続続43話 反省房です。<美味しい>
「何なんだよお前の婚約者は。色々おかしいだろ」
「む。お嬢の可愛いさが分からないなんて君もまだまだだね」
「可愛いって次元か、四神付きだぞ。あとアンドレイ、年上を敬え。あ、それなネギもっとかけろよ旨いぞ」
「敬う要素がどこにあるのさ。たかだか5才のサバ読みだろ。本当だ!美味しい。ジーン、チェン、こっちのタレも美味しいよ」
「お!旨っ何だコレ!」
「うまーい! ジーン、これさ酢だけで食べても美味しいんだよ!」
「そっか? チェンはそれがすっかり気に入ったんだな・・・すっぱっ!? 無理っ!?」
胃袋を掴むって大事だよね~。
「私も次までにははしを使えるようになるわ! フォークじゃ綺麗に食べられない!」
「でも、一口で全てを入れてしまうと熱いですわよ?」
「それが良いのよエリザベス。ナイフで切ったら中のスープがこぼれてもったいないわ。ほらクリス、貴女のぎょーざ、きっと美味しさが半減してるわよ?」
「それもそうですね・・・私もはしの練習をしましょう。ビアンカ様、お時間が合えばご一緒させていただけませんか?」
「クリス、私も一緒にしたいわ。良いかしらビアンカ?」
「良いわよ。エリザベスも一緒にしましょう。良いわよね?サレスティア」
へーい。なんぼでも焼きますよ~。
「ドロードラング領には色々と珍しい物があるんだな、ハンク殿」
「はい、シュナイル殿下。珍しい物は大抵お嬢の発案です」
「珍しい物・・・アイスクリームか」
「寮食堂の『からあげ』も美味しいですよ、兄上」
「何だシュナイル、食堂でも食べているのか?」
「はい、恥ずかしながら足りないので。モーズレイたちと共に食堂の従業員とも懇意になりましたので、時間外に融通してもらってます」
「・・・お前の食欲、果てしないな・・・」
「いえいえ、ルーベンス殿下。食欲ならばうちのお嬢の方が果てしないですよ。それに私から見れば殿下たちはまだまだ育ち盛りです。温かい物をたくさん食べて下さい」
少年少女が和気あいあいとご飯を食べるって良いよね!
「・・・私、ここにいていいのかな・・・?」
もちろんよミシル。ロイヤルな面子勢揃いに若干顔色が青いのはスルー。餃子を包んでもらってばかりで悪いね。でも包み方ってノッてくると楽しいよね。
私とミシルはさっき食べた分で腹パツなので、おさんどんです。
で、なんで王子王女がここに揃ったかと言うと、ジーン王子が起きてからの会話をイヤーカフで聞かせていたから。もちろんエンプツィー様たちも。
で。アンディが一緒に餃子を食べると乱入。それを追いかけてシュナイル様も顔を出し、間もなくビアンカ様が「ズルいわ!私たちもまぜなさい!」とルーベンス様とエリザベス様とクリスティアーナ様を連れて来た。
何でだ・・・せっかく看病を突っぱねたのに。
ぎゅうぎゅうですよ。立食ですよ。どこの居酒屋だよ。お付きさんたちは廊下で食べてます。なんかスンマセン。
「あら、もはやアーライル国で一番安全なのはサレスティアの傍よ。そして美味しいものを食べられるのもサレスティアの傍! ほんともうここ何日かの食事は誰かさんのおかげで全く味気無かったわ。その文句を言う機会がありそうだから来たの。
ジーン、食べたい物はしっかり言いなさい。うちのコックが作れない物はサレスティアが作れるわ。しっかり食べなきゃ考え事だってできないのよ」
ビアンカ様の勢いにたじたじとなりながら「す、すまん」と呟くジーン王子。
「バルツァー国だってハスブナル国の情報は必要なのよ。生憎と四神のような強力な味方はいないけど、魔法使いだっている。戦力はそこそこだと思うわ」
あら、ここで自国の戦力を暴露しちゃうんですかぃ?
「ビアンカ」
「いいえ黙りませんわルーベンス様。バルツァーの戦力は有事の際にはアーライルに必要なもの。嫁ぎ先の問題に出し惜しみなどしませんわ。
さあジーン!アーライル国の物をこれだけ食べて故郷の料理も食べたのよ。さっさと本音を言いなさい!」
・・・え~と、何でそうなる? ビアンカ様ってやっぱ面白いわ~。
チェンがすがるようにジーン王子の袖を掴んだ。その部分を見たジーン王子は難しい顔をする。
そして、エリザベス様の前に移動し、真っ直ぐ向いた。
「エリザベス・・・姫。こちら側としても成立させる気の無かった婚約とはいえ婦女子に対する態度ではなかった。申し訳なかった」
いつかのチェンのように腰よりも頭を下げるジーン王子。
一瞬だけ目を丸くした姫はフと苦笑した。
「・・・ならば、婚約はこちらからお断りしてもよろしくて?」
ジーン王子はゆっくりと起き上がると姫とちょっと笑った。
「もちろんだ」
アンディがホッとした。兄王子たちも。
和やかな雰囲気をビアンカ様が引き締める。
「他には?」
「無い。ああ、ラッカムにも謝るか。ズルして勝ったからな」
「他には?」
「・・・シュナイルを危険にさらしたな」
「他には?」
「・・・あ~・・・」
「ほ・か」
「・・・・・・おい、ルーベンス。お前の婚約者もどうなんだ」
「・・・王妃になろうというのだ。まだまだ可愛いものだ」
「・・・そうか・・・やっぱ城勤めは無理だな、俺」
「今そこは関係ないわ」
「女ってのは世界共通で逆らえないのか・・・叔母を見てるようだ・・・」
「お嬢は可愛いってば」
「やかましいわアンドレイ、お前らは別枠だ」
アンディさん、別枠だってって笑ってるけどさ、どう別枠なのかツッこまないの?
それと、可愛い、多いよ・・・多い!
思わず両手で顔を覆った。粉が顔に付いても構うか。隣でミシルとハンクさん、マークとルルーが笑う。くっ。
「ジーン。お嬢の余裕は四神がいなくても変わらないよ。そして君は今日ついにお嬢の作った物を食べた。美味しいと笑いながら。それがどういう事か分かるかい?」
アンディの言葉に不思議そうな顔のジーン王子とチェン。なぜかビアンカ様とミシルは頷いている。ハンクさん、マーク、ルルー、エリザベス様、シュナイル様、クリスティアーナ様は苦笑。ルーベンス様はポカン。
「君たちはお嬢の陣地に入ったんだ」
「・・・何が言いたい?」
いぶかしむジーン王子とチェンに、アンディはにっこりと微笑んだ。
「お嬢の差しのべた手を取ったんだ。もう君らは二人きりじゃないって事だよ」
一つ間をあけてポカンとする二人。
「・・・あり得ない、昨日の今日だぞ・・・」
「信じなくてももうそうなんだ。僕もそうだったけど、正直戦くよね。
そうだな、何か証拠をというなら、僕らがここに揃った事が証拠だ」
ジーン王子たちに向かって王子王女方が頷く。
ああ、頼もしい。
私はこれから先、何度この背中に守られるのだろう。
チェンがまたはらはらと泣き出した。
ふ、本当に泣き虫。
「・・・旨いなんて嘘でも言える・・・」
俯いたジーン王子が認めないとばかりに言い返す。
「ははっ! あれが演技だと言うなら君はもっと巧く立ち回れたはずだ。それこそ姉上との婚約をきっかけにね。それに何より・・・ふふっ、君の為にチェンが泣きすぎだよ。一番素直だ」
ぼろぼろと涙を流すチェンを呆れたように振り返ったジーン王子が、すぐに噴いた。
「ふっ! やっぱり俺たちには荷が重かったな。ははっ!ひでぇ顔!」
もはやろくに喋れないチェンは、う~っ!と唸りながらポコポコとジーン王子を叩く。
その行為が微笑ましい。
《サレスティア、来たぞ》
亀様の一言に反省房に緊張が走る。チェンの涙も引っ込んだ。
「あら、さっそく? 予想より早いわね」
こちとら腹もいっぱいで準備万端だ。指もポキポキと鳴る。調子は良い。
ふ。フフフフフ。
「じゃあ皆さん広いトコに移動しますよ~。ジーン、狙いはアンタなんだから、ちゃんと近くにいなさいよ」
そうして移動した鍛練場からは、空に二つの太陽が見えた。
・・・あ~、あ~・・・
・・・・・・・・・・・・・・・ぶちっ!!
「うわっ! お嬢がキレたっ!」




