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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
12才です。
124/191

38話 ミシルの村で。(後)


「はははっ! そんな言い方をしたら、()が物凄い武人みたいじゃないですか。腕っぷしは全然の、逃げ足だけが自慢のこそ泥ですよ」


村長がわははと笑う。隣を見ればクラウスも笑っていた。


「影は追えても姿を見れず、敵の部隊がどうしても一人足りない。最後は文字通り網を張って追い込んで捕まえました」


クラウスの説明に、いやあ、逃げ場が無いって恐かったですね~とまた笑う村長。


え、笑い話?

お祖父様とクラウスに追いかけられるってただ恐怖なんですけど?


「こちらとしてもハスブナルの兵は逃がしたくなかったですからね。必死でしたよ」


ハスブナルの兵!?

あ、でもそうか、戦争の相手だもんね。

あれ? でも逃がしてもらったって・・・


「無様に泣き喚いたんですよ。三日かけて泣き落としたんです」


・・・うわぁ。?でも、それだったら他にも捕虜がいたと思うけど?


「捕虜になった人間は頑張っても数時間で諦めるんですよ。泣く気力も起きなくなるんです」


クラウスが穏やかに言う。そのまま村長に目を向ける。


「その()、どうでしたか?」


村長は静かに苦笑した。


「あの時の約束はまだ果たせていません。まあ、ここに一人でいるのがいい証拠です」


村長は静かにお茶を飲んだ。酒は飲めないらしい。

クラウスも護衛役なのでお茶だ。

私だってもちろん飲めない。


村人たちは各々呑んでいる。死者への供養にどんちゃん騒ぎだ。


私たちの話が聞こえているのはミシルだけ、かな?


「俺は、ただのこそ泥だったんです」


村長は私とミシルに向かって言った。


「盗賊団に所属しない、義賊でもない、その日その日を他人様からちょろまかして一人で生きていました。ある裕福そうな家に盗みに入った時、檻に囚われた小さな魔物と会ったんです」


魔物と聞いてミシルと見合う。


「仰々しい檻のわりに小さな魔物でした」




***




《何者だ》


誰もいないと思われた真っ暗な部屋に入った途端に声を掛けられ、慌てて部屋の暗がりに潜んだ。


《我に闇は効かぬ。窓から入るのは無作法だな》


丸見えと言われてしまった。どこからか確かに視線を感じる。汗が一筋流れた。猫の鳴き真似は効かなそうだ。


「・・・ええと、通りすがりのこそ泥です・・・」


《こそ泥?・・・あぁ盗みに入ったのか。悪い事は言わん、この家の物は()めておけ。高価な物には魔法が掛かっている。前にも盗もうとした者が消し炭になった》


盗めない宝の部屋と分かったが、声も視線もどこからのものか判断がつかない。にしても静か、いや、落ち着いた声だ。


「・・・あの、泥棒だ捕まえろ~とか、騒がないの?」


《何故? 我自身が捕らえられているのに。ここの家人に恨みは特に無いが、助ける義理も無い》


捕らえられている? なるほど。そういう事なら、まあそうだわな。


《お前は・・・変だな。落ち着いている》


「いや混乱してるけど、突き抜けたというか、あんたは何者だい?」


《あぁ、お前の正体は聞いたな。我は、・・・すまぬ、言えぬ》


謝られた!?


《姿を見せる事は構わんが、それで良いか?》


この短時間で相手がだいぶお人好しなのは分かった。だからといってこっちが無事で済む理由も無い。

はっきり言えば恐怖だが、湧き上がった好奇心に従った。


《一番大きな檻は見えるか? その中だ》


部屋に明かりを灯す事はできないが、窓から射し込んだ月明かりがその檻を少しだけ照した。天井にまで届きそうな縦にも横にも大きな檻。

それに寄って行く。そうして見えた姿は、


「あれ? 小さい?」


《まあ、そうだな》


「・・・檻から抜けられそうだけど?」


《檻にも触るな。死ぬぞ。たくさんの術が籠められているらしくてな、通り抜けられんのだ》


魔物自身が頑張れば通り抜けられそうな隙間は罠らしい。


「へー。あ、ご飯の時はどうしてんの?」


《食物は檻の隙間を通れる。投げ入れはせぬが転がして寄越すぞ。我は何も食べぬのに毎朝持ってくるのだ》


「へー。食べなくていいんだ、いいね。俺なんかすぐに腹減るけどなぁ」


途端にぐ~ぅと腹がなった。少々気まずい。


《何だ今のは?》


「俺の腹の虫が鳴いたの」


《ふむ。人とは腹に虫を飼うのか》


噴いた。


「違うよ、腹が減ると音が出るだけだよ。どうなってるのかは分からないけど、虫に腹を食い破られた話も聞いたことないし、う~んと、例え?」


ほぅ、そういうことか。と真面目に言う。

なんだかな~・・・


「ははっ、あんた、面白いな」


《そうか? 我はお前が面白い。この果物を食らうといい》


「え、あんたの飯じゃないの? 良いの?」


《要らぬと言っても家人が持ってくるのだ。腐らせるのも嫌なので食べるが、持ち帰ってもいいぞ》


そうして魔物がこちらへ林檎やその他を色々と転がす。


「やった!ありがとう!」


魔物がぽかんとこちらを見た。



次の日。の夜。


窓がスッと開く。


《何だ。また来たのか》


「ちぇっ。今度はバレないと思ったのに~。お、今日も新しい果物が! 毎日桃があるとか、金持ちだなこの家」


《ももというのか》


「うん。街の八百屋ではなかなか見ない高級品だってさ。確かに旨いよな!」


《街の、やおや・・・?》


野菜が色々売られているんだ。

そんな話をした。



《まだ隠れる気か?》


「今日こそバレないと!」


《無駄だ。お前の気配は屋敷の外でも分かる》


「がーん!逃げ足と気配の殺し方は自信があったのに!」



《何だ怪我をしてるのか?》


「いやあドジった。鳥の巣から卵を取ろうとして木から滑り落ちたんだ。ま、擦り傷だけどな!」


《こちらへ寄れ。治癒を施してやる》


「いいよ、もうかさぶたになったから。あれ?檻の中に本がある」


《うむ。お前の話が面白くてな。本を所望したのだ》


「へー。魔物でも字が読めるんだ。スゲエ!」


《お前も読めるのだろう?》


「読めねぇよー。お触書(ふれがき)だって読めねぇし、本なんか触った事もねぇもん」


《・・・そうか。この本はお前にも読ませたいと思ったんだがな》


「・・・ふぅん?」


《そうだ。少し我の加護をやろう。名は何というのだ?》


「名? ねぇよ、そんなもん」


《? 人にはあるものだろう?》


「人は人でも、名前があるのは親がいる奴だけだって」


《・・・そうか。ならば、我の、いや我が付けてやる》


「え、いいよ、今さら・・・」


《・・・シュウ、はどうだ》


「シュウ?・・・シュウ・・・シュウ、か」


《シュウ》


「何?」


そう応えた途端、一瞬目眩がした。

その瞬間に何かに包まれた気がした。ほんのほんの僅かな時間。


ハッとする。


《どうだ?》


「え?どうだも何も・・・あれ、本の字がわかる。あれ?読める?」


《ふむ、上手くいったな》


「え?何?これ」


《果物をやるからシュウは我に面白い話を語れ。シュウの話は面白い》


「・・・うん? よくわかんねぇけど、わかった」


《うむ》



「ちょっと! ちょっとちょっと!」


《どうした騒々しい》


「足が速くなってんだけど! コレも加護?」


《そうだ。シュウが捕まってしまったら誰が我に語るのだ》


「あ、あぁ、そういうことか。ありがとな!」



《なるほどな。本に書かれている事は事実もあるのか》


「そうみたい。歴史書は大抵同じ事が書かれてたよ。恋愛?は俺にはよく分からねぇ。ただ疲れただけだった・・・。やっぱり物語が一番面白いな~」


《うむ。お前の話は面白い》


「俺のじゃないよ。本にあった話だよ」


《ふむ。我はお前が語れば面白い》


「・・・そう? へへっ!」



「この本にあった宝石、本当にあるんだって! 今日ギルドで聞いたんだ。びっくりしたよー!」


《ほぅ》


「冒険家って奴が持ち込んだんだって。大陸中もその(ほか)も色んな所を見て回るんだってさ。あ~あ、お前と一緒に行けたらなぁ」


魔物は呆けた表情をした。


「何でそんな顔してんの? お前、閉じ込められてるわりに色んな事を知ってるけど、本当はその色んな事を自分で確かめたいだろ?」


魔物のおたおたした姿も初めて見た。


「ははっ!面白れ~!」


《・・・我は、シュウからの話を聞ければいい》


「俺もお前に話すのは楽しい。・・・いつか、一緒に行けたらいいな?」


《・・・ふ。そうだな》



《何だと?もう一度言え》


「だから冒険家になるって言ったの。お前の知りたい所に行ってみて、どんなだったか教えるよ。今までみたいに来れなくなるけど、お前もいつその檻から出られるか分かんねぇし、本だってこの部屋にあるヤツを暗記しちまうよ。つまらないだろ?」


《だが、その檻の中に居る我にも分かる程この国は危うい。(いくさ)が起こるのではないか? 危険だ》


「まあ、そうなんだけどさ。でもだから旅の資金を貯めるのにいい機会なんだ、傭兵とか募集兵とか。お前のおかげでどこまでも逃げられるから大丈夫だって」


《浅はかな》


「適当なところでずらかるって。戦なんか最後まで付き合うかよ」


《シュウ》


「考えてもみろよ。途中で逃げ出せば戦の間は余所の国にいるんだ。その方が安全じゃねえ? お前のこの家はデカいし、まあ大丈夫だろ」


《シュウ》


「この憎らしい檻だって、戦の時は守りになるだろ」


《シュウ!》


「この檻を壊す方法を見つけて帰るっ!! 絶対お前をこれから出すっ!!」


いつかのように目を丸くする魔物が面白い。


「いつになるかなんて分からねぇけど。へへっ、俺、お前に触りたい」


《・・・・・・馬鹿め・・・外は危険なのだろう》


「お前の加護があるからな、大丈夫だろ」


《命の保障は無いぞ》


「全力で逃げるって! なあ、行ってらっしゃいって言ってくれよ。そしたら絶対に帰って来れそうだろ?」


《・・・》


「なあ、なあなあ」


《・・・行ってこい》


「ははっ。色気ねぇの」


《行って、来い》


しばし見つめ合う。部屋の外がいつもより騒がしくなってきた。


「やべ、さっき大声だし過ぎた。じゃあな!」


窓枠に足をかける。


《行って!来い!》


「へへっ、行って来ます!」


そして窓から飛び出し駆け出してから、涙が出た。

必ず、お前の所に帰る。








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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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