6話 結婚式です。
執務室で事務仕事に一段落したところで、マークとルルーが入ってきた。
「お嬢、相談があるんですけど・・・今、時間いいですか?」
「何?改まって。いいよーどうしたの? 結婚報告?」
私も7才になったので二人だって15才で成人を迎えたのだ。もう好きに結婚できる。恋人になったとは聞いてないけど。
まあ半分は冗談だったけど、二人はやっぱり全然違う話で来たらしい。一拍置いて違う違う!と騒ぎながら揃って真っ赤になった。
それを見てクラウスが小さく吹き出す。
気をとり直したマークが改めて話し始めた。
「騎馬の民は期限が来たら国に帰るでしょう? その後の事なんですけど・・・、王都の、俺がいたスラムの連中を連れてきちゃ駄目ですかね?」
あ。
「俺と同い年の奴らはもうスラムを出てるかもしれないですけど、下の奴らはまだいると思うんですよ。全部で何人いるかはわからないので、全員じゃなくてもいいです。考えてもらえませんか」
「私からもお願いします。私は奴隷商からお屋敷に買い取られましたが、毎日の食事は最低限はありました。スラムではそれもままならないと聞きましたので・・・」
両親に会いたくないばかりに王都関係の事をすっかり置き忘れてた!
「王都を避けているのはわかっていますので、今すぐではなく、いずれはということで考えておいて欲しいのです」
ルルーがマークを気にしながら言う。
「・・・わかった。方針が決まったら議題に出すわ」
ありがとうございますと頭を下げて、二人は執務室を出た。
長く息を吐いた私にクラウスがお茶をくれる。
「ありがとう。・・・もう、対決した方が良いかしら」
独り言とも、クラウスへの質問ともとれる呟き。
「お嬢様はどうお考えですか?」
「・・・根回しすらしてない内は両親と会いたくないわ」
「私も今はまだ時期尚早だと思います。ただ、動き出してもよろしいかとも思います。どう動くかは詰めてからですが、議題にあげてみましょう」
「・・・全面対決にはしたくない。議題にしたらそうならない? 私、大抵の事を短期決戦でしてきたからさー」
「全面対決で困るのは全員です。そうならない為に議題にしましょう」
クラウスが微笑む。
何度助けられたかわからない程に見慣れてしまった表情。
だから、絶大の信頼がある。
だって「私」二人分でも敵わない経験がクラウスにはある。
皆にもある。
「・・・そうね」
それに色んな事を皆で話し合うのは良い事だ。そうやってたくさんの事を次代に残したい。今はまだ人数が少ないからこうできるのだろうけど、なるべく長く続けたい。
なるべく続けるには、両親のやっている事は障害だ。ていうか普通に罪だ。
「今晩、議題にしよう」
避けて通れない事だから、皆に支えてもらえるようにお願いしなきゃ。
***
キャーキャーと子供たちの声がする。ぼよよよんぼよよよんと気の抜ける音もする。
巨大空気クッションはトランポリンと名を変えて、今や子供たちの遊具になりました。それだけだと危ないので、トランポリンに沿って空間を魔法で区切る。激しく跳んでも飛び出て落ちないように、壁に当たってもあまり痛くないように、丈夫なビニールハウスのようになっている。過保護かな?と思ったりもしたけど2才、3才が落ちるのは嫌だ。
ぜひとも楽しく体幹を鍛えて欲しい!
そう! これは遊びのふりした特訓なのです! 健康的にバランスよく育ってもらいたい。
とはいえ、トランポリンも人数が限られるので順番こ。守らないヤツにはお仕置きをするし、上の子達は順番待ちの声掛けをしてくれる。最初はケンカもあったけど、騎馬の民の子供たちも慣れてきたようだ。毎日馬に乗るからか跳んでる姿のバランスが良い。うちの子たちの方が高く跳ねていたけど、最近は同じくらいになった。
「あ!お嬢だ!お仕事終わったの?」
「終わったよー!私もまぜてー!」
わいわいと周りにいた子供たちもトランポリンハウスに入る。そして、皆で手を繋いで大きな円になる。
せーの!
掛け声に合わせ、皆で軽いジャンプを繰り返す。
魔力を練って、繋いだ手に這わせていく。と同時にハウスの天井を消す(魔法だし)。全員に私の魔力が行き渡ったのを確認して「行くよー!・・・せーのっ!」
ジャンプーーーッ!!
高く高く。屋敷よりも西の山脈よりも、雲に近づくほどに高く上がる。
子供たちの顔はキラキラしてる。
あんたたちの世界は、遠くまで広がってるよ。
ひゅうぅぅーーーーっ、ブオヨヨヨヨヨヨヨン!!
笑い声が響く。
一人だと必ず泣いて落ちてくるお仕置きの高さも、皆で手を繋げば楽しいものになる。だからお仕置きよりも皆で飛びたいと考えるようになったみたい。私もまざりたいから、午後のこの時間は空けている。他の事をしたりもするので毎日は出来ないけど、子供たちなりにそこら辺は理解してくれてる。
なお、この遊びは成人以上には不評である。何故だ。
「「「お嬢!ありがとー!」」」
あ、興行用に小さいのを作っても良いかも。
***
『お嬢!ヤンです!ついに大群が出ましたぜ!』
「よしきた! 五分待ってて!」
『了解!』
最近、買い出し部隊の再編をした。
騎馬の民の戦力を農業だけに費やすのももったいないので、冒険者ギルドに登録してできそうな依頼を受けている。もちろん隣国で。
何で今さら登録なんてと言われそうだけど、モンスターって勝手に狩ってもお金にならないのよ! どうせならいくらかでも稼ぎたい。領地に出るモンスターは食料&肥料に加工されるので、稼ぎ(現金)にはならない。熊サイズの豚や大イノシシは大変美味しいモンスターです! なので、近隣領地含めギルドを置くほど厄介なモンスターも出ない。
っていうか、もっと討伐メンバーが必要で困っていたギルドと、興行の舞台に上がりたくない男たちの需要と供給が一致した結果です。いいお小遣い稼ぎだって。まったく。
まあ、登録してわかった事だけど、資材になりそうなモンスターがいたのよ。
私は皆に止められたので登録出来なかったけど手伝うのは許された。まだ7才だし、小さいうちから派手に活動してしまえば変に目立つしね。一応亀様が付いていれば大群とか魔法の訓練になりそうな時はOKが出ました。自称領主代行なので興行以外でそうそう留守にも出来ないし。
・・・領主が興行に参加するのがおかしいという声は私には聞こえない!
獲物を見つけたら呼び出されて、亀様で移動して買い出し部隊に合流。亀様のおかげでイヤーカフの通信距離も伸びた。どこまで使えるのか未知数という恐ろしい物になった! 一つだけ不満なのが、呼び出しが「お嬢」で固定されてしまったこと。
・・・亀様め。・・・まあいいや。
今回狙っていたモンスターはトレント。歩く木だ。
モンスターと侮るなかれ。これがまた立派な木なんだわ。加工しがいがあるっての!
喜ぶ私にトレントすら戦慄。ベッド作りで鍛えた加工の腕を見よ!
・・・なんて、最初は手こずりました。だって動くんだもん。変な風にザックザックと切ってしまって、薪にするしかなくなって、何回かは皆にトレントの動きを止めてもらってからの加工でした。
それからは一人で出来るようになり、木材になったトレントを買い出し部隊が保存袋に入れてくれ、討伐証明部位のトレントの腕をギルドで換金。そうやってトレントばっかり狩っていたら、トレントの異常発生を教えてもらえた。年に一、二度とどこかの森でやたらと大量に出てくるらしい。いつも合同パーティーで討伐するらしいのだけど、いつも処理に困って最後は燃やすと聞いたので、是非!処理はうちにお任せを!と押して押してギルドの了承をゲット。
そしてついに大群に遭遇! ふはははは! おっとヨダレが。
こんだけあれば新築増築いくらでも!
もはやトレントは木材にしか見えない。
そして後ろから聞こえる仲間の声。
「ほんと、うちのお嬢はとんでもねぇ・・・」
・・・・・・たまには褒められたいなぁ。
と帰ったら、土木班の親方に「おお、切り口が綺麗になったな。腕を上げたな、お嬢」と、静かに褒められた。
うん。嬉しいけどちょっと違う。




