続続40話 注意しましょう。<ヤキモチ>
例の王子が来てからエンプツィー様が逃亡しない。
毎日通常の授業ができている。私が脅さなくてもできるんじゃん。
今日もそんなことを思いつつ授業の手伝いをしていると、
『エンプツィー様! 騎士科の授業で怪我人が!』
二年担当の教師が通信機で叫んだ。
今回、イヤーカフ通信機を学園の教師全てに配付した。もちろん合宿組の生徒にも。
魔法科の教師たちは以前エンプツィー様に見せてもらっていたからか、目が光った。
いや、終わったら研究してもらってもいいけども、職をほったらかしにしたら取り上げるからねと脅しました。
騎士科、文官科、侍女科の教師たちは最初は戸惑ったけど、すぐに慣れた。慣れるまではビクッとなって、私とマークとルルーは懐かしいと和んでみたり。
通信機での連絡に即エンプツィー様は私に「頼む!」と言ってその場所へと転移していった。
ざわつく教室で座学の続きをする。
「今、騎士科の授業で怪我人が出たのでエンプツィー先生は治癒をしに行きました。戻られるまでこのまま教本を読み進めますよー」
なるべくあっさりと言ってみたけど、ざわつきはなかなか収まらない。エンプツィー様が呼び出される程の怪我ならどんな事になっているか気になるか。
私も正直気になる。
「私も気になるから後で聞いてどんなだったか教えるけど、もし他言無用の内容が外に漏れるような事があったりしたら、一人残らずシメるからね?」
私の笑顔に教室が凍りつく。
うはは、久しぶりだな、この感じ。
魔法使いが特別だからって、連帯責任を知らないまんま大人になんてさせないからね~。
「は?」
「だから、ラッカム先輩に本気でやれと言って、まんまと返り討ちされただけ。剣の筋は悪くないし力もあるけど、我流だし、相手が悪かったとしか言いようがないな」
もはや騎士科全学年の助手として一日をほぼ鍛練場で過ごしているマークが、エンプツィー様の言伝てを言いに教室に来たついでに教えてくれた。
私のお付きの仕事は? ・・・まあ慣れてきたからいいけども。
「・・・自作自演?」
テッドが呟く。まあ、こちらへの負い目を作るのであればあり得なくはなさそうだ。
だけどマークはあっさりと否定。
「いや、王子は鍛練の時間は真面目に取り組んでるよ。彼のお付きのチェンも感心してたし」
「ということは?」
「煽り過ぎの結果的自滅」
マークが肩をすくめた。
ラッカム先輩とは、騎士科二年で最強の男子生徒だ。惜しくも合宿ジャンケンで負けたけど、アイス先輩やマークの指導を嬉々として受ける、・・・うん、ちょっと、脳筋な人。良く言えば、おおらか。
「ラッカム先輩ん家は伯爵で、ひいじい様が先の戦でハスブナルにやり込められた隊の指揮を取っていたらしいよ」
おぉぅ・・・
先日の暴言事件から、二年騎士科はギスギスしている。その事はもう学園中が知っている。
お付きがどうにか間に入っているみたいだけど、王子は案の定孤立してしまった。
留学先で孤立ってどうなのよ。
最終的な目的が四神なら問題を起こすのは良くない。
いや、何もなくたって良くない。
エリザベス姫と順調に婚約を成立させ(絶対させないけど)、婚姻を結ぶ事になったとしても(絶対させないけど)、その事で私へ融通が利き易くなるだろうとしても(姫のお願いなら聞いちゃう)、孤立は意味がない。
つてはどこでも必要になる。
そして、脳筋を無計画に怒らせてはいけない。加減ができないから。
「で。ラッカム先輩はやり過ぎたということで現在学園の反省房にて反省文を書いてます。骨折と打撲を負ったジーン王子はエンプツィー先生に綺麗に治癒されましたが、大事をとって保健室へ行きました。以上です」
最後だけ丁寧語でまとめた。オイ。そんな報告ドロードラング内だけにしてよ。
教室が微妙な空気になる。私へのマークのこの態度はあっという間に周知されたから今さらなんだけど、なんか色々ごめんね。あんたたちは上司には部下らしく接しなさいねー。
ちなみに言伝ては、エンプツィー様はしばらく王子に付き添うよ、ってことでした。
「あー、ジーン殿下の事はどこからともなく聞き及んではいると思う。良く言えば大変に癖のある人だけど、無駄に無視やいじめをしないように。あと煽られても喧嘩しない。でも何を言われたかは私に教えてちょうだいね」
つい、ため息まじりに言ってしまった。
はい、と一人手を上げる。イヤミ坊っちゃん、パスコー伯爵の三男坊、フィリップ・パスコーだ。
気に入らない相手にはとにかく反発するスタイルで、中学生らしくて微笑ましい。
「なぜ先生に教えなければならないのですか?」
ちょっとふてぶてしく言う姿にマークがそっと噴く。
お前みたいな考え無しが余計な事をしないようにだよ。それに。
「最終的には国王に奏上するわよ? 他国の王子なんだから国賓なのよ一応。こちらが気を使って当たり前の事だし、行動が読めないからと大問題に発展したらそれこそ困るわ。今回の事がどれ程の事になるか、学園長は問い合わせていると思う。
教師だって、いまだジーン王子の性格を把握してる訳じゃない。もしかしたら相手によって対応を変えているかもしれない。
だから、ジーン王子が何を思っているか、どんな考えを持っているかを予想するためよ。それに上手くいけば誰かが本音が聞けるかもしれないし。
喋らせるって、相手を知るには一番有効よ」
プロファイリング。とも言えないけど。
派手な態度や言動は生まれた時からそうして育っていなければ難しいと思ってる。
そういう意味では、アルカイックスマイルが完璧なルーベンス殿下なんて何を思っているかなんて分からない。あまり対峙した事もないけれど。
下町育ちが、実は王子だったからとそんな急に横柄にできるものだろうか?
敵対国に留学するのに、お付き一人、手荷物一つ。
あり得ない。
朱雀をどうにかするだけの力はあるのに、なぜこの二人には何も無いのか。
もしアンディがそうなったら、クラウスとニックさんとヤンさんに護衛を頼み込む。掛けられるだけたくさんの防護魔法を持ち物全てに掛けさせてもらうし、亀様にもアンディから離れないようにお願いする。
そして暇さえあれば会いに行く。と、思う・・・ウザい?
ジーン王子は確かに会えば腹の立つ態度だけど、ただの馬鹿と決定するのもなー。一応王子だし。・・・今回の件はまあ、馬鹿だなとは思うけど。
「貴族なら、それくらいはやれるわよね?」
自分の事を棚上げして、念を押した。
アンディの機嫌が悪い。ホンの少し。たぶん?という程度。
仕事を終え、寮の食堂での食事中にアンディが会いに来てくれたので、さっきの考えを聞いてもらいたくて部屋まで来てもらった。もちろんマークもルルーもいるし、アンディのお付きの四人もいる。ミシルも来てもらった。
入り口すぐの部屋で簡易椅子を人数分出して、飲み物は好きな物をポットから各自注いでもらう。
「その事は僕も思った。何か考えがあっての行動かと見ていたけど、無計画な気もしてきたところだったんだ」
「そうなると、また難しくなりますね。考えが読めないと対応も後手にならざるをえませんし」と、眉間にシワを寄せるウォル・スミール君。
「私らはアンドレイ様の守りに徹しますけど・・・」すまなそうな顔のロナック・ラミエリ君。
「昼食の様子を見ても、こちらの王子や姫に何か仕掛けたりはしていない」ヨジス・ヤッガー君は淡々と言う。
「まあ、役目を全うするのが我らの使命だ」モーガン・ムスチス君もでかい体を何となくしょんぼりさせる。
「俺が彼に付いてもいいですけど、受け入れてもらえますかね~」マークがあっさりと言う。
あぁそれも有りか。でもルルーは付けませんよ!
直接会った事がないミシルは困惑。意見の出しようがない様子。
そんな中で、何かアンディがいつもと違うなと感じた。
ジーン王子については特にこれといった対策もないまま、皆でお茶を飲む。
今回のお茶うけは、散歩ついでに白虎が持ってきた領地の子供たちが作ったクッキー。形は不揃いだけどコーヒー味もあり、ナッツが入っていたりとなかなか美味しい。
皆も食べながら和む。
さて。
と、アンディに近付き、こそっと聞いてみた。
「何かあった?」
少し驚いた顔をして、何で?と言うので、機嫌が悪そうだからとこたえる。それとも具合が悪いの?
アンディはますます驚いて、そして、笑った。
「悪くない。元気だよ」
「本当? アンディは隠すのが上手だからなー」
「まあ、ちょっと苛ついてはいたけどね。今どうでも良くなった」
「え、アンディが苛つくなんて珍しい。原因はなに? 私も手伝うよ?」
フッとまた笑ったアンディが私に爆弾を投下。
「お嬢が何日も、一日中彼の事を考えているのかと思ったら腹が立った。でもその苛つきを見破ってくれたからどうでも良くなった」
皆がそれぞれ会話をする中をこそっとやり取りしてたのに、急にそこだけ普通に言うから皆がこちらを見た。
だからって訳でもなく、アンディの言った事に私の顔が赤くなる。
「僕、そういうの隠すの得意だったんだけど、お嬢に見つかるなら逆に嬉しいな」
輝く笑顔とそのセリフの二段攻撃に、私はドス赤くなるしかなかった・・・
そして、周りはによによとしている。
気がする。
アンディの気が晴れたなら私も嬉しいけど・・・・・・居たたまれないのですがっ!?
※ドス赤い。。。赤より濃い赤。造語。みわかずはグラス一杯の酎ハイでこの顔色になる。ついでにわりとフラフラ(未成年の皆さんこんな説明でごめんなさい)
お疲れさまでした。
ジーン王子の出番が少ないのですが、嫌な奴になってますでしょうか?(笑)
最後の所は私にも癒しでした(笑)
ありがと、お嬢。頑張れ。
ではまた、お会いできますように。




