続続49話 平和です。<天然>
立ち上がれない若手騎士たちを団長に任せて、私たちはレシィと鍛練場を出る。
ふと、先を歩いていたタイトがちらっとレシィを見た。
「暇なら次からも見に来いよ。あいつらが訓練終わりまでちゃんと立ってられるようになるまで見張り係をやれ」
レシィの目が輝いた。
「え、いいの? 邪魔じゃないの?」
レシィが小走りでタイトの隣に移動する。
「邪魔に決まってんだろ、治癒術も使えねぇのに。まんま飾りになれって言ってんの。得意だろ?」
「失礼っ! それに擦り傷なら治せるもんっ!」
「そんなん放っておいたって治るわ。明日も同じ時間だからな。危ねぇから変な所から覗くなよ」
「の!?覗いてないもん! さ、散歩してたらあそこでお嬢に会っただけだもん!」
ね!ってレシィが振り返るけど、もちろん散歩は嘘。
「勉強しろ」
「してるもん! 休憩時間だったんだもん!」
タイトたちが来てるよと教えた時に休憩だったのは本当。
「へぇへぇ、徘徊癖のある困った姫さんだねぇ」
「しー!つー!れー!い~~っ!」
キーキー言ってるレシィも可愛いなぁ。
ちなみにドロードラングでもこんな感じなので、レシィのお付きさんたちも慣れたのかもう何も言わない。いつも頑張ってるレシィがただの10才の子供に見えるのは悪い事ではないと思ってもらえてるようだ。
タイトの態度は褒められたものではないけども。
すみません、私らには直せないッス。
「ははっ、タイトには姫様も関係ないですね」
やっぱりコムジがのほほんと言う。
「褒められたものじゃないけどね~」
「姫様が嫌がってないからいいんじゃないですか?」
「駄目だろうよ」
タイトとレシィを指差すコムジにマークがつっこむ。
「そういうマークだってちゃんとは出来てないからね?」
「分かってるよ。だいたいうちは領主からそこら辺が怪しいからな~。出来てないって言われる筋も無いよな、コムジ?」
「そーな。お嬢が外面付けてるの見るとゾッとする」
わざわざ肩を抱いて寒いふりをするコムジ。おい。
「ぎゃははっ!だよな!」
おいマーク。
「全然別人! 師父も固まるお嬢の外面っ!」
二人で笑い出したのをルルーとレシィのお付きさんたちも微妙な顔して見てるんだけど。フォロー無いんかーい。でもカシーナさんから及第点もらってるから!赤点じゃないから!ふん!
「いやホント、男ではクラウスさんとアンディだけだぜ平気なの」
「愛だよ愛~」
流行ってんのか、やめろ!
「ええ~? 俺ルルーがはにかんだりしたら気絶しそうになるけどなぁ。平静でなんかいられな・・・あれ?」
マークののろけに全員が固まり、先を歩いていたタイトとレシィがどーした?と振り返る。
そして、顔を真っ赤にしながらもドス黒いオーラを纏ったルルーが鞭を振り回し、来た道をまた鍛練場に逃げたマークとの追いかけっこが始まりましたとさ。
「なんだ、またマークがボケたのかよ」
タイトが呆れる。
「天然てスゲェよなぁ」
コムジも笑いながらため息。
「仲良いなぁ」
レシィもぼんやり。
「夫婦だしね」
喧嘩したって別れたいなんて言わないんだから、放っておくに限る。
そして、その騒ぎに巻き込まれた団長から「ルルーだけは練習に連れて来ないでくれる!?」と懇願されるのだった。
うん、マークの天然を治すのはもう無理だからね。
***
ドロードラング領のお隣はイズリール国である。山脈を挟んでいるし主要道路がドロードラングを通らないので、トンネルを造るまではほとんど交流は無かった。
ただイズリール国ジアク領のギルドには私が領地に戻ってきてからはお世話になっている。トレント情報をはじめ、大量発生した肉、間違えた、食べられる魔物情報もかなり融通してもらっている。
「ジャーキーの製造方法を教えてくれ」
正しい山賊みたいなギルド長が改まって話があると、わざわざドロードラング領へ出向いて来た。夏に会うと暑苦しさが増す気がする。
休日に合わせてもらえたので、王都アイス屋にご招待~。
アンディも一緒なのはもはや誰もつっこまない。っていうか、貴族側店舗の屋根裏部分にお忍び部屋があり、そこにいるので他には誰もいない。
だって王妃様たちが女子会したいって言うから作ったのよ。物置だったのに逆にこの狭さが良いらしい。空調大変だったわ・・・
「いいですよ。製造方法だけですか?」
溶けてしまうのでもちろんアイスを食べながら。甘いもの好きのギルド長は砂糖ミルク入りのホットコーヒーも気に入ったようだ。
「毎度あっさりと了承し過ぎじゃないか? 心配になるぞ」
「だってジアク領も大猪は出ますし、同じ材料でも地域毎の味の差って出るんですよ。その食べ比べを楽しんでもらえれば、ドロードラングでも益はあります」
なるほどなとギルド長が頷く。
「こちらが勝手に真似するのは構わないということだな?」
ギルド長がにやりとする。恐っ。
「そうですね。真似できればですけど?」
にやりと笑ってみせるとギルド長が小さく「こわっ」と言った。ふん!
「にしてもジアク領でもジャーキー人気ですね。牛でも美味しいですよ?」
「ジアク領で人気っていうか、イズリール国の下級貴族間で人気だな。大貴族なんかはそんなもの食えるかとか見向きもしないし、庶民はまだ存在も知らん。アーライル国もそうだろう?」
確かに。ドロードラング領ではお土産としても売っている誰でも知るものだけど、王都でも平民にはまだ知らない人の方が多い。いくつか取り扱っている酒場もあるけど、まあまだ高価だ。
「それに、牛は普通に使い道があるからな、癖の強い大猪でできた方がいい」
そらそうだ。
「でだ。今度ジアク領主杯武闘会が開催されるんだが、その賞品に一頭分のジャーキーを注文したい。安くしてくれ。その時に振る舞えれば庶民も味を知り、イズリール国でもジャーキー製作に出資する貴族が出るだろうという狙いがある」
就業率。どこの国でもなかなか解消しない問題だ。
「まあジアク領内の小さな武闘会で、うちのギルド連中のお祭りみたいなもんだ。ジアク領の目玉っちゃあ、それくらいしかなくてな。それでも観光客が来るんだぜ? ギルド以外の店の稼ぎ時だ。さすがにドロードラング領への近道ですなんて、通行税を取る訳にはいかねぇからな」
ガハハと笑うギルド長。
「その出資するだろう貴族にはあてがあるんですか?」
アンディがギルド長に聞く。ギルド長もアンディを王子と知ってはいるが、まあ、私もいるからね、変な緊張はもうしない。
「一応。といってもジアク領主の腐れ縁と言っていい友人たちだ。そこの領も悪くはないんだが毎年カツカツでな。田舎の若手領主が集まって、やってみるかとなったそうだ。ジャーキー製造は正式にはそちらから申し込みがある」
了解です。
「アイスクリームもうちで作れるようにならんかなぁ」
舐めるように綺麗に食べたギルド長がボソッと言ったのが可笑しくてアンディと笑った。
コンコンコンと扉がノックされ、トレイを持ったヤンさんが現れた。
「まだ話し合いが続くなら飯はどうだ?」
おおっ!今日の賄いはトマトの冷製パスタだ! ミシルの村で獲れたマグロみたいな魚でツナも作った。ドロードラング領では好評だったので、このツナ作りはミシルの村に委託できるか交渉中だ。
私とアンディの分はお皿が小さい。アイスも食べたし丁度いいかも。
「何だこれ、ハムか?」
怪訝な顔でパスタに乗ってるツナを覗き込むギルド長。
「まあ食ってみな」
にやにやするヤンさんを一瞥して、フォークを手にするとツナだけを一つ食べた。咀嚼してゴクリと飲み込むとでっかいため息を吐き、あっという間にパスタを食べきった。
そして。
「正体の分からない旨いものがツラいっ!!」
そう叫ぶとギルド長はヤンさんにお代わりを催促。私とアンディは自分のを死守し、今度は大皿に山盛りになったパスタをガツガツ食べ始めたギルド長を呆然と見てたら、ヤンさんがぼそりと、
「あれが山賊食いだ」
と言ったので噴いた。
それを言いたかっただけかっ!
アンディがツボったらしく、しばらく笑いが止まらなかった・・・
お疲れさまでした。
久しぶりにマークで遊びました。楽しかった~(笑)
また次回、お会いできますように。