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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
15才です。
186/191

続続続続55話 怒涛です。<よっしゃあ!>


「きゃああああっ!」


遠く後方にいた子供たちの悲鳴。

まさか。

他にも仲間がいたのか! 


「子供たちを狙うなんて! この卑怯者!」


アホ男に向けていた意識を子供たちの方に向け、風魔法をまとって飛ぶ。


「お、俺たちじゃない!」


知るかそんな事!絶対許さないからな!後でみてろ!


でも、十メートルも進む事ができなかった。


前方にそびえる影があった。

大きな大きな真っ黒な人型が炎のように揺らめいている。

その圧倒的な存在感に、進む事を躊躇してしまった。


威圧的な影は、こちらを向いている。


何だあれ・・・


鳥肌が立つ。これは、恐怖・・・? 


《あれは・・・》


亀様の困惑した声が。


「似てる」


すぐに追いかけてくれたのか、アンディが地面に降りた私に並ぶ。


「何に?」


目線は巨大な影のまま、我ながら張りの無い声でアンディに問えば、


「ハスブナル国の時に似てる気がする」


え。

だって、あの時の国王はもういないよ?

朱雀が、国王の魂は神のもとにいるって言ってたよ?


ズ・・・


ゆらりと影が動いた。


はっ!子供たち!

恐いなんて言ってる場合じゃない。早く行かなきゃ。

でも。


「ぅぅ、足が前に出ない・・・」


ハスブナル国王の時は、怨嗟の声の気持ち悪さが恐怖を押しのけた。早く浄化しなきゃと思ったから進めた。


だけど、今は。

ただただ、恐い。

さっきから鳥肌が収まらない。気を抜くと歯もガチガチなりそう。気を奮い立たせないとへたりこみそう。


隣にアンディがいても、すぐそばにクラウスたちがいても、子供たちが危険にさらされているのに、すくむ。


恐い。


何だこれ、何だこれ、何だこれ!



ぎゅ



左手に感じた感触に心臓が止まるかと思った。

アンディの右手が、私の左手を握ってた。


「恐いね。握ってていい?」


!・・・うん、うん! 握ってて。

ドクドクと嫌な音をしていた心臓がドキドキに変わった。


「よし。じゃあ、子供たちを助けに行こうか」


青い顔してるくせに、アンディは笑う。(ふる)えた。

うん。


【 ヴぅぅ 】


影が喋った。

ハスブナル国王のようにしゃがれてはいない。それだけで気持ちに余裕ができた。ほんのちょっとだけ。


【 ぅぅ、 よ、よく、 よくも、 】


二重三重に響く影の声。男のようにも女のようにも聞こえる。

ぼおっと立っていた影がゆっくりとしゃがんだ。

そしてあっという間に飛び上がった。早い!


そして、空中で四つん這いのような姿になると、あっという間に地上に降り立ち、光るアホ男を口に入れた。そのまま亀様の後方に飛び上がり、それを二回繰り返した。


『なんだこりゃ!?』


ヤンさんたちの困惑した声。


『お嬢!不審者が何かに喰われたッスよ!』


トエルさんたち皆は無事のよう。


そして影は空き地に不審者四人をぺいっと吐き出すと、猫のようなしなやかな動きで上空高くに駆け上った。不審者たちは気を失っているのか、横たわったままピクリともしない。


上空の影が不審者を見定めた。うわっ。


恐い。だけど。


【 よくも結婚式を台無しにしたなぁあっ! 】



・・・は??



そのまま影は不審者を目がけて動いた。


「まずい!」


アンディが手を離し、不審者たちの方へ駆け出した。その姿を見ながら、どうなっているのか考える。


結婚式を台無しで、なんであの影が怒る?

アンディはなぜ駆け出した? まずいって何?

・・・ハスブナルの時と似てる・・・て?



あれ・・・もしかして・・・あの影って・・・



【 せっかくの綺麗な姉上をよくも! 】



サリオンかーーい!!



体が動いた。


また風魔法をまとって飛び、私はアンディを追い越し、影と不審者の直線上に入る。


影がぐるりと方向転換し、一時上空に戻った。


この隙にと、練り上がった魔力でハリセンを巨大化させる。

影が上空から、落ちるよりも早く迫る。恐っ!


だけど。

あれがサリオンだというのなら。


「白虎っっ!! サリオンを止めなかったら百叩きだからねーっ!!」


スピードが弱まった。若干。よし意識はあるな。

ハリセンが金に輝く。

スピードがさらに弱まった。けど、この勢いでぶつかられたら亀様がガードしてくれても、何事もなくは終わらないだろう。もしかしたら近隣の領地にも迷惑がかかるかも。


させるか。


ドロードラング領も、サリオンも。


ふ、サリオン・・・


「サリオンありがとう。ちょっと髪が乱れただけよ? ルルーたちがすぐに直してくれるわ」


迫る影に向けて声をかける。


「それに、どんな姿だって僕がお嬢を嫌がる事はないよ」


アンディも空を飛んで、私の背にピタリとつく。うん。


「だから、そんなに怒る事ないよ」


【 でも領の皆も!兄上も!とてもとても楽しみにしていた! 】


うん。すごく嬉しいよ。

サリオンがそんなに怒ってくれたことも、もちろん嬉しい。

ぐんぐんと影が近づく。

でも。

私の背中にはアンディがいる。


【《姉上!アンドレイ!止められん!逃げて!》】


白虎?

影にうっすらと白い縞が入った。


「ははっ、まいったな」


アンディが苦笑する。


「なんかごめんね?」


ほんと、いつも最前線に巻き込んでごめんね。


「サリオンは弟になるんだ。当然」


背中を預けることができて、すごくすごーく助かってるよ。


「それにやっと夫婦になったんだ。ここで終わりになんかさせるものか」


と、後頭部にちゅーされた。


「わあ!」


「よし、元気でた!」


ははっ! それは私のセリフだよ。


「よっしゃあっ! サリオンっ! ちゃんと私たちのところにおいでよぉっ!」


作戦なんかないけれど、私とアンディがいるのなら、サリオンは助けられる。根拠もないけど。


アンディの魔力も一緒に練ると、ハリセンは真っ黒になった。まじか。

思わず二人で見合って笑ってしまった。


すぐさま巨大真っ黒ハリセンを頭上へと振りかぶる。


「サリオンは助けるけど! 白虎は自力でどうにかしてねっ!」


【《ご無体な!?》】


そう言って巨大真っ黒ハリセンにぶつかった影は、左右に真っ二つになった。裂かれたその表面がまるで夜空のように暗い中にも小さく光がキラキラしている。


またも腕がはち切れそうになったけど、アンディがしっかり支えてくれた。

そうして踏ん張って、影がすっかり通り過ぎると、ハリセンから染み出すようにゆらりとサリオンが出てきた。ぐったりとしているサリオンをアンディと受け止める。


「「 サリオン? 」」


すっと開けられた目は、一瞬潤んですぐ閉じた。規則正しい息づかいに寝ちゃったのだとホッとする。アンディがサリオンを背負ってくれた。


二つになった影は地上をふわふわとしていた。

私らが地上に降りると、その二つはそれぞれに凝縮し、白狼(シロウ)黒狼(クロウ)になった。


「え! あんたたち取り込まれてたの!?」


途端に二頭は臥せた。


《申し訳ない(あるじ)!》


《サリオンを止めるどころか白虎と共に吸収されてしまった。面目ない!》


はー、子供たちを守ってくれてるのかと思ったら。

あ!白虎!


「白虎は? 無事?」


キョロキョロとすると、ふとシロクロが一ヶ所を見つめた。

亀様の足元から、仔猫サイズの白虎がちらっと様子を見ている。いや、おどおどだなアレは。


《また小さくなったな・・・》とシロウ。


《振り出しか・・・》とクロウ。


《だって!サリオンがあんなに魔力を吸い込むとは思わなんだ!》


ほう?


「白虎。その()()()()ってどういうこと? そんな使い方、私もアンディもサリオンに教えてないけど?」


毛を逆立てながらもビシッとお座りのポーズをすると、白虎の目が激しく泳ぎ出した。


《あ、ああ姉上が領からいなくなって、その後何かあった時にどうしようとサリオンが心配したのだ。ハスブナルの朱雀のアレをしようと提案したのは、わ、わ我だ。白狼黒狼と一緒にまだ練習中なのだが・・・》


チラッチラッと目を合わせながらも説明を頑張る仔猫。

シロクロと一緒に練習してるだけまだいい気はする。


《サリオンの怒りにあれほど引っ張られるとは想定外だった》


しゅんとする仔猫。くっ。


《一応、我も見ていたのだが》


亀様も監督してたのね。


《サリオンはまだまだ伸び代があるようだな。鍛え様ではサレスティアを凌ぐかもしれぬ》


まじすか亀様。


「それは・・・エンプツィー様が喜びそうですね」


げ! アンディやめて~! あんな熱血特訓、サリオンにしてほしくない~!










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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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