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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
12才です。
118/191

続36話 夏合宿その3。<得手不得手>


次の日。

朝の雑草取りに呼び出された。


「お嬢!これを見ろ!」


タイトが鼻息荒く、赤く俯いている魔法科の男爵の子、ウルリ・ユニアックの右手を掴んでいた。

なんだ、どうしたよ?


タイトがずいと出したのは畑ではお馴染みの雑草。根が強くて取っても取ってもすぐに生える一番厄介なヤツ。


「今すぐコイツをうちに取り込め!」


お前のその無礼さを少し抑えんかい。

しかもウルリを取り込めとか、何よ何があるのよ?

・・・あ!


「根っこに土が付いてない・・・!!」


ウルリがますます俯く。

タイトの手を払いのけ今度は私が掴む。私のが背が小さいから俯いた真っ赤な顔が見える。


「ウルリ、これ、あなたが意識してやったの?」


顔を隠せない事に気づいたのか、随分と躊躇った後に頷いた。


「スゴいじゃない! ウルリは火魔法ばかり練習していたから、火が得意なのかと思ってたわ。ねえウルリ!本気でドロードラングに来ない?」


え?と赤い顔のままポカンとした。そして、おずおずと「あの・・・何の役にも立ちませんよね?」と言った。


はああ!?


「そんなわけ無いじゃない! 私が欲しい能力よ! こうして引き抜いた時に根に土が付いてないって、スゴくスゴく楽なのよ!」


畑が無駄に崩れない、空気を含んだ土になる、土が柔らかいと野菜も育ちやすいし、収穫した後の水洗いの水をぐんと節約できる! 水を節約できるということは、水仕事が減る! 手荒れを防げるのよ!


「でも、」


「でもじゃないわ! あなた、スゴい魔法を使えるのね!」


ウルリは泣いてしまった。

うえっ!? 私の顔そんなに恐かった!?


「だ、誰も、家では誰も、そんな風に、言いませんでした・・・ど、どうにか、火だけでも、お、覚えて、こいと・・・」


あー、まあ、地味な魔法だわね。ウルリも突然の魔力発覚だったはず。派手な方を期待してしまうよね~。

ウルリは袖で顔を拭い、私を見る。


「ぼ、僕の土魔法、は、役立ちますか?」


「とっても!」


ウルリに笑顔が戻る前に、ガシリとその肩に手が乗った。びっくりして振り向いた先にはタイトが悪い顔で笑っていた。


「いやあ良い人材だ。ということでウルリ、どんどん草を抜け。まだ手に触れたモノしか綺麗に抜けないみたいだが、合宿が終わるまでガンガン修行させてやるからな」


いや、させてやるからなって、タイトは魔法を使えないだろう。

タイトの笑顔にウルリの顔が青ざめた。


・・・合掌。






そして今度は洗濯場を覗いてます。

はい、覗きです!


昨日の夜会議で洗濯班のケリーおばさんから、誰か分からないけど風魔法を使う子がいると報告があった。

洗濯中はよく皆で歌うのだが、歌が始まるといつもより風が少し強いらしい。いつもより乾きが早くて助かるね~と笑う。


という事でスカウトすべく覗いているんだけど・・・・・・魔法科女子、ミシル以外の皆が使えるんじゃね?

全員が微々たるモノだから弱いんであって、素養はあると。

・・・誰だ!入学時の個人情報作った奴は! 魔力属性をちゃんと調べたのかい!


「ねぇ亀様、ミシル以外の全員が風魔法を使ってるよね?」


《その様だ》


落ちこぼれと括られたけど、皆うちに来てくれないかな~。何だかんだ働き者だから魔法が無くたってもいいんだけどな~。


《ああ、なるほどな。歌に合わせて無意識に強まっている》


へ~ぇ!歌ってスゴいな~!






そして今度は騎馬の国に来ました。

双子のオッサン(兄)・ザンドルさんが、魔法科の子が乗った馬がいつもより速く駆けると言う。


これにはシロウとクロウも反応。

男子の中にも風魔法を使う子がいるようだ。

それにしても、この数日でよくまあここまで馬に乗れるようになったもんだ。最初はたてがみにヘバリついてたのに・・・若いって素晴らしいね~。






「何か、ドロードラングは緊張しない」


夕飯時に、どうやら無意識に魔法を使ってるみたいだよと魔法科の皆に教えてみた。

自分が風魔法を使えると思っていなかったうちの一人、スミィが何やらウンウン唸った末のコメントだ。


「あ、それ、分かるかも・・・」


天才雑草取りの男爵っ子ウルリも、タイトに散々草取りをさせられて、ぐったりしながらもスミィに同意。


「そっか・・・僕ら、どうにか魔法を成功させなきゃとばかり考えていたから、緊張してたかもしれない」


商家の子テッドが目からウロコのような顔で隣に座るウルリに頷く。


「ドロードラングの人たちはどんなキツい仕事も楽しそうにしているから、私たちにも気持ちの余裕ができたのかも?」


ミシルがそんな事を言う。


「一人でやらなきゃってのはあったわね。そう学んできたから、最初は力を合わせるのが変な感じだった。でもそれで知っていたつもりのクラスメイトをより分かった気がするわ。だから、手伝うという行為が魔法にも表れたんじゃない?」


侍女科キャシー先輩の考察に、魔法科の皆も他の科の皆も真剣に聞いている。侍女科の先輩方はキャシー先輩と微笑む。


「例えば、洗濯物が早く乾けばいいな~とか、馬が気持ちよく走れたらもっと楽しいとか」


「そうだな。草取りだって全員でする仕事だ。気兼ねする事もない」


アイス先輩たちもウルリの隣で雑草取りをしたので、そのスゴさを目の当たりにしたようだ。


「魔力持ちが魔法を使うって、思う程大変じゃないかも・・・?」とスミィ。


「得意不得意があってもいいって意味が分かった気がする」ウルリが笑う。


「弱いのは仕様がないけど、アンドレイ先輩も言っていた、使い方次第ってことか・・・」テッドが顎に手を当てる。


「それが想像力・・・」ミシルが私を見る。


あれまあ、何だか勝手に成長していくなぁ。

合宿中にそこまで考えるとは思ってなかったよ。


「うん。色んな事を素直に感じて、その中からその時どきに必要なものを役立てて。今日使わなかったから明日も必要ないって事はない。これが案外大変だけど、これからの長い人生その事を意識してね」


本当、いつ何が役立つか分からない。

前世の知識が今世で役立ったりね。





***





何だかんだと誰も脱落することなく迎えた合宿最後の夜。

今晩は結婚式です! なんか久しぶり~!



私が立ち会わなくても結婚式を挙げて良いよと言ったんだけど、「亀様がいるとはいえ、お嬢がいた方が派手にできるから」との事。・・・うんそうね、せっかくの魔法だし?派手婚は見て楽しいし!


「お嬢の教え子が来るなら珍しい魔法をたくさん見せたらいいよ。俺はお嬢とアンディのしか知らねぇけど」


今日の主役、ダンが笑う。

・・・ダンが大人っぽい!

まあ16才だし、去年成人済みだから大人の仲間入りをしてはいるんだけど・・・アホな所をいっぱい見てきたからついそう思ってしまうなぁ。


今回料理班初挑戦の豚の丸焼きも朝から準備。大豚だとデカすぎて焼くのに何日かかるか分からないので子豚を一頭捕獲。それでも普通豚の大人サイズである。デカい。内臓を取っても重い。腹の部分にハーブを詰め込み、鉄棒を刺す。そうしてバーベキュー(かまど)の上でじりじりと焼きながらクルクルと回す。


てか、結婚式に丸焼きって良いの?


「こんな手の掛かる食べ物、結婚式でもなきゃ要望出せないじゃん。丸かじりする訳じゃないし、皆で食べられるし、一度やってみたかったんだよね~!」


主役がそう言うならいいけど。

よく考えたら普通に肉料理は出すし、お祝いで丸焼きってあったね。


作業に行く前に誰もが豚の前を通って行くのは可笑しかったわ~。


午後からは全員で結婚式の準備。と言っても、ホテルも遊園地も通常営業中なので半分の人数。騎馬の国からも手伝いに来てもらった。

もちろん生徒たちもお手伝い。アチコチ走り回って一所懸命やってくれてる。男子はヘロヘロだけど、女子はニッコニコだ。


お客さんの何人かが豚の丸焼きの匂いにつられてやって来た。今夜は結婚式なんですと説明すると、なんとご祝儀をくれた!

ええ~っ!?

何でも、旅行先での偶然の結婚式は自分にも福を呼び込むから、商人は必ずご祝儀を渡すのだそうだ。赤の他人にこそ。


そういう商人ジンクスがあるのなら式にご招待しましょう。

少ない金額なのでと参列を遠慮したのを、うちの自慢のドレスを宣伝してくれればいいですと強引に引っ張る。

交渉のルイスさんもその場に呼び、そしてクラウスに席を用意してもらう。


今度から豚は二頭にしようと、クラウス、ルイスさん、ハンクさんと頷きあった。








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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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