続続48話 進級です。<にぎやか>
派遣業の一つに土木班の派遣もある。
大きな物を造っていない時は農業に従事してもらってるんだけど、弟子も増えたし王都の下水工事に出ようかとグラントリー親方が言ってくれた。
設計図は王様に渡してはあるし、それを元にやり易いようにお任せしたはずが、この半年の間に週三の割合で細々とした問い合わせの連絡があり、ついに親方がキレた。
まあね、土木班の高い身体能力ありき、私の魔法ありきの設計図で作業日程なものだから違いが出るのは当たり前。だから好きにというか、いい具合に調整してよと渡したのに・・・
こんな大きな下水は造った事がないとか、魔法使いのランクはどこら辺のに頼めばいい?とか、しょーもない質問が週三回。
とうとうグラントリー親方が音頭を取る事になった。
その抑え兼助手として鍛冶班のキム親方も参加。まあ金物も使うしね、鍛冶班も何人か加わった。
亀様転移のおかげで領から通えるし、アイス屋の所の王都アパートを使うもよし。
何だかにぎやかになった。ふふ。
にぎやかといえば、子供たちも月に一度、王都の劇場でショーをすることになった。
月イチなのはドロードラング領にお客を誘うため。
貴族の誕生日のお呼ばれは断っている。実は貴族のためにはレシィの誕生日、あの一回しか踊っていない。
「欲しい」と言う奴にうちの子たちを渡すもんか。
見世物として踊っているけど、物じゃねぇんだよ。
お抱えにしてやるよって何だ。だったらその金でドロードラングまで来い。途中の地域にも金を落とせ。
「俺がやってもらえぬのに何様だ貴様ら!」という国王のお言葉をありがた~く免罪符として、やわらか~く前面に出すのが一番効く。使えるものは王でも使う。あざす。
というわけで劇場のロイヤルシートは値段が跳ね上がり、一般シートは据え置きでも劇場側の収入がそれなりにアップ。団員の給料にそれは反映し、会場の修繕分も貯められたというのでショー分の料金もアップしてくれた。
「ぼくらお小遣いがあるから、もういらないよ?」
という子供たちの純な返事に淀んだ大人は少々落ち込みつつもその使い道を話し合い。ショーが終わってパーッと買い物というのは無しになったので、孤児院のある教会への寄付にした。
子供たちはみすぼらしいけど神父はきらびやかな服の所は後回し。貴族が誰も寄付をしていない、神父やシスターも一緒に畑を耕すような教会へ野菜や干し肉と共に、時には労働力もプラス。
ここで保管庫ごとにしないのは変に目を付けられないため。
慎ましく生活できているところには必要ない。こういう所は地域の結束も固い。何とかなる。ただし緊急時の援助は素早く行わなければならないので、注意地区としてメモ。
これでも国内の盗賊連中はだいたい片付けたから盗まれることも少ない。これは騎士団の働きを団長経由で聞いたり、ドロードラングの王都偵察班に見てもらっている。
偵察班の行動範囲が広がってしまったけど、彼らからは今のところ文句がないのでありがたい。
ドロードラング製保管庫を欲しがっても、その料金を出し惜しみする貴族がいる。
平民はなかなか勝てないから、その原因になってしまうだろう保管庫のばら蒔きはしない。
領民と領主の仲は良い方が望ましいけど、悪くする必要はないし、悪くない程度の信頼があればそれでいい。
「クルァアッ!お嬢っ!そうじゃねぇって何べん言わせんだ!先生業で加減を忘れたなんてひよっこな言い訳する気か!」
「すんません!キム親方ぁ!」
「やり直しィ!!」
「はいぃ!親方ぁ!」
作業中は集中! 反省。
金物加工のための炎の加減に失敗。畑を荒らす動物に困っているという教会に柵を造る作業です。事前に教えられていたので予備の鉄柵を持ちこみ、足りない部分は私も参加で現場作業するために休日に合わせてもらった。久しぶりの作業で油断してるつもりはなかったけど、やっぱり火加減難しいなぁ。
ちなみに怒られた部分は熱し過ぎてドロドロになりすぎました。あーあ。
「・・・いつもこんな感じなのか・・・?」
「そうだよ~。お嬢の失敗は作業が長引くから親方は特に厳しくなるんだ。ハハッ、恐ぇよな!」
ダンめ他人事だと思って笑いやがって! まあ私が悪いので仕方ないけど。
その隣で唖然としてるのは、王都ギルドのダメ息子サンドッグ。細工師ネリアさんの更正掃除術を叩き込まれ、興行の際の司会及び責任者として子供たちを引率している。ダンはそのお目付け。
ゆくゆくは曲者揃いの王都ギルドを仕切らねばならないので、この仕事はできておいて損はない。なんたって子供の方が対処に気を使う。
特にうちの子たちは金や物じゃ素直に動かないからね。
信頼はすぐには成り立たない。それを学べ。
掃除についてはネリアさん直伝なので、サンドッグの指示で子供たちはテキパキと動き、その間に終わる予定だった柵造りが私の失敗で延びたので、現在子供らは教会の子供たちと一緒に作業を見学中。
領主という集団のトップのはずの私が領民に怒鳴られているのが彼は信じられないのだろう。そしてダンはそれをしようがないと笑い、子供たちは頑張れ~と笑う。
トップだからと全てを一人で決めるのは難しい。経験が少ないなら周りの声を聞く事は大事。大所帯ならなおさらだ。
頼りすぎるのはもちろんダメだし、その加減は難しい。
自分が失敗しても次があるさと離れない仲間を、道を踏み外そうとした時には諌めてくれる仲間が必要だ。
誠意がその仲間を見つけてくれる。
年齢は関係ない。子供だからと見誤るな。
町外れは娯楽が少ない。娯楽にまわすお金が無い。
手伝いが終わったら少しだけショーをしようというのは子供たちの発案。
何かあったらドロードラングを頼って欲しい。
それを子供たちは子供たちなりに伝えたいそうだ。
ほらね。
ふふふ。私も頑張らないと。
作業風景が珍しいものなら、なんぼでも見てちょうだい。
・・・わざと失敗したわけじゃないから! 怒らせた親方の拳骨は次の日まで泣くほど痛いから!
***
「た~の~も~ぉっ!!」
・・・・・・またか・・・
アイスクリームを食べるためのスプーンを握りしめた。
行儀の悪いその様子を、正面に座ったアンディが眉を下げて笑う。
「俺が相手をするからお嬢は気にせず食べなさいよ」
アイス屋店長ヤンさんがやっぱり苦笑しながら小声で言ってきた。
アイス屋は今日も繁盛している。
が。最近はアイスクリーム以外でも繁盛している。
いや、こっちは売上げにならないから繁盛しなくていいんだけど。
道場破り。
と言ったらいいのだろうか。
アイス屋は平民側の女子店員も強い。という噂が定着した頃に、なんと腕試しに来る奴らが現れ始めた。
最初は順番を守らない客を懲らしめていただけが、その兄貴分がやって来て女子店員にまた懲らしめられ、次は人数を増やしてやって来て、ダジルイさんがそれを返り討ち。
いつの間にやら勝てばデートができるとかふざけた噂が立ち、ノコノコやって来た奴らを張り切ってボコボコにしていたら、今度は腕に覚えありの冒険者たちまでやって来た。こっちは純粋に腕試し。
純粋だろうが何だろうが女子相手に何をすると、そちらの相手はヤンさん、ガット、ライリーが受けていた。もちろん返り討ちにする。
そしたらそれすら見世物になり始めた。
「たのもー」と誰かが声を張れば、店の前の道にそのスペースが出来る。客が集まる。
最近は面倒になったヤンさんが一人で捌いている。
「興行したくなくて店長になったんだがなぁ」とぼやいてるらしい。ほんとにね。
とまあ、ここまでは良しとする。アイス屋従業員たちには申し訳なく思うけど、そうそうには負けない人たちなので勝負に関してはあまり心配はしてない。
そう。私がアンディとアイスを食べに来た時に限ってひっきりなしにやって来るのはなぜだ!?
前回もそうだった。前々回もそうだった! 一日一回じゃないのか!? 今日ももう開店から三人目ですけど!?
これは団長にお願いした。営業妨害だから騎士の巡回を強化してくれと。そしたら「無理だ。うちでも楽しみにしてるからな!」と言い切られた。ぅおおおおいぃい!
寮に持ち込めば静かに食べられるけど、それじゃあデートにならないと、アンディが、いう・・・・・・で、デート・・・!
デート用にと服飾班に作ってもらった服を着て、寮の門で待ち合わせて可愛いと褒められて、照れくさくもエスコートを受けて、ふわふわした気持ちで会話をしてると「たのもー」と野太い声が聞こえるのだ。
そうなるとアイス屋店内すら、コロシアムの観客席ってこんな感じです?という空気になる。
もうキレてもいいですよね?
「その服で大立回りをなさろうと言うのですか? カシーナさんたちの作った服で?」
っ!! しません!しませんよルルーさん!
「ヤンさん、俺が行きますよ」
マークがルルーの肩をぽんぽんとしながら立ち上がる。アンディの今日のお付き、真面目なウォル・スミール君と目付き悪、鋭いヨジス・ヤッガー君も立ち上がる。
「何だもう食べたのか? じゃあ頼むかな。埃は立てるなよ」
「え、難しくないっすか、それ」
「店が汚れるだろ。武器じゃなく足運びを見ろ。どんな戦いをするタイプかだいたい分かる」
「あ、なるほど。ウォル、ヨジス、一緒に行く?」
二人は返事をしそうになったけど、二人ともがアンディから離れられない。
「アンディなら大丈夫よ、私もいるし」
「うん。こういう事もあるだろうから、二人とも対処出来るように行ってきてよ」
アンディに言われて若干顔が綻んだ二人はすぐに立ち上がる。
「「 はい! 」」
ルルー、お嬢とアンディをよろしくね~とマークたちが出て行った。
外の歓声が聞こえる。
「アイスクリームを食べるだけのお店なんだけどなぁ・・・」
そうぼやくとアンディが笑った。
「ドロードラングと名の付く所は賑やかでいいよね」
そう言いながらスプーンですくったアイスを私に差し出してきたのでパクッと食べた。うん今日も美味しい!
「にぎやかさが求めたものと違うんだけど?」
お返しに私のもすくってアンディに差し出すと、アンディもパクッとする。ふふっ行儀悪い~。
「でも楽しいよ?」
そぉ?
アンディが笑っているし、アイスも美味しいし、今日はもういっか~。
お疲れさまでした。
こんな新章です(笑)
日常?を書いていけたらと思います。
また次回、お会いできますように。