47話 朱雀編エピローグです。
「え、そんな事でいいのか?」
痩せこけた男がぽかんとする。
「そんな事って言うけどな、ジーンとチェン以外に今現在この国から取れる物など無いだろう」
きらびやかな衣装の男が目を細める。
「取れるって、時期がきたら返すって、それ取ってないだろう? いやだから俺の首とか」
「そんなもの馬糞よりも役に立ちませんよ」
「お嬢様食事時に相応しくありません」
すみませんルルー!
はい。餃子パーティー再びです。今回は外で。小籠包とか焼売とか肉まんとか点心もありまっせ~。
なぜ外かというと、使える建物は現在治療所としてハスブナル国民が満杯に入っているから。呪いで保たれていたものが無くなったので、糸が切れた人形のようになったのだ。
そんな人々のなか、今まともに動けているのは憑依されるために軟禁されていたハスブナル国のレウリィ王太子のみ。それでも激ヤセで、服が余って着せられている状態。まあ、顔は何となくジーンと似てる。
シートを敷いた所にはロイヤルな人々を優先に、ついでに私も入れてもらってます。今後の話もあるし、首脳会議?
さっきから喋っているのはハスブナル国のレウリィ様と我がアーライル国王フリード様。年齢も近く、外ご飯の雰囲気でけっこうざっくばらんに喋ってる。
エンプツィー様とハーメルス団長はガツガツ食べてる。話に交ざれや。
チェンはジーンの隣で他のメンバーに激しく緊張してるよう。ファイト。
ばふん・・・と呟く王太子。首って単語も食事時には相応しくないと思うんだけど、私には厳しくない?
まあいいけど。
「とにかく今ハスブナルに必要なのは労働力です。体力つければ畑を耕せるのに、なんで首を切っちゃうんですかもったいない!」
猫の手も借りたい状況だろっつーの。そして猫の手よりも人の手だっつーの。
「もった・・・だから対外的に、」
「レウリィよ。ジーンにも言ったがな、責任で死のうと言うなら復興させてから死ね。何だこの状態は、お前らには死ぬ程働いてもらわねばこっちにまでツケが回ってくるだろうが」
「そうそう! いくらか助力させていただきますけど、自国は自分たちで運営して下さい。それが一番いいんですよ。とりあえずこの餃子のアーライル国での販売独占権はドロードラングでいただきますね」
「まだ稼ぐ気か!?」
国王が目を剥く。稼げるならば何でもするぜ!
「うちにはお腹をすかせた可愛い子供たちが・・・」
「肌がツヤツヤした無駄に元気な子供しかおらんだろうが」
「うちにはお腹をすかせたお年寄りたちが・・・」
「全員ピンシャンして無駄に喋りながら働いとるだろうが!」
「・・・何ですか、細かい男は嫌われますよ」
「国王なんぞ細かくて当然だ。特にうちの財務大臣を前に雑な勘定など恐ろしくて出来ん!鍛えられたわ! ジーンよ覚悟しておけ。王などよりも力を持ってる者が臣下に多いのも安定した国になる場合がある。お前が目指すのはそこだ」
ラトルジン侯爵のシルエットが、カドガン宰相のシルエットが、ステファニア王妃様のシルエットが浮かぶ。・・・うん、ドロードラングもそういう信頼があるから私がこうして領地を離れて色々できるのよね、大事。
とりあえずジーンとチェンにはまずは支える側になってもらわないと。
「まあ餃子独占権は冗談ですけど、王都でも食べられるようにはしますよ。材料は難しくないですからね。食事処の新メニューに入れて欲しいですもん」
「・・・良いのか?」
ジーンがおずおすと聞いてきた。敵国の食べ物を受け入れるのかという事? いいですとも!食べ物に罪は無い!
「美味しい物は皆で食べるともっと美味しくなるでしょ。それが安ければ最高よ!」
「ふふっ、途中まで良いこと言っていたのに。でも美味しい物が増えるのは良いことだね」
ねー!とアンディと笑い合う。
「だが・・・」
何を気にしてるのか、ジーンは乗り気ではないようだ。餃子食べたいし食べさせたいんだけど!
「指導力は胃袋を掴んだ方が発揮しやすいのよ。だからって満腹にさせても駄目だけど、国民にはひもじい思いをさせちゃ駄目。腹をすかせるってほんと頭が働かないから復興どころじゃないのよ。これがドロードラング領持論! せっかく留学を続けるんだからドロードラング領にも来なさいよ。レウリィ様も一緒にいらっしゃいませ」
「俺はあまり勧めたくない」
おっと自国の王からストップが入るとは。
「何でですか?」
「魔境だからだ」
「失礼な!ただの田舎ですよ! おかげでどれだけ苦労したか!褒めて下さい税金免除!」
「アーライルでの稼ぎ頭の税金を免除するわけなかろう! 褒めてやるから遊具割り引け!」
「小さい!小さいよ! レウリィ様、ジーン、チェン!反面教師がここにいます! しっかり覚えて下さい!」
「どこまで態度がでかいのか! お前こそ臣下として疑問だ、もっと敬え国王だぞ! そして未来の父だぞ! 割り引け~!」
「王は王、アンディはアンディです! 似なくて良かった!」
「どういう意味だ! 俺に似て見目が良いだろう!」
「それこそどういう意味ですか、どう見てもマルディナ様似でしょ! でもって見た目だけじゃないもん! もはや父を超えた良い男ですぅ!」
「超えた!? どこが?」
「はぁあ? 今すぐ下剋上叩き付けましょうか? 婚約破棄なんて言ったら本気でアーライル潰しますよ!」
「はいはいそこまで。そんなに想ってくれて嬉しいよお嬢。父上も乗り過ぎです。これからも超えるべく精進します。さ、新しく焼けた餃子が来ましたよ。食べましょう」
間にいたアンディが割って入った。エンプツィー様は気にせずガツガツ食べ続けてるけど、他の人はポカン顔。そうね、王様相手にこんな事ないよね。
「わっはっはっは!賑やかだな。ほれ良い色に焼けたらしいぞ! 食せ!」
肌は色白、他は真っ赤なムチムチボインな女の人が両手に餃子の皿を持ってきた。ゆるいウェーブの髪の毛は膝まで長く紅い。同じく目も紅い。メロンくらいに大きな胸、引き締まった腰、弾力のありそうな綺麗なお尻を包む服も、靴までも紅い。
「ありがとう朱雀。疲れない?」
「楽しいぞ」
ふわりと笑う唇も艶やかな紅。
はい。朱雀、人間になったってよ。わお。