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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
14才です。
174/191

続52話 婚約破棄です。<女子会>



『サレスティア! 今すぐ来て頂戴! 女子会よ!』


あまりのビアンカ様の剣幕に、夜のアンディとの通信時間を断って王城の後宮にあるビアンカ様の部屋へ移動すると、すぐに抱きつかれた。ぎゅうぅぅううっと絞められ、一人無言で大騒ぎの私。しむぅ!


「な、何があったんです・・・?」


とても姫とは思えない力強い抱擁から逃れて、ビアンカ様の侍女さんが淹れてくれたお茶をいただく。うぅ、腕ごと締められたから手に力が入りにくい。

そして、真向かいに座るビアンカ様は据わった目でテーブルをじっと見ている。恐い。

ぼそぼそぼそ、と言ったので聞き取れず。

恐いけど聞き直したら、


「ルーベンス様が婚約を破棄しようかと言ってきたの」


・・・・・・・・・は、  あ゛あ゛ん!?


「アンディ!!遅くにごめん!!ルーベンス様は何処!!」


『ええっ!?』


今度は廊下に飛び出した私をビアンカ様が引き止める。

が! 

どおぉこぉぉじゃあああルゥゥゥベンスゥゥゥアッ!?


「待ってサレスティア! 私も何事が起きたか分からなくて! 冷静になるために貴女を呼んだのよ! 待ってちょうだい!」


「お嬢!?」


私の腰に掴まったビアンカ様と侍女さんたちを引きずりながら進んだ廊下の先に現れたのは息を切らせたアンディ。

そのまま私を抱きしめた。


「はいはい落ち着いて。まずは情報を確認しよう。動くのはそれからでも遅くないし、兄上は城内にいるからいつでも会えるよ」


トントン、トン、トン、

背中をトントンとされ、少し落ち着く。


「助かったわアンドレイ。ごめんなさいね夜分に・・・」


しゅんとしたビアンカ様の声が聞こえた。


「うん。女子会って言っていたけど僕も、そうだ、姉上も入っていいかい?」


「そうね、エリザベスとクリスにも来てもらっていいかしら。女だけじゃ冷静になれないかもしれないから、アンドレイもいてくれると助かるわ。主にサレスティアを止めるのに」


ははは、とアンディの乾いた笑いにちょっと(へこ)んだ。





そうしてビアンカ様の私室に集められたのは、エリザベス姫、クリスティアーナ様、アンディ、ルルーとマーク。ルルーとマークは主に私を押さえる係。ビアンカ様の侍女たちと壁際に並んでいる。


「本日業務終了後、結婚式での衣装合わせにてルーベンス様より婚約破棄の提示有り」


ビアンカ様が超事務的に話すと、エリザベス姫の扇がバキリと折れた。ひぃぃぃ!?

クリスティアーナ様は目を丸くして、口もポカンと開けた。


その反応を確認したのか、一息ついたビアンカ様は続ける。


「ここ何日間はお互いに忙しくて衣装合わせでしか会えていなかったの。ルーベンス様は仕事もあるし、衣装合わせは休憩時間の内としていらしていたから、顔色が優れないのはお疲れなのだと思っていたわ」


ビアンカ様だって仕事はある。ルーベンス殿下とは質は違うだろうが、王妃の太鼓判が押されるくらいにはビアンカ様も日々頑張っている。


「今日は一段と口数が少なくて・・・気晴らしになればと私が直接お茶を淹れたの。いつもなら喜んでくれたから・・・」


ビアンカ様の眉間にシワが。


「そうしたら、そのカップをじっと見て・・・婚約を破棄しようかと言ったのよ・・・めまいがしたわ」


またバキリと音が。確認はしない!


「そうしてルーベンス様は、お茶に手を付けずに部屋を出て行かれたわ・・・」


ビアンカ様はお茶を一口飲むと、テーブルに置く。


「・・・私、理由も言われずに結婚を白紙にされるほどの何をしたのかしら・・・」


伏せられた目はカップを見つめ、長いまつげは小刻みに揺れた。


「・・・嫌われた・・・?」


嫌い、くらいでは王族の婚約は破棄にはならない。政略とはそういうものだ。

アンディと私や、シュナイル殿下とクリスティアーナ様は幸いにも(まれ)なケースなのだ。

アンディを見れば、小さく笑ってくれた。


学園でのルーベンス殿下とビアンカ様は仲が良かった。恋愛はともかく、信頼し合っている感じはあった。

王となることに、その伴侶となることに、それぞれに努力をして、互いのその努力を認めていた。


それが何で今?


「お兄様は何の理由もおっしゃらなかったのね?」


エリザベス姫の声が低い!


「そう。私が相応しくないというならその理由を知りたい・・・でも、」


いつも元気なビアンカ様が俯いている。今ルーベンス様の顔を見たら飛びかかる自信がわく。


「ただ嫌われたのだと分かったら・・・」


ビアンカ様がすがるような目で私を見た。


「お腹が痛くなるまでアイスクリームを食べていいか、ステファニア様(王妃)に許可を取る時に付き添ってくれる?」


・・・まったく、この人は・・・

部屋の張りつめた空気がゆるんだ。


「やけ食いくらい付き合いますって。王都料理班にアイス以外にも色々作ってもらうように頼みます。アイス屋貸し切りにしますので皆でやりましょう」


クリスティアーナ様がお付き合いしますと微笑み、アンディはしょうがないと苦笑。ビアンカ様がホッとした時、エリザベス姫が立ち上がった。


スクッと立ち、スタスタと扉に向かうエリザベス姫は扉の前で立ち止まった。・・・うん?


スゥゥと息を吸い込む音がしたと思ったら、足を肩幅に開き、両手を腰にあてたエリザベス姫が叫んだ。


「このポンコツ朴念仁が!!」


おぉう!誰だ姫にこんな言葉を教えたのは!? 私だごめんなさい! 


部屋の中の皆が呆気にとられてるところで、スッと扉が開いた。


そこから姿を見せたのはシュナイル殿下。エリザベス姫と目が合ったのか苦笑する。あ、アンディが呼んでたのか。


そして、その後ろからルーベンス殿下も現れ、ビアンカ様が息を飲んだ。


「その言葉をどこで覚えたんだエリザベス?」


「世界中に溢れていますわお兄様。さあ、婚約破棄の理由をおっしゃって」


尋問が早い!


ビアンカ様がそっと私に近づき、服の袖を少しだけ掴む。

皆の視線を浴びてもルーベンス様の表情は変わらない。ように見える。


「今さらながらビアンカは、バルツァー国に想う男がいると思ったんだ」


え?

ビアンカ様を振り返るとポカンとしている。うん、そんな事は無さそうだけどな。


「これを、母上から寄越された」


「きゃああああっ!!」


ルーベンス様が取り出したのは本。『王女と騎士』という題名と、ドロードラング領で絵師として活躍中のメルクが描いた表紙で製本されたもの。

私が図書室で号泣し青龍も泣いた、あの、ビアンカ様の書いた本だった。


瞬間移動したみたいに素早く移動したビアンカ様が本を取り上げようとしたが、ルーベンス様はさらに本を高く掲げた。ビアンカ様の手が届かない。


「かかか返して下さい~!」


ぴょんぴょんするビアンカ様が可愛い。いやそーでなくて。


「これを読んで女心を学べと言われ読んだ」


あ、ビアンカ様が耳をふさいでうずくまった。淑女の格好じゃないよー! 耳を押さえてる手が真っ赤なんだけどー!


「女心は理解されました?」


エリザベス姫が平淡な声音で質問をする。


「正直よく分からん。だが当たり前とはいえ、騎士ではなく、政略結婚を受け入れたこの姫は尊いと思ったよ」


わ、ほんとに読んだんだ。


「物語だと分かっている。だがこの姫がビアンカ自身だというなら・・・迷う」


ビアンカ様が見上げたルーベンス様の表情は私にはよく分からない。変化の幅が小さ過ぎる。

こそっとアンディを窺えば、ちょっと驚いているよう。


「正直に言えば俺は恋を知らないし、知らなくていいとは思っている。ただ、シュナイルもそうだし、アンドレイにエリザベスまでが好いた相手と添い遂げることになった。そして、それを悪くないと思う、ようになった」


ルーベンス様がひざまずいて、まだ床に座ったままのビアンカ様を見つめる。


「ビアンカ。君が婚約者で心から良かったと思う。だがアーライル国の情勢は変わった。君を、君が好いた男の元に帰す事ができる・・・今なら、まだ」


二人に見入っていたら手をアンディに握られた。見上げればアンディは二人を見つめている。


「この物語のように君が、焦がれる想いを押し殺しているなら・・・俺は、その願いを叶えたい」


見つめ合うルーベンス様とビアンカ様。ギャラリーは衣擦れの音を出すこともできない。

ルーベンス様がそんな風に思うなんて意外。まあそれほどルーベンス様を理解してるわけじゃないけど。

だけどずっとそばにいたアンディ、シュナイル様、エリザベス姫が真剣にルーベンス様を見ている。


「わたくしが、不要になったのでは、ないのですか・・・?」


「できるならそばにいて欲しい」


かすれた声で問うビアンカ様にきっぱりと答えるルーベンス様。


「嫌われた、わけでは、ないのですか?」


「あり得ない」


「ほ、他に、相応しいお方を、見つけたのでは?」


「いない」


「そ、そのような物語を書くわたくしを、恥ずかしいの、では?」


ルーベンス様がビアンカ様の両手を取った。


「何故? ビアンカの心はとても豊かなんだと再確認したよ」


ルーベンス様が微笑んだ。

そして、その眉が下がる。


「だから、君の心がもっと自由になる所で生きて欲しいと思った」


ふっと目線を逸らし、ちょっと頬を染めてまた、ビアンカ様を見つめる。


「きっとその方が、君は綺麗だ」




・・・ボフッ




あ、ビアンカ様が真っ赤になった・・・


「兄上には自分の笑顔の破壊力を()()()()自覚してほしい・・・」


アンディがぼそっと言った。

そうね・・・両手を掴まれているから顔を隠す事もできないし、あの距離であのはにかみ笑顔は耐えられないわ・・・さすがTHE王子。


「わ!わたくしは!(バルツァー)に想い人などいません。あ、アーライル国に嫁げる事を誇りに思っています! る、ルーベンス様の伴侶に選ばれた事を!誇りに思っています! まだ勉強する事はありますが、王妃となる器量はあると、お、思います! み、みんなと!いられる事が願いです! どうか・・・」


真っ赤なままルーベンス様に語るビアンカ様。みんな、という所で私たちを見回す。

そしてまたルーベンス様と。


「どうか、国に帰れなど、仰らないで、ください・・・」


蚊の鳴くような声で訴える。

そっか、そんなにアーライル国を気に入ってくれたんだ。嬉しい。


「・・・理由の中で俺が一番ではないのが少し悔しいが、君が離れたくないなら俺も俺から君を離す理由はない。生涯アーライルで暮らす事になる」


「承知しております」


キリッとしたビアンカ様に苦笑するルーベンス様。


「・・・うん、良かった」


「ルーベンス様が楽に公務をこなせるように日々精進しますわ」


「・・・まあ、それでもいいか」


「え?他に何か?」


と、ルーベンス様がビアンカ様の額に口づけた。


はああ!?


「末長く、よろしく」


ルーベンス様の会心の笑み。おおぅ!輝く~!


ボシュゥゥッ・・・


あ、ビアンカ様が()()()となった。

・・・確信犯だな、あれ。さすがTHE王子。




ビアンカ様に想い焦がれる人はなく、ルーベンス様の勘違いによる婚約破棄騒動は。


華々しい御成婚パレードを仲睦まじいご様子で国民にアピールした数日後、なぜかルーベンス様の奢りでアイス屋を貸し切る事になり、お菓子パーティー開催に至った。


あれ? やけ食いしなくて済んだのに結局食べるんだ。

え? 結婚用のドレスはサイズが動かせないから、ずっと我慢していた?

二人とも?


そして? 国王夫妻も特別衣装での参加のために食事制限があった?

うわ~お疲れ様です!


アイス屋貸し切りお菓子パーティーは王都料理班の修行の成果を見るのも兼ねてだったんだけど、国王夫妻たちも参加になったので急遽領地料理長ハンクさんを呼び出し。

定番パイ数種にケーキ数種、クッキー、プリンにゼリーにシュークリームも出来てたし、マシュマロも出来ていたのにびっくり! マシュマロって作れるんだね~。おしゃれ~。


大人にはアフォガードが人気だけど、アイスメニューはどれを選ぼうが一人二個まで! お腹冷えるから!


そしてしょっぱいものとして、たこ焼きが王都でデビュー! 

まあまあな反応。てか王妃よ、そんな大口開けて食べていいのかい!かっけーな! 餃子も美味しい? でしょー! 


また何か理由をつけてお菓子パーティーをした方がいいかな?

アイス屋が賑やかな事に店舗周辺の人たちが興味津々な様子。

王族がいるから交ぜてあげられないけど、一般向けにも企画してもいいかな?


まあそれは後にして。

本日は皆様ご利用ありがとうございます!

いっぱい食べてくださいませ~!








お疲れさまでした。

今回、気持ち短めでお送りしました(笑)


また次回お会いできますように。



【「婚約破棄」について】

破棄ではなく解消では?とご指摘いただきましたが、当時婚約破棄がブームだったので不勉強なまま投稿し、そのままにしてます。

ルーベンスから破棄と言ってますが、ビアンカは破棄されるような事はなにもしてませんので、本来は「婚約解消」です。

みんなは気をつけてね☆

ありがとうございます!

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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
― 新着の感想 ―
[一言] 結婚を白紙に戻すのは、婚約解消です。 婚約破棄はどちらかに瑕疵があった場合なので、白紙(最初からなかったこと)にはなりません。
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