続続38話 ミシルの村で。(後) <今度は>
自分は運が有るのか無いのか・・・
昨日からずっと呟く村長。
あるでしょ。あるよー。あるある、たぶん。
ミシルの村にお泊まりしました。村長の家にあのまま雑魚寝です。
起きた時ちょっと体が痛く、久しぶりの感覚に笑ってしまった。
朝食に焼き魚定食をいただきながら昨日の復習。
《我が朱雀の元へ直接向かえばいいのでは?》
タツノオトシゴがそんな風に言う。
「そうね。それが一番早く片が付きそうだけど、魔法使いを侮ってはいけないわ。生まれ直した直後とはいえ、こんなに長い間朱雀を抑えているのよ。檻もそうだけど、魔法使いがどんな魔法を使っているのか下調べは必要だわ。四神は、討伐出来ない事は無いのよ?」
本調子ではなかったようだけど、何度か封印された事のある青龍は黙った。
「だからって三神で行ってしまえばそれこそ何が起きるか分からない。皆優しいから被害は少なく済むとは思うけど、三神に囲まれた相手がどうはっちゃけるか予想も付かないし、ミシルが駄目って言うからその案は却下ね。まあ、四神大戦なんてなったら私だって冗談じゃないわ」
ミシルはやっぱりじとんと私を見てる。いやいやもう言わないって。
「青龍、脆弱だからと人間を侮ってはいけない。目標のために力を合わせるのが得意だからね。おかげでドロードラングは繁盛してきたわ」
最後をおどけたように言えば、タツノオトシゴは納得したのか頷いた。
《いつでも助力する》
「ありがとう。そう言ってもらえると助かる。当てにしてるからね」
タツノオトシゴの目の下辺りがピクピクした。・・・照れてる?
ミシルも気づいたのか小さく噴いた。
あ、とタツノオトシゴが何かに気づいた。
《だが、サレスティアは脆弱ではなかろう?》
ミシルとクラウスが噴いた。
お前ーっ!?乙女に向かって何て事を!
そうして。
朱雀を助けに行く算段をつけるまで村長は引き継ぎを済ませることにし、ミシルはドロードラングでエンプツィー様と私と特別修行を決定。エンプツィー様の都合?何ですかソレ。
ミシルの家にもしもの時の転移門を作り、村の作業場近くに保管庫を一つ寄付。
生食は取れたてが美味しいので、保管庫は干物と野菜専用になるようだ。好きに使ってちょうだい。そして取り引きしましょう!
村人の見た目がアレだから思い込んでいたけど、ミシルの国は識字率が割りと高かった。村人には村長が教えているそうだ。
「この国の人たちはおおらかだから、昔むかしから他国から色々騙されてきたらしいんです。まあ、それでも成るようになるさと流してきたんですが、国王が奮起して学問を普及させたんですよ。まだ完全ではないですが、それもあって俺は村長に納まってるんです」
ミシルはその学びの時期に事故で籠っていたから学園に来るまで何もできなかったんだと知った。ふむふむ。まあそのハンデも今はほぼ無い。魔法も経験さえ積めばこなせるようになるだろう。
「アイツの加護で俺は生きてられます」
そう笑う村長に通信イヤーカフを渡し、干物、乾物を村が生活出来る分を残したギリギリの量まで買い取り、その代金で隣街からこんにゃく等、村には無いものを購入してもらい、それをまたドロードラングで手間賃込みで買い取り。
「急に金だけあっても生活が崩れますから、しばらくはこれで行きましょう。あの保管庫をいっぱいにしようと皆が張り切ってますよ」
やった! でもほどほどに。見た目より入るからね~。
《漁を手伝わなくて良いのか?》
青龍にやってもらえば莫大な量が獲れるけど、村人たちは「私らは漁師ですから」と助力を辞退。でも、たまに寄ってくる魔物を退ける処置を海にしてもらっていた。
あ、その魔物食べられそうなら手伝うよー。
想定していたよりも大量の(あえて言うなら、五人前予想が十人前になった)海の幸(塩込み)と、和モノ食材を手に入れ、ミシルは青龍と転移門でドロードラングへ。私とクラウスはシロウに乗って村を出た。
帰る途中で、アイス先輩のモーズレイ子爵領にてゼラチンを購入。
騎士の家系と聞いていたから全くのノーマークだったその領は、隣のトラントゥール子爵領(エリザベス姫の想い人テオドール先生の実家)と共に牧畜が盛んで、特に牛の加工は細かく、ゼラチンまで作っていた。
一人踊ったのは言うまでもない。
デザートの幅が広がると騒げばアイス先輩が食いついた。
どうやら膠として、資材としてしか使っていなかったらしい。
食用にできますよ~。
アイス先輩がそれを聞いてものすごく悔しそうな顔をしたので、試作はアイス屋に招待しますと言っておいた。
あ、ミシルの村で天草も仕入れました。寒天寒天~。
そしてたんぽぽ茶。
図々しくもスミィの家でご馳走になり、味を確認。純粋なコーヒーよりはやっぱりお茶だけど、美味しいわ~。
今年の収穫は終わりで、乾燥させたものを一袋だけ譲ってもらえた。代金を払うと言ったんだけど、値段なんてつけたことがなく、スミィが世話になったからと、無料でいただいてしまった。
まあそうね、ここでは仕事の片手間に作るお茶だから、値段はつけにくいね。収穫の時はウルリを連れてくることにしても大変そう。たんぽぽの根っこは長いからね~。
スミィはウルリみたいにできるように練習してみると張り切っていた。うん、他の収穫も楽になるし頑張って!
お土産を持ってホクホクでドロードラングに帰る途中、アーライル城が見えた。
何だかソワソワしてしまい、後ろに座るクラウスに笑われた。
・・・夕べだってちょっと喋ったし、さっきもこれから帰るねと報告したばかり。
「寄って行きますか?」
いつもよりも笑うクラウスに、連絡もせずに迷惑だろうと思いつつも、まあ今さらかなとも悩む。
『お嬢?』
「うわっ!びっくりしたー! どしたのアンディ? 何かあった?」
『亀様が、お嬢が城に寄ろうか迷ってるって言うから呼んでみた。おいでよ』
亀様仕事が早いよ・・・うんでもありがと。
自室のバルコニーにいると言うので、シロウにそこに向かってもらうと、手を振る姿が見えた。
何だろう。嬉しい。
妙にドキドキしながらシロウから降りる。何か、緊張してきた。
「お帰り」
!! ・・・う、わ、ぁぁ・・・
顔が熱い。美人の微笑みは破壊力がスゴい! の、とは違うダメージだ。いや、動揺だ。
「では私たちは先に戻りますね」
え!? クラウスとシロウ、先に帰っちゃうの!?
私の混乱を見ていないのか、アンディに一礼したクラウスはシロウの背に乗りさっさと飛び立ってしまった。
「どうしたの? 何か急ぎの用があった?」
「・・・何も、無い・・・です」
今までにない動揺に自分で落ち込む。
何なんだ急に・・・? アンディはいつでも美人でしょう?
あれか、村長の話の時に思い出したから?
先輩じゃなくてアンディだったから?
その事がただただ恥ずかしくて、俯いた。
「お嬢?」
ごめんアンディ、会いたかったのに何だか今すぐ顔を上げられない。でも顔を見たい。
「サレスティア」
名を呼ばれた事に驚いて、勢いよく顔を上げてしまった。
真剣なアンディが、私を見ていた。
何か言われるのだろうか? 何かって何だろう? 少し不安に感じるとアンディの口が動いた。
「抱きしめてもいい?」
顔が、熱い。湯気が出ているんじゃないかと思うほどに熱い。
ふ、とアンディが笑った。
「嫌ならしないよ」
涙が出そうだ。
何だこれ、こんな事で涙が出るの?
何の涙?
アンディにそんな事を言われたから?
言わせたのは私のこの態度だ、馬鹿か私は。
左手に、アンディが触れる。アンディの白くて意外とごつごつした手に、私の真っ赤になった手が乗る。
恐る恐る、目を合わせる。
「でも、これは許してね。昨日見送ったばかりなのに、とても会いたかったから」
ぎゅっと握られる。
いつだってそうだ。痛くなんかない。
夜に喋る約束があるから、頑張れる。
アンディは私に、いつだって手を差し出す。
アンディに、一歩踏み出した。
どんな顔をしているかなんて、自分じゃ分からない。
私がどんな顔をしてたって、アンディが逃げた事は無い。
すとん、と何かが落ち着いた。
そうだ。アンディはいつだって、手の届く所にいてくれる。
安心して、手を伸ばせる。
いつだって、握り返してくれる。
好きになっても、今度は、届く?
「私も・・・抱きついていい?」
まだ、顔が熱い。
それをアンディが包む。
肩に顔をつけて、ほっとする自分がいる。
離れた手は、お互いの背にまわる。
「何かあった?」
髪に、アンディの息がかかる。くすぐったい。嬉しい。
「うん色々。今は、お帰りが嬉しすぎて、一人で混乱しただけ。・・・上手く説明できなくてごめん」
少し強く抱きしめられた。
同じくらいであればいいと、私も腕に力を入れる。
「そっか」
「うん」
熱が落ち着いてきたのが分かった。
「うん、お帰り」
「ただいま」
やっと、笑い合えた。
お疲れさまでした。
いやあ、こっちの展開かい!というつっこみがありそうですが、こっち方面にしか思いつきませんでした。
何か抜けている気もしますが、いつもの事ですね。
さて、こうなってくると王太子の出番がますますあやしくなってきました。恋愛的ライバルももはや登場する意味はあるのかという感じですが……うーん。
一応まだ恋人未満の所にお嬢とアンディをおいてるつもりですが、それで合ってますかね?
ではまた、次回もお会いできますように。




