続続46話 朱雀です。<救出>
「おお!これはまた想像以上じゃなぁ!」
あ、エンプツィー様たちが降りてきた。
「お初にお目にかかる。ワシはアーライル国の魔法使いでリンダール・エンプツィーと申す。魔法陣の解除に来た。しばしうるさいじゃろうが勘弁してくれ」
学園長までもが挨拶をそこそこにして壁の魔法陣に張りつく。そしてわやわやと始まった。
解除はオタクに任せて、アンディに檻の近くに行って降ろしてもらった。
「初めまして朱雀。私はアーライル国ドロードラング伯爵領当主サレスティア・ドロードラング。村長さんとの縁であなたを助けに来ました」
淑女の礼をとる。
《助け・・・そなた、先程我に一撃くれた者じゃな?・・・フフッあれは効いた。おかげでシュウを守れた。こちらこそ感謝する》
「え。あの髑髏鳥が朱雀だと言うならその檻から出られるのでは?」
《そこは我も驚いた。今までシュウが近くに居たとしても出来た事は無かったのだ》
キーホルダー亀様は亀様本体にはなれないって事かな?
「ん~、加護があるからという訳でもないのか・・・」
《魔力は吸収され続けたが、ただ生きるだけのものはあった。・・・ひとめ会えて良かった・・・シュウ》
「あんたのおかげで生きてこられたんだ・・・その話をしに来たよ。びっくりしたよ、他の四神にも会えたんだ!」
《あぁそうだったな。久方ぶりに皆の気配を感じた・・・ん?》
横たわった朱雀が目線を天井に向けると、ピシッと音が。
え?
ドガアアアアアアンンッッ!!
天井が落ちた。
音は派手だったが、瓦礫は私たちの上でふよふよとしている。
何が起きたか呆然と見ていると、賑やかな声と獣の影が。
《朱雀には日の光を当てれば良いのだ! そうすれば元気になるだろ? よく分からん檻など自力でどうにかするだろ!》
《白虎よ! お主、玄武が居なければ全員生き埋めになっていたぞ! せめて一声掛けろ!》
《・・・もう少し落ち着きを・・・》
《サリオンが居らぬと落ち着きとは無縁だ・・・》
瓦礫がどこか外へ移動する中で青龍が白虎にツッコみ、シロクロが肩を落としている。青龍の姿が見えないからミシルたちを乗せたままなのだろう。
《死にかけとるなら急いだ方が良かろう? ほら間に合った、フガッ!?何だこの匂いはっ!?青龍!洗い流してっ!》
《・・・ずっと漂っていたぞ・・・》
《青龍よ、白虎は高まると周りが見えぬ》
《主に釘を刺されてもこんなものよ・・・》
《・・・お主らも苦労するのぉ・・・》
・・・えーと・・・
《お!朱雀!朱雀か!久しいな!小さいな!これが件の檻か!ぎゃあ!?》
《《 何故触れるっ!? 》》
うっかりと檻に乗っかった白虎が魔力を吸われ、慌てたシロクロに体当たりで吹っ飛ばされた。
《す、済まぬな白狼、黒狼、あぁびっくりした!》
・・・何これ・・・何コント?白虎劇場? 私、白虎にも説明したよね?何で檻に触った?おバカ?おバカさんなの?
「今ので亀様たちも物理では無理なのが分かったね」
アンディの声にも力が無い。脱力した上に残念なお知らせだ。
ギッと睨んだら白虎は隅の方でビシッとお座りをした。大人しくしなさいと込めた目線にコクコクと何度も頷く。よし。
《とりあえずその血を昇華させる。しばし動くな》
青龍が水を流して血を動かす。私の膝上まで水かさは増したけど、それは見る間に透明な水になっていく。檻の中に水は入れなかったけど、中の血が檻の外へと流れ出た。檻の床面には予想通りに魔法陣があった。
ミシルの歌が聞こえる。
水が綺麗になると、空気に溶けるようにキラキラと消えた。浸したはずの靴や服も綺麗になった。
そして続々とスケボーで降りてくる戦闘班。
「村長!お嬢! 無事で良かった・・・!」
ニックさんに抱えられたミシルが飛びついて来た。ふよふよと続くタツノオトシゴと共にお疲れさまと労うと、ミシルはお嬢もね!と笑い、村長には泣きついた。
エンプツィー様たちがこちらへ来て檻を調べだした。
「ふむ。その床の陣は魔力、檻にみっちりと描かれているものは魔力と生命力吸収の為のものじゃな。壁のものはざっくり調べたところ、血による魔力増幅、憎悪を力とする呪い、それらを魔力として集め国王へと送る術式じゃった。ご丁寧に壁に彫ってある」
「という事は?」
「壁の分は血がない限り何も作用しないという結論じゃ。こちらは触れる者がどうにかなるような様子は無かった。細かく壊せば組み直す事も出来んじゃろ。問題は檻じゃな。白虎も証明したが、外からの魔力も吸収する。日の光を浴びて朱雀が回復しようが、吸い取られるのは変わらん」
《その様だ・・・久々の日光なのに残念だ》
「なら力ずくで壊せばいい。素手で触れば生命力が取られるんだろ? 武器があればどうだ?」
さっそく大剣を担ぐニックさん。
《立派な剣をそんな事に使うのか?》
「こういう事も想定された剣だ。気にしなくていい」
ガキィイイイィンン!!
気合いを入れた一撃は金属のぶつかり合う嫌な音をたてて檻の柵の一本を曲げた。
「あれ!? 今ので斬れねぇのか・・・ちっ、刃こぼれはすんのかよ」
ニックさんの体調は問題なさそう。ホッとしたところに鍛冶班長キム親方から通信が。
『お嬢、打ち損じた大剣と斧を送る。それで柵をいくらか曲げるくらいはできるだろ、使ってみてくれ。ニック、後で打ち直してやるから思いっきりやれ』
そうしてニックさんの足元に剣や斧が積み上がり、キム親方ありがとう!とニックさんがまた振りかぶっては打ち付ける。
「また原始的な方法だな。一応アーライル王家の宝剣も持って来たが使うか?」
フリード国王がハーメルス団長と近衛メンバーと下りて来た。宝石が付いて何だか神々しい雰囲気の剣を見せる。
「では私がお借りします」
クラウスが受け取り、何本も剣を折り斧の柄を折って肩で息をしているニックさんと代わった。鞘から抜いた剣はぼんやりと光った気がした。クラウスも腰を落として構える。
右上からの袈裟斬りの剣筋はニックさんがベコベコにしていた柵を斬った。
おお!と歓声が上がるなか、舌打ちをするクラウス。わぁ珍しいと思ったらパキンと軽い音を立てて宝剣が折れた。
「ぎゃあっ!?」
国王の叫びを無視し、折れた剣置き場に宝剣を放り投げ次の剣を手にするクラウス。
「雑っ!?国宝おおおっ!?」
「駄剣でしたね」
「オイイッッ!!」
「まあ、儀式用にしか使われていなかったからなぁ。そんなのでよく斬ったな!さすが剣聖!」
のほほんと団長。
「オオオイッ!?」
「いえ、ニックが弱めていたからこんな剣でも斬れたのでしょう」
クラウスもしれっとしたものだ。
「コラァァッ!!」
「試しに、居合いでやってみないか?」
「あぁなるほど。私の居合いは我流ですが・・・ご協力願えますか団長様?」
「これが上手くいけばドロードラングホテルに無料で泊まれるんだったな、やろう!」
団長とクラウスに話を聞いてもらえず、とうとう四つん這いになった国王にルルーがそっとお茶を出す。うん、ルルーのお茶で癒されて。剣は新しくうちの鍛冶班長キム親方に打ってもらうから。アンディにだけ聞こえるようにゴメンと言ったら、壊れた物は仕様がないよねと苦笑。
「子供の頃に大道芸で見て練習した技だ。檻の一つくらいはどうにかしたい」
日本刀の様に曲線ではない剣なので、鞘には入れず剥き身のまま構える団長。
呼吸を調え気合いを高める。ピシリとした空気が漂い誰もが団長に注目し息を潜める。
緊張に瞬きをした瞬間に団長の体勢が変わっていた。右腕が振り抜かれていて、そして剣が折れた。
「うわっ!?やっちまった!」
「団長様、檻の半分が斬れましたよ。流石です」
よくよく見れば四重になった檻の外二つ分のこちら側に切れ目が入っている。
うっそ!それで斬れるの!?気!?あの有名な気なの!?え、居合いってそういうもの!? 団長すげえっ!
団長の剣も親方に打ってもらおう!
「まぁ大道芸だしなぁ。んじゃ剣聖、やってくれ」
畏まりましたとクラウスが団長と場所を入れ替わる。クラウスの剣も剥き身のままだ。ライン取りをしてるのか、団長の切り込み跡とニックさんが凹ませた所を何度か腕を振ってなぞる。
そしてクラウスが腰を落として構えると、ゾクリとした圧を感じた。アンディも少し青ざめている。繋いだ手が震えた。ミシルは村長の後ろに隠れた。白虎もシロクロも毛が逆立っている。
クラウスはまだ動かない。その背中をじっと見てしまう。ふと、クラウスから何かが揺らめいた。
ズ・・・ズズズ・・・ズドォォンンッ
何かが引きずられるような音がした瞬間、斜めに斬られた檻がずり落ちてひっくり返り、開いた。
そしてクラウスの剣も折れた。
「・・・あぁ、折れてしまいましたか・・・」
はあぁぁ・・・
クラウスが折れた剣を見ながら残念そうに呟くと、たぶん、クラウス以外の全員が詰めていた息を吐いた。
「見えなかった・・・!」「さすが・・・!」「すげえっ!!」「こーわっ!」「怒らせない怒らせない・・・」
ざわつく中、団長が一人拍手をする音が響く。
「見事! 俺の出番要らなかったな~、今度手合わせしてくれよ」
「ありがとうございます。団長様とニックの跡をなぞったので出来たのでしょう。さ、村長さん、朱雀を迎えにどうぞ。念のため檻には触れないように気を付けて下さいね」
ハッとした村長が檻に走る。開けた檻に触らないギリギリの所で朱雀に呼び掛ける。
「朱雀、ここまで動けるか?」
《・・・しばし待て》
ゆっくりと体を起こそうとするが、震えているのがここからも分かる。
頑張れ、頑張れ・・・
「分かった、ちょっと待て」
そう言うと村長は自分の荷物入れからロープを出し、カウボーイのように輪っか部分を振り回し投げた。それはふわりと朱雀に届く。
「体に引っ掛けてくれ、そしたら引っ張る」
横たわったまま朱雀は足だけロープをまたぎ、たすき掛けになるように胸部分でロープを羽で押さえた。少しずつ朱雀を引きずりながらロープを手繰り寄せる村長。両手を差し出した時には、涙が溢れていた。
そうっと、ロープが絡まったままの朱雀を掬い上げ、抱きしめた。
「・・・・・・やっと・・・っ!」
《・・・苦労をかけた・・・》
村長は声を詰まらせながら、何度も何度も首を横に振った。
は~、良かった! んじゃ、後片づけして帰ろうか~!
お疲れさまでした!(土下座!)
46話半分にするか迷いましたが、そのまま出します。いつも長くてすみません!
後はエピローグ的なもので、朱雀編終わりですかね……(まだ続くんかいというのはもうどうしようもないのです……)
ではまた次回、お会いできますように。