40話 注意しましょう。
ほおおぉぉぅぅ・・・
フルーツが色々入ってキラキラとしたゼリーを見た全員が同じ反応をした。
狙い通り! 作った甲斐があるね!
夏休みも後僅かのアイス屋店休の日。
合宿メンバーを招集してのゼリー御披露目試食会。
場所を王城に亀様移動しての、王族方との一斉企画です。
「どうしてこうなったっ!?」
アイス先輩方からの安定のツッコミ。
「だって忙しかったんですよ。ゼリーを作るから抜けさせてくれと言ってしまったのが良くなかったですね~。まあ、いずれ通ることになる行事ですから!」
「アイス君たちはともかく私たちにはいっさい予定に無かった行事よ・・・」
キャシー先輩方平民組がぐったりしている。一年生は皆蒼白。すみませんて。
「まあドロードラング伯と付き合っていてこんな事は今更だ! 諦めて試食会を楽しめ!」
ゼリーから目線が外れない国王が無茶な命令をする。
一言言わせてもらえると、そのシステムはドロードラング領限定なんだけど。
「私たちも息抜きがしたくて。突然にごめんなさいね?」
王妃、側妃方が今日もキラキラと美しさをふりまく。
もちろん王子も姫も大臣たちも揃っている。
さらに緊張する生徒たち。
私らの学年は王族はいないし、合宿でアンディと交流があったとはいえ相手は一人。学園でのお貴族様たちとの交流も合宿メンバーに限って言えば、騎士科以外はあるかどうか微妙だし(エリザベス姫だってなあなあの付き合いはほぼ無い)、緊張するよねゴメン!
王族コンプリートは今回だけだから! 意識をしっかり持って!
毒見を終えたゼリーを国王方が食べて、試食会が始まった。
「まあ! この食感、面白いわね」王妃が喜んでくれた。
透明硝子の器に、シロップ漬けにしていたオレンジ、苺、桃、葡萄(今回は緑のマスカット)、牛乳寒天を角切りにしたのを、そのシロップをゼリーとして食べやすいよう味を整えてゼラチンを混ぜて冷やしました。サクランボ(アメリカンチェリーに近い)が乗ってまっせ。
領で作った時も子供たちが大喜びで、それならと硝子も作れる鍛冶班が透明硝子の器を製作(何でもできるな~・・・)。木の器よりキラキラとした中身が見えて、更に子供たちは大喜び。
ホテルのメニューにも加える事にし、テッドのお家のツェーリ商会でちょっとお洒落な器を購入。足りない分はワイングラスで誤魔化した。ワイングラスでもお洒落に見えるよね~。食べ辛いけど。
「プリンとはまた違うのだな」と国王。
そしてもう一つ、コーヒーゼリー。砂糖も入っているけど、生クリームもたっぷり乗せて、薬草畑の外でも増えていたミントの葉を飾りにちょん。ミントはよけてもらっていいよ~。
「あの苦いコーヒーがこんなに美味しく仕上がるとは・・・」アイス先輩がしみじみ。
「ドロードラングのクリームも美味しいわよね~」キャシー先輩は生クリームがお気に入り。
「やはり運搬に掛かる時間で味も変わるのか・・・傷んではいないはずだけど、やっぱり王都のと味が違う・・・」ツェーリ商会テッドが悩ましげ。
「これが新鮮ということか?」
「それはあると思います。産地でも違うかもしれません」
「やはりドロードラングのあの保管庫やら保冷庫は便利だな」
「運搬用に欲しいですけど、うちのような中堅商会では購入するには少し厳しいです」
「ふむ。うちの調理場用も随分とふんだくられたな。同級の誼でお嬢にねだってみたらどうだ?」
「やってみましたけどあっさりと断られました。先行投資できる資産があるだろうと、あっさりです」
「もっと変な物を取り扱えばいいんじゃないのか? お嬢が飛びつくような」
「それこそ思い付きませんよ。僕らの思いもよらない物ばかり持ってますから」
「ああ、確かにな。領民ももう染まっているからな。あいつ等もそうそう驚かんし」
「持ち込みの商売は正直やりづらいです。ドロードラングからの要請にはなるべく応える方法で少しずつ信頼を築いてる所です」
「そうか。頑張れよ」
「ありがとうございます」
・・・以上、国王とテッドの会話でした。
お妃たちやアンディは笑っているけど、アイス先輩方は真っ青だ。
・・・テッド、あんた大物になるよ。
試食会が終わってアイス屋に戻った時にテッドは気絶したけども。
「とまあそういう事で、お前たちにも協力してもらうべく無理矢理こちらに呼んだ訳だ」
ハスブナル国の不穏な動き、罠であろう婚約話に乗る事が一番てっとり早いであろう事、その相手は本当に突然に現れたので、王太子の本物の子かを調査中である事を国王が食後に話す。
生徒たちの青かった顔色が更に白くなった。
「すみません。何故私たちに内容を打ち明けられたのでしょうか」
アイス先輩が恐る恐る発言する。それをシュナイル殿下が頼もしげに見ていた。
アイス先輩より家格の高い生徒は他にもいるが、采配が巧くリーダーとして皆から信頼されている。・・・器用貧乏かもしれないのは黙っておく。打たれ強くあれ。国王の視線に負けないだけでも今はスゴいよ!
「エリザベスに近い所に居るのがお前たちだからだ。ドロードラング伯とシュナイルの太鼓判が押されたからな、何か起きた時に犠牲になるのは忍びない。エリザベスもそうだが、他の生徒も守って欲しい」
ハッとする生徒たち。
劣等生と括られた魔法科の生徒も、ドロードラング合宿での日課だった鍛練は続けていたようだ。合宿の時より姿勢もいいし、視線や体の動き、所作が前よりも良くなった。
一人でも努力出来る精神は貴重だ。それだけでも伸びしろが増える。
「けして盾になれとか矢面に立って欲しい訳じゃないの。危険を察知した時に、それを周知して欲しいのよ。自分一人で判断することに不安なら、ここにいる誰かと二人組、三人組で行動して欲しい。大きな物は亀様や私や学園長やエンプツィー様がどうにかする。そこを取りこぼれた物を見つけたら教えて欲しいのよ」
呼べば行くから。
「が、合宿の時のようにすればいいのでしょうか?」
男爵っ子ウルリが手を上げる。
「そう。合宿の延長だと思ってくれればいいわ。学園だから少しやりづらいかもしれないけど、あなたたちは一人じゃないしね」
隣の人と顔を見合わせる。このメンバー内で信頼を築いたのは先輩後輩貴族平民関係無い。皆同じくメタメタにされて、同じご飯を食べて回復したのだ。
すると緊張が和らいだのか強張っていた顔も緩んだ。
どんな危険があるかも分からない事を気をつけろって、ものすごい無茶だとは思うけど、心構えはしていて欲しい。
それで危険が減るのなら。
「残念ながら出世の約束はできないけど、ドロードラングのホテル一泊なら招待するわよ?」
「「「「「 やっったあーーっ!!」」」」」
歓声。
え、そんなに喜ぶとこ!? 国王からの報奨の約束じゃないよ?
ガタガタと音をたてて席を立ち、皆が私に向かって来た。
「お嬢!剣聖との手合わせも!十分いや五分でいいから付けてくれ!」「お、俺も!俺も頼む!」「私!クラウスさんかクインさんとダンスしたい!」「デザート!デザートの盛り合わせ!」「温泉!温泉~!」「あのベッド!寝てみたかったんだー!」「遊園地!半日、いや一時間でもいい!優先権!」「保管庫と保冷庫の割り引き!」「丸焼き!もう一回丸焼き食べたい!」「ドロードラング産の真剣!木剣でもいい!もう一本!」「鍬か鋤か鎌!を一本!」「結婚式をもう一度見たい!誰か挙げないの?」「食べ放題!食べ放題!!」「新作綿レース!新作刺繍!新作ドレスの見学!」「クラウスさんの流し目!」「メルクに絵を描いてもらいたい!」「小虎隊の舞台鑑賞と舞台裏でもふもふ!」「シロウとクロウのもふもふ!」
ちょ、ちょっとそんなに詰め寄らないで! 恐いから!
「分かった! 解決した際には今の全部やるから!」
更に歓声があがる。
途中、変なものも混ざっていたけど、まあ応相談で。
国王がジト目でこちらを見てる気がする。
ふと見れば、アンディとレシィは笑って、兄王子姉姫は目が点になっている。
・・・士気が上がるのは良いんだけどさ。
「おーい、自分も含めて被害は最小限に抑えるんだよ?」
ザッ!と横並びに整列すると、アイス先輩が一歩前に出た。
「承知しました!」
アイス先輩に合わせて全員がバッ!と頭を下げる。
お、おおぉ見事な、いつの間にそんな事やってた?
「・・・お前はどんな軍隊を作る気だ・・・」
いやいや!? そんな指示出した覚えありませんから!




