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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
13才です。
160/191

続48話 進級です。<春休み>



春休みも一応ある。


といっても、寮部屋の引っ越しのための一週間。

貴族棟と一般棟に分かれているだけでなく、学年が上がる毎に階も上がる。先輩の上階には上がれないという理由からなのだけど、三年生は正直ちょっと大変そう。


すぐ慣れるわよとキャシー先輩たちは笑っていた。これからもっと忙しい職場に就くのに、これくらい毎日駆け上がれなくてどうするのよと。まあ確かに。

ちなみに卒業したキャシー先輩はドロードラング領服飾班に就職。カシーナさんのもとで頑張ってくれるだろう。


私とミシルの部屋は一般(平民)棟のはじっこで、魔力暴走に備えた特別棟。今年は新入生にそういう問題児がいないようなのでそのまま使用可と一応引っ越しは無し。ラッキー!


エンプツィー様の新学期授業準備も三日で終わり、寮の食堂でクッキー教室開催中~。


この引っ越し期間、荷物の少ない平民生徒は部屋の掃除を含めてもだいたいは二日で終わる。だけど貴族生徒はそうはいかない。何がそんなに必要なのかと思うけど、女子なんかはお洒落に余念がないから小物の量がものすごい。流行(はや)(すた)りはあるけど好みもあるから、お貴族様といえどもなかなか捨てられない人も多いらしい。

結果、お付きたちが大忙しになる。

いつにも増して時間が取れないお付きたちのための簡単おやつになるように、そして作る方には初歩からのものという一石二鳥作戦です。


「正直助かります。お昼を食べ損ねたので・・・ああ美味しい・・・」


どのお貴族様の従僕か、ふらふらと食堂に現れたのでさっそくクッキーを振る舞った。


「お茶のおかわりをどうぞ」


「ありがとうございます。他のお付きたちにも教えてよろしいでしょうか?」


「もちろんです。形はいびつですけど十分に用意してありますから。ところで味についての要望はありますか?」


「え? あ、いえ、そうですね、甘いのも塩気のあるものもいただけたのでとても満足いたしました。ご馳走さまでした」


人心地ついた彼が颯爽と食堂を出ていくと、クッキー教室に参加していたメンバーが喜んだ。


「あの人、私が焼いたのを美味しいって!」「僕のも・・・」「焦がさなくて良かった~」「ハムとチーズもいけるんだなぁ」「チーズならハーブも美味しいよ」「人参のグラッセだっけ? この甘い人参の角切り入りも旨いよな!」「レーズンよ一番は!」「コーヒーとナッツ最強!」「キャラメルナッツも!」


盛り上がる生徒たちにパンパンと手を打つ音がなる。


「はーい静かに~。これで評判良かったらアイス屋でも売り出すかもしれないからどんどん作るよ~。もちろん今日のは余ったらそれぞれ持って帰っていいからな~」


アイス屋コックの一人ムトが苦笑しながら言うと生徒たちは元気に返事をした。

プレーンのクッキーだけじゃつまらないので今日の料理先生ムトが色々と持ってきてくれた。混ぜこむものはコックたちのお手製品。


「思ったより皆器用ですね。もっと派手に焦がすかと思ってましたよ」


「ムトの教え方が良かったのよ。それに最初は緊張でしっかり見てるけど、失敗はこれからするわよ」


「ああ。ははっ、覚えがあります」


調子に乗ると失敗するのよね~と言うとムトも笑った。


「甘い香りがすると思ったら」


あれ、食堂の出入口に薄く微笑んだルーベンス様が。


「あ!ルーベンス先輩!」


「邪魔してもいいか?」


「どーぞどーぞ!」


誰かが名を呼ぶとルーベンス様が一人で入って来た。どーぞと言ったのは私だけれど、男爵っ子ウルリがルーベンス様を誘導する。


「何をしてるんだ?」


「皆と約束してた料理教室で今日は初心者用のクッキーです。ルーベンス先輩こそどうしたんですか? 卒業後に寮の食堂に来るなんて珍しいですね」


席についたルーベンス様に尋ねたら、なんだか眉毛が下がった。あれ。


「少し時間が空いたからビアンカを訪ねたんだが、まだ引っ越しの最中でな。一段落するまで時間を余すのもなと思って、寮のあまり行かなかった場所を見ておこうとうろうろしてたところだ」


なるほど。それはそれは。


「ふふ、どうですか食堂は?」


「広いな」


「でしょう! ところでお一人ですか?」


「お付きたちはビアンカとエリザベスに貸し出した。ジーンとチェンは課題が終わらなくて連れて来られなかった。シュナイルも来たがカドガン嬢の所へ行った」


あれま。エリザベス様もまだだったか。

アンディはもうすぐ終わるらしいので、ルーベンス様がいるうちに来られるかな?

ジーンは王城にほぼ缶詰め状態で帝王学を詰め込まれている。学園は休学中だ。最初は両立していたけど、あっという間に無理に。ですよね~。頑張れ。


ちょっと無作法だけど、ルーベンス様の席の対面で淹れたお茶を差し出した。一応、何もしてませんよのアピール。

もう何度も一緒にご飯を食べたりしてるのでルーベンス様に躊躇はない。

紅茶の香りを楽しんでから口をつける。私の後ろの集団からため息が聞こえた。

・・・紅茶を飲んでるだけで絵になるなぁ。さすが。


「お。食堂の紅茶は不味いと聞いていたが、茶葉を変えたのか?」


「いいえ。ちゃんと淹れれば美味しいんですよ」


「淹れ方で違いが出るのか・・・」


「はい。でも食堂ですからね、ゆっくりお茶は淹れられませんし、平民はそこまでこだわりません。食事優先ですし。というわけでルーベンス先輩も食べて感想をお願いします!」


えええ!?ルーベンス先輩に出すの!?初心者の手作りを!?

とざわめく一同。


「当たり前でしょう! ここで評判良ければ王室御用達の看板を掲げられるのよ! さあ!綺麗なところを綺麗に並べて持って来な!」


「「「 無いよそんなところ~!? 」」」


青ざめる一同。呆気にとられるルーベンス様。

大騒ぎになった食堂で、ムトが笑いながらクッキーを選び、ルーベンス様に差し出した。


「焦げた所が気になる時は避けて下さい。たまには素人の手作りもいいですよ」


にこやかなムトと青ざめてる後輩たちを見比べながらルーベンス様はクッキーを一枚かじった。

ボリボリボリボリ・・・ごっくん。


「固い」


後輩たちは白くなり、私とムトは大笑い。

ですよね!ボリボリって!王子様に似合わない音がっ!


「味はまあまあだな。チーズか?ハーブの、これはいい。仕事の合間に食べるのに欲しいな」


次々とボリボリバリボリ響かせながら食べ続けるルーベンス様。

何なのこの人!わかってやってんでしょ!おかしい!無表情でボリボリって!面白いよっ!


「王室御用達はまだまだだが今日のおやつにはいいな。ビアンカたちに持って行こう。まだ数はあるか?」


「ありがとうございます!いっぱいありますよ~」


「「「 やめて!? 今から焼くからそれにして~っ!! 」」」


後輩たちの叫びにルーベンス様もついに声を出して笑った。



ま、新しく焼いたクッキーも大して変わらなかったけどね。

ルーベンス様はジーンたちにも持っていってくれた。

さて明日は何にしようかな~?





***





「ドロードラング領にて侍従長をしておりますクラウスと申します。これから月に一度の出張講師として皆さんと関わらせていただきます。よろしくお願いいたします」


新学期。


いつもの執事服ではなく、動きやすい格好をしたクラウスが生徒の前に立ち、深々と頭を下げる。

新三年、二年生は力いっぱいよろしくお願いします!とこちらも頭を下げたが、新一年生はバラバラだ。先輩に(なら)って礼をする者、よく分からないままオタオタと礼をする者、侍従長ごときに頭を下げられるかとふてぶてしい者、色々だ。


そう。今年はドロードラングで派遣業を開始。

といってもどの程度の事ができるか私らも手探りなので、要請があった中でこれなら出てもいいかな?というものだけの対処。


そして出張講師は、クラウスをどうにか領地から引っ張り出したいハーメルス騎士団長の策。なんだけど、最初は騎士団への要請だったがクラウス本人の強い意思により拒否。

そしたら泣きつかれた。

私が!


・・・初老を越えたオッサンに泣きつかれる事の鬱陶しさったら・・・! 

何かをゴリゴリ削られた私は三日で断念。美味しい食べ物もサリオンたちの可愛らしさも、アンディの優しさでも癒せないほど私を削った団長の泣き落とし。仕事をしろ。


それでも私は頑張った。月に一度、教えるのは学園の騎士科生徒のみと条件をつけた。

城内にある騎士鍛練場でうっかりクラウスの兄であるラトルジン(ブラコン)侯爵に捕まったら、クラウスがその日のうちに帰って来られなくなるからね! そこは団長も同意してくれた。


そして私のSOSにあっさり了承してくれたクラウスは破格の金額で出稼ぎに出る事になりましたとさ。一応学園からのオファーという事にしたので学割。十時から十二時までの短時間なので、一、二、三年の合同授業。

まあ団長がそっと見学しているのはご愛嬌。


「見知った顔も何人かいますが、私の事をご存知ない方が多いのでまずは実演をしたいと思います。えー、ハーメルス様、お相手をお願いしても?」


「よろこんでーーっ!」


うわぁ。


・・・クラウスって実践派だから本当は講師とか向いてないんだよね。そして穏やかな見た目と声音に皆騙されるけど、礼儀には厳しいんだよ。特に武器を扱おうという時は。


模擬剣を使ったクラウスと団長の手合いは結構本気のもので、ボキボキと模擬剣が何本も折られた。あぁあぁこれの買い換え、団長と折半できるかしら・・・


それはともかく、その様子は騎士科生徒全員を青ざめさせた。さっき礼をしなかった一年生は目に見えて震えている。わはは。

さらに団長をテカテカのゼハゼハにさせる事ができたので、団長は満足気に仰向けで呼吸を整えている。

審判をした騎士科教師がキラキラしていたのは見ない事にする。


「とまあ私の腕前はこんなものですが、私がこうして前に立つ事に不満がありましたらいつでも掛かってきて下さい。何が足りないかしっかりお伝えしましょう。鍛練だからと油断せず、真剣に取り組みましょうね、皆さん(・・・)


涼しい笑顔のはずがなぜか体に震えが走ったのだった。


・・・何で私まで。








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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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