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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
12才です。
122/191

続37話 ミシルの村で。(前) <兵士>


《今までの所行、及び本日の行い、誠に申し訳ない。伏して、伏してお詫び申し上げる》


タツノオトシゴが地面と平行になっている。

驚きでヘタりこんだ村長の顔よりも低い位置で。村人もほとんどが腰を抜かして、何人かは気絶したようだ。


「い、いえ、こちらこそ、こんな見苦しい姿で申し訳ありません。青龍様どうぞお直り下さい」


「いいのよ村長。躾は然るべき時にしないと後で大変になるんだから」


躾・・・!?と村長が小さく呟く。


《そうなのだ村長殿。我は社会勉強中なのでな、こうする事は当然である。我に様付けすることもない》


「と言っても、あまりやり過ぎても村長も皆も緊張しちゃうからもう終わりにしよう? お母さんを運んでくれてありがとう、青龍」


ミシルの助け船に私以外の皆がホッとした。

が。これだけは言わせてもらう。


「今後緊急性が無ければむやみに姿を晒さない。無駄に騒がれるのって本当に面倒なのよ。初めてあんたに会う人は混乱するということを覚えてね。・・・これが守れないなら、あんたをじっくり煮込んで出汁を取るからね!」


《し、承知!》


直立不動のタツノオトシゴが返事の後にミシルの陰に隠れた。

ミシルが苦笑する。


「青龍が無駄に恐がられないように言ってるんだよ?」


《む、うむ・・・ん?》


青龍が何かに気付いたように村と隣の街をつなぐ林道を見る。

クラウスが私の前に立つ。ん?


「青龍は姿を隠した方がいいかもしれません」


クラウスが向こうを見ながら言った事に青龍は大人しく従い姿を消した。シロウが私のそばに臥せたのでその毛並みを撫でた。


潮風で毛が傷んだりしないのかな~とぼんやり思っていると、馬に乗った兵士が三人やって来た。


「お前たち!今ここに魔物が飛んで来なかったか?」


「それは、私の従魔ではないでしょうか?」


シロウを撫でながら私は声を上げた。

すると兵士は馬から降りてこちらに歩いて来た。じりじりと。


「もっと長くて青っぽかった気がしたが、んん~?」


しっかり見られてる!

もっと日本化された甲冑的な鎧を想像してたけど、アーライルと大して変わらない鎧を身に着けている。その作りがシンプルなので一般兵士っぽい。

兜を取った時にちょんまげを期待したけど普通の短髪だった。残念。

・・・いや、そんなのまじまじと見ちゃうだろうから駄目だな。


「お前たち、いや、あなた方は貴族のようだが、このような所で何を?」


「はい。私、アーライル国立アーライル学園にて教師助手をしております、サレスティア・ドロードラングと申します」


ドロードラング、と兵士の一人が息をのんだ。

あれ、知ってるんだ?と、視線を彼に向けると睨まれた。


「ドロードラングといえばこんな島国にも聞こえる下衆だろうが、何をしに来た!」


三人の中では一番若いのだろうか、睨んだ兵士がドスドスと前に出る。

それを最初に声をかけて来た兵士が止める。

シロウが威嚇しようと顔を上げたので、彼が止めてくれて良かった。


「待て。それをこれから聞くところだ」


さして大きくもない声だったけど効いたよう。短気君は大人しくなった。リーダー(仮)が私を見て続きを促す。黙っているもう一人は、私のそばへ移動したクラウスをじっと見ている。

・・・へぇ。


「兵士様、そのお方は、アーライル学園へ魔法の勉強をしに行ったこのミシルを送り届けてくれただけでさぁ。こんなでっかくて真っ白い獣など見たことがねぇもんだから、皆で腰を抜かしちまったよぉ」


村長がさっきまでと違う言葉使いで、よっこらしょとシロウを指しながら立ち上がる。それをミシルが支える。


「お前は?」


「この村の村長でごぜぇます」


ああとリーダーが言ったので、何となく知ってはいるようだ。


「そこの娘は魔法が使えるのか?」


「へぇ。荒波をちょこぉっと鎮めるだけのもんでさぁ。だから、わしらも全然気ぃつかんで、たまたま旅行に来ていたアーライル学園の学園長さんが修行せんかと誘ってくれたんですわ」


リーダーは真剣に聞いている。

私は村長がどう話を持っていくのかドキドキしている。


「何でも、ちょこっとでも魔法が使えればぁどんなモノでも見たいと言うし、こっちとしても、漁の時に今以上に波が収まれば儲けもんでさぁ。まあ、こんな貧乏漁村じゃあ、細っこい娘じゃ働きにならんで、丁度良いっちゃ良かったんですわ」


ちょっと理由付けは厳しいけど、兵士たちは漁村を見回して何かを納得したようだ。


「一人では不安じゃろうてその母親も一緒に行ったんですが、元々体が弱かったもんで。そのドロードラングさんとミシルの話じゃあ、たいそう良くしてもらったようだけんど、死んじまったんでさぁ。村じゃあ遺体は海に流すのが供養なんで、でっかい従魔持ちのドロードラングさんが運んで来てくれたんですわ」


今、ミシルの母は(いかだ)に寝かされている。

クラウスを見ていた兵士が遺体の確認に向かった。


「ドロードラングさんはミシルと同い年なのに先生なんですと。えらいもんでさぁ。わしらにも丁寧にしてくれましたぜ?」


確認を終えた兵士が戻って来て、二人に頷く。


「そうか。葬儀の邪魔をしてしまったな。悪かった。もし他の魔物を見る事があったら連絡してくれ」


意外とあっさり信用してくれたリーダーに、短気君が詰め寄った。


「待ってください班長! ドロードラングですよ!? 奴隷にするために来たんじゃないですか?」


よっぽど酷かったらそのつもりでしたよー。


()めないか。そのドロードラングは幼い女当主が立ち現在復興中で人手を募っているとは聞いている。俺は彼女がその当主と言われても納得だ。貴族特有の気がある。それにアーライル国は戦争奴隷以外は禁止だ。お前はもっと世情を知れ」


しかし!とまだリーダーに言い寄る短気君。正義感?血気盛ん?


「彼女がドロードラングの当主であれば、そこに立つ御仁は剣聖と思われますが」


筏を確認に行った無口君がクラウスを見たまま短気君の気を逸らした。リーダーもへ?となる。

ちらりとクラウスを見れば、いつもの穏やかな顔だ。


「まあ、元気で生きているなら彼ぐらいの歳だとは思うが、彼は侍従だろう?」


「気配は武人です」


リーダーが片手で顔を覆った。お前もなぁとため息をつく。

クラウスがくすりと笑った。

うん、リーダーって大変だね。


「あのぉ、葬儀を始めても良いですかぃ?」


村長が困ったように会話に入って来た。

リーダーが慌てて、すまない!やってくれと言うので、村長は村人とミシルを連れ、何人かで筏を担ぎ、波打ち際に移動して行った。


頭を掻くリーダーたちに向き直った。


「兵士様、私は確かに奴隷王を父に持ちます。ですが、子供だからとお目こぼしをいただきました。悪事を働かないという事で領地の復興も許されています。確かに人は集めていますが、(まつりごと)から(あぶ)れた自国のスラムからです。

この村は、まあ貧しいでしょうけれど、皆さん生き生きとしています。ああして土地を離れていたミシルをお帰りと皆が集まってくれる、優しい人たちです。そういう所からは連れ出しませんし、第一ここからでは運ぶのに遠すぎます」


短気君が戸惑った。遠いでしょう? 正直亀様がいるから関係ないけど。

クラウスが胸元に入れていた書類を私に寄越す。

貴族が国を越えるので一応手形を出してもらった。問題が起きたら見せるようにと、国王、侯爵、学園長(新)、おまけにアンディの判までが押されている。

すぐ済ませるから何も問題なんて起きないよと思ってたけど、貰っといて良かった!


外国の一般兵士に見せてどれ程の効果があるかは謎だけど、このリーダーさんは無下にはしないだろう。

書類を読んで若干青ざめたし。

あれ? リーダーさん、大陸共通語を読めるんだ。スゲェ!


「貴女の仰る通りと分かりました。我らの無礼をお許し下さい」


「こちらこそ、遺体を運ぶ事を優先したばかりに余計なお仕事をさせてしまい申し訳ありませんでした」


リーダーが頭を下げてくれたので、私も礼をする。

驚かれた。

お嬢様、とクラウスが耳打ちしてきた。


「いいの?」


にこり。

・・・・・・うん、ほどほどにね。


「あの、こちらのお詫びとして、このクラウスと手合わせはいかがでしょうか?」


兵士の目が点になる。お詫びで手合わせて・・・ねぇ?

クラウスが前に出る。


「貴族籍を外れるまではラトルジン姓を名乗っておりました。現役の頃より腕は落ちましたが、話のタネにいかがでしょうか」


「ラトルジン!・・・剣聖、ラトルジン!・・・本物?」


無口君の目が光る。短気君も真剣だ。

クラウスは変わらずにこりとしたまま、仕舞っていた木剣を取り出した。


「確認をしてみては?」


不敵に笑うクラウスに向かって無口君が剣を抜いた。









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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ミシルが「様」付けで呼んでいるのに、村長が頑なに「さん」付けで呼ぶのが気になる。 お嬢も兵士を「様」付けで呼んでいるがお嬢が「様」付けする必要はないんだよなぁ。
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