続40話 注意しましょう。<ジーン・ハスブナル>
新学期。二日目の朝。
学園長が昨日来た転入生を教師たちに紹介する。普段は全員にはしないけど、それなりの人物なのでしなければならない。
どうせ一度で覚えられないだろうけど、一人ずつ彼の前に行き自己紹介。
「へぇ・・・あんたがサレスティア・ドロードラングか。・・・小さいな、本当に教師?」
小さいな? その視線は私の頭から胸に下がる。
・・・どこ見て言ってやがる・・・
「・・・ええ、助手です」
「ああ、おまけか」
・・・コイツ・・・
ジーン・ハスブナル。
ハスブナル国王太子の子。王位継承権第二位らしい王子。らしいというのは、王太子はまだ独身でジーン王子は市井で育った隠し子だという。王太子には下にまだ兄弟があり、そちらに継承権が移る事もなきにしもあらず。
・・・ハスブナル国王って何人子供いるんだよ・・・
ハスブナル国に多い白髪混じりの黒髪。白の割合が多いので灰色に見える。茶色の目は酷薄で、当たり前のように私を見下す。
こいつ、アンディよりデカイな。
「何だその顔?」
ニヤリと口が歪んだ。ジーン王子の後ろに控える彼のお付きが小さく嗜めるが、直らない。
・・・わざわざ買うケンカでもない。
「・・・学園というものに通われるのは初めてと伺いました。担当する学年は異なりますが、よろしくお願いいたします」
殊勝に頭を下げた私に鼻を鳴らし、一人しか連れて来なかったお付きと共に教職部屋を出て行く。このまま担任に連れられ教室へ向かうのだろう。
魔法素養が無かったので、本人の希望でもあった騎士科へ。
魔力を隠していないか亀様に調べてもらったけど、からっきしだった。歳の近そうなお付きの彼にはほんの少しだけあった。
朱雀の力で何かをした様子は無い。
「お嬢はあれじゃな、出会い頭に押さえつけられると反発が顕著じゃな。貴族らしくないのぅ」
遠ざかる足音が消えると、エンプツィー様とともに苦笑する教師たち。
「初対面であの態度。私だけが悪い訳じゃないです」
「敵対国にたった二人で乗り込んでのあの態度。いっそ天晴れですけどねぇ」
ぼそりと言ったら学園長が笑った。
天晴れというのはある。
呪術的な気配もそれ用の道具もない。こっちが想定していた以上に荷物が無かったのだ。二人とも手荷物が一つきり。着ていた服は上等な生地だったから、荷物の量とアンバランスな感じ。
王子だから入寮日に大混雑したような荷物で来ると思ったのに、制服等学園で使う物はアーライル側で用意するとはいえ、何も追加で届いていないことを寮長に聞いて拍子抜けしてしまった。
節約ということなら感心する。
だがしかし、ムカつくものはムカつく!
「まあ、今のところ強い力を持っていないことは分かりましたけども、どんな手を使うかは分かりませんからね。皆さん、油断は禁物ですよ」
学園長の確認に皆頷いた。
「私の胸が小さいのは私のせいだろうか?」
「それは私も自分で思う・・・」
昼。食堂でするにはアウトな会話をミシルとこそこそとしていると、
「胸が大きくたって無駄に狙われるから早くから大きくても良いこと無いわよ。ていうか、まずは二人とももっと太らなきゃ」
苦笑しながら向かいにトレイを置いたキャシー先輩たち。
キャシー先輩は動くのに邪魔になるからと学園に入る前あたりからサラシを巻いていたらしい。
・・・それでも大きくなるのだから、大きくなる何かが私とはちがうんだろな。だってサラシなんて私がしたら育たなそうだ・・・ふん。
「皆と同じものを食ってて同じ行動をしてても違いがあるなら、もうどうしようもないだろ」
黙らっしゃいマーク!
「何かあったの? 例の王子様?」
「出会い頭に。もうそれだけで腹立つったら」
「ああ。お嬢の反応を確かめたかったんじゃないの? 私にもそういう態度をとったら助平確定ね。食堂にはいないわね」
食堂内を見回してから食事を始める。
「一応王子だからロイヤルなお部屋で王子たちと食べるそうですよ」
ああなるほどね~ときれいな所作で食べていくキャシー先輩たち。私とミシルはルルーから食後のお茶を受け取る。
「ね、ハスブナルの王子様ってどんな見た目?」
「賢そう?格好良い?」
キャシー先輩の隣に座るエイミー先輩とシェリル先輩が軽く聞いてくる。この二人も合宿参加者だ。まあ腹が立つような性格としか言ってないので気になるよう。
王子だもんね、それなりに興味はあるか。
「見た目? アンディより大きくてヒョロッとしてます。お付きも背が高くて細っこいです」
「・・・なにそのまるで興味の無い事を全力で前面に押し出した説明は・・・」エイミー先輩ががっかりと呟く。
「それ以外に何も感じなかったもん」
女子力よ・・・と三人の先輩とミシルは苦笑する。
「私らにしちゃ王子というだけで色々と期待するの。ま、お嬢はアンドレイ様がいるから眼中に無くていいんだけど。もうちょっと夢を見させてよ~」シェリル先輩が苦笑する。
「初対面で女子の胸元を見ながら鼻で笑う男など、殴らなかっただけ褒めて欲しいです」
あららよしよしよく我慢したね~、私たちが褒めてあげるから機嫌直して~。
そう言いながら今日のデザートのオレンジを一切れずつくれたので遠慮なく食べた。
「私たちも入れて下さい」
合宿組二年侍女科のコニー先輩、セリア先輩もトレイを持って席に着く。あれ、今から?遅くない?
「例の王子様、騎士科でやらかしたの見て来ました。騎士科はこれから昼食です」
二人が苦笑しながら言った。さっそくかい・・・
「やらかしたと言っても私ら平民には何て事もないことなんですけど、貴族には腹立たしかったみたいですよ。危うく取っ組み合いになるところでした」
「へぇ、うちの殿下たちには考えられない事ね」
「隣の教室から怒鳴り声が聞こえた時はびっくりしましたよ」
「戦略の座学で、ハスブナルの一点突破の勢いにアーライルは後手にまわって負けが続いたとか、こんな戦略しかたてられないから剣聖に頼りきりになったとか言ったらしいです」
あ~、と肩を落とす私とキャシー先輩たち。
戦略をたてるのは貴族の仕事で平民はそれに従うべし。という風潮はある。どうしても要職に就くのは貴族になってしまう。責任をきちんと全うしてくれる貴族なら良いけど、実力にみあわない名声を欲しがる人も少なくない。
奴隷王事件でついでにそこら辺もいじられ、平民だろうと能力重視になった。なり始めた、か。
現在貴族籍ならば、ジーン王子がこき下ろした作戦を考えたのはその祖父なりさらにその父親である。先祖を馬鹿にされたなら、そりゃ取っ組み合いにもなるよ・・・
矜持。難しいわ~。
「へー、それ、よく収まりましたね?」
「お付きの人がそれはもう何度も頭を下げてたもの。本当に申し訳なさそうに何度もしてたわ」
「それにエリザベス様が取りなしてくださったの」
エリザベス姫とジーン王子は婚約者候補として関わる事になった。
両国ともとりあえずということでまとまったのだ。こちらの反応が早かったからだろう。
破る気満々な人間がこちら側は色々と多過ぎる。
仮婚約が決まってからエリザベス姫は、テオドール先生には会っていないと言う。
「先生におめでとうなんて言われたら泣かずにはいられないもの」
くっ・・・自国の為の婚約じゃないのに、作戦とはいえよく承諾したよ。
婚約者だから、庇わなければならない。
自分から騒ぎを起こす奴を。
「エリザベス様が王子を連れ出した後も騒ぎが収まらなくて、それで情報収集してました。あーお腹すいたー」とコニー先輩が綺麗な所作で食べていく。
うんお疲れ。たんと食べなさい。
自分の立場が分からん馬鹿王子か?
たった二人でこちらでの後ろだても無いのに、何を考えているんだろうか。
急に王子にされたとはいえ、変だよなー。
成金にはありがちな事かな? むぅ。
あ、私もある意味成金だ。気をつけよう!




