おまけSS⑤
合宿中のヒトコマ。
「アイス先輩!」
マイルズ・モーズレイは振り返った。
もはや訂正するのも面倒くさいし、アイス呼びはすれども後輩たちが自分を敬っているのは伝わってくる。
アイスクリームが好きなのは今さら訂正する理由もない。
あれは至高の食べ物だ。
ドロードラング発祥のそのデザートに釣られて、合宿に参加できる事を喜んだ。
が、ここでは今まで常識と信じたものがほとんど崩された。
その常識を砕く最たる者、サレスティア・ドロードラングがマイルズに向かって駆けてくる。
「どうした?」
ドロードラングに着いて五日。なのに何かを悟りかけている気がする。
「クラウスが稽古つけてくれるそうですよ~。生徒の皆に声掛けお願いしま~す」
今日は何をやらされるのかと地味に戦々恐々としていたマイルズは一瞬できらめいた。
クラウスとはこのサレスティアの侍従、ドロードラング領の侍従長であり、かつて剣聖を賜った男。
あっさりと表舞台から消えたが、今でも剣を持つ者、武に携わる者には憧れの人だ。
ドロードラング領に着いて最初に挨拶をした。侍従長としてはそれで正しい。彼は自分達の御世話係ではない。
だが、その穏やかさに意表をつかれた。
鬼と呼ばれた男がまるで好好爺ではないか。
ラトルジン姓を名乗らなかったのでマークに教えられるまで全く気付かなかった。
彼がその人と分かっても、シュナイル殿下の取り巻き仲間共々、憧れが過ぎて日々の挨拶しかできていない。
その彼が!稽古をつけてくれるだと!?
以前、やはりサレスティアの侍従のマークに「俺に勝ったら剣聖に話を通す」と言われたが、未だマークに勝てていない。
その事実が影をさす。
「合宿参加者に特別ですって。皆、真面目に働いてくれてるから快諾してくれたわ」
家格その他が自分より上なのは確実なのに、今までの行いからとにかく無礼な小娘と思ってしまうサレスティアに、初めて後光が見えた。
いや、あの穏やか侍従長にこそ後光が見えた気がした。
思いがけず、前日にマークの師匠ニックとの手合わせを見たが、クラウスの剣筋はほとんど見えなかった。
誰が『シュナイル殿下は剣聖の再来』と言ったのか。
殿下には失礼だが、マークにギリギリ勝っているようでは全くクラウスには及ばない。
クラウスに勝てないニックにも及ばない。
どう及ばないのか確かめられる。見切れるとは思わないが。
殿下に進言できる。
殿下はもっと強くなる。
自分はその傍でお助けしたい。
殿下の盾にも成るべく、傍にいたい。
張り切って仲間の元へ向かうマイルズを見送って満足気なサレスティアは、廊下の角を曲がった所をたまたま掃除していたキャシーたちにその話をした。
「何で喜べるのか分からない!」
「私も昨日チラッと見ましたけど二人の剣なんて見えませんでしたよ? 男子たち真っ青になっていたのに」
「ああ~、二年の男子も喜びそう・・・」
「・・・騎士科って脳筋ばかりなんですかね?」
「だからアイス君はあんなに食べているのに太らないのかしら?」
「え?どういうことですか?」
「いくら鍛えているからって全然太らないじゃない? 私なんかドロードラングに来て太ったのよ・・・学園のお嬢様たちには太るとすぐにチェックされるから体型維持するのをずっと注意してたのに・・・
だから、脳みそが筋肉ならそこでもものすごい消費してるんじゃないかと思うわけ」
ああ~!
女子たちがキャシーに非情な同意を示す。
「そうね、アイス君は学力もあるし。頭でも栄養を消費してるわね、きっと」
「シュナイル殿下の取り巻きたちは大抵そんな男子たちよね」
「ということは、仕事は出来るけど食費もスゴくかかる? うわ、大変!」
「結婚してもたくさんのドレスは買ってもらえなそう」
「君のドレスよりも肉を買ってもいいだろうか、って?」
なかなか辛辣な冗談に笑う女子たちを、女子ってのはどこの世界も変わらないな~と微妙な笑顔で眺めるサレスティア。
「でも皆責任感が強いからきっと家ごと守ってくれるんじゃない?」
「嫁の実家まで!」
そうそう!とこれまた笑う女子たち。
何だ好評価じゃん、とそっと胸を撫で下ろすサレスティアに気付かず、一礼してすぐに仕事に戻る女子たち。
今日も平和だな~とサレスティアは一人執務室へ向かった。
そして、クラウスに稽古をつけてもらった男子たちは、その時に使った木剣を大事に持ち帰ったのだった。
夏合宿編でエタッていたら、「アイス先輩がアイスばかり食べても何故太らないのか、ダイエッター女子に迫られるある一日とかどうですか?」とお題をいただきました。
あら楽しそうと乗っかって、出来たのがコレ……
違うじゃん!?
すみません!m(_ _)m
でも書いてて楽しかったので出しちゃいました~。




