続続続続続55話 怒涛です。<やらないけどね!>
暴走したサリオンにごっそりと魔力を盗られ気絶している不審者たちの身ぐるみを剥いで身元調査。
男四人なので遠慮などしない!
と言っても私は監督だけどねー。
せっかくのドレスは汚れたし、この分の元金は回収してやる。
「お色直ししないと駄目?」
宣誓も終わったことだし、途中ドタバタしたせいでなんだか気分が削がれてしまってドレスを着てても気抜け中。
「そうだねぇ」
ケリーさんたちや侍女たちも迷っているよう。皆もなんか気が抜けた感じで、のんびりとお茶してます。
「サリオンが寝ちまったしね。お色直しは延期だ延期」とネリアさん。
今は亀様に寄りかかりながら、サリオンを抱えて、サリオンへの魔力補填中。
「お嬢大好きサリオンにまず見せなきゃ。ヘソ曲げられたら面倒だよ」とチムリさんも笑う。
子供たちも、サリオンが見られないと駄目だよと声を揃える。
そういう事なら私もアンディにも否やはない。
皆がサリオンのほっぺをツンツンとしていくけど、サリオンはまだ目覚める気配がない。かーわいい。
白虎とシロクロは、どこかに飛んでいった私のベールを探しに行った。
男たちは不審者を囲って、なるべく私ら女子に見えないように調査中。アンディもそこに。
「そのドレスはアンディのデザインだよ」
チムリさんがニヒッと笑って言った。
「ほんと、坊主のデザインなんて最初はどうなる事かと思ったけど、ちゃんと似合ってるね~」
ネリアさんの眼鏡すらにやけてそうだ。ケリーさんもニヤニヤしてる。
「さすがのアンディだね、って感心してたとこさ」
・・・か、顔の、熱が、はんぱないんですけど・・・
「ドレス用の宝石もおとなしめのばかりで、それが逆にお嬢様が映えることになって・・・」と悔しげなルルー。
「良い物に囲まれて目を養ったと思ってたけど、私らもまだまだね~。悔しいわ」とため息をつくライラ。
「お嬢様がお気に召されたようで、悔しい限りです」とインディが苦笑。
今まで特に服の好みとか言わなかったもんね。まず自分にその好みがあるとか思ってなかったし。皆に任せれば良い物が出来上がったしね。
それなのに、アンディは分かったんだ・・・
「ねぇケリーさん、このドレスの汚れ、取れる?」
そう言うと集まってた皆がにこやかに笑った。
「ふふっ。任せなさい! 私らに取れない汚れはないし、綺麗なドレスに戻してやるよ」
洗濯班のお母さんたちがどんと胸を張る。良かった。
「結婚式の仕切り直しをするかい?いいよ」
あー、それでもいいけど皆の休みが無くなっちゃうし、それに。
「ううん。一緒に棺に入れて欲しい」
皆の目が丸くなる。
「アンディが私だけのために作ってくれたドレスなら、もう誰にも着せない。型を真似するのも、デザインをそのまま使うのもいいけど、この、今私が着ているこのドレスだけは誰にもあげない。お下がりもしないし、どんな貧乏になってもオシメにもしない」
お嬢がそんなことを言うなんて、ってあちこちで聞こえた。だよねー。
「いい?」
使えるものは何でも使えとやってたのに、ここに来て自分のだけは駄目とか良くないけど・・・
「もちろんですとも。ふふっ、そんなに不安にならなくていいですよ」
カシーナさんがいとおしそうに笑う。そして、
「お色直しは今日はもう無理でしょうが、そちらは私たちのデザインなので後で着てくださいね」
うん!楽しみ!
「とても派手になりましたよ」とインディがにっこり。へー!
「騎馬の国の総力をあげて生地を織りました。それに色々とドロードラングで飾り付けました」とダジルイさんが言った。
騎馬の国の生地かー! 原色が素敵なんだよね~。楽し、
「総重量十五キロです」
何事もないように言ったカシーナさんを二度見した。
「重くない!?」
「少し重いですね」
「少しっ!?」
どんなの!? え?ねえ!十五キロのドレスってどんなのーっ!?
《はっはっはっ》
亀様! 笑うとこじゃないからーっ!
***
「ええと、僕らは、カクラマタン帝国のギルドに所属する冒険者です。一応、僕は“勇者”です」
勇者。それは「称号」で、オールラウンダーということらしい。
剣、魔法、それに伴う武術、知力。一応試験があるらしく、難関だそうだ。
ほうほう、エリート君ですか。
現在、エリート君とその仲間三人は、私らの前に並んで正座しております。全員20才だと。若いのね。
「え、と、カクラマタン帝国では、四神について良い印象はありません。何度か国を滅ぼされかけたので、敵としかみなしません・・・」
声がだんだんと小さくなるがはっきり敵と言った。まあだいたいの国も人も四神には良い印象なんて持ってないだろうよ。
はい、と勇者の隣の悪人顔の魔法使いがおずおずと右手をあげた。
うむ。発言を許可する。
「玄武が原因で国が滅びかけたのは古文書に残る千七百年前の事なので、今では伝説として語り継がれています。ですがカクラマタン帝国が現在魔法が盛んな国としてあるのは、四神に対抗するためです」
ほぅほぅ。
「現れるだけで国が無くなるのは玄武だと古文書には残されています。他の国では『国潰しの大精霊』と呼ばれ、正体はわかっていませんが」
うん。その呼び名久しぶりに聞いたな。
「四神討伐は犠牲が少なくありません。四神の力が強いのもありますが、討伐するための力も大きなものになりますので」
だから四神の発現は災害と言われる。
「玄武を討伐した記録はありません。ですが今まで四神討伐にはカクラマタン帝国出身の誰かがそのパーティーにはいます。なので、大人しい今のうちに、という事で依頼を受けました」
まあ、冒険者ならそういう依頼を受けることもあるだろう。が。
「で? それは誰からの依頼なの?」
悪人顔の魔法使いが固まる。勇者は「ギルドからです」と言ったが声が小さい。
お嬢顔恐いってうるさいよ!
「ドロードラング領とカクラマタン帝国で、一度手打ちにした事があるのだけれど、あなたたちはそれを知ってる?」
「「「「 え 」」」」
四人ともポカンとした。あー。
「お宅の二十五番目の皇子様ご一行、うちで今強制労働中なんだけど。ご存知?」
「「「「 ええっ! 」」」」
真っ青になる四人。
「よし!着替えたらカクラマタン帝国に殴り込みに行こー!」
おお~と、やる気ない感じの歓声が上がる中、四人がわらわらと慌てる。が。
「わはは!前回の時に次は無いって言ったからねー!新年狙ってやって来やがって!明日の朝日を無事に拝めると思うなよ!」
カクラマタン帝国はとても栄えてるけど、長く平和が続いた弊害か内政が結構怪しい。というのも、代々皇子皇女が多いから貴族もめっちゃ多い。それにさっき悪人顔の魔法使いが言っていたように魔物討伐の成功率も高いので冒険者の格も高い。
ということは公金の出具合が半端ない。
不正が多い。
だから前回、シロクロを狙ってきたような馬鹿が出てくる。
他国の内政なんて本当はどうでもいい。国同士の取引もなく、行くまでに何ヵ月もかかる遠い国なら尚更だ。
だけど、この短期間に二度も攻撃された。
皇帝と書面を交わしたのにもかかわらず。
フッとヤンさんとザンドルさん、バジアルさんが現れた。
「ただいま戻りました」
お疲れ。
「ギルドも一枚岩でないようで。ギルド副長と魔法副大臣の癒着有り。今回は最近パッとしない討伐成果に丁度良かったようですね。あと、教会も信仰の追い風が欲しかったとか。皇帝はそれらを止めたと思って安心してましたけど、妾妃の一人が魔法副大臣ともできてるようですよ」
首をコキコキと鳴らしながら説明するヤンさん。上司への報告態度は最悪だけど、聞くほどに馬鹿馬鹿しくなってくる内容に注意する気も起きない。それよりもこの短時間にこれだけ探ってくれた事に感謝する。
四人は青ざめたまま。
でも神父系ガリガリ痩せぎす魔法使いががっくりと手をついた。
「追い風・・・そんな噂はあったけど・・・」
勇者になるだけでエリートかと思っていたら、その試験に三十回も落ちているらしい。彼はみそっかす勇者だそうだ。
悪人顔の魔法使いはその顔と爆発系の大技しか使えないので正式な魔法使いの資格を貰えず、身分証に仮がついている。
痩せぎす神父も、弱い回復魔法と強い雷魔法だけというバランスの悪さから役職のある神父にはなれないとか。
そして重戦士の鎧を剥いだら中身は女の子かと思う華奢な美少年が出てきた。一瞬誰もがビビったがニックさんが股間を確認して男と証明。家から一歩外に出れば襲われるのその見た目から引きこもりに。しかしカラクリが大好きな彼は幼馴染みの三人と冒険に出るべく魔法鎧の開発をした。ラージスさんと渡り合うんだから結構な発明だよ。
「なんだよ、噛ませ犬か僕らは・・・」
美少年は膝を抱えた。
前回の庶子皇子一行での魔法はあの槍だけ。戦力の見極めのために今回の彼らは選ばれたのだろう。
「住民権なんて、夢のまた夢だな、はは」
悪人顔の魔法使いが儚く笑う。勇者は声もない。
落ち込んでるところを悪いけど、確認を一つ。
「ねえ、玄武が世界を歪ませると言っていたけど、本当の事? 亀様が現れて十年経つんだけど、世界のどこに歪みが出たの?」
四人が顔を上げて見合った。
「僕と魔法使いはギルドで」と勇者。
「俺も一緒に聞きましたが、いずれ歪み始めると言われただけで場所までは分かりません」と魔法使い。
「教会でも四神が長く出現したままなことは歴史上無いとは騒ぎになりましたが、どこに歪みが出たとかは聞いていません」と神父。
「僕はカラクリ以外の情報はないです・・・」と美少年。
あらららら~。
「十中八九嘘でしょうな。黒」と呆れ顔のバジアルさん。
「途中、ハスブナル国に寄ってチェンに聞いて来ましたけど、チェンの感じる範囲に異変はないそうですよ」とザンドルさん。
「だいたい、そんな事が起こるならエンプツィー様が大人しくしていないでしょうよ」とヤンさん。
そりゃそうだ。
四神が人と仲良くなれるなら、魔法大国としては喉から手が出るのだろう。
やらないけどね!
「ならば遠慮は要りませんね。徹底的にやりましょう」
あら? 私のセリフがクラウスの声で出たと思ってそちらを見たら。
暗黒オーラをまとったチョー笑顔のクラウスがいましたとさ。
っ!ひぃぇええええええっ!?
おつかれさまでした。
ここまで来て終わらないって……
まあ次話以降の内容もサクッとしたものにはなるので!
また次回お会いできますように。




