57話 白目です。
「概ね狙い通りですよ」
初夢操作から一月。
今度はカクラマタン帝国に偵察に行ってくれた、ザンドル、バジアル兄弟が帰って来た。
アレで大人しくならなかったら本気で殲滅してやると思ってたけど、報告を聞いて私も落ち着く。ちなみに今いるのは学園のエンプツィー様の教職部屋。ええ、残業です。チッ。
「皇帝は精力的に動いてますよ。不正が起きないうちにと急に貴族の数を減らしてしまって貴族の暴動も起きましたが、平民がそれを押さえてました」
平民が?
「今までどの貴族におもねるかだった平民がスッパリと手を切って貴族の動向を見張ってる感じでしたね~。いやあ、国の雰囲気も変わったんじゃないですかねアレは? がっはっは!」
笑うバジアルさんを呆れる顔で見るザンドルさん。うん、通常通常。
「皇子皇女は継承権三位まで残して他は平民になるそうです。それでの暴動だったんですけど、平民もギルド所属の冒険者ほどでないにしろ魔法が使えたりしますから、王都のあちこちで大変な事になってましたね」
「あれま。援助は必要そうだった?」
「要らんようですよ。あの夢に比べたら人の手でどうにかなるうちはどうにかなるって、平民の間での合言葉になっとりましたわ、がっはっは!」
バジアルさんのこの調子じゃあ、二人とも片付けとか手伝ってきたんだろうな。
「なので今のところ、ドロードラングは禁句扱いですね」
ザンドルさんの報告にエンプツィー様が大笑いした。
・・・そうなるように仕向けたけどさ、そんなに笑う?
だってさー。
本気のクラウスを放つにはやっぱり後が恐いじゃないの。元剣聖と言っても、一人で帝国をどうにかできるほどじゃないだろうし、今回の相手は人間だ。まあ、元をたどればハスブナル国の時も人間ではあったけど、死んでまで苦しんでた人たちだったから除外。
返り血浴びまくりのクラウスも恐いけど、戦いに出ておいて、亀様ガードがあったとして、無傷とは限らない。
あの勇者のような命と引き換えの大技をうっかり受けて、クラウスがどうにかなったら嫌だ。皆がそうなったら嫌だ。
アホな貴族のために、うちの人たち、カクラマタン帝国の平民を犠牲にするわけにはいかない。例え本人たちがヤル気であっても。
かといって、煮えくり返った皆を落ち着けるために報復を決定したのだけど。
ついでに四神への恐怖も植え付けようと、四神自らがノリノリになったのには参った。
特に朱雀。
《大暴れすると聞いて来たぞ!まぜてたも!》
ぅおい! わざわざ来たのかい!?
平穏な旅に退屈したんだろうと夫の村長、いや、シュウさんは言う。
・・・崖登りという山登りとか、島々の間の海を身体ひとつで泳いで渡るとか、どこに平穏が? 上級冒険家の思考はわからん!
まあ、白虎が大喜びだし、青龍について来たミシルとも会えたし、まいっか・・・?
「結婚式を邪魔されたですって!? なんて命知らずな・・・!」
ミシルさーん?
で。
四神によるカクラマタン帝国崩壊は、カクラマタン帝国全国民の夢の中で行われましたとさ。
シロクロに傷を負わせたカクラマタン帝国の二十五番目王子たちで、幻でも充分にダメージを負わせる事は検証済みだったしね。
もちろん子供は除いた!可哀想じゃん!
その夢の様子を亀様本体の前に皆で集まって、亀様ビジョンによる上映会。
大宴会はどうかと思ったけど、酒で気が紛れるならいいかと放置。そしたら観客による、あれしろこーしろに乗っかった朱雀と白虎により、夢の中のカクラマタン帝国はボロボロに。あらら。
トラウマになるのは貴族その他の偉い奴らだけで良かったのに。
でもまあ、国民が動いたというのはまずは良い。
国のこれからを一人一人がちゃんと考え始めたという事だから。
それで上手くいく事ばかりじゃないけど、そこは自分らで考えてくれ。
カクラマタン帝国はしばらくはゴタゴタするかな。ざまぁ。
《討伐されたとは言っても目覚めたばかりの意識がはっきりしない時がほとんどでな。しっかり覚醒すれば恐るるに足らんのだ!》
宴会で得意気に赤い孔雀が言う。・・・酔ってるな。酔うと獣型なんだ。
《そうだそうだ! 恐るるに足らんのだ!》
白虎も小さい体でぴょこぴょこと跳ねる。体が軽いとはいえ誰彼構わずにつっこむから、あちこちから「ぐへっ」とか聞こえてくる。
《お主ら、そんなに暴れては皆の迷惑だろう》
お、真面目っ子青龍がたしなめる。
《硬い!硬いぞ青龍!もっと砕けろ!》
《そうだそうだ! こんなに楽しいではないか!》
ガチャン!
何かが割れた音に皆が白虎を見る。びたりと動きが止まり汗がだくだくと流れる白虎の足下には、割れた酒瓶と溢れた酒が。
そろりと視線をこちらに向ける白虎に笑顔を返した。
「楽しむのはいいけど、迷惑かえりみずに調子に乗るのはどうかなぁ?」
ハリセンを出すと、獣たちから小さな悲鳴が上がった。
それが新年初日の話。
新年二日目にもなぜかまた結婚式。
今度はあの王妃たちデザインのドレスにて、アーライル王家をはじめとする交流のあるほとんど人たちが呼ばれていて、大宴会に。
そう、結婚式という大宴会。
・・・昨日も宴会してたんだけど・・・?
私以外のドロードラング領民と騎馬の民は皆裏方。これも私は知らされていなかったので、また朝から白目剥いてました。アンディは安定の王子仕様です。
「だから規模がおかしくないか!?」
アイス先輩!お久しぶり!ドロードラングすごいでしょ!(白目)
「結婚式と聞いたんだが・・・祭りか?」
ブライアンさん!今回もバンクス領から野菜と果物をありがとうございます!(白目)
「いやいや、スゴいね~。もっと酒要る?」
セドリックさん!カーディフ領のワインはうちでも人気だよ!豊潤な香りが亀様も良いって! でも今日はもう要らない!(白目)
「こんなに賑やかな結婚式は初めてです!」
私も初めてですよドナルドさん!ダルトリー領産の紙にはいつもお世話になってます!紙吹雪の準備はもういいです!(白目)
「公式ではこうはいかん!」
自重しろよ国王よ!(白目)
「喧しいわ!お前らの後処理をこれからするのかと思うと騒がずにいられるか!」
そうでした!よろしくどーぞー!(白目)
「なんですって? 昨日の分のお色直しを今しなさい!騎馬の国の衣装を着たところを見たかったのよ!」
ステファニア様?我が国の王妃と側妃たちはどこまでうちの侍女たちと仲良しなの!?(白目)
「いやはや賑やかで大掛かりな宴会じゃの!」
シン爺ちゃん・・・あそこら辺にパンケーキあるから・・・(白目)
「本日はおめでとうございます」
ギンさん!安定の常識人!いつも醤油をありがとうございます!今日は皆さんで演舞をありがとうございます!こんな宴会での披露になってごめんなさい!(白目)
「イズリール国王家でもなかなか見ない規模だな」
ジアク領主さん!アーライル国でもみない規模です!今日の事私把握してません!(白目)
「笑うしかないなぁ!」
山賊ギルド長!私は白目しかできません!(白目)
「ドロードラング領は噂以上に凄いですねぇ。本日はおめでとうございます。お招きいただきましてありがとうございます」
が、学園長ぉぉぉおっ!!あそこで部下と生徒をほっぽって料理を貪ってるエンプツィー様に学園長の爪の垢を飲ませてもらっていいですかね?(懇願)
「同じ塩を使ってるとは思えない料理の旨さ!」
ミシルの村の料理も充分美味しいよ!地域色だよ!いつも塩と海産物をありがとう!
「いっぱい練習したから見ててね!」
そう言ったレシィが見せてくれたのは。
ラインダンスをするコトラ隊をきらびやかに演出した光魔法だった。
おおおっ!!
そうして二日目の大宴会は夜更けまで続きましたとさ。
余談。
ドロードラング侍女アーンド騎馬の国の女性陣監修のドレスは。
騎馬の国の女性の、重ね着する民族衣装。
祝いの赤色をベースに、襟の重ねを色違いにしたり、袖口の刺繍が色とりどりの上に、小さい金板やら鏡やらも縫い込み、服の丈も長くされて足が見えない。その服をとめる最後の帯がまた頑丈で、日本の着物の帯を連想させるもの。細いは細いんだけど、結ぶのが大変。
更にベールの様に被る布にたくさんの金色の金属の飾りが付いたのだけど、これがまた重い!さすが金属!
恐るべし!十五キロ!見た目モコモコじゃらじゃらしてるでしょ!?
男性は黒をベースに赤の差し色で刺繍も小さく、全体的にシンプル。ベルトや飾り剣は金属じゃらじゃらだけど髪飾りはない。
「騎馬の国の結婚式は、服は母親、料理の為の獲物は父親、花嫁を着飾らせるのは新郎の甲斐性と言われます」
ダジルイさんが騎馬の国のしきたりを教えてくれた。
なるほどね。あれもこれもとアンディがお母さんたちに押し切られたんだな。ちょっと困った顔してたし。でも甲斐性なんて言われたら乗っけちゃうよね~。
「私の知る中での最高記録ですね」
どうりで重いわけだよー!
「耐えた重さの分、お祝いがもらえるんですよ」
っしゃあっ!頑張ります!
で。頑張った結果、一週間くらい肩の調子がいまいちだったんだよね~。
ほんと、欲深いのは身を滅ぼすわ・・・
ちなみにお祝いとは使用した金属飾り。
新郎が払った金額を結婚式に参列した人数で割って、それをご祝儀にプラスするんだってさ。なるほどねー。
終わってからほとんどの金属飾りを鍛冶班に渡し、私の使った髪飾りをひとつアンディが持って、私はアンディの使った小物をひとつもらいました。
へへ。
終わってみれば楽しかったな、結婚式。
白目ばっかだったけど・・・
もうストック無いので、またしばらくお待ちください…(-人-;)
お読みいただき、ありがとうございます。
また次回、お会いできますように。




