続続37話 ミシルの村で。(前) <海の幸>
剣を抜いた無口君に慌てるリーダー。
それを手で制す私。好きにさせたらいいさ~。怪我したら治癒するから~。
そうして浜から少し離れた所に移動した。シロウも。
無口君が踏み出し、ガキンッ!と金属音が鳴って、無口君が吹っ飛んだ。
「「 はあっ!?」」
リーダーと短気君の驚きの声が揃った。
「本気でいいですよ」
体勢を立て直した無口君が再びクラウスに駆け出す。
が、ビタッと止まった。
・・・うぅ、圧がスゴいわ~。シロウも臥せたままだけど耳がピクリとしたし。
無口君の汗がスゴい。ふと見ればリーダーも短気君も汗が流れている。私らの所でコレだもん、正面の無口君は可哀想になる。
結果。一分後に無口君は膝をついた。おお!一分!ご苦労さん!
クラウスは、若いっていいですねぇ、とのんきな事を言っている。
ふと短気君に目を向けたら彼はへたりこんでいた。リーダーは辛うじて立っている。
「腕に自信を持つのは良いですが過信してはいけませんよ。相手がどんな牙を持っているか、探るのも斥候の役目です」
鬼神・・・とリーダーがぼそりと呟いた。
「これで、腕が落ちたと・・・?」
「みたいですよ? 私は現役の彼を見た事はないですし、本人がそう言ってますから」
保存バッグからタオル(綿製)を取り出して三人に渡す。
「おみそれしました・・・」
「いいえ。これで本物と保証していただければと思います。差しでがましいですが貴方は判断力があります。あそこで跳ばずに堪えていたら骨が折れたでしょう。それと柔軟に優れていますね。体重が軽いのは悪いばかりではありませんが、足腰の鍛練は地力に通じます。やり過ぎないように鍛練して下さいね」
無口君が素直に頭を下げ、クラウスが助言をする。
短気君からものすごく羨まし気な気配が漂う。
「貴方もしますか?」
「ありがとうございます!」
やるんかーい!
とまあ、結局三人で飛びかかってもクラウスの圧勝だったんだけどね。
シャン シャン シャン
鈴の音が聞こえた。
海を見れば、筏は沖の方にあり、浜では巫女のような衣装を身につけたミシルが舞っていた。
村人たちは皆手を合わせている。
「良ければ皆さんもお願げぇします」
こちらに来ていた村長がそっと言った。私たちも手を合わせて海を見た。
あの時のようにミシルが舞う。
衣装と鈴が「神に愛された舞」の信憑性を増す。
綺麗。
兵士たちがため息をついた。
その音に、私の息が止まっていたことを知った。魅入ってた。
と、シロウが顔を上げ、クラウスが息を呑んだ。
「お嬢様!沖を!」
あ。ミシルばかりを見ていたけれど、そうだ、葬送の儀式だったんだ。沖?筏は?とクラウスの指す方を見れば、そこには海から顔を出したぼんやりと透けている青龍がいた。
ここで突っ込み叫ばなかった私を褒めてくれ。
「おお! 竜神様が現れて下さった! これであの母親の魂は竜神様が守ってくれるじゃろう・・・良かった・・・」
村長が涙を湛えて竜神に向けてお辞儀をする。
浜ではミシルの舞も終わったのだろう、皆が村長と同じ格好をしていた。
そして、青龍が空気に溶けるように消えた。筏ももう無い。
「そ、そそそ村長、いい今のは、い一体・・・!?」
気丈にもリーダーが発した。他の二人は顎が外れるんじゃないかというくらいに口が開いている。
なのに村長はけろっとしたものである。
「へえ、うちの葬儀はこうなんですわ」
三人がギョッとした。
「この村は昔から竜神様を祀ってますんで、たまぁにああして現れてくれるんでさぁ。まあ、陽炎みたいなモンでしょうけんど、今日のはいつもよりもはっきり見えましたなぁ。皆さんが来たから、竜神様もおまけして下さったんですかねぇ。お陰で景気よく送れましたわ。ありがとうごぜぇました」
そうして三人の兵士は、細長い魔物らしきモノは幻だったと結論付け、剣聖との手合いを土産に帰って行きましたとさ。
めでたしめでたし。
兵士さんが見えなくなってから村長の家に戻ると、タツノオトシゴが家の前で待っていた。
「ね?面倒でしょ?」
《忝ない!》
「いやいや青龍様、ちょっとの打ち合わせだったのに想像以上の良い働きでしたよ」
《村長殿・・・痛み入る》
「はいはい、ご飯の準備だから~、手伝ってね~」
持ち込んだ米を炊き、村の奥さん方が作ってくれたあら汁と~、冷奴と~、青菜のおひたし~、ワカメときゅうりの酢の物~、昆布の煮しめ~、たくあん~!
海藻!豆腐!ついに豆腐とご対面したよー! 各家庭手作り! 形は半球ザル模様ばっかり。いいねぇいいねぇ!
魚は一夜干しされたものを串に刺して焚き火でじっくり焼いたもの。脂がパチパチ言うわ良い匂いがするわ、早く食べたい!皮の色が緑や紫なのは無視します!
そして!刺し身!出たーっ!刺し身ぃぃ!
さっき村のおじさんたちが釣って来たばかりの魚!何だろう?白身の魚!外見がピンクだったのはこの際無視します!
サッと湯がいたホタテみたいのも出てきた!貝柱が大きい!旨そう!殻が真っ赤だったのは無視します!
「この魚ね、生でも美味しいの!」
ミシルがニコニコしてる。ご馳走だ。ありがたい!
「こちらこそですよドロードラングさん。腹一杯米が食べられる日が来るとは・・・」
村長さんが涙ぐむ。
「いやいや村長、これからは交渉次第よ。ミシルから村の特産物を聞いて取引したいものがあるの」
真剣な顔になった村長にクラウスが書類を見せる。そこに書いてあるものは、塩、干物(魚、貝、海藻類)、鰹節(的なもの)、豆腐、こんにゃく。他。
村長が目を丸くする。
「はいはいそんなの後!後あと! 村長、その紙はちゃんと持っていて。さあご飯だよ~!」
ミシルが大皿を持ってご飯を急かす。
すみませーん!
うわーい!いただきまーす!!
「ほぉ、ドロードラングさんたちは箸の使い方が上手いですなぁ」
そりゃあ日本人でしたから~。ドロードラングでも箸を使うのは実は少数。料理班は完璧だけど他の大人たちは難しそうだ。子供たちの方が上手に使えている。クラウスは使えます。
小皿は無いようなので、大皿に一品ずつどっさり乗っているのをそれぞれご飯を盛った茶碗にいちいち取って食べている。
私は気にならないので、どんどん箸を出す。
軍経験のあるクラウスも平気。
「そうなの! お嬢は箸を上手に使うから最初はびっくりしたよ」
あははと笑う私たち。
隣に座ったミシルとする話を村人たちが聞いて質問したり驚いたり、村人の自慢話を聞いたり、喋りながらもガツガツ食べる私に呆れたり、ミシルの友達がお代わりを持ってきてくれては目を輝かす私を笑ったり。
そして、食べながら交渉。
村で獲れ過ぎて困る程あるのは塩と海藻。
浜から離れた所にある畑では村人がどうにか食べていけるだけの野菜しか採れない。採れたら採れたで保存を効かせるために塩漬けだ。
穀物類は粟や稗。
魚は一応年中獲れるが冬の漁はとにかく寒いし、夏はすぐに駄目になるから素早く売りに行かねばならない。
夜中から明け方に漁をし、午前は行商と干物作りと畑仕事に分かれ、午後は漁で使う道具の補修や粟稗の脱穀。
明かりの燃料は漁にしか使われないので日の入りと共に就寝。
米は隣村で買い、こんにゃくもそこにはあるらしい。豆腐も隣村の方が多く作っているだろうと言う。
むぅ。どこが楽になればいいですかと問えば「そうですねぇ、私らは漁をするしかないですからねぇ」と村長は苦笑しながら言った。
塩と海藻だけでも良いかもだけど・・・
「まあ、あの兵士さんたちが噂を広めてくれれば竜神祭でもでっち上げられるんですけどねぇ」
・・・これだ。
「・・・村長って元々はどこの人?」
「あ、分かります?」
「うん、言葉も使い分けるし機転も利くし、発想も田舎育ちの人とちょっと違うよね?」
「はっはっは! ドロードラングさんに釣られたかなぁ。随分と庶民に馴染んでますね」
「貴族のフリをする余裕もない貧乏領地だったもの。誇りよりも食料なのは今でも変わらないわ」
村長は微笑んだ。
「実は、だいぶ昔にクラウスさんにお世話になったことがあります」
ええ!?
「あぁ、やはりあの時の。随分と変わりましたね」
「せっかく逃がしてもらいましたし、今じゃ歳も取りましたし。あぁそれはお互いですね」
「ははっ! そうですな」
ええぇ~、二人だけでわかり合ってるところ悪いんだけど、どういう仲なの?
「先の戦争で私とジャンの剣が全く当たらなかった男です」
・・・ぇ、それって人間?
お疲れさまでした。
やっぱり一話で終らなかった…(~_~;)
予定では、村編はあと半分くらいと思われます。
予定では…
また次回お会い出来ますように。




