続続54話 なんだか忙しいです。<効果覿面>
夏休みの最終日。学園の教職室には教師、用務員が揃って、明日の始業日の準備の確認をするだけの日。
なんだけど。
「え、私、卒業できるのですか?」
「はい。もちろん助手としてそのまま残ってくれると大助かりですけども、ドロードラングさんの入学は記録されてますからね、学園を卒業はしておくようにと国王から指示されました」
穏やかに学園長が笑った。
教職室での朝礼後、私だけが学園長席にお呼ばれ。何事かと思ったら。
「ドロードラングさんは領主であり、アンドレイ殿下の婚約者です。成人してしまえば今より忙しくなることは必至でしょう。そうなるとエンプツィー先生の助手をするのも厳しくなると思いまして、あなたの事ですので、昨日あなた抜きの教職員会議で決を取りました。もちろん生徒としても成績は申し分ありませんから、満場一致でしたよ」
ね?というように、私の後方に目線をやる学園長。振り向けば先生たちは皆残っていた。
そして、目が合ったどの先生もうなずいている。
先生って人は・・・
「欲を言えばクラウスさんのように非常勤講師として在籍してもらいたいです。合宿もできれば続けていきたいので、ここら辺の予算は相談させて下さい。申し訳なくも全てお任せでしたからね」
合宿なんて、逆にドロードラング側が人手を得て助かっているのに。
「今年度の卒業式は、生徒側で参列して下さいね」
うわぁ・・・・・・ありがとうございます!
「えーっ!お嬢がいるから入学するのを楽しみにしていたのに!」
目の前でアイスクリームをほっぽってプリプリとするレシィに申し訳なくも、嬉しい。
今日はレシィとアイスデート。アイス屋二階の個室です。
「レシィの入学は来年だったのにごめんね。でも非常勤でもいいって学園長が仰ってたから、学園でも会えるよ」
「非常勤と担任じゃ全然違います」
はいゴメンナサイ。
「でも私、やっぱり魔法力少ないから、エリザベス姉様のように侍女科に通うことになったの」
魔力が少ないと魔法科に入れないわけではない。エリザベス姫だって魔力はある。ただ、科によって勉強する内容が違うし、こう言ってはなんだけど、侍女科は政略結婚のための勉強がある。
「姫」ならそっちの意味で侍女科になる事がほとんどだ。
侍女科か~、なら私は担任無理だわ。
「本当は前倒しで入学したかったのだけど、私の学力は普通だったみたい。残念!」
パクりとアイスを一口食べて笑顔になったレシィには内緒だけど、レシィの学力は高い。ならなぜ入学させなかったか。
心を開いた私たち(ドロードラング含む)にはただただ可愛いレシィだけれど、他人は基本無視のお姫様。アンディにもさらっと我が儘な妹とは聞いていたけど、その現場を見て本気で驚いた。
同年代の娘さんが開いたお茶会にお呼ばれしたのに、終始無言で過ごしたのだ。
あ、はい、覗いてました。
このまま学園に通っても、私にべったりになるだけで友人ができなそうなのは問題ありと判断。極度の人見知りというわけでもない。大人に囲まれ過ぎた弊害だろうとは思う。
レシィには同年が同じ貴族とはいえことさらに子供っぽく見えるのかな。兄姉が優秀揃いなのも影響はあるだろう。
結局のところ、友人になることに年齢は関係ない。
それは私にもわかっている。けど、世界が一段増えるからこそ、その中で過ごした事があるからこその結果で、年齢という境がなくなるのだと思っている。
王族であるなら早く大人に成らざるをえないが、レシィちゃんはまだ子供です! 揉まれろ!まだ子供の中で揉まれるのだ!
とまぁそれは表向きの事としながら、「レシィまでいなくなったら誰を愛でろというの! どうせ巣立っていくならギリギリまで城にいなさい!」という実は子供スキーの王妃のわがままでした。
・・・おーい。
まあ私が領地に戻れない場合のためにサリオンに任せてもいいように現在サリオンを教育中ではある。皆がいるからそこら辺は心配してないんだけど。けどね~、やっぱりまだサリオンも今は体を使って遊んでほしいんだよね~。9才だもん。本人はとてもやる気があるけど、愛でていたいのよ。
・・・あ、王妃の事いえないや。
だからレシィにもそう思う。
ドロードラング式は、うん、ちょっと問題有りかとは思うけど、ちゃんと子供をしてほしい。
「お嬢がそれを言うのかよ~」とマークには呆れられたけど。いいんだよ私は中身が大人だから!
さて。
「ねえ、レシィ? 来年から合宿に参加できるけど、来る気はある?」
「もちろん!ずっと楽しみにしてたもの! でも私が参加してもいいの? じゃんけんしなくていいの?」
ルールを守ろうとするのは偉いよね~。まあこれはドロードラングで過ごしたからだけど。
ふふ、きらきらしてるなぁ。嬉しいなぁ。
「だってレシィの部屋はもうあるじゃない。いつでもいいよ。そうじゃなくて、他の生徒と一緒にやれる?」
あ、目がキョドった。
そっとスプーンを置くと目をふせる。
「じ、実は、そこを、自分でも、どうにかしたいと思ってて・・・合宿は平民生徒が多いみたいだから、ドロードラングの人たちに近い感覚で、同級生とも、仲良く、なれないかな・・・と思ってるの・・・」
大人!真っ赤だけど!上目遣いで私の反応見ながら言わないで!可愛いでしょ!
今、レシィ自身がこう思っているなら、クラスメイトとも仲良くやれるかも。
「あ! 今年は収穫祭のお手伝いに行ってもいい? サリオンたちが私に舞台で参加してほしいって言ってくれたの。お嬢はどんなのか知ってる?」
知ってる! つぼみが開いたら出てくる役だよ。
収穫祭だからレシィを使ったらいいんじゃね?と言ったのはタイトだったかも。確かに私の出番が激減で、その役はコトラ隊の中で持ち回り。たまにはお客さん参加型にしようかとなったらしい。
ちなみに抽選。申し込みをして当たればオッサンもやれる。わはは。
あれね、実はとても姫気分を味わえるのだ。
レシィは姫だけど、それでも楽しいと思う。だって普通のお姫様はあんな登場しないからね!
「収穫も手伝うね。私にできる事があるなら、だけど・・・」
ふふ。そんなにしゅんとしなくていいよ。
手先の器用なレシィは野菜に傷をつける事が少ない。大助かりだ。
「うん。そっちの仕事の方がいっぱいあるし、今さら『姫だから』なんて遠慮しないから、よろしくね!」
そう言うと、レシィはほっとしたように笑って残ってたアイスクリームを食べ始めた。
ああ可愛い!
***
今年の収穫祭は、なぜかサリオンへのお見合い話が多くてまいった。
収穫祭は招待制ではない。だから遊びに来たついでを装ってサリオンに直接来やがった。
まだ早い!と釣書を送ってきたところで返品していたら力ずく。
舞台を終えたサリオンに近づき「うちの子どう?」と言っていくのだ。貴族どころか商家まで。
その度にコトラ隊が揃って聞こえないふりをして、サリオンを担いでその場を逃げてくれる。
それが続くと、不満を持つのが一般客。
舞台はそう大きなものではないので、お客さんとコトラ隊の距離はけっこう近い。それでも舞台を降りてからの握手とか、一言かわすのをコトラ隊の方も楽しみにしているのだ。
サリオンがメンバーから自分を外してくれと大人な事を言っても、一番人気に触れられないのはやっぱり悲しい。
ドロードラング領まではるばる来てくれるお客さんもいるのだ。
という事から、またもやお馴染みの大蜘蛛を配置。握手会中に「うちの子どう?」と言った大人は即捕獲。悲鳴とともに舞台に宙吊り。わっはっは。
その子供の方は純粋に遊びに来ただけなので、親が宙吊りになって呆然としてようがそのまま握手。それで我に返るのだけど、それでも喜んでくれる。交流が無事に済めば親は無事に子供のもとへ。
たまに本当に恋心を持った子がサリオンに告白するけど、やんわりと自分でお断りしている。
「わたし!サリオンさまのお嫁さんになりたいの!」
「ありがとう」
初めてその現場を見た時にプチ混乱に陥った私は、にっこり微笑むサリオンに感心した。やだ!うちの子カッコいい!
「でも、ドロードラングにお嫁に来るなら、サレスティア姉上くらいの魔力とこれでもかという荒れ地から繁栄させる知識、国王を前にしても図太い性格と死ぬまで飽くなき食への情熱がないとムリだよ?」
・・・・・・・・・はい?
オイオイオイ? 私の素敵弟が素敵な笑顔でとんでもねー条件をブッこんだよ?
サリオンの正面のお嬢ちゃんがポカンとしてるけど、私の目も点だよ?
「いやぁ情熱的なお嬢ちゃんにはアレくらい言わないと引いてもらえないっすよ」
ひょいと現れたコムジがそう言って次の舞台の準備に行く。
「タイトさんの提案って、言葉はキツイけど効果覿面だよな~」
ダンも感心したように言って準備に向かう。
「ま、アレでサリオンを諦めてくれりゃ良し。努力するも良しだ」
マークが私の後ろでウンウンと頷いている。
・・・・・・そう、タイトが考えたのね・・・
あンの野郎ぉぉぉおっ!!?
おつかれさまでした。
日常って難しいですね。いや、どんな内容でも難しいですが……_:(´ཀ`」 ∠):
とりあえず、これで水着は出せた!(笑)
ではまた次回、お会いできますように。




