続続続39話 夏休みの終わりに。<会議>
ハスブナル城の見取り図を出すと、王城会議室の皆が驚いた。
ヤンさんてホントすげぇのよ。
大抵の城には目に見える戦力として近衛がいて、裏には裏の影のような警備がいる。ざっくりいえば忍者みたいな。
その人らにも気付かれないんだよ・・・すごいわ~恐いわ~。
実はアーライル城の見取り図もあります。内緒。
アーライル国にももちろんいるので、その彼らは以前に同じようにハスブナル城に忍び込んだ。だが確認のために複数で潜入したにもかかわらず地下には誰もたどり着けなかった。
ハスブナル城の地上階は王の部屋が無かった事以外に問題は無かった。敷地内には別棟も無く、だが探し切れずに帰還。
気になるからと正面切って調べる事もできないので、ハスブナル国の事は結局は放置された。
大体、四神を捕らえたから何をどう出来るというのか。
前例のない事は油断しやすい。
「以前潜入した頃にはもう黒魔法は使われていたようです」
だから、地下を探せなかった。
今回なぜヤンさんが見つけられたかは、実はヤンさん自身も分かっていない。
導かれたと感じたそうだ。
それは囚われた朱雀とほんの束の間目が合った事で実証された。
朱雀は何も伝えて来なかった。
ただ、体を横たえていた。
そして四重になった檻の外に、ハスブナル国王らしき王冠を被った小さく痩せた老人が豪奢な椅子に座っていた。
その老人は、ただ、朱雀を見ていた。
部屋の床に満たされた赤黒い液体に椅子の脚ごと自身のくるぶしまで浸し、ニヤニヤと朱雀を見ていた。
檻の床は少し高いのだろう。朱雀も老人と同じようにその赤黒い液体に浅く浸かっていた。
その部屋の壁には部屋を一周するように三本の太い線が書かれていた。よくよく目を凝らせば、びっしりと文字が集まったもの。
だが、それを確認するためにその部屋に留まることはもうできなかった。
戦場以上のむせ返る程の鉄の臭い。
あの老人はこの部屋で何故笑っていられるのか。
それ以上は、平静ではいられなかった。
「何という事だ・・・」
会議室の誰もが絶句する中、団長が呟いた。
その報告を聞いた時、私は怒りで火を噴きかけた。思いとどまったのは、サリオン、カシーナさんとミシルも同席していたから。もちろん亀様と白虎に青龍、シロウクロウがいた事も大きい。
「そういった黒魔法もしくは魔法があるか、エンプツィー様及び学園長方教師たちにも調べてもらっています。私個人としては祖父の持っていた黒魔法の本を調べましたが、今回のような大掛かりなものは無く、エンプツィー様方も複合型の魔法であるとの考察です」
《我らも四神とはいえ全ての魔法を知っている訳ではない。人が創ったものは尚更知らぬ》
キーホルダー亀様、もとい亀様と面識のない方々は小さなぬいぐるみが話し出した事に驚いた。そんな人々に亀様は真面目に自分は玄武だと自己紹介をする。大臣方はサッと顔色が青くなったが持ち直した。さすが。
《我らは討伐出来うる魔物だ。力があるからと安易に近付けば逆に取り込まれる恐れもある。だからこそ朱雀が大人しくしているのが我の不安要素だ》
私のあまりの怒りようにアンディを呼べと誰かが騒いだことも、報告を受けた時にどうにか暴れずに済んだ理由だ。
ヤンさんは魔法に関しては門外漢だ。だけど、魔法陣を意味も分からず複写することは出来る。それが今回は出来なかった。それほどまでに膨大な量で、異様な部屋だったのだ。
そして恐らく、朱雀を入れる檻の床にも何かしらはあるだろうと魔法使いたちは言う。
そして。
《ハスブナル国全体に呪いがかかっている》
亀様の確定に、潜入した全員が納得した。
「今回五日間ハスブナル国に入りましたけど、あれ以上は正直辛かったですね」
ルイスさんの言葉に他のメンバーも頷く。
「ギルドの職員だったり、依頼先の農家だったり、会う人会う人がどこかおかしかったですね、やたらに明るいというか・・・なるほど、呪いか・・・」
「最初は普通だと思いました。評判が悪い国の割りに住人は居丈高ではないし、顔色も普通だし、街並みも小綺麗でしたし、商店でもぼったくりも無かったです」
「ただ、日没後は誰も外に出ないんです。呑み屋が無いわけでもなく、仕事終りにたった一杯を飲んで帰る程度で、ほぼ真っ直ぐ家に帰ってました。王都から離れても同じ様子が見られました」
「宿の主人に聞いても夜は早く寝る地域柄と言うだけで、その宿すらも夕飯は早い時間でした。物はわりと豊富にあったので、夜用の明かりに使う燃料が無いとは思えませんでしたけど」
「やたらと静かな夜に宿屋から耳をすませましたが、それだけでは外の様子は分からなかったので部屋の明かりを消して窓をそっと開けてみたんですが、体に纏わり付く空気以外に特に新しい事は何も感じなかったです。ただ」
騎馬の民の一人が亀様の呪い発言の証拠らしきものを証言した。
「雨も降っていないのに、曇っていたとしても俺らには分かりますが、ハスブナル国での夜、空には何も見えませんでした。地上の明かりが全くないのに、星も月も」
「それに気づいてから民家をいくつか覗いてみました。特に夜の外出を禁止する旨もありませんでしたので」
「居間に家族が集まってるのに無言で、ぼんやり椅子に座り、真夜中になると寝室に向かうという動きをしました。夜中に何度か起きるはずの赤子も静かなものでしたよ」
「さすがにあれはビビった」
「な。それでも次の日は普通に働いていたし、そういうしきたりの民族なのかとも思ったが・・・呪いと言われると納得するな」
「貴族も同じだ。日が暮れると動きが止まる。動いていたのは国王だけだな」
周辺国を調べたメンバーからは、ハスブナル国に長期で出稼ぎに出た人間は次の年も決まってまたハスブナル国へ行き、何度か繰り返した後帰って来なくなると報告された。
「スラムの住人や死刑囚なんかもハスブナル国に運ばれてるそうで、スラムに関しちゃ助かってるとまで役所は言ってましたぜ」
双子弟バジアルさんが憎々しげに顔を歪めて言った。
その国毎、役所の人間毎に考えはあるだろうし、バジアルさんのその反応が正しいとは言いきれない。
が、その役所の人とは仲良くなれる気がしないわ私。
「この事から、ハスブナル国への何らかの接触は必要であると判断いたします」
しん、と静まりかえる会議室。
国王が大きく息を吐いて、他の人たちの緊張を解す。
「あの爺、まだ生きていやがったか。世代交代は話も出ていないから下らぬ事を考えているだろうとは思っていたが・・・どこの悪王になったつもりやら。そしていくつまで生き長らえる気だ」
「もう百に届くのでは?」
まじで!?
「ああそうだ、先々代国王と歳が近かったはずだ。ハスブナルの王太子はどうした?」
「何人もの王太子が次々と病に倒れ、公式では、現在は四十代のはずです。愚鈍と評されてますが」
国王という役を取り繕う気もない国王に宰相が淡々と答える。
「あぁそうだったな。パッとせん王太子な。はぁ、あの爺、さっさと引退して余生を大人しく過ごせばいいものを・・・さて、どうしたものか」
はい、とエリザベス姫が小さく手を上げる。
「私が婚約しましょう」
はあ!? 駄目でしょう!? テオドール先生が婚約するまでって言ってたじゃん! てか、好きでもない男に姫を嫁がせない!
私の雰囲気が伝わったのか、姫がこちらを見て苦笑する。国王に促されそのまま話す姫。
「私としても、作戦という前提でお願いしたいのですが。その王太子の子である彼の方は年齢も同年のようですし、相手のいない私が妥当でしょう」
真っ直ぐな目線は国王に向かい、私にも届く。
「多くを助けるのなら少しでも早い方が良いでしょう。婚約は、早めようと思えばあっと言う間よ」
・・・なんだってこうも思いきりがいいのか。
不敵に笑う可憐なエリザベス姫も格好いい。
姫と視線を交わした母親のオリビア様も真剣に頷いている。
・・・くっ。他の案が思い浮かばない。
必ず、必ずお守りします!
おつかれさまでした。
生きてました(笑) どうにか続きが出せて良かったです。
これからの展開で少しずつ残酷描写が出てくるかと思います。
その時は前書きにてお知らせしますね。
どうにかさらっと切り抜けたいです。
ではまた次回お会いできますように。




