41話 ダンス会です。
秋というなら、運動会や学芸会、音楽発表会などなど色々と前世の思い出があるけれど、アーライル学園では創立直後からの伝統行事のダンス会がある。
競技として行うのではなく、社交界で立派に踊りきれるようにとただただ踊るだけらしい。授業の一環なので体操着だ。かろうじて女子は体操着素材のワンピースではあるが、裾さばきの為であり色気も何も無い。
まあ、ダンスはその授業もあるので平民でもそれなりに踊れる。
だけど。
慣れているはずなのに先輩方は肩を落とす。
ダンスは嫌いじゃないけど、と肩を落とす。
なぜか。
六時間耐久ダンス会だからである。
ア・ホ・かっ!?
「本っ当、この、企画、だ、誰が、たてたの!?」
フラフラになったビアンカ様が保健室に担ぎ込まれて、私と目が合うとそうぼやいた。
ですよねぇ。
私とミシルは今日は保健室に常駐で、途中で力尽きた皆を回復中。
教師以外の回復役に一年生から抜擢された理由は、最後の最後には亀様と青龍に手伝ってもらえるから。
三年生はペース配分ができてるのであまり運ばれないが、体力のない一部の二年生や初心者の一年生が続々と運ばれてくる。続々と。
一番広いホールでも全生徒の半分が踊れば一杯になる。
まあ、そこは余裕をもって学年毎に踊るのだけれど、パートナーが他の学年なら人数調整が入る。
一曲ずつの学年交代制。開始から二時間後あたりから続々と運ばれてくる。
一応昼休憩は三十分で(それも交代制)、単純な話五分踊ったら十分休憩なので厳密には六時間ぶっ通しではないんだけど。
私、回復魔法を使えて良かった!
学校の持久走大会とか嫌いだったけど、六時間も踊るなら一時間だらだら走るだけの方が断然良かったわー。
とにかく水分は各種たくさんホールに揃えてあるし、軽食(主にお菓子)も常備。トイレも交代中に済まさなければならない。
パートナーは固定なので、ダンス中の怪我や体力回復の治療のために保健室へ行くのもそのペアで。そして交代時間外までかかったらその分の時間は延長になる。
なんて極悪仕様だ。そりゃあビアンカ様も口調が崩れるよ。
せめてホール脇に回復場所を設置すればいいものを、そういう姿も見せないようにしなければならないとかで却下。
貴族って大変。
ビアンカ様を連れて来たのはもちろんルーベンス殿下。
婚約者がお互い在学中ならペアになるのは絶対。
まあ、卒業してしまったり入学前だったり、体力的に無理だったりした場合はお付きが相手でも良いそうだ。ちなみにお付きは交代可。
しかし・・・体操着の王子と姫・・・微妙かと思えば何でも着こなすなぁ。アンディも野良仕事の作業着も似合うもんなぁ。王族クオリティ? 羨ましい。
保健室にはお付きたちも来ているが、ルーベンス様だけで間に合ったよう。
殿下はまだ大丈夫そうだ。
学園医マージさんの見立てでミシルがビアンカ様を回復。
夏休みの集中特訓でミシル自身の治癒・回復魔法はグンとアップした。その柔らかい光がビアンカ様を包む。
それを横目に私は他の人を何人かまとめて回復中。
ホールにも保健室にもお昼ご飯の他におやつがどっさりとある。
踊りの合間に食べ、私ら回復役も食べて体力補充だ。
もちろんギルドでも売ってるような魔力回復薬も置いてある。
コレが驚くほど苦い! MP回復してもHPが減る! 元気ハツラツなサイズの茶色瓶に入っている中身の液体は紫色。無臭なのに、三十秒後に苦味を感じるという不思議仕様。一気に飲めってこういう事か!
元気にのたうちまわりましたよ! だって言葉にならないんだもん!
「ほっほっほっ! コレを初めて飲む者の姿はやっぱり面白いのう!」
こんのオタク爺ィ~~っ!!
薬草班チムリさんに改良してもらおう早急に! だって私魔法使いだから!何かあった時には飲まなきゃならないから!
ドロードラング領が平和でほんと良かった!
「ふぅ。ありがとう。さ、行きましょうルーベンス様!」
「いやもう少し待とう。あと五分は座っているといい」
「でもここにいた分が延長になってしまいますよ。今日もお仕事があるのでしょう?」
「大丈夫だ。ダンス会の日は少し融通が利くから」
「その分休めないではないですか。私は今日の勉強は免除してもらえましたので、最後に倒れても大丈夫ですから」
休めと言う殿下と行きましょうと頑張るビアンカ様。
・・・仲良さげだね。と、ミシルとアイコンタクト。
こういうやり取りって微笑ましいね~。仕事のパートナーみたいで好き合っているかまでは分からないけど。
ダンス会の最後には全員回復を掛けるらしいので、体は元気になるんだけどね。気持ちはねぇ・・・
「ビアンカ様、少し休むのも大事ですよ。ルーベンス様、一人だけ立たれていては気になりますので、すみませんがそこの簡易椅子を出してビアンカ様の隣に座って下さい」
ああ、とルーベンス殿下が素直に簡易椅子を出して座る。
申し訳なさそうながら、ほっとするビアンカ様。
「あの、申し訳ありません。何度も休んでしまって・・・」
「いや。ビアンカはよくやっている。気にしなくていい」
「でも、シュナイル様とクリスティアーナ様はきちんとしてますわ・・・エリザベス様だって・・・」
「気にするな」
へぇ。ルーベンス様、そういうフォローするんだー。
「私もシュナイル様の様に体力があれば良かったです・・・」
マッチョの美少女がポンッと浮かぶ。
「ブハッ!ないない!そんなビアンカ様気持ち悪い! つーか何でシュナイル様を例えにするんですか、そこはエリザベス様でしょう!」
「サレスティア! あなたどんな想像しているの!? 気持ち悪いって何!?」
「可愛い顔した、体は筋肉ムキムキ女子の想像です」
ポカンとするビアンカ様。隣ではルーベンス様が無表情。
「・・・え? ちょっと想像できないのだけど?」
「じゃあ今度騎士科を見学してみて下さいよ。鍛練後は何人か服を脱いでますからそれに自分の顔を置いて下さい。・・・ブハッ!逆に面白くなってきたー!」
「何で男性の肌をわざわざ見なければならないの!?」
「何言ってんですか、確実な治療をするのに服を破いたりするんですよ。こっちが恥ずかしがっていたら死んじゃうじゃないですか」
あ、ビアンカ様の眉間にしわが。
「・・・前々から思っていたけど、あなたどんな生活をしているの・・・?」
「普通です」
「嘘!もう付き合っていられないわ、行きましょうルーベンス様! サレスティア!私で余計な想像はしないでちょうだい!」
お世話さま!と表情の分からないルーベンス殿下を連れて出ていったビアンカ様。
それを見送ってミシルが笑った。
「もうお嬢、もう少しゆっくりさせてあげれば良かったのに」
だって~。
「ビアンカ様って優しいね。私にもお世話さまって目を合わせてくれたよ」
可愛い人だよね! ツンになりきれないところが可愛いよね~!
「は~良いもの見た! 可愛い人は怒っていても可愛いね~。じゃ私たちもそろそろ行こっかウルリ?」
他の生徒がビアンカ様の様子に呆気にとられる中、いつも通りの人物が。あんたも大物だと思うよ、スミィ。
「そうだねスミィ。じゃあドロードラング先生、ミシル、ありがとうございました。行ってきます。・・・また来ると思うけど・・・」
げんなりとそう言いながらスミィに手を差し出すウルリ。ここら辺ちゃんと貴族だよね~。
「何度でも来なさい。回復は任せなさいな」
私とミシルが片腕を上げてまったく盛り上がらない力こぶを作ると、二人は笑って出て行った。他にいた生徒たちも笑いながら出て行く。行ってらっしゃい!
それと入れ替わりにアンディが顔を出す。
「こっちも少し落ち着いた? お茶していい?」
実はアンディも回復役。一室では足りないだろうと保健室の隣の空き部屋も使っている。ダンス会のための部屋なんだって・・・
この二部屋に、回復魔法指導の教師と、回復の得意な生徒(私らを入れて十人。アンディ以外は三年生)がいる。
アンディが回復役にならなければその相手として私もダンス会に参加することになるので本当に助かった!
でも在学中に一度は参加しなければならないらしく、それを聞いたミシルがガッカリしていた。
アンディは一年生で参加したので来年も回復役として免除組。私は一応教師なので回復役のまま・・・のはず。




