続続55話 怒涛です。<今日はむり~!>
二人で一歩ずつ、亀様の像へ近づく。
ふらついても、アンディががっしりしてるので誰にもバレていない。はず。
出会った頃は、遊んでいる間に何度も一緒に転げたのに。
いつから倒れなくなったんだろう?
身長も同じくらいだったのに。
いつから見上げるようになったっけ?
声も低くなった。
剣も上達した。
王城での仕事も忙しい。
私の、旦那様になるひと。
《漸く、だな》
像の前に止まると、今度は亀様の楽しげな声が。
「はい」
穏やかにも楽しげに応えたのは、アンディ。
なんか二人だけで通じ合ってるし。
「なあに? 今日の事を知らなかったのは私だけなの?」
そう言うと亀様の他にも笑い声が聞こえた。え、子供たちも知ってたの? うわぁ、気づかなかったー!
《ドロードラングからの、サレスティアへの成人祝いだ》
成人祝い?
「僕のわがままも聞いてもらったんだ」
アンディのわがまま?
「珍しいね?」
そうでもないとアンディは笑った。
「公式の結婚式はまだ先だけど、お嬢が成人するのを、結婚できる歳になるのを待ってた」
いつから。
アンディはいつから、こんな風に笑うようになったっけ?
毎度照れる。
好かれていることを実感できる。
「お嬢の、僕のための花嫁姿を早く見たかった。そして、ドロードラングの皆もお嬢の花嫁姿を見たかった。意見の一致だよ」
公式の結婚式はドロードラング領では行われない。
アンディが祖父であるラトルジン侯爵家に入り、ラトルジン公爵領の当主となる。私はそこにお嫁に行く。
ただ、サリオンが成人するまでは後ろ楯としてドロードラング領に関わる。
それもあって今年、学園を生徒として卒業できる。
とにかくしばらくは忙しくなる。
まあ、ドロードラング領を運営する人材はほとんどが残るから、言うほど私が忙しくなることはないとは思う。
気兼ね無くドロードラングで無茶ができる、最後の冬。
そして、成人しての最初の冬。
じわじわと、温かくなる。
じわじわと、実感する。
「・・・嬉しい・・・」
ベール越しの景色が揺らぐ。
《まだ泣くな》
亀様の楽し気な声に、逆に涙が溢れて決壊寸前。
無理だよ亀様。
だってこの結婚式は。
うちの侍女たちが全員で私の結婚の準備をする最初で最後の機会。
カシーナさんが私にベールを取りつける事のできる最後の機会。
こんなに近くで、皆が私をお祝いしてくれる最後の機会。
考えないようにしていた機会。
だっていつかは離れる。分かってる。だけど。
寂しい。寂しいよ。離れるのは寂しい。
だから。
今日の。この日を。迎える事ができて。
嬉しい。
ありがとう。
いつも思う。ありがとう。
生きててくれて。
出会ってくれて。
私のそばで生きてくれて。
ありがとう。
だからごめん。
「む~り~ぃぃ! うあああああ~ん!」
泣かずにいられるわけないじゃん!
豪快な泣きっぷりに、会場大爆笑。
繋いでくれたアンディの手もちょっと震えてる。おい。
カシーナさんとルルーがベールをまくって顔にタオルを押しつけてきた。おーい。
でも、笑ってしまう。
いつも通りの事に、なかなか涙が止まらなかった。
《そのままで良いという事なので始めるぞ・・・ふっ!》
本物の亀様のもとへ会場ごと転移しての仕切り直し。
私がひぐひぐしてるだけでギリギリ厳かな雰囲気だった会場が、亀様のせいでまたくすくすとなってしまった。いやまぁ、原因は私ですけどもね。
化粧直しもしないなんてアンディに失礼なはずなんだけど、そこはほら、アンディさんなので、問題無しだそうで。そうですか。
でも、うん。私たちらしいか。
《では。二人の末長く続く婚姻を結ぶ為に、誓いの言葉が要る・・・新郎アンドレイ》
「はい」
スッとさらに姿勢を正したアンディ。大声ではないのによく通る。この声も好きだなぁ。
《健やかなるときも、病めるときも、どのような時も、変わらず、妻となるサレスティアに愛を捧ぐことを誓うか?》
「誓います」
いつもなら向かい合った新郎新婦の間に亀様像があるのだけど、今日は並んで亀様に向かってる。
ちょっとだけ。ちょっとだけ、私の触れているアンディの腕に力が入った。きっと、手を繋いでいたらギュッとされたんだろう。嬉しい。
《新婦サレスティア》
「はい」
さっきまで泣いていたので声が震えた。でも、カシーナさんに叩き込まれた姿勢は、今一番綺麗にできている!はず!
《健やかなるときも、病めるときも、どのような時も、変わらず、夫となるアンドレイに愛を捧ぐことを誓うか?》
夫となるアンドレイ・・・
本当に、本当に、この日が来るなんて。
隣に立って、その腕に触れているのに、何だかまだふわふわしてる。
誰かと結婚するなんて、想像もしていなかった。
婚約が決まった時もまだまだまだまだ先だと思ってた。
15才なんて、前世じゃあまだ子供。将来に向けてやっと準備を始める頃。
国を見据え、自分の役割を理解し、そのために努力し成果を出しているアンディは、まだ16才。
なのにこんなにも頼もしい。
まだ少し幼さの残るところがあっても、どうしようもなく頼もしい。
まいった。
「誓います」
《二人の誓いを受け取った》
亀様が一息ついた。空気が柔んだ。
《今、この時より、二人は夫婦となった。その命の限り二人に幸があるように、誓いの口づけを》
・・・あ・・・そうだった・・・
やばい!めっちゃ緊張してきた!
いや、学園でも皆の前でそれらしいことしたけども! あれはほら!嘘ンコだし!
どうにか向き合い、ガッチガチになって冷や汗をかく勢いなんだけども、ゆっくりと上げられるベールからアンディが見えると、スッと落ち着いた。
「緊張するね」
整えられた髪のせいか、いつもよりも色気が。
でも、こそっと私の緊張を解いてくれる、いつも通りのアンディ。
「うん、緊張する。へへ」
緊張しても、格好つけなくていい相手。
ありのままの私を包んでくれるひと。
「アンディ大好き。あなたのお嫁さんになれて嬉しい」
思わず出た言葉は。
今までに見たことがないほどに、アンディを真っ赤にさせた。
観客大歓声。
口をパクパクとしたアンディは、両手で顔を覆ってしまった。耳も首も手まで真っ赤。
「ここでそれを言う・・・!?」
くぐもってよく聞き取れなかった言葉をもう一度と思ったら、アンディは真っ赤なまま手を離した。
「まだだよ!」
そうして、その両手は私の両頬に触れ、あ、と思う間に口づけられた。
触れるだけ。
触れるだけの誓いの証。
だけど、最強の四神の縁結び。
「今から、だよ」
照れくさそうな顔。
きっと私も同じ顔。
「はい」
涙が、また出た。
「泣き虫」
頬の手はそのままに、おでこをこつりとする。何度したっけ?
そしてこれから何度もするのだろう。
「なんとでも、言ってよ、もう、今日は、むり~!」
そう言ったら、ふわりと抱きしめられた。
「いいよ。あーあ。ずっと抱きしめていたいところだけど、今日は無理だなぁ」
「さあ!アンディ!お嬢を寄越しな!お色直しだよ!」
体重を預けようとしたらケリーさんの元気な声がした。そしてあっと言う間にまた担がれた。ぎゃあ!
「運営が雑過ぎないかいケリーさん!?」
「こういう事は手早く迅速に、だろ?」
そうですけども! 花嫁をじかに担ぎ上げるってどうなの!? 今までしてきた結婚式で誰もやってないよね!? そんな特別仕様いらないんだけど!
なにより恥ずかしいんですけどぉぉぉっ!
「その手を離せーーっ!悪の使徒ーーっ!!」
ドオオオオンンッッ!!
《ぐあっ!》
亀様が揺れた。




