続続6話 結婚式です。<おめでとう!>
今日はアパート完成のお祝い日。
お昼に向けての準備のために朝からてんやわんやです。
まずは調理場。朝ごはんの片付けからすぐ調理開始。
飼育班はいつもより短い時間で放牧終了。
服飾班は予定している服にアイロン(鉄鍋に熱した石を入れるやつ)をかける。ここが一番殺気立っている・・・。
狩猟班はお休み。昨日まで色々と狩ってきたので食料庫はいっぱいだ。
農業班、土木班は、子供たちと会場のアパートを飾り付け。細工師も交ざっているので何だか豪華な雰囲気。いいね~。
そして私は風呂を沸かしております。
いい湯加減になったところで、服飾班の一部に担ぎ上げられたカシーナさんが風呂へと入れられる。
「な!何?何!?ちょっと!何で脱がそうとするの!?自分で脱ぐから!キャーッ!!」
そうして、ピカピカに洗われ、楽しげなお母さんたちに興行中に見つけた香油を塗り込まれてた。合掌。
それから少しして、ルイスさんも風呂場に現れる。
「お嬢、カシーナの悲鳴が聞こえましたけど大丈夫でしたかね?」
「あんなものでしょ。あれ?ルイスさん一人? 背中流してあげようか?ニックさんを呼ぶ?」
「男なんで一人で大丈夫ですよ。お嬢もこれから忙しくなるから今のうちゆっくりして下さい。・・・今日はありがとうございます」
改まって頭を下げるルイスさん。
「お祝いは派手にやるものよ。これからカシーナさんをどうぞよろしくお願いします」
私も頭を下げる。
「・・・母親みたいですね」
「気分はそうね! 後でカシーナさんにもルイスさんをお願いしなきゃ」
「ははっ。俺のお母さんは小さいな!」
「そうよ! 貴方たちの幸せを喜んでるの伝わってる? ふふ! あ、次の準備に行くわね。長湯してのぼせないように!」
「はい・・・。わかりましたー」
お互い手を振って別れる。
準備準備!
花火が上がる。魔法で作った音だけ打ち上げ花火。
騎馬の民の弦楽器が音を奏でる。定番の曲とは違うけどお祝いの曲。
屋敷前にセッティングされた会場には領民がいる。
ゆっくり観音開きされた屋敷の扉からは、真っ白い衣装のルイスさんとカシーナさんが腕を組んで出てきた。
割れんばかりの拍手。
屋敷扉から敷かれたレッドカーペットを粛々と進む二人。
その先には、薬草班の傑作緑のアーチの元に、亀様の像がある。130㎝程度の高さの台に体長50㎝の亀様が乗っている。
その台の前で二人は止まる。そして、亀様の像に手を置く。
《二人の、婚姻を結ぶ為に、誓いの言葉が要る。・・・新郎ルイス》
「はい」
《健やかなるときも、病めるときも、どのような時も、変わらず、妻となるカシーナに愛を捧ぐことを誓うか?》
「誓います」
《新婦カシーナ》
「はい」
《健やかなるときも、病めるときも、どのような時も、変わらず、夫となるルイスに愛を捧ぐことを誓うか?》
「誓います」
《二人の誓いを受け取った。今この時より、二人は夫婦となった。その命の限り、二人に幸があるように、誓いの口づけをするといい》
「「え!?」」
戸惑う二人。私に何か言いたそうだけど、いい笑顔で返す。
「夫婦になったことを見せつけるのよ!」
途端に歓声があがる。ルイスさんは笑ったけど、カシーナさんは白目をむきそうだった。あら~無理か?
と思ったら、ルイスさんがカシーナさんに何かを囁いてさらっと口づけた。
・・・やるな~。
恥ずかしがるカシーナさんを姫抱っこし、拍手と歓声の中を悠々と屋敷に戻る。「ステキ!」「ルイスさん、やるな~」「皆の前は恥ずかしいけど、いいな~」「お幸せに!」
女子たちはキラキラしてる。あんたたちの時も同じ様にしてあげるよ!
衣裳替えのために服飾班が先回りする。
食事の準備のために食料班も動く。
「亀様、緊張した?」
今日も抱っこしてる、ぬいぐるみ亀様に聞く。
《そうだな。宣誓の承認をするのは初めてだからな。あれで良かったか?》
「バッチリよ。もっと色々付け足したりするけど、要点は合ってるよ」
《随分と手の込んだドレスだった様だから、もっと時間をかけてやれば良かったか?》
「あ。それもそうね。皆しっかり見たと思うけど、次からはもうちょっと時間かけてみようか。服飾班の力作だもんね!うちのお針子は優秀だわ~。亀様も次はリボンくらい付けようよ!」
《・・・・・・考えておく》
亀様ってノリがいいよね~。断らないもん。ふふ、優しい。
「料理を運ぶからテーブルを整えてくれ~!」
子供たちが元気よく返事をして、大人たちと準備を始めた。
私は深呼吸。
続々と運ばれる料理に子供たちのテンションがあがる。お祝いだから飲み物は仕入れたレモンで作ったレモネード。大人たちはお酒。ふふ、亀様もソワソワしてきたみたい。
空から、はらはらと花びらが降ってくる。
「・・・いつ見ても、いい景色ね~」
誰かが言った。同じように感じてもらえて嬉しいな。
ゆっくりと降る花びらは屋敷の扉の前に集まっていく。そして、扉が隠れるほどに丸くなって、くるくると緩やかに回る。
ふと動きが止まる。
そして、一拍おいて弾けた。
びっくりした声があがるが、扉の前に衣裳替えした新郎新婦が見えると歓声になった。
弾けた花びらは皆の手に届き、それを、歩き出した二人に今度は自分で振りかける。子供たちはおおはしゃぎ。
騎馬の民の紋様を淡い色で編み込んだ衣裳は、ドレスとはまた違う素敵さで、女子はため息をつく。服飾班の満足げな表情が格好いい。
誓いの言葉を交わした場所には二人専用のテーブルが置かれ、二人がそこに立つと拍手が大きくなった。
そしてハンクさんがワゴンを押してくる。その上にはクリームや果物で飾られたスクエア型のウェディングケーキ。シンプルだけど、今ある技術の最高峰。ケーキの美味しさを知ってる人はガン見である。
ハンクさんがリボンの付いたナイフを二人に渡し、二人は、二人でナイフを握り、ケーキにそっと入れた。
ちょっとだけクリームの付いたナイフを受け取り、ハンクさんがニヤリと笑う。
「おめでとう!」
今度はアーチからシャボン玉が飛び出す。もちろん幻。洗剤が食べ物にかかったら大変だもの。
キラキラとした風景もまた歓声があがる。
カシーナさんが泣いた。ルイスさんが涙を拭ってあげる。キラキラの中、その頬にキスをした。
ラブラブ~! 黄色い悲鳴があちこちであがる。もちろん私もまざってるよ!
結婚祝い会は、その片付けを明日にまわすことになる程大盛況でした。
へろへろで飲み潰れた大人たちの間をぬってルイスさんとカシーナさんのところへ行く。
「はい、新居の鍵よ。二階の真ん中だからね。もっと色々家具とか贈りたかったけど、最低限しか間に合わなかったわ。ごめんなさい。そのかわり想いは込めたから!」
ニヤニヤしてしまう私に、二人が畏まる。
「お嬢。お嬢のおかげで働くことが出来て、お嬢が眼鏡を作ってくれたから、結婚を申し込むことが出来ました。稼げないと結婚出来ませんからね」
「お嬢様。お嬢様がお帰りになられたから、こうして女性としての幸せを得ることが出来ました」
二人が、ありがとうございますと深々と頭を下げた。
・・・嬉しいな。
「・・・二人が結婚してくれて嬉しい。こんな喜ばしい事を祝えるようになった事が嬉しい。・・・二人とも、生きることを諦めないでくれてありがとう」
二人の手を握る。
「末永く仲良くね! そして、これからも協力をよろしくお願いします」
「もちろんです。でもカシーナは興行に参加させませんからね」
「・・・駄目か」
「これからも淑女に向かってビシバシやりますよ?」
「駄目だった!」
雰囲気でどうにか了解とる前にガードされた!
何て手強い夫婦だ!
・・・まあ、それでこその二人よね。
結婚おめでとう!!
結婚式、もっと派手な感じにするはずだったのに・・・
モンスターは結局一種類しか出ませんでした。次は・・・何か出るといいな~。
お読みいただき、ありがとうございました( ´ ▽ ` )