続42話 発表会です。<決勝戦>
さて。
学園では今度は行事月間が開始される。
今度は科毎に行われる、発表会?になるのかな。
侍女科、刺繍展示会。
何人かのグループに分かれ、一週間かけて約二メートル四方の布に刺繍をし、デザインや色合い等を競う。最後の一時間分はホールで王妃の前で仕上げる。最高賞は王妃賞。王家付き侍女へのスカウト有り。
文官科、戦略発表会。
こちらもグループでの戦略シミュレーション。将棋やチェスの様なもので、何人かでグループを組んでのトーナメント制。前日にくじ引きにて自軍の割り当て兵力を知り、作戦をたてる。時間制限は一試合五時間。最終日に上位二組は宰相と騎士団長を相手にするという極悪仕様。最高賞は宰相賞。宰相府へのスカウト有り。
騎士科、勝ち抜き戦。
個人参加のトーナメント制。学年関係無し。わかり易い! ただし武器は剣及び体術のみ。この制限は要人のそばで所持できる武器が少ない為。上位者は騎士団長からの近衛へのスカウト有り。
魔法科、勝ち抜き戦。
こちらも個人参加のトーナメント制。ただし、魔力を出しきってしまうと命の危険がある為、一試合十分内の時間制限有り。この魔力差をなくすように物理攻撃も可。ただし物理攻撃のみは不可。上位者は学園長からの貴族への推薦状がもらえる。
これらを一ヶ月使って、この順に一週ずつ行っていくそうだ。
スカウトや推薦があるので、三年生はより気合いが入る。
それはそうと、他の科の見学、応援ができるのはいいよね~。
***
侍女科、刺繍展示会、結果。
やはり三年生のできばえが素晴らしい。二年生も新しいデザインがあったりして、審査員の王妃たち、その侍女さんたちは目を輝かせていた。
キャシー先輩たちの平民グループが貴族お嬢様グループを押さえての優勝。凄い!
***
文官科、戦略発表会、結果。
やはりここも上位は三年生が占めた。
優勝はルーベンス殿下率いる貴族グループ。インテリ集団だよ!
ルーベンス殿下の采配が光り、将来安泰と思っていたら、宰相にこてんぱんという結果。・・・大人気な~い。
やっぱ宰相って腹黒じゃないとイカンのだね・・・
***
そして今日は、騎士科勝ち抜き戦の初日。
朝にくじ引きで順番を決め、大会専用鍛練場に貼り出されると、三十分後には第一試合だ。
「わはは~、さすがくじ。偏りがスゴいね!」
私が笑うと、トーナメント表を見ていた騎士科一年生たちが涙目で振り返る。
「笑い事じゃないよ! 俺初戦がアイス先輩だよっ!? 奇跡が起こって勝ったとしても相手が三年生ばかりなんて!」「俺なんて三戦は一年が続くけど、その後にラッカム先輩だぜ。勝ち進んでも嬉しくないわー」「こっちの組はシュナイル殿下だぞ・・・俺、何分持つんだ・・・?」
「まあそんな時もあるって。知らない相手じゃないから少しは落ち着けるぞ」
騎士科の一年生たちがマークに慰められている。合宿でも何度か手合わせしていたし、放課後の練習だってアイス先輩やシュナイル先輩の指導を受けている。強さを知っているからこそ、手段を考えられる。
「俺、何もかも勝てませんけど・・・でも、一太刀くらいはいいのを入れられるように頑張ります」
うん、頑張れ。
最終日。午前に準決勝、午後に決勝戦。
「まさか準決勝がこの四人になるとはね~」
シュナイル様対アイス先輩。
ラッカム先輩対ジーン王子。
「そうか? まあ、お嬢は練習を見てるわけじゃないからそう思うか。ジーン王子はなかなかやるよ、嫌みは直らないけどな」
マーク的には予想通りだったのか朗らかに言う。
騎士科の放課後練習には参加しないが、チェンを相手に夜に練習していたジーン王子のところにマークが無理矢理参加。
マークの図太さには感心するわ~。
「是非と言うから相手をしてやっただけだし。お前になかなかなどと言われる筋合いはないんだけど」
急に後ろからジーン王子に声を掛けられた。
「俺のは才能。ラッカムのは力任せ。王族と下っぱ貴族の違いを今日は思い知らせてやるさ。ふん、お前の田舎剣に教わることなど何もないよ」
はあ?
がしっとルルーが私の腕を掴む。お付きのチェンは王子の後ろで困った顔をしているが、言われるマークはユルい顔だ。
・・・マークが気にしてないならいいけど。
口を歪めて鼻を鳴らして去っていく王子。
う~ん、会えば挨拶のように嫌みは言われるけど、あれ以来ミシルにも特に近づいて来ない。
・・・地雷ではなかったのか。う~ん。
「なんかさ、威張ろうとする姿が微笑ましいよな~」
・・・マークよ。懐が大きいを通り越して弛くないか?
シュナイル様とアイス先輩は予想以上に接戦だった。
クラウスとの手合わせが効いたのか、アイス先輩の殿下への遠慮が無くなった。
殿下の方が強くて当たり前。
そんな考えでは守れないと気付いたアイス先輩の伸びしろが殿下へ迫った。
常に無表情なシュナイル様が、笑う。
結果はシュナイル様の勝利だったけど二人とも楽しそうだった。
続いてラッカム先輩対ジーン王子は、予想以上にジーン王子が圧した。
あのひょろっこい体のどこにラッカム先輩を圧倒するパワーがあるのか。ラッカム先輩も以前にノしたジーン王子と違うと感じたのか攻めあぐねている。
「力の流し方は教えたけど・・・あの力強さは何だ・・・?」
マークの呟きが聞こえた。
結果はジーン王子の勝利。剣を弾かれたラッカム先輩にジーン王子が剣を突き付けたところで終了。鍛練場は騒然となった。
《マークの疑問への答えになるかは分からんが、魔力感知に掛からん程度の魔力を感じる》
亀様が小さく教えてくれた。
でも、私には分からない。ドロードラング製の義手に似た物? ジーン王子は半袖体操着だけど、義手の繋ぎ目なんて分からない。うちの技術は近隣では今のところトップだ。それでも繋ぎ目は分かる。
ハスブナル国にそんな技術があるとは聞いてないし、うちからも義手義足は他領に売り出していない。もちろん盗まれてもいない。
使っている剣は学園の物だし、大会中は不正の無いように学園長預かりになる。魔法剣は無い。
エンプツィー様が通信で何も言って来ないところをみると、気付いていないのか不正無しと判断したか。
外に対して害が無いから放っているのか。
対戦相手のラッカム先輩は少々の怪我はあるが、それはジーン王子も同じ事。
マークが違和感を言わなければ私たちには普通の剣同士の試合にしか見えなかった。
「見た感じは顔色も悪くないし足取りもいつも通り。亀様が感じた魔力がどう作用したのか分からないな・・・力か・・・ならどうやって?」
マークがジーン王子をじっと見ながら呟く。
亀様が分からないなら私にも分からない。学園長には一応報告しよう。
「チェンの方は顔色が悪いですね」
ルルーの言葉にそちらを見れば、言われれば確かにそんな感じがする。だけど問題児に付いている彼は常にあんな顔だ。
私には分からない・・・
「俺もルルーの見立ては合ってると思う。チェンにちょっと聞いてくる。亀様、ルルー、お嬢を頼む」
そうしてマークはさっさと行った。
「・・・マークには正直に言うと思う?」
「言わないでしょうね」
だよね。
十分な休憩と治癒を行っての決勝戦。
なんと騎士団長が二人の身なりや使用する剣のチェックをする。それが慣例なんだそうだ。
そして審判も団長がつとめる。
「始め!」
ハーメルス騎士団長の合図にシュナイル先輩、ジーン王子がぶつかり合う。
ガキン!ガキン!と音が途切れない。
「なんだか・・・二人とも力ずくね。チェンから何か聞き出せたの?」
「いや何も。何もないってさ」
「で? マークはどう思うの?」
「俺には分からないから聞きに行ったんだって。必勝祈願のお呪いをしたってんならそれだけの事だ。血の匂いもしなかったし。・・・何でこんなに気になるんだろうな?」
黒魔法を使ったなら血の匂いはスラム育ちのマークには嗅ぎとれるらしい。
だから私が使う時は血にコーティングをする。何となく嫌だからそうしたのだけど、試しにコーティング無しにしたら、マークは「臭い」と言った。一ミリ程度の血でも。
でもチェンからもジーン王子からもしなかったと言う。
勝てますようにと、神頼みなら誰だってする。意味も分からず魔法を使ってしまったのだろうか? 微弱とはいえチェンには魔力がある。
亀様が感知した微弱な魔力をエンプツィー様、学園長は気づいていた。
学園長は王族席の側にいなければならない。
なので学園長を起点にエンプツィー様と私とで三角形になるように場所を動いた。三方向からの目なら何かを見つけやすいだろうと。
会場内の事はアイス先輩たちに頼んだ。
決勝戦は気になるが不安があるならそちらが大事だと先輩は言ってくれた。
何もないならそれでいい。
そう思った矢先。
ジーン王子の背中の肉が服を破って盛り上がった。




