48話 進級です。
「「「 アイス先輩! ご卒業おめでとうございます! 」」」
卒業式が終わり、式場であるホールから卒業生の保護者も含めた軽食会を行う会場に移動中、騎士科の恒例行事『追い出し挨拶』が始まった。
合宿組の先輩の時には合宿組の生徒も騎士科生徒に合わせて声をあげたのでひときわ響く。
「おう。ありがとう」
苦笑した後、アイス先輩はすぐに続ける。
「何度も言うが俺の名はマイルズ・モーズレイだ。アイスは名でも家名でもない。いい加減直せよ」
「「「 はい! アイス先輩っ!! 」」」
「聞けぇっ!」
騎士科の先輩方は爆笑だ。
ああ、このやり取りをもう聞けないのかぁ、やっぱりちょっと寂しいなぁ。
「マイルズは随分と後輩に慕われてるな」
騎士科卒業生の移動見届け係りの私に、最後に出てきたシュナイル様が誇らしげにその様子を見ていた。
「あ、シュナイル様」
「「「 シュナイル先輩! ご卒業おめでとうございます! 」」」
私の一言が聞こえたのか、くるっとシュナイル先輩に向かう後輩たち。取り残されたアイス先輩が唖然とし、それをまた先輩方は笑う。
他の科はもう先に行っている。騎士科だけの恒例行事、今年は例年になく時間が掛かっているようだ。
皆笑っている。
シュナイル先輩が私のケンカを買ってくれた時、こうなるなんて思ってなかった。・・・色々あったなぁ。
つ、とアイス先輩が私の前に立った。なんだか難しい顔をしてる。
「ドロードラング嬢。色々と世話になった。・・・が」
とアイス先輩が顔をしかめた。シュナイル様以外の先輩方も微妙な顔をして集まっていた。ん?
「これからどう接したらいいか、迷うなぁ」
私の相手ほどなあなあになってしまうのは、まあ申し訳ないと思わなくもない。
アイス先輩たちから見れば私は後輩であり、年下の教師助手であり、成金貴族で、仕える殿下の弟君の婚約者で、アイスクリーム屋の長だ。一言でいえば面倒くさい相手。
お互いに苦笑になるのは仕方ない。
「先輩方は先輩で、私が後輩で、でお願いします」
「ならもっと後輩らしくしろ」
アイス先輩がしかめっ面になる。ほらこの柔軟さ。
「してるじゃないですか。ほら、会場の皆さんが待ちくたびれていますからさっさと移動して下さいよ」
「どこら辺が後輩だ・・・」
「・・・年齢?」
「そこを一番無視する奴が何を言う!?」
「相手を見て使い分けてますよ~」
「なお悪いわ!」
アイス先輩以外の先輩方はまたも爆笑。もう諦めろと聞こえる。他の先輩方の神妙な顔は笑いをこらえていたやつか。
「アイス先輩は自覚してるよりもはるかに面倒見が良いって自覚したらいいですよ?」
だから私のこんな態度にもつっこんでくれる。アイス呼びも怒らない。
シュナイル様はアイス先輩が騎士団で成り上がるのを待つという。そうなったらきっとアーライル騎士団はより強くなる。
まあ強くなったからってそうそう他国を侵略はさせないけどねー。戦争は、攻め入らせない、起こさせない。まずは自国の安定です。それでもそんなに戦争したいなら私を倒してからやれ。
「そんなに褒めてくれるならアイス屋の割引きを続けてくれ」
「成人は頑張って稼いで下さい! 金づる!」
「言い方!・・・全く容赦ない」
そう言いながら笑うアイス先輩。シュナイル様も先輩たちも。
「ご卒業、おめでとうございます」
心を込めて淑女の礼をとると、先輩たちは騎士の礼を返してくれた。
前世の弟の部活の、最後の大会の後を思い出す。会うたびに生意気だった小僧たちが綺麗に揃った日。
うわ、涙でそう。
「あの生意気盛りが大人になって・・・」
「「「「 親戚のおばさんか!! 」」」」
潤んだ目を誤魔化すのにそう言ったら皆につっこまれた。
またも爆笑の通路。
と、シュナイル先輩が歩き出しながら私の頭をポンポンとして通り過ぎていく。そしてアイス先輩がやっぱり苦笑しながら同じく私の頭に手を乗せていく。次々と先輩たちがポンポンとやっていく。ご飯旨かったとか、木剣を大事にするとか、いつか遊びに行くとか。
それを見た二年と一年が「ずるい!俺らにもして下さい!」と追いかけて行った。
「じゃあ俺が会食場まで彼らに付き添いますね。ルルー、お嬢をよろしく」
「了解」
今日は私付きの侍従姿のマークが生徒たちを追いかけ、ルルーがどこからともなくタオルを取り出す。
「彼らの卒業は誇らしいですけれど、寂しくなりますね・・・」
私の返事は、ふわふわのタオルで覆われてちゃんと言葉にならなかった。