続7話 攻略対象です。<美兄妹>
一番近かった中央の詰所に着いた途端、詰所内が慌ただしくなった。
この美兄妹はだいぶ高貴なようで、肩車をしてきたヤンさんが怒られた。まあそんなの気にしない人だけど。申し訳なさそうな顔をした少年にニヤリとしたし。
そんなバタバタした詰所に、続々とうちの連中が集まってきた。マークは地元だから勝てると思ったのにとボヤき、ニックさんルイスさんはやっぱここは賑やかだなと笑い、ダジルイさんは人が多い・・・とげっそり。トエルさんや騎馬の民の双子のおじさんのザンドルさんとバジアルさんは、目が回る・・・と座り込む。
確かに、領地より遥かに物も人も多いもんね。
お疲れさまと声を掛けながら、またもリュックからお菓子を出す。プレーンな味と胡麻を混ぜた物と、ハーブを練り込んだ数種類のクッキーを見ると、皆が木筒を取り出して寛ぎだした。
私らは壁際のベンチ椅子で美兄妹はゆったりソファ。この格差。笑う!
騎士たちは二人の相手をする余裕もなく動いているので、これ幸いと二人の周りに皆で移動した。
「さっきのより甘くないんだけど食べてみる?」
味ごとに包んでいたので説明をしながら包みを広げる。お茶セットがあったので二人にはダジルイさんがお茶を淹れてくれた。
あれ?葡萄のはもう無いんですか? 胡麻のこのプチプチした感じがいいよな~ ハーブ入りは酒が飲みたくなるわ~ 何も混ざってないのが一番旨い そうか?
野郎共がワイワイと食べるなか、空の木筒にお茶を淹れてもらった私が飲むと、ようやく二人も口を付けた。
「ハーブのクッキーなんて初めて食べた・・・おいしい」
少年が笑った。妹ちゃんはお行儀よくニコニコ食べてる。隣に座った私に何度も頷く。その様子に癒される野郎共。良かったわね。
そうしてまったりしていたら、お二人に勝手に近づくな!と怒られた。へえへえと言いながら、ベンチに移動。そして、騎士がいなくなってからまたソファに戻る。
何度か繰り返してたらとうとう所長みたいなおっさんが来た。顔を真っ赤にして怒ってる彼の後ろでは、二人が笑いを堪えていた。だってうちら、誰も聞いてないんだもん。
一列に並ばされてその前を所長がウロウロしながら騒いでいる。所長が向きを変えた先はピシッとして、通りすぎるとダラッとなる。昔ながらのコントですよ。
「ぷふっ」
ついに妹ちゃんが噴いた。声が小さくて所長には聞こえなかったみたいだけど、ガッツポーズをした私らに今度は少年が噴いた。
「アハハハハ!!」
何が起きてるのか解っていない所長の振り返った顔も面白かったのだろうね、二人とも大声で笑いだしちゃった。よし! ハイタッチをする私達。困惑する所長。笑いが止まらない美兄妹。
「何ですか?この状況は?」
亀様を抱えたクラウスが詰所のドアを開けた。
「うちの迷子と付き添いを引き取りに来ました。お取り込み中ですか?」
「クラウス!お迎えありがと」
亀様を預かる。
《予想より早かったな》
私達にだけ聞こえるようにしてるようだ。まあ、喋るぬいぐるみは目立つしね。
皆がニヤリと笑う。
「ヤンさんが早かったの! 皆とは詰所前で会ったわ」
「そうでしたか。おや、リボンはどうしました?」
「あのこに貸したの。可愛い子がすると良い宣伝になるかと思って結んでもらったのよ。そしたら気に入ってくれたみたいなんだけど、いくつかリボンの余裕ある?」
美兄妹を指すとクラウスが息を飲んだ。ん?
「そうでしたか」
あれ?気のせい?・・・ま、いいか。
クラウスは美兄妹の前に行く。
「この度は、うちのお嬢様がお世話になりました。よろしければリボンをお礼に差し上げたいのですが、受け取っていただけますか?」
少年がサッと立ち上がる。
「ありがとうございます。ですが、世話になったのは僕らの方です。彼女と会えなければここまで来られたかわかりませんでした。それにリボンはこちらから欲しいと言いました。聞けば、産業の発展の為に作られたそうではないですか。是非その助けになればと思いますので、代金は支払います」
なんて立派な男児だ!うちの連中が全員感心している。そして私を見る。何故だ!私だってそれなりに出来るっての!
クラウスがにっこり微笑む。
「ありがとうございます。ではお買い上げということで進めさせていただきますね。ただいまリボンをお持ちしますので少々お待ち下さい」
そうして、少年がソファに座るのを確認してからクラウスがこちらに戻ってくる。
「俺が行きますよ」
マークが言うと、クラウスは手を上げて制する。
「いえ、ルルーとライラとインディに頼みました。宿も近いし、亀様もついているので大丈夫です」
そう。結婚式で使った像の亀様もだけど、亀様ぬいぐるみが増えました。キーホルダーサイズで、女子子供は全員持っている。亀様の能力に頼った保険だけど、《苦もない》との一言に甘えさせてもらった。きっと今も、亀様が詰所までの道のりを誘導してくれてるのだろう。
しかし、この人選・・・狙ったな。
この三人には特に護身術を身に付けてもらった。可愛くて強いなんてオイシイわ~。なんかあったな、そんな映画。
ルルーが来ると聞いて、マークがそわそわしてる。そんなに心配か。そんな姿を見て皆でニヤニヤする。
「マーク、狙ったらすぐ射止めないと手に入らなくなるぞ」
騎馬の民らしい格言が出た。ザンドルさんもっと言ってやって!
「そうそう。今だって可愛いのに、これからも綺麗になるだろうからなぁ」
バジアルさんも言ってやって!
「な、何の話です?か、狩りの事ッスか?」
真っ赤な顔でしらばっくれようとするマークに皆で笑いを堪える。それを不思議そうに見てる美兄妹。
「早く俺みたいに結婚して断らないと、どこにでも連れ回される様になって、会う時間がもっと減るぞ」
「確かにルイスが言わなかったらカシーナの方がお嬢に付きっきりになったろうなぁ。離ればなれか」
「え!?や、ニックさん、何を・・・」
「いや、お前も留守番を任せるのに良くなってきたからな。ルルーは舞台でお前は領地、ほら、離ればなれだ」
「お嬢のことだから、どこまで足をのばすことになるか解らないッスもんね」
トエルさんの言うことに若干青い顔で納得するマーク。
どれだけ奔放なのよ、私。否定してよ。
「か、亀様に、頼んだりは・・・?」
「今だって充分過ぎる程に亀様には助けてもらっているんだ。お前が結婚を申し込むのが面倒が無い」
「なぁマーク。何でそんなに頑ななんだ?」
ニックさんの身も蓋もない言い方に、ルイスさんも別口から切り込む。
真っ赤なマーク。ルルーとの事ではいつも真っ赤。微笑ましい。
「・・・俺、成人はしたけどまだ半人前だし・・・お嬢はしっかりしてるけど、まだ小さいから二人でそばにいようって約束したんです・・・けど、ルルーは綺麗だし、どれだけ頑張ったところで、俺が隣にいるのはおかしいかもしれない、って思うと・・・」
「馬鹿ねぇ」
マークが泣きそうな顔で私を見る。しようがないな~。
「誰でも、それこそ新婚のルイスさんだって想いが通じあうまでは不安でしょうがなかったはずよ」
ルイスさんの咳払いが聞こえる。
「だから、恋の応援をするときは当たって砕けろって言うの。想いを伝えるってそれだけの勇気が必要なのよ。だって心を全部持っていかれるのよ。何ものにも代えられない人なのよ。マークは、他の男に見せたくないくらい好きなんでしょ? 背中に守ってモンスターと戦えるのは出来るんでしょ? あの娘の一番そばにいたいなら、半人前なんて言ってグズッてないでさっさと結婚の予約くらい取りつけなさい。あんたくらいの歳で一人前の男なんて存在しない! だからその勇気をニックさんに剣技として鍛えてもらってんでしょ!根性出せ!」
「・・・だめ、だったら・・・?」
「骨は拾ってあげるわ。そしたら立て直してまたぶつかるの。恋なんてね、一度振られたくらいじゃあ諦められないものよ。自信が無いなら尚更、バッキバキに粉々になるまで、何度でも誰にも負けない想いを伝えるのよ!」
おお~! 拍手に応える私。恋人はいたこと無いけど片想い経験はあるぞ!
バタン!と詰所の玄関ドアが勢いよく開く。びっくりした 何!?
振り向くとそこにはライラが立っていた。
とても真剣な顔でこちらに来る。え?何!? 私ライラに何かしたっけ??
「お嬢! 今の話良かった! 私の骨も拾ってね!」
え? まさかライラ、マークのことを? ええ!?
と混乱しているうちに、ライラはトエルさんの前に立った。
ぅええ~っ!?
「私・・・トエルさんが好き。私のことを妹みたいにしか思ってないこと知ってるけど今から意識して。良い女になったと思ったら、私をトエルさんの恋人にして」
トエルさんの目が真ん丸になって、口が半開き。なんて残念な顔!
対するライラは頬を赤くしてちょっと俯く。ヤバイ!超可愛い!手がプルプルしてる!
「言っておくけど、片想い四年目だから。・・・告白、冗談じゃないからね!」
何この展開!?
その後、何食わぬ顔で迷子受け取りの書類にサインし終えたクラウスが、呆気にとられていたルルーとインディから新品のリボンを受け取り、困惑する少年と妹ちゃんに現物と金額の確認を取り、代金は宿に届けて欲しいと一筆書いた紙をリボンと共に少年に渡し、妹ちゃんが着けていたリボンを受け取ったところで、
「じゃあ、お暇しましょうか。お世話になりました」
綺麗な礼をして、私達を詰所から叩き出した。
容赦ない!