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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
12才です。
145/191

続44話 受けて立ちます。<激突>


亀様の魔力、皆の魔力、青龍の魔力、シロウとクロウの魔力。

そしてミシルの歌。


黒い稲妻が弱まったとはいえぶつかり合う衝撃は激しい。

鍛練場、いや、アーライル国の上空いっぱいに、バチバチ!バチバチ!と放電しているようになっている。


街に降りかかりそうな余波は亀様ガードが弾いている。

弾かれた物はまた火の玉に戻って来るが、浄化の光にまた飛び散る。

それを繰り返して黒いモノはだんだんと小さくなっていく。


手のひらに乗る程度の大きさになった黒い燻りがミシルの元にフラフラと漂って来た。


そして、ミシルの光に当たって黒いものが消え、指の先程度の光の玉に変わり、空に昇って行く。


一つ、二つ、と数えられたものが、数え切れないほどになったのは直ぐだった。


シロウとクロウの風が黒い燻りを風に乗せてミシルの元に誘導し、光の玉をまた風で導く。


亀様がそっと《昇天していくぞ》と言った。


魔力が抜けすぎると力が抜ける。この感覚はミシルとの特訓で掴んだ。


青龍から鍛練場の地面に降り立ち、ポケットに入れていた劇マズ魔力回復薬を飲む。三本。


残る脅威は鍛練場の空にいっぱいにまで近づいた火の玉。距離にすればまだ余裕だけど、劇マズ発動タイムリミット約二十秒。頑張れ私!


亀様の力を借りて具現化したのは巨大な扇子。

日本舞踊で使われるような形の白い扇子は、私の掲げた両腕の上空で広がった。


オオオオオオオオォォゥンン・・・


亀様が吼えた。

扇子が青い炎をあげる。

ざわつく鍛練場。

でも、火の玉の勢いはピタリと止まった。


ガンッ!


扇子と火の玉の距離は開いているけれど、その圧は私に掛かる。


「ぐぅっ!?」


重い

足が地面にめり込む。足の筋肉がブチブチ鳴りそう。

亀様ガードがあってこれか。

痛い

苦しい

だけど。

負ける気がしない。


扇子の青い炎が白い炎に変わった。


すると、火の玉から一部の紅い炎が糸の様に扇子の白い炎に移りだした。


またざわつく鍛練場。

だけど、白い炎はそのままだ。白い色を保っている。

そうして糸のようだった紅い炎はロープの太さになり、あっという間に扇子全体で受けるくらいの量になった。


扇子はびくともしないけど私の体はギシギシ鳴っている。

・・・まだ、大丈夫・・・!

皆の力が私を支えてくれている。

まだ、大丈夫!


「負けるかあああああ!!」


叫びと共に魔力を注ぐと、扇子の一番端がじりじりと動いた。


パチン


扇子が一つ畳まれた。

同時に火の玉が綺麗に十分の一消えた。

だけど火の玉から扇子に注がれる紅い炎の勢いは止まらない。

ダムの放流のようだ。

足がさらに地面にめり込む。


「はぁぁぁあああああ!!」


パチン


また一つ畳まれた。火の玉がさらに十分の一欠けた。


「もいっちょおおおお!!」


パチン


急に火の玉が半分ほどになった。移る紅い炎の勢いが落ちた。欠けた部分を抜いてもさらに小さくなった気がする。

だけど、一つ畳む度に私の魔力もごっそり持って行かれる。

だからって今止めるわけにはいかない。

あと少し。


「あ、と、すこし!!」


パチン


もはや火の玉はその形を保てなくなった。

ただの炎は、そして。


パチン


扇子が全部閉じたと同時に、火の玉は綺麗に消えた。


その余韻と共に、閉じた扇子は小さく小さく小さく変化し、最後に紅い玉が残った。


《第二波は無い。よくやったな》


亀様の言葉に安心し、圧が無くなると急に軽くなった体がよろめく。

そして、私に襲いかかるものが。


「ふがっ!? にがぁああああいぃい!!」


緊張が切れたからか、苦味大爆発。

のたうち回る私! 苦い苦い苦い苦い!? 誰か助けて~!


《だ、大丈夫か? 主よ》


《何があった!?》


風はそのままに、地面に転がる私に近寄るシロクロ。

この苦味はモフモフでも癒せない~~! でも心配はありがとう。大丈夫じゃないけど大丈夫!

ううぅ苦くて涙が出る・・・!?


そんな事になっても、ミシルから昇って行く光は綺麗に見えた。

空が青い。


一人で暴れている内に苦味は収まったけど、もう起き上がれない。


向こうの方で歓声が上がった。


あぁ、空が青い。


「大丈夫? 水を持って来ようか?」


・・・アンディはいっつも空を背負(しょ)ってるなぁ。

青空でもキラキラ、夜空でも星明かりがキラキラ・・・いっつもキラキラ~。

・・・苦味で思考もおかしくなったか? 三本は危険だ。一気は危険!もう飲まない!


置いといて。

まあ、水も欲しいけど、手を繋いで欲しくて右手を伸ばす。

すぐに握ってくれた。

そして私の涙を手で拭って、少し抱き起こしてくれた。

・・・あー、生きてる音がする・・・


アンディがふっと笑った。


「お疲れさま。任せきりになっちゃったね」


アンディの魔力ももらったよ。アンディこそ大丈夫?


「うん、大丈夫。普通に動けるよ」


良かった。


「お嬢~っ!」


最後の光を昇天させてミシルが降りて来た。青龍はすぐにタツノオトシゴに変わる。


「全部任せてごめんね・・・うぅ!」


ミシルはボロボロと泣いていた。ミシルこそどうした!?


《昇って行った全ての魂が礼を言っていた》


タツノオトシゴがなぜか誇らしげに言った。

・・・あぁ、そっか・・・良かった。・・・良かった。

空いていた左手をミシルに伸ばす。

ミシルがいたから、こんなんで済んだんだよ。お疲れさま。


「今、回復するね」


これだ。浄化だって魔力消費が激しいのに。

アンディがジーン王子にエンプツィー様が一番だと誤魔化したけど、私もまだそう(・・)だろうと思っていたけど、やっぱりミシルの魔力は膨大だ。

ああでも、今は青龍の影響もあるのかもしれない。


あたたかいモノが私の体に注がれていく。

あー、気持ちいいー、寝そう・・・


「こんな衆人環視の中で寝顔をさらすなんて、はしたなくてよ」


軽やかな声のビアンカ様がすぐそばまで来ていた。


いやもう、どーでもいいって言うか、どーでもいいです。


「サレスティア、ここで寝てしまうとアンドレイに姫抱っこされるわよ?」


エリザベス様がフフフと楽し気だ。うえ、姫抱っこか~・・・

チラリとアンディを見るといい笑顔を返された。

うん、頑張る、立つ、立つよ、一人で歩くよ!


隣でミシルが小さく笑う。


「お嬢様お疲れ様でした。お水を用意しました。皆様の分もありますので、どうぞお飲み下さい」


ありがとうルルー。


「よくぞ、やり遂げられましたね」


コップを受け取る時に合ったルルーの目が潤んでいた。


「・・・皆が、いたから」


声が掠れたので水を飲む。


「皆がいたからね」


微笑んでコップを受け取ったルルーは、すでに動いていたマークと水を配りに行った。


アンディとミシルに支えられながら立ち上がる。

状況のすり合わせをしようとエンプツィー様たちを探すと、ジーン王子とチェンがこちらに来た。


「二人とも怪我はない?」


ジーン王子がガックリとした。何だ。


「あんな事をしておいて、俺たちにまで気を配るのか。どこまでお人好しだよ・・・」


「そんなの、困った時はお互い様よ~。ハスブナルでは言わない?」


「言うが・・・困ったの規模がおかしいだろう」


「そりゃあ私だって亀様やミシルがいなければ逃げ出したわよ」


「え、何で私、亀様と同列なの?」


「え?あぁ、青龍込みってことで」


えぇ~? それならしょうがない、かな? とミシルが悩んだ。


「とりあえず後は俺たちに任せて、ドロードラングとミシルは生徒たちと一緒に休むといい」


ルーベンス様がそう言うと、


「そうね。元気そうに見えるけど休みなさいな。ルーベンス様、魔法使いは自室に戻し、具合を悪くした者は保健室に分けましょう。教師たちはさすがに動けていますけど、何人かはふらふらですわ」


ビアンカ様も同じように言った。


「アンドレイはドロードラングにつけ。そうだな、エリザベスも一緒に行ってくれ。俺たちはシュナイルがいればどうにでもなる。それに玄武の守りがあるのだろう? 事後処理だけだ、心配要らん」


微かに笑うルーベンス様に躊躇いながらも頷くアンディ。

それを確認したルーベンス様が私とミシルに頭を下げた。ビアンカ様もそれに続く。


「アーライルを、(みな)を守ってくれて感謝する」


ミシルは真っ青になってあたふたした。

それがおかしくて笑ってしまった。


「アーライルを守る事はドロードラングを守る事になりますので」


ルーベンス様が苦笑する。


「ふっ。ドロードラングありきか」


だって領主だもん。


んじゃお言葉に甘えて部屋に戻ろうっと。








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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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