続続47話 朱雀編エピローグです。<約束>
冬のドロードラングに花が舞う。
屋敷の扉が開いて現れた白い衣装の二人にお祝いの花と言葉がかけられる。
私の隣でミシルが号泣。
「ぞんちょ~、おめでと~ごじゃいまふぅ。す、すじゃく~、そんちょ~を、よろしく、おねがい、ひましゅう」
ミシルの前に立った二人、村長は苦笑しながらミシルの頭を撫で、朱雀は笑ってミシルを抱き上げた。
ハスブナル国は少しずつ、人の回復に合わせた復興となっている。あまりに早い復興だとそれはそれで不味いという。
「たかられるのは駄目だ」
なるほど。他の国が納得しないという事ですか。
それでも畑なんかは放っておくと後で大変になっちゃうから、ドロードラングメンバーで交代で世話をした。もちろん私も入ってるし、合宿メンバーの生徒たちも手伝ってくれた。
学園は通常通りだったので休日限定だったけど、農作業だったり建築だったり看護だったりと一所懸命してくれた。
ジーンやチェンも泥だらけだ。
そしてジーンが夕日に叫ぶ。
「何も考えずに体だけ動かすってスバラシイ!」
・・・帝王学って大変そう・・・
勉強もそうだけど、領地からの手伝いメンバーからもしばらく小突かれていたジーン。まあリズさんがガッツリ拳骨したのもあり、リンチになることはなかったんだけど。
「お前がしっかりやれ」
と、皆がアンディを小突いて行くのは何なのか。
王子ですよ~!
「皆が僕にそう言うって・・・外堀は完璧だね」
爽やかに笑うアンディにあわあわするしかなかった私。
外堀だけじゃないよ。
と、・・・いつかスルッと言えたらいいなぁ。
「やっと揃った・・・!」
新国王となったレウリィ様はハスブナル国の記録文書を整理。私がお城をぶっ壊したからそこから捜し纏めてやっと再編に動きだした。瓦礫除去は手伝ったから!
「魔法の概念が覆るな・・・」
なんとアンディ以外の王族方も手伝いに来てくれた。私の農作業魔法を見たルーベンス様がそう言うと、シュナイル様、ビアンカ様、クリスティアーナ様もポカンと頷いた。
シュナイル様は力作業で、他のお三方とエリザベス姫はレウリィ王を手伝いに。レシィまでも来てくれて、ルルーたちにまざって看護をしてくれている。癒し・・・!
なんとなんと王妃様方も看護にまわってくれて、白衣の女神降誕。男たちの回復の早いこと早いこと。そして回復した奴らから親方たちの元で城の再建。ぶっ倒れないギリギリまでこき使ってやったわ!うちの女神たちは高いんだよ!
とまあ忙しい日々を送り、なんとか余裕のできた冬休み。
合宿生徒たちとの約束を果すべく、冬期休業中のドロードラング領に色々招いての結婚式です。
「四神を間近で見てしかも言葉を交わすなんて有り得ないと思っていたんだ。朱雀が人間になって更に人と結婚するなんてどうという事もない。逆にこんな貴重な瞬間に立ち合えるんだ。末代まで語り継ぐさ」
乾いた笑いでそんな風に言い切ったアイス先輩を筆頭に参列してくれた生徒たち。誰だっけ?「食べ放題」「結婚式」「デザート盛り合わせ」「丸焼き」って言ったのは。目一杯用意したからしっかり食べなさいよ~。
「新作ドレス」や「刺繍」「綿レース」は朱雀のドレスを見て! 服飾班の力作だよ!
人化した朱雀を見た瞬間に服飾班全員が立ち上がってソッコー採寸が始まったからね・・・。その時に服飾班から朱雀に体型指導があったらしく、結果村長からもOKが出た。胸で足元が見えないって事は無くなったようだけどまだナイスバディに分類される。村長はほっとしたけど、他の男たちからは魂のため息が。ふっ。ブッ飛ばすぞ。
「はぁ、村長にあんな美人が嫁に来るとは、人生何があるか分からんなぁ」
「本当にねぇ。でも村長があんな顔で笑ってるのを初めて見たわぁ。良かったんでしょ」
全くだ!と笑うのはミシルの村の人々。全員ご招待しました!
村長が若返った事には、あら良かったね~!腰は大事にしろよ~!程度の扱い。おおらか過ぎるだろ。
ミシルの村の今年の慰労会も兼ねての派手婚式です。
「まさか、本当にこんな大人数で行うとは・・・」
呆然とするハスブナル国王レウリィ様。ハスブナルからはレウリィ様、ジーン、チェンの三人だけ。王族の結婚式ならこんなモンでしょ? ドロードラング領、騎馬の国、ミシルの村、バンクス領、カーディフ領、ダルトリー領から領主とその家族・・・ちょっと多いか? まぁいいか。ハンクさんが良いって言ったし。
冬期休業中だから他にお客さんはいないし、ホテルと屋敷の厨房フル回転で料理を出してます。と言っても今日はハンクさんが持ってくるウェディングケーキでおしまいだけど。
「だから魔境と言ったろう」
料理をガン見のフリード王が失礼な事を言う。
まあ冬の外での結婚式なんてしないよね。亀様ガードで本日の空調はドロードラング領屋敷から遊園地までが常春でございます。
王妃様方、侯爵夫妻、宰相夫妻、団長夫妻と王子王女婚約者様方もご招待~。きらびやかな一画! 王族対抗雪合戦は年明け予定。
感激が少しおさまったミシルを席に戻すと、村長と朱雀はゆっくりとバージンロードを進み、亀様像の前へ。
二人は今まで私たちを手伝ってくれていた。結婚式はそのお礼なのと、これからの二人への餞。村長は見世物になるのを恥ずかしがっているけど朱雀はノリノリだ。
《新郎シュウ。新婦朱雀。二人の婚姻に誓いが要る》
「何だ玄武、縁結びもしているのか?」
《そうだ。我の縁結びは効くぞ?》
「ははっ! 頼んだ」
《新郎シュウ、前へ。健やかなるときも、病めるときも、どのような時も、妻となる朱雀に愛を捧ぐことを誓うか?》
村長はちらと朱雀を振り返り、真っ直ぐ亀様像に向き直った。
「はい、誓います」
《新婦朱雀。健やかなるときも、病めるときも、どのような時も、夫となるシュウに愛を捧ぐことを誓うか?》
朱雀も村長を少し振り返る。二人で小さく頷くと亀様像に向き直る。
「はい。誓います」
《二人の誓いを受け取った。今この時より、二人は夫婦となった。その命の限り、二人に幸があるように、誓いの口づけを》
向かい合った二人はしばし見つめ合う。
「まさか結婚するとはなぁ。いまだに変な感じだ」
「嫌か?」
「もう戻れないんだろ? それに死ぬまで一緒なのは鳥でも人でも変わらないよ。これからよろしくな」
「・・・うむ・・・」
ちょっと涙ぐんだ朱雀が目を瞑る。村長がその顎に手を添えて軽く口づけると、朱雀が目を丸くした。
「・・・変な感じだ」
「ふ、人ってのはこんなもんだよ。そのうち慣れるさ」
「うむ」
そうして村長が朱雀を抱き上げると歓声が上がった。村人たちの喜びが響く。そしてミシルの号泣再び。
ウェディングケーキ入刀でまた花が舞い、小虎隊のラインダンスが可愛いく始まり、クラウスとクインさんもまざった生徒たちのダンスも華やかに続く。この時にクラウスに流し目をお願いしたけども、黄色い悲鳴が上がったので上手くやってくれたんだろう。
・・・流し目って・・・
酔っぱらっていい感じに出来上がった村人たちも村の踊りを披露して、嫌がる村長をかつぎ上げて会場を練り歩いた。ミシルもそれについて歩き、ついでにシロウとクロウも何人か背中に乗せながらその後ろに続いたり。
酔っぱらった団長がクラウスに絡んで、そこから対クラウスのチャンバラ大会が始まって、結果クラウスの一人勝ちだったり。
めちゃくちゃだったけど楽しい結婚式だった!
片づけを手伝い、侍女たちと遅くに温泉に入っていると全裸の朱雀が入って来た。長い髪は器用にまとめてある。は~、綺麗だなぁ。
「あれ、初夜はどうしたんだい?」
洗濯班ケリーさん始め、おばちゃんたちがニヤニヤしながら聞くと、朱雀は肩をすくめて洗い場でかけ湯をしてから湯船に入ってきた。
「酔い潰れて寝てしまったから暇なのだ」
村長・・・村人たちにさんざん飲まされていたものなぁ。
生徒たちももちろん子供たちももうぐっすり寝ている。おばちゃんたちは笑った。
「風呂とは気持ちがいい。だからまた来た。それとサレスティアに用があってな」
ん?
「結婚式をありがとう。楽しかった。美しい着物も嬉しかった。皆もありがとう」
ずっと旅に出たかったろう二人は、あの日から今まで本当にたくさん手伝ってくれた。お礼を言うのは私たちの方だ。だいたい本人を無視してドレスを先に作り出したのはうちの服飾班だ。その出来上がっていく過程が朱雀は楽しかったようで、結婚式を実に楽しみにしてくれていた。
そうやって笑ってくれるなら派手婚にした甲斐があった。
「明日にはメルクの描いた二人の絵が出来あがるよ。ドロードラング屋敷に飾っておくから、いつでも見においで」
「サレスティアは可愛いな!」
ぎゃあああっ! 素っ裸で抱きついて来ないでぇぇ! 胸!死!空気!さんそぉっ! 笑ってないで誰か助けてぇ!
「朱雀、そういう事は旦那様として下さい」
カシーナさんありがとぉぉぉ! 今日はさっさと休みなさいって言うのをはね除けて起きててくれてありがとぉ! 笑ってるけど!
「カシーナもするか? 皆にもしたい」
「お嬢様だけで私たちは満足ですよ」
ちょっとカシーナさん・・・?
「そうか。じゃあ、カシーナの子が産まれたらしてやるかな」
カシーナさんのほんの少し膨らんだお腹を朱雀が愛おしそうに撫でる。カシーナさんも微笑んでいる。
「朱雀も子を授かるのですか?」
「どうかな。何度か番を持ったが仔は成さなかったな」
「そうですか・・・では、産まれたらこの子も可愛いがってくださいね」
「うむ。楽しみだ」
こんな時に聞くのも何だけど、タイミングが取れなくてできてなかった質問をした。
「ねぇ。ハスブナルの国王は消えたの?」
カシーナさんのお腹から手を離した朱雀が湯船の縁に腰掛ける。
「我の焔で焼いた。あの時の焔は浄化の焔。奴はこの世に塵も残っておらぬ」
浄化の炎で塵も残らない。あの王は、いつまでまともだったのだろう。
「だが魂の核は消えぬ。四神の怒りを受けた者は、いつか赦されるその日まで神のそばにある」
贖罪が済み赦されたならば、またこの世界に戻る事もあろう。
どこに行く事も無く、そこに留まり続ける。
その時の魂に意識はあるのか。あるならば恐ろしい罰だ。
だけど。
私たちの見ることも出会うこともない遠い遠い未来に起こる生まれ変わりなんて、正直どうでもいい。
私の手の届く範囲が平穏であるなら、それでいい。
「ふふっ。強欲だなサレスティアは」
朱雀が軽やかに笑うと皆も笑った。
次の日。遅い朝食の後は日が暮れるまで遊園地で遊んだ。他にもメルクに絵を描いてもらい、クラウスに稽古をつけてもらい、親方たちに農具や木剣を作ってもらい、もふもふを堪能し、生徒たちは帰って行った。
あ、「保冷庫保管庫割引き」は、三回勝負ジャンケンに負けたテッドが、親と相談しますと一割割引券を持って帰った。私に勝てば半額券だったけどね~、残念。
そのまた次の日。
村長と朱雀はミシルの村を軽やかに旅立ったそうだ。
いってらっしゃい!
お疲れさまでした m(_ _)m
とりあえず、二人が旅立ったので、OK!(笑)
ではまた次回、お会いできますように。