続47話 朱雀編エピローグです。<番>
朱雀は檻から出た時にはもうわりと危なかったらしく、村長の腕の中でくったりとしていた。
そこに亀様が、あの火の玉から残った紅い宝石を取り出した。なんとあの扇子で火の玉から朱雀の力だけを集約させたらしい。そういう仕組みだったのか、道理で拾った宝石が亀様預かりになったわけだ。
で、その宝石が朱雀に溶け込むところを、おお不思議~とのんびり見ていたら! 朱雀が光りだして村長が巻き込まれた。
村長まで朱雀へのエネルギーになってしまうのかと焦る私たちをよそに亀様はのんびりしたものだった。《やはりな》なんて言っちゃって。
そうして訳の分からないまま光が収まったら、真っ赤な美人に抱きつかれた少し若返った村長が呆然としていた。
「これでずっと一緒だ」
「・・・・・・どちら様で?」
ぎぎぎぎぎと首を動かし真っ赤な美人に質問する村長。
「我の番となったからな、死ぬまで一緒だぞシュウ!」
「・・・は!?鳥だろ!?朱雀だろ!?何で人!?しかも美女!? うわっなんか俺若返ってるっ!?」
「今まで触る事もできんかったからな。人と成ればいつでも一緒にいられる。シュウは番が居らぬようだから、我がなることにした。良かろう?」
「鳥のままで良かったんだけど・・・」
「それではシュウが直ぐに死んでしまうではないか。そんな事は赦さぬ」
何の話かさっぱり分からんと亀様を見た。
《四神の中で朱雀だけが番を持つ事が出来るのだ。番うと決めるとその相手に合う姿に成れる。その時に魔力の譲渡があり、相手は朱雀とほぼ同じ寿命となる。朱雀は自身としての能力は半減する》
・・・へぇ・・・
《ほぼ同じ寿命と言ってもだいたい二百年くらいだ。番う事が無ければ朱雀はもっと永く生きる》
「二百年!?」
《それが過ぎればぽっくりと逝けるぞ》
それは慰めになってませんっ!
「あの、なぜ朱雀だけそういう造り?になってるんですか?」
アンディがおずおずと手を上げる。
《ん? 朱雀の巫女の趣味だそうだ》
趣味!?
《我らは唯一の存在だ。番う必要は無い。朱雀の巫女はそれではつまらぬと、朱雀も了承した事で番機能が出来た。朱雀の巫女は常々『愛だよ愛』と言っていた。我にはよく分からぬ事だったがな》
・・・巫女って・・・
でもまあ・・・朱雀がデレデレだから、いっか。
そんなこんなで朱雀は元気にウェイトレスの真似をしてる。
んだけど!
「・・・やっぱりもうちょっとどうにかならない?」
「ん? 体型か? 仕様があるまい、シュウが好きなのだ」
「ちょっと!ちょっとちょっと! 誤解だって、こんな所でやめてくれる!? いや嫌いじゃないけどね?俺はほどほどで良いんです!」
朱雀と一緒に餃子を運んでくれている村長が慌てて否定する。ほどほどってどれくらいよ? 男の言うほどほどってどれくらいですか?
「しかし、人の男とは女がこうであれば嬉しいのだろう? 白虎と玄武が言っておったぞ?」
・・・あ~あれか、雪像か・・・王妃様方を越えるなんて存在しえない体型だと思ってたのに・・・存在しちゃったな~・・・拝んでおこうかな、四神だし。
「分かった。後で教える」
ちょっと項垂れていた村長がキッパリと言った。
・・・どうやって?イヤいいです!任せた村長!
「なんか、若い村長って変な感じ・・・」
ミシルが不思議そうな顔をして村長を見る。そうだよね村長の見た目、三十代くらいだもんね。前世でもじいちゃんやばあちゃんの若い頃の写真とか見ると変な感じしたもんな~。
「村長はずっと一人だったっていうから幸せになればいいな」
ニヘッと笑いながらそんな事を言うミシルはやっぱり可愛い!
そういうミシルはどうなんだろう?・・・今は特にいなそうだけど、好きな人ができたら教えてくれるかな?
で。
ハスブナル国の復興計画として、呪いの浄化は終わったので地力回復と他国からの侵略を防ぐために四神結界をはる事に。これには朱雀もすんなり協力してくれた。
「シュウと出逢った地だ。それなりの思い入れはある」
朱雀にはあの檻すら残してくれと言われた。金物~!と騒ぐ鍛冶班に呆れて、最初の檻だけで良いとなったけども。檻に書き込まれたものも浄化や洗浄をしたら鉄色になった。・・・呪いって・・・
思い入れということで地力回復も快諾。なんていうかおおらかだよ。
対外的には、前ハスブナル国王から攻撃を受けたアーライル国がうって出て勝ったという事にした。実際そうだし、あの火の玉の目撃者は各地にたくさんいる。前国王は朱雀の力を使いきれずに狂ったというのも納得してもらえるだろう。
なので、亀様に地力回復はゆっくりとしてもらい、その間に各国には視察をしてもらう。国民の様子は絶対見てもらいたい。
それが終わったらドロードラングからの支援を開始。
ハスブナル国はアーライル国に完全降伏。地理的に遠いので属国化は保留。賠償はアーライル国のみに行われる。その賠償の一つとしてジーン王子はアーライル国へ人質となる。
それと、アーライル国に四神が三体揃っている事が他国にバレた訳なんだけど。「身の丈に合った魔物を使役せねば自国が滅ぶと言えばよかろう」というエンプツィー様のありがたいお言葉と、「それでも武力で来るならば全力でお相手しますよ!」と笑う私に、げんなりした国王が「うん、そんな感じで対応するわ・・・」とこたえた。そして「頼もしいなぁ!」と笑うハーメルス団長を恨めしげに見てた。
「お前かこらあっ!!」
食事の片付けをしてる時。
ゴッ!という音も聞こえたので何事かとそちらを見れば、王都治療院で働いているはずのリズさんがジーンに拳骨をおみまいし、同僚であるヨールさんに羽交い締めにされていた。
「落ち着けよ、お嬢が落ち着いているのにお前が騒いだら台無しだぞ。外交問題になるだろ?」
「外交が何だ! よくもうちのお嬢をっ!」
「すまなかった」
ジーンがリズさんに向かって頭を下げた。そんなすぐに謝られると思ってなかったのか、少しポカンとする。
「大事な領主に浅はかな真似をした。これからそれも含めて償っていく事を約束した。申し訳なかった」
チェンもジーンの隣で同じく頭を下げた。
その二人を睨んで、リズさんは私に視線をよこす。軽く頷いてみせるとヨールさんがリズさんを離した。
「・・・ああもう! しっかりやんなさいよっ!」
自棄気味にそう怒鳴ると、今度はアンディに向かってズカズカと近づく。
「アンディも!」
「はい。肝に銘じます」
「次があったら私が歯ァ折ってやるからね」
「分かりました」
眉間に皺を寄せたまま今度は私の前に。
「今度こんな事があったらアンディと一緒に一生監禁しますからね! 何の行事にも参加させませんよ!」
「ええ!ひどい!? まだやりたい事いっぱいあるのに!」
「だったら恥ずかしがってないでサッサとくっつけもう結婚しろっ! もたもたしてると今度はアンディがヤられるよ!」
「え!?ジーンに!?」
「おいっ!?」
「絶対美人に育つんだから誰とか関係ないよアンディは。その気になれば老若男女堕とせるよ。だからお嬢はもっとベタベタしなさい!隙が無いくらいに!」
いやそれ恥ずかしいよっ! 初心者だから! 少しずつにして~!
と、背中にふわりとした感触が。
「分かりました。僕からするのは我慢してましたけど、リズさんの意見も納得です。頑張ります」
アンディの声が耳元でする。気がつけば後ろから腕でがっちりホールドされてる私。・・・はあ!?何これ!? 頑張るって何っ!?
「よし!」
リズさん!よしじゃないよ~! ちょっと皆!笑ってないで助けて~!