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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
12才です。
140/191

続続42話 発表会です。<浄化>


ボコン、とジーン王子の身体が変な形になった。


それを確認したと同時に私の隣にいたマークが飛び出した。


「ジーン!!」


鍛練場の出入口に立つチェンの叫びに今度は王子の腕が膨れ上がる。


()めるんだ!!」


ガキィィン!!


ジーン王子は今まで両手で振るっていた剣を、膨れ上がった腕の右手だけで振り下ろす。それを受けたシュナイル様が歯を食いしばった。

そして、押さえきれずに体勢を崩す。

そこへ目線の定まらないジーン王子の大きくなった左拳がシュナイル様に迫る。


シュナイル様が吹っ飛ぶ―――


と、シュナイル様はハーメルス団長に間一髪で引っ張られ、同時にマークは右手側からジーン王子にドロップキックをかました。

マークの助走と拳の遠心力も加わり、吹っ飛び転がるジーン王子。盛り上がった皮膚のあちこちから血がピョッと飛び出している。


『捕縛せよ!』


エンプツィー様の言葉に学園長、私が捕縛呪文をそろえて唱える。

魔法は三者三様よりも揃えた方が効果が上がる。金色に光る網が起き上がりかけたジーン王子に被さり、彼を包み込んだ。


「ガアアアアッ!」


モゾモゾとするが網は破れない。

ただ、その体の下に小さな血溜まりができている。


ギャラリーを降りて近くに寄っても、ジーン王子の異様さが収まらない。盛り上がった肉は引っ込んだり再度盛り上がったり。グロい。

エンプツィー様も学園長も難しい顔をしている。


「ジ、ジーン・・・」


駆けよって来たけども蒼白でガタガタ震えるチェンの胸ぐらを掴む。

ジーン王子は「ガアアア!」としか叫ばない。

チェンに理由を聞くしかなかった。


「あんたたちは何をしたの!? このままでどうなるの!? 正直に言いなさい!」


この至近距離で怒鳴ってもチェンのその目はジーンを凝視している。


「じ、ジーンは、助かるの?」


王子を見つめながら誰ともなしに質問をするチェン。


「助かるかどうかをあんたに聞いてるの!」


やっと私の声が届いたのか、さらに蒼白になり小刻みに震えだした。


「そ、そんなの、し、知らない! ちょっと力が増すだけだって言われたのにこんな事になるなんて! 飲んだ後少し苦しそうだったからヤバイ物かと思ったけどすぐに治ったんだ。まさかこんな事に・・・ジーン!ジーン!?」


すがりつく様な手をジーン王子に伸ばすチェンを殴りつけた。

不用意に近づくんじゃないっての!

地面に仰向けに倒れたチェンに馬乗りになり、また胸ぐらを掴む。


「だったら知ってる事を全部吐け!!」


情報を全て出さんかい!

私に焦点のあったチェンは、自分のポケットにそれ(・・)が入っていると言う。急いで取り出したそれは、赤黒い宝石のような輝きがあり、飴のようにも見えた。


《血か》


亀様の一言に一瞬、怒りで目眩がした。

これを飲んだ?


「く、国を離れる時に、国王様からいただいたんだ。飲めば一時(いっとき)力が増すと・・・え、血? これが? え、誰の(・・)?」


「ガ、ガガアアアッ・・・」


まるで獣の様なジーン王子の声。苦しそうにも聞こえるからか、チェンが慌てる。


「! ジーン!?ジーン! しっかり! ジーン!」


足までも膨れだした。魔法の網に食い込んで皮膚がはち切れそうだ。

エンプツィー様も学園長も真剣にジーンを見ている。

チェンの叫びが裏返る。


「浄化、してみましょう」


「うむ。それが効くといいのじゃがな」


学園長の言葉にエンプツィー様が返すと、二人がこちらを見た。


「これが黒魔法が禁術と言われる理由じゃ。浄化も多大な魔力を使う。お嬢でも足りん時は亀様、頼むぞぃ」


《了解した》


エンプツィー様と学園長がその場から動けないジーン王子を挟んで向かい合う。

揃って両手で(いん)らしきものを次々と組みながら呪文を唱える。だんだんと二人から清浄な光が表れ、光は(たかぶ)る。


「「 はあっ! 」」


ジーン王子に向かって突き出した両手を伝って、光が彼を包む。


「ぎ!が!アアァア!」


柔らかな清浄な光に包まれた途端に苦しみだすジーン王子。ビクンビクンとその場で大きく痙攣するが網は離れない。


「ジーン!ジーン!」


マークに押さえつけられながらも必死に叫ぶチェン。

私も深呼吸をしながら浄化の光に魔力を注ぐ。


そして学園長の額に汗が光る頃、やっとジーン王子は大人しくなり、体も元に戻った。意識はない。


「ジーン!?ジーン!」


「意識は無いけど安全でもないわ。確認が取れるまで近づかないで」


私の声が聞こえないのか、チェンはジーン王子を呼び続ける。

正直どんな事になったのかさっぱり分からない。浄化の経験は今回が初めてだから。『確認』とはどんな事をするのかと自分でツッこむ。

チェンをマークに羽交い締めにしてもらったまま、私はエンプツィー様たちの元へ行く。


「ふぅ。とりあえず浄化は成功のようじゃな」


「いやいや疲れますね。助かりましたドロードラングさん。お疲れさまでした」


《うむ。綺麗になったな。会場では他に動きは無かったぞ》


「ありがとう亀様。学園長、エンプツィー様、これからどうしますか?」


「まあ、王族のいる前でやらかしたからのぅ・・・ジーン王子は牢に入れられるじゃろうなぁ」


そうでしょうねと学園長も難しい顔になる。


「意識が戻った後にどれだけの事を白状するかによるか?」


「これだけの証人がいる中で牢に入れないというのはできないでしょうし・・・学生の失敗というには事が大きすぎました・・・これだけの事をやって素直に尋問に答えるかどうか・・・」


《ならば我が取り持とう》


青いタツノオトシゴがふわりと現れる。


《我が王子に張り付こう。それでどうだ、アーライル王よ?》


タツノオトシゴが仰いだ先には王族席から移動してきた国王がいた。ほんとフットワーク軽いな!


「そうだな。青龍殿が付いているなら我が国一堅固な牢よりも学園の反省房でも安心だろう。ただし、事が明らかになるまでジーン王子は反省房から出ることは許さん。王子のお付きも同室を許す。二人まとめておくように」


おお、寛大だな!

という事は私らに任せてくれるという事か。

学園長も畏まりましたと了承。

それを確認して王は少しげんなりとした。ん?


「それはそれとして決勝戦はどうする? シュナイルの優勝で良いか?」


おおぅ、そうだった。決勝戦だったね。学園長を見るとちょっと困っていた。ですよね、忘れてましたね。


「シュナイル君が優勝でいいでしょう。準決勝も見てましたけど予想がつく程度には差がありましたよ。だから彼は奥の手(・・・)を使ったんじゃないですかね?」


ハーメルス団長がシュナイル様を連れて近くまで来た。

学生相手として「君」付けだ。


「・・・あれに敵わないようでは優勝も嬉しくないですね・・・」


「オイオイ。あんな学生(・・)そうそういないからな。大人の出る幕無くなっちまうから」


悔しそうなシュナイル様に呆れる団長がふと私を見る。

それにつられてか、シュナイル様もエンプツィー様も学園長までこちらを見る。

ん?何か?


あんな学生(・・・・・)そうそういないんだよ、本来は」


団長、人に指を差してはいけません!




***




・・・・・・。


・・・歌が聞こえる。


歌なんて、国から無くなって何年経つのか。

チェンすらもう歌わない。


俺は、どうしたら良かったのか。

懺悔しても、どうにもならない。

チェンが寂しいと言うから、今生きているだけ。


・・・この歌は、かあさんのと違う。

でも、似てる。



目が覚めると、見慣れない天井だった。

あてがわれた部屋ではないが、見知らぬ部屋だ。まあ、他の個人部屋がどんな造りか知らないが。


寝床は若干質素なようだ。体が強ばっている気がする。自分の右手はチェンが握っていた。そのチェンは突っ伏して寝ているようだ。


「あ、気がつきましたね」


左側から女の声がし、そちらを見れば、青龍憑きの女、ミシルが椅子に座っていた。その手には刺繍のやりかけがある。


「気分はどうですか?」


チェンを起こさぬようにか、小声で聞いてくる。


「さっきまで起きていたんですけど、寝ちゃいました。チェンさんも休息が必要なのでそのままにさせて下さいね」


そう言いながらも、失礼しますと俺の(ひたい)に手を置く。

払いのけようとしたが、体が動かなかった。


「熱は無し、と」


その後手首の脈を計る。


「ちょっとゆっくりかな? でも寝てたし・・・うーん。あ、水を飲みましょう」


そう言うと、俺の頭を起こしてクッションを差し入れた。何個か繰り返して少し上体を起こす。何なんだ、体が重い。


「少しずつ匙で入れますね」


椀の水を匙ですくい、口に入れてくる。

甘い。

水を初めて旨いと思った。


椀の水を飲み干す頃には眠くなった。

チェンはまだ起きない。

ミシルはまた俺を横にし、


「一度起きた事はチェンさんに伝えますから。もう少し寝て下さいね」


微笑んだ。


・・・あぁ、普通の笑顔だ・・・


何かにほっとしたら、意識が遠のいた。








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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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