続34話 夏合宿その1。<新トンネル>
死屍累々、再び。
男子は狩りに連れていかれ、野草や茸や木の実摘み。途中木登り実習。平民生徒は木登りができたけど、制限時間内では無理だったよう。貴族様は誰もできなかったらしい。
そのうち大豚と遭遇。なんと大豚は卒業試験の討伐対象の一種らしく、生徒は真っ青。
だけどまあ、うちの狩猟班には日常の獲物なので「顔を狙え」だの「真っ直ぐにしか突進しないから落ち着けば避けられる」とか「避けながら首を狙えよ、血抜きが楽になるから」「皮は使えるからなるべく体には傷を付けるな」「いつまでも仕留められないと肉が不味くなって怒られるからな、なるべく直ぐ殺れ」
狩猟班の助言と、あっさりと倒したその戦闘力に呆然。
まあ、狩猟班は成人してからの仕事なので生徒よりは大人だけど、何人かは三年生より小さいし、細い。
自分より小柄な人が大豚を仕留める姿に見入ってしまったと、少々青い顔色でアイス先輩たちは言った。
文官科と特別クラスの生徒はまさかの戦闘だったので動けなかったとグッタリ。その後に行われた解体も大変な経験だったよう。
合掌。
女子(特別クラス含む)は、ホテルに連れていかれ、一日二回の洗濯物の回収と洗濯(午後の部)とトイレの掃除。ホテルの内装にビビり、その部屋数に圧倒され、洗濯場のオバチャンたちと歌いながら洗濯物を足踏み洗い。脱水機(博物館にしかないような手回しのヤツ)を回す力が足りなくてオバチャンたちに笑われ、大量の洗濯物を運ぶのにもフラフラし、干すのにもまた体力を使い、現在腕に力が入らないと嘆く女子たち。
洗濯と掃除とに分かれ、掃除を担当した女子は二号館の部屋数の多さに涙が出そうになったとぼやいた。こちらも物を移動させての徹底掃除なので腕がプルプルしてるらしい。
お疲れ。
ミシルはクラスの女子のフォローを受けながら掃除をしてきたようだ。見たこともない建物が楽しく、疲れたけれど面白かったと彼女たちと笑う。
良かった。
んじゃこの後は全員私に付いて来てね~。
と連れて来たのは、以前山を隔てた隣国との間にこっそり作ったトンネル。アンディとサリオンは屋敷に留守番。
我がアーライル国と隣国を結ぶ主要道路はドロードラングを通らない。だからこそっと山をくりぬいて作ったんだよね~。
まあ、うちにばかり色々と集中するのもアレなので、小さいトンネルのままでいいと思っていた。
だからまず、実はトンネルを造っていたのですがこのまま使っていても良いですか?とお伺いを立ててみた。交渉はクラウスに丸投げ。
山を挟んで隣接する領地同士の交流のみにするはずが、ドロードラング領に楽に行けるように大きくしてくれと要望が出た。
お互い国から許可が出たのでトンネルの幅の拡張が決定。
トンネルの真ん中辺りが国境になるかな。
せっかく帰って来たのでその工事?をしたいと思います!
鉱山を知ってる子は壁がこんな綺麗な坑道は見たことないと興奮。ありがと、落ち着け。
お貴族様用馬車サイズがすれ違える幅に広げます。
「土と水の混合魔法よー。まあ、見るだけ見ててねー」
トンネル手前の地面に両手を付く。今日は執務室から出てきたルイスさんに幅の確認をしてもらいつつ、開始。ちなみにトンネルの向こうにはクラウスとその護衛としてクロウがいる。
まずは表面に掛けていた風と水の魔法を解除。
それから広げたいサイズの土に水を混ぜて捏ねる。ぐっちょぐっちょと嫌な音を響かせ、ぐにょんぐにょんと土が動く様子に生徒の悲鳴があがる。
ちゃんと混ぜないとね~。
そして、壁にするために捏ねた土を圧縮。なるべく滑らかな表面になるようにゆっくりとする。余計な水分が染みだしたのを、水魔法に馴染ませ風魔法を混ぜてそのままトンネル表面のコーティングへ。
チラリと見ればルイスさんからOKが。通信機でクラウスからもOK。
よっしゃ終了~。
「これがトンネルの作り方よー。いつか造る時の参考にしてねー」
「・・・トンネルを見るのも初めてなのに、エライ物を見た・・・」
アイス先輩はすっかりツッコミ要員だな~。
まあ、私独自の作業かもしれないのでそれぞれ工夫してちょうだいね~。
そしてそのままトンネルを通り、隣国イズリール国ジアク領に出る。
そこにはクラウス、クロウ、ジアク領当主始めその護衛、お世話になってる隣国のジアク領ギルド長と暇そうなメンバーが何人かいた。
「ようお疲れ。まさかのお嬢ちゃんが魔法使いだったな!」
「ギルド長、ご無沙汰してます。あ~あバレちゃった」
髭もじゃダミ声ギルド長がガハガハと笑う。山賊か。でも確か三十代。登録もできないチビッコの私が魔法使いでした~。
「あの悪名高いドロードラングの新しい当主が可愛らしい娘さんとはな。世の中何が起こるかわからんな」
ジアク領当主が呆れた様に笑う。こちらも見た目より若い三十代。当主になって十年らしいので、私も十年後には落ち着いた貫禄がつくかな?
「では約定通り、イズリールに何かあった時はここを使って王族の保護をお願いする。逆もまた然りだ」
「はい。よろしくお願いします」
避難路なら小さいままで良かったのでは?とも思うが、王族だけを逃がした所で国が残る訳じゃない。一時避難になるけど、難民を分散して受け入れるためだ。
・・・そういう使い方をしないで済めばいいと強く思う。
「・・・どうにか一座を手に入れたかったが無理なはずだ」
「ふふ。これからはドロードラングにお越し下さいね」
「お宅の一座は美人が多いからなぁ。行けば会えるというのは嬉しいねぇ。ガハハ!」
「うちはいつでもお触りは禁止ですからね? 破った場合は国も身分も関係ありませんよ?」
「わかっているさ。それをやって痛い目を見た話は山程ある。ジアク領にそういう人間がいなくて本気でほっとしたよ」
当主とギルド長がクラウスをチラリと見る。
今日も安定の笑顔でにこにこしてる姿に一瞬身震い。
その隣で欠伸をしたクロウにもびくりとした。わはは。
「なぁ、その話、俺たちが聞いても良かったのか・・・?」
アイス先輩がこそっと聞いて来たので、非公式な事もあるよと言ってみた。
「何が勝負時に使えるか分かりませんからね。色んなものを見て聞いて下さい。私だって味方は多い方がいいです」
貴族生徒たちは難しそうな顔をしてた。
現在イズリール国とはハスブナル国に対しての同盟を結んでいる。いざという時の手はいくつあってもいい。
「俺たちの誰かが裏切るとは考えないのか?」
確かにただの生徒に何の力も無い。が、その親がどう動くかは分からない。国への忠義を貫くか、我欲を取るか、正直その時にならないと分からない。
だけど。
「私を裏切るなら相応な対処をします。ということを理解しておいて下さいね」
にっこり言ったら皆が真っ青になった。
うはは、失礼な奴らだな!
その後は騎馬の里に寄ってテント張り実習。
テントと言いながらも簡易住居だから、男子五人までのサイズとしながらも大きいので手こずった。
オッサン双子のお調子者担当バジアルさんの指導のもと男子たちが組み立てて行く。
出来上がったテントを覗く女子。
「うちと同じくらいかな?」
農家の子は男女共にそう言う。
私が領地に戻って来た時に見た家々はこのテントよりも一回り小さかった。
やっぱり貧乏なんだな、うち。
今のアパートの部屋はもちろんこのテントより広い。皆何も言わないけど、今度新しく建てる時はもう少し広くしようかな?
「村長の家より大きい・・・?」
ミシルが呟いた。
・・・マジですか?
***
翌日も生徒たちは子供たちと行動。
今日からドロードラング製の服を着てもらう。汚れても洗えば取れるから、しっかり動けよー。
起きたら顔を洗って畑の草むしり。収穫は大人が担当。ただし、育成中の野菜の観察もするのは子供が中心。野菜の病気はほぼ無いけど、虫が付くとあっという間にやられてしまう。
見つけたら潰したり、薬草班特製の植物に優しい唐辛子入り防虫剤を撒いたり。
ホテルと屋敷に取れたて夏野菜を持って行き、調理場すぐの外の洗い場で洗って置く。優しく丁寧にさっさと洗うんだと子供たちがいっちょまえに説明。可愛いわ~。
それから朝ごはん。好きなだけ取り分けて食え~。
その後、男子は放牧しに騎馬の国へ、女子は洗濯する為に洗い場へ。
転移門を潜って呆然。そのままあれよあれよと馬に乗せられ駆け足散歩。
騎士科生徒は一年生平民以外は苦もなく進めたが、それ以外の文官科と特別クラスの生徒は馬のたてがみから顔を上げられない状態に。それでも付き添ってもらって百メートルくらいは進んだ。
その横では、弓の訓練、馬レース、槍での打ち合い。それらを三十分くらいで切り上げ、騎馬の国の畑でも雑草取り。
首長たちが水分を取ることに気をつけてくれる。
それからおやつを食べに帰ってくる。
女子はまた掃除と洗濯に分かれ、お客さんの出た部屋を掃除していく。この時間はお風呂場とトイレも掃除。
窓を開けて空気を入れ換えて掃き掃除拭き掃除リネン取り替え。
掃除用具とリネン類をワゴンに乗せて、どんどんと進めていく。
侍女科生徒たちは学校でも掃除を習うが、うちはそれより随分と早い。経験の無い特別クラスの子と共に置いて行かれないように必死だ。
そのまま洗濯物を洗い場へ持って行き、用意されていた桶に入れていく。洗ってすすいで絞って干す。干場はいつもいっぱいだ。
そこまで終えて、おやつの時間。
合流。
お互いにぐったりした姿を見せ合う生徒たち。うちの子たちは元気です。
本日のおやつは騎馬の国産ドライフルーツたっぷりパウンドケーキです! 紅茶と牛乳とどちらか選んでちょうだいね。もちろんミルクティー(紅茶オレ?)にしてもいいよ~。




