるライラに尻込みしてずっと言えないでいた。領地一頼りない男としてずっと黙ってようとも思った」
いつもの様に、にへらと笑う。
「ライラ、君がドロードラング領に来た時から可愛いと思ってる。君に話しかけるために皆と喋った。君も食べるならって狩りにも出た。・・・まあ、ライラに言わせたり頼りないままだとは思うけど、これから頑張るから、」
トエルさんの右手がライラの左手をとり、片膝をつく。女子がざわめいた。
「ライラ、君が好きだ。俺と結婚して下さい」
見つめ合う二人をガン見の私達。何この展開!!
「・・・その格好、誰の入れ知恵?」
「・・・・・・ニックさん」
「言葉も?」
「それは、誰も教えてくれなかったよ。・・・俺の気持ち、伝わったかな?」
にへらと笑う。緊張が切れる!
「・・・私、その顔、好きだわ。頼りないけど、頼もしい、毎日見た顔」
「そう?毎日見てよ。俺も毎日、ライラの顔を見たい」
「・・・後で、間違えたって言わない?」
「それはない。俺が言われるかもしれないけど」
「・・・私を、好き?」
「うん。大好き。これからもずっと」
「・・・抱きついても、いい?」
「いくらでも!」
って、トエルさんの方が早かった。
私はそっとドアを閉めた。
女子部屋の女子は皆キラキラしてた。
良かった。両想いっていいな~。
・・・・・・って、両想いの瞬間て見てるこっちが恥ずかしいわ!
お読みいただきありがとうございました。
恋愛ジャンルに飢えているのでしょうか……(笑)
ちょっと迷いましたが更新しちゃいました。
楽しんでいただければ嬉しいです。




