51話 やった!です。
ドロードラング領の秋は領民総出で収穫が行われる。
今ではホテル業があるので総出ではないけれども。
私だって例外ではない。学園での週一の休日は転移で領に戻って手伝う。何だったら上司であるエンプツィー様すらこき使う気持ちではいるのだけど、一応ご高齢なので諦めている。残業で休日出勤にならないように平日は毎日エンプツィー様を締め上げて仕事をさせ、私の休日を確実にもぎ取っている。
虐待? HAHAHA!
ブラック職場で休みを確実に獲る事で心の平穏を保っていますが何か?
その采配をしなければならない上司が、隙あらば趣味の研究に没頭しようと逃げるのを取っ捕まえるのがほぼ日常ですが、ナニカ?
秋はね!収穫祭があるのよ!いつかの盗賊どもを捕まえた時からの大事なドロードラング領の集客イベントなのよ!
あんたもあン時現場にいたろうがエンプツィー様よぉお!?めっちゃ食ってたろーがっ!
私の休みに協力せんかーーいっ!
なんたって今年はミシルのとこで大王イカが獲れたのだ。
ドロードラングの収穫物じゃないけど、収穫祭で使わずにいつ食べる!
すり身~すり身~イカ団子~!
大王イカは大味らしいから、生姜やネギや何やら混ぜてのつみれ仕様。焼けば安い酒に合うおつまみ、串に刺して焼けば子供たちのおやつ、とろろも混ぜれば柔らかいからお年寄りにも好評です!
大王イカ。海の魔物。
前世でもいつだったかテレビで報道されたのを見て驚いた。何人前のおかずになるのかと感動したら、とにかく臭いし美味しくないとテレビの人が言っていた。海に行く事があったら捕まえようぜと兄弟で大騒ぎしたのに・・・
ところが、こちらの大王イカはさらに大きく、フェリー並み。実際にフェリーは見たことがないけど、海賊映画やアニメにありそうなデカさ!
そりゃあ、里帰りしていたミシルがパニクって助けを求めるよ! 亀様や青龍でいくらかは慣れてるとはいえ、手のひらに乗るサイズの生き物が見上げる程に巨大だったらとりあえずパニックおこすよ!
いつもはギルドに駆け込んで討伐を依頼するらしいのだけど、今回は青龍がいたから瞬殺。
とにかく大き過ぎて全てを処理できず、十年に一度は現れる大王イカは足を少々食用にする程度で他はそのまま海に捨てるという。
え!食べられるの!?
普通のイカの方が美味しいし?固いけど?臭くない!
だったらと当然もらってきましたーっ! もちろんミシルの村と分けっこ。夏だけど鍋料理の団子にして入れると美味しいんだよ~と作って見せました。だって焼くものが焼き網しか無いんだもん。今度フライパンか鉄板を持って行こう。
今までイカはすり身にはしなかったみたい。面倒なのかな? 擂り粉木と擂り鉢はあるのに。あ、干してスルメの方が保存が効くのか。
塩辛にできなかったのは残念だ。さすがの私も魔物の内臓は生では嫌だ。亀様サーチで仕分けはできたけど、ほぼ食べない方がいいと言われたし、薬草班長チムリさんには薬にならないと言われたので処分。
ただし、骨は漁師たちが欲しがった。船底に取り付けると船の持ちがいいらしい。へ~。
すり身は村の保存庫に入れられるだけ入れたので、皆で食べてちょうだいね~と帰って来た。
ね? 持ち帰ったものを収穫祭に食べずにいつ使うよ。
新しい食材?いや、新メニューは料理班メンバーが燃える。
タコだったらたこ焼きを作るのに躊躇いはない。
しかし!イカでもいいかと一人ダジャレをしつつ、また変なものをと不審がる金物担当鍛冶班キム親方にたこ焼き用鉄板(試作、六個用)を作ってもらい、すり身にしなかったイカ塊をほどよい大きさに切って、いざたこ(イカ)焼き製作。
そして試作品を食べたところ、わりとイケた!
料理班長ハンクさんが隠し包丁を入れてくれたせいか、どんな下処理をしたのか、想定してたよりイカが柔らかい!でもちゃんと弾力もあり、醤油をつけただけでも充分美味しいものに!
もちろん定番ソースも作ってもらい、青のりも鰹節もミシルの村から買って・・・うーまーいーぞーっ!!
「作るのに少々手間だけど、今後の収益を考えるならタコヤキもいいですね」
ハンクさんの後押しもあり、今度は大きな鉄板を製作開始。
ちなみに、女性子供は主にソース派で、酒呑みたちはネギ醤油派、定番全乗せは私だけ。なぜ!?
「だってカツオブシはうにょうにょ動いて恐いし、青のりは歯につくじゃない」
歌姫ライラが言うと女子は皆が頷いた。歯に付くのがアウトらしい。お好み焼きも同じ理由でソースのみだもんなぁ。
うぬぅ・・・まあ、別に日本じゃないし、絶対って拘るつもりもないからいいけどね。好きに乗せればいいよ。
今度はタコでできるといいなぁ。
と思っていたら、またミシルからヘルプが。
『今度は普通のタコが大量発生して困ってるの~!』
かしこまり~! ヒャッハーッ!!
***
今日も今日とて上司との追いかけっこの末に残業を一時間で済ませ、寮の自室でのんびりしていたら。
「え?そうなの!?」
マークの目が見開かれた。見開いた勢いで詰め寄った先はアンディ。
「そう。今年から武闘会の上位四名は騎士に叙任されるって。まだ公式発表はしてないけれど、マークには教えていいって言われたから来たんだ」
のほほんとお茶を飲みながら答えるアンディ。
がっ!と音がしそうな勢いで自分の頭を抱えるマーク。
「うがあああっ! 何で収穫期と重なってんだっ! 優勝は無理でも四位ならいけそうなだけに悔しいっ! 出たいっ! タイトに殺されるっ! 一番早いのは卒業相当の資格をもらって騎士団テストに受かってだったのに! それよりさらに早い! 武闘会出たい! 死ぬ!」
一人で壁に向かって吠えるマーク。それがピタッと静かになると。
「よし。タイトを殺して参加しよう」
「おいぃっ!? 何でそうなるのっ!?」
ツッコミにバッと振り返るマーク。目が!イッてる!
「アイツの収穫期への気迫は恐ぇんだよ! 収穫期は何でか絶対ケンカに勝てないし! ・・・どうする?飯に毒を仕込むか?」
「やめなさいって!? 私からも頼んでみるから落ち着け!」
「本当に!? 頼むぜお嬢!! 俺の代わりに死んでくれっ!!」
「嫌だっ!?」
「薄情者!!」
「こらぁあっ!?」
そんなドタバタをしつつ、後日へっぴり腰でタイトにお願いに伺うと。
「ああ良いぜ。マークには早く騎士になってもらえりゃその方が面倒がないからな。今年は子供らも大きくなってマークの分の人手はどうにかなるが、お嬢は収穫に来い」
あっさり。
・・・うん。あの、私、上司なんだけど?
「あ?」
了解です!
そうして、マークへのドロードラングからの応援はルルーだけという寂しいアーライル国武闘会に出場したマークは危なげなく四位以内に入った。おおっ!
アンディが教えてくれた情報以上のオマケが付き、希望した『ドロードラング領専属騎士』を叙任された。
いやマジで。マークのための企画かと思った。