続続5話 出稼ぎです。<ドン・クラウス>
一週間後。
とあるお部屋の一人掛けソファにクラウスが座り、その後ろに私とハンクさん、ニックさんの強面が立つ。
クラウスの向かい側にも同じようにヤクザな親分が座り、手下が何人も立つ。
どいつもこいつも私まで睨んでくるがまったく恐くない。カシーナさんとネリアさんのお陰かな~? 絶対言わないけど。
こちらの代表者はクラウスです。
「まさかこんな契約書を作る人間がこの世に存在するとは思ってもみませんでした! コレでは契約書というのも烏滸がましい、只の落書きだと笑ってしまいましたよ! あ!お宅様がお作りになられたのでしたね! これは失礼しました。しかし、これでは我が国では通用しませんとお伝えしませんと、後々大陸規模で恥をかくことになると思いましてやって参りました。お時間いただきありがとうございます」
クラウスがにこやかに頭を下げる。
相手は、クラウスを一筋縄ではいかない腹の立つ男だと理解したようだ。顔が引きつっている。
「契約書の書き方を教えに来ただけかね?」
チンピラの親分は、何とか似合わない優しい言葉使いを心掛けている。
ルルドゥを陥れたチンピラ共は背景にハスブナル国が付いていた。まあ、そんなことは非公表なのでこちらとしてもやり易い。・・・尻尾切りし易い顔ぶれだな~。
「えぇそうでございます! 私芸人一座を率いておりまして、タタルゥとルルドゥでも興行しましたところ大好評でございました。ただ思うように観覧料をいただけませんでした。まあ駆け出し一座ですので安い値段設定にしてはいたのですが、それでも払えないと首長様方が仰るので、余計なお節介となりますが理由をお聞きしたのです。そうしたらば、この契約書を見せてもらいました」
そうして、先程テーブルに置かれた契約書を指す。
「どこら辺が良くないのかね?」
引きつりながら親分が続きを促す。クラウスの態度が気に入らないらしい。
「まずはこの金額です。灌漑工事費とありますが、いくら掛かったのか細かい金額のはっきりした請求がございませんので、親分さんの言い値というだけでは無効です」
「は!?」
「おや、ご存知ありませんでしたか。貸す金額が書かれておりますが、実際の貸し付けは物資だけでしたよね? 人件費はその物資の運搬、組み立て、工事とルルドゥの民が自分等で行ったのですよね? どんな灌漑工事かと見せてもらいましたが、材料費はこの提示された金額の五分の一程度ですよね? こちらのお国の経済状況は過去二十年分調べておきました。私が失礼をしては申し訳ありませんからね」
親分の広いおでこにうっすらと汗が浮かぶ。
「で、その材料費、まあ、工事設計図も代金を取られますが、見たところ一般的な工法なので安く済んだでしょう? なので、お宅様はその差額をルルドゥ側に現金で渡さなければいけないのですが、首長はもらっていないと仰る。それが首長の嘘ならば、その時の貸付金の書類を今すぐ出して下さい。確認しませんと」
親分の汗が玉になる。
「おやありませんか? おやおや親分様はお忘れになられたのでしょうか? 従業員さんたちはご存知ですか? 先程応接室などないから仕事部屋でよいと通されたこの部屋に重要書類は有りますよね? ・・・おやおや、皆さんご存知ない? 書類がないのでしたら、やはり貸付金の金額は無効になります。材料を工面した業者には請求書領収書が揃ってありましたよ?」
玉になった汗が一筋流れた。
「それと、ルルドゥで収穫された作物は出荷の際、親分様の所で仲介していたそうですね?」
「そ、そうだ」
「私、市場も調べて参りました。ルルドゥ側には大分少量の金額しか渡していないようですね? 運賃を差し引いたとしても、親分様の取り分が多すぎますね? 何故ですか?」
クラウスがにっこり微笑む。親分には悪魔の笑みに見えていることだろう。
「そ、その時は人手が必要で人件費が掛かったんだ」
「私、役所でも調べて参りました。ルルドゥとの国境にある関所で、ルルドゥからの農作物の運搬には三人しか付いたことがないと記録を確認して参りました」
その言葉に、親分の後ろに控えていた三人がピクリとする。
親分の汗が垂れる。
「え~、ルルドゥの農業が軌道にのって十五年ですか? その間の売り上げ差額から工事材料費を引くと、逆に親分さんが返さなければいけないと私共では計算が出たのですが、そこら辺の詳しい書類はありますか?」
親分すらとうとうクラウスから目を逸らした。
「まあ、無いなら無いでも話は変わらないのですがね。・・・詐欺罪は大陸共通ですよ、親分様? 特に今回は国が一つ消えましたからね」
そうしてクラウスは、にこやかにゆっくりと、首斬りの真似をした。
「というわけで皆! クラウスを怒らせてはいけません!」
「「「ハイ!!」」」
「・・・何の話をしてるのですか・・・」
「「「ギャー!クラウスさんだー!」」」
ドロードラング領、屋敷の前になるべく皆を集める。
臨時会議の前の小噺よ、こばなし。
ワーワー笑いながら子供たちが逃げていく。大丈夫だよクラウス、子供たち本気で逃げてないから!
「じゃあ改めて、ルルドゥの借金は無くなりましたー! ルイスさん、ハンクさん、ニックさんの聞き込みと、クラウスのはったりのお陰です! 皆!拍手ーーっ!!」
うちは大きな拍手だけど、騎馬の民は皆茫然としている。
ルルドゥ、タタルゥ、両首長に1枚の紙を持っていく。
「これは、今後一切、ルルドゥ、タタルゥ、両国に手を出さないという証書よ。あの後ハスブナル国に直訴に行ったの。こんなチンピラがお宅にいたお陰で、両国は潰れかけていますよってね。あれだけ証拠を揃えて行ったのに、証書の出来上がりに一週間も掛かるなんて仕事が遅いわね、呑気な国だわ。補償はしなくていいからって認めさせたんだけど、本当がめつい! うちも関わりたくないわ、あんな国」
両首長を見て笑う。
「証書が出来るまで借金の事を黙っててごめんなさい。一気に報告したかったの。びっくりしたでしょ? ふふふ~。故郷に戻ってまた何かあったらすぐ言ってね。これでもかってくらいハンコを押させたから、この証書を使ってアイツらから色々毟り取ってやるから!」
二人の首長は頭を下げる。
「何から何まで、誠にありがとうございます!」
「誠心誠意、働かせていただきます!」
「そうね、仕事は集中しないと怪我の元だからね! これからもよろしくお願いします!」
今回ルルドゥから持ってきた農作物は、綿花!胡麻! そして米!!
畑を見たとき泣くかと思った。ちなみに田んぼという概念は無いので畑呼びだけど、作り方はまんま田んぼでした。イヤもうまさかの出逢い! 一人で狂喜乱舞するほどよ。
気合入れて成長促進魔法を使いましたとも!
一日眠ってしまったけどもその価値有り!
そして、干上がった湖から塩を得た!
なんてこった!
全て集めて岩塩にしました!削って使う!塩の輸入先が決まるまでもつでしょう。
こんな内地で塩がとれるなんて、元は海だったのかしら?なんて呟いたら、亀様が《ここら辺も暴れすぎて沈めたことがある》と返してきた。
なんてこった!!
《大陸を、あちらこちらと沈めたな・・・》
たそがれたラスボスがここにいるっ!!?
内緒!!絶対誰にも内緒!!!
ええ~、ゲームの終わりってどんなだったんだろう? 読んだ本にはそこら辺は載ってなかった気がする・・・亀、出てなかったと思うけど、どうなんだろう?
もし主人公が亀様を倒しに来たら戦うことになるのか。
む~、ジャンケンじゃ駄目かな~。亀様を戦わせたら人類どころか世界が終りそうだもんな~、絶対駄目だわ~。
私、ジャンケン三回勝負なら勝てると思うんだよね~。
まあとりあえず、釜も出来たことだし、まずは塩むすびを作りましょうかね!!
お読みいただきありがとうございます。
今回も力業で無理矢理でしたが、まあ、ゆる~く読んでもらえると助かります(((^^;)
今さらですが、ゲーム世界のはずなのにまったくモンスターが出てこないので、どうにか捩じ込みたいと目論んでます。でも一種類しかまだ考えていません。どんなモンスターが出るか、次回をお楽しみに~。




