続続33話 一つの決着です。<出発>
「アンドレイの婚約者が、サレスティア・ドロードラングに決まって、一番喜んだのは俺だ」
ええっ!?
シュナイル様はちょっと目を伏せた。
「いや、クリスティアーナ以外の誰かであれば良いのにとずっと思っていた。クリスティアーナがアンドレイをずっと想っていたのを知っていたが、婚約者候補のままで終わったのを知って、父上に直談判しに行った」
ええ~っ!?
クリスティアーナ様も思わず顔をさらすほど驚いた。
「クリスティアーナ・カドガンを自分の婚約者にしてくれと」
ああ、これが、クリスティアーナ様が心を動かした目か。
シュナイル様の視線は、クリスティアーナ様から動かない。
泣いて真っ赤になっていた顔にも動じない。
・・・コイツ、やりよる・・・!
「ゆっくりでも少しずつ俺に向いてくれればいいと思った。権力を笠に着た婚約だが・・・アンドレイの近くにいることになるが、それでも俺は、クリスティアーナが欲しい」
「『欲しい』? お兄様、その物の様な言い回し、馬鹿にしていらっしゃるの?」
エリザベス様の声が低い。
「ああそうだな間違えた。すまない。・・・クリスティアーナ、俺は君のことが好きだ。俺の妻になってくれないか」
呆然とするクリスティアーナ様。マネキンになってしまったように動かない。え、大丈夫!?
ゆっくりと一歩を踏み出すシュナイル様。
「・・・クリス?」
ためらいがちに呼び掛けるシュナイル様。
ゆっくり、ゆっくりと近づいて、エリザベス様を越えた。
クリスティアーナ様は逃げない。
「クリス・・・?」
「・・・わたくし、シュナイル様に、望まれ、た?」
「ああ、望んだ」
肩の力が抜けたシュナイル様は、声まで優しくなった。
片膝をついたシュナイル様は、クリスティアーナ様の左手を取る。
「ずっと、君の髪がその形に結わえられるようになってから、ずっとずっと望んでいる。何度でも言おう。クリス、俺の妻になって下さい」
クリスティアーナ様の、花が咲いた。
好きな人に想われるというのは、とても綺麗だ。
幸せが、目に見える。
さっきまでと同じく泣いているのに、全然違う。
とても、綺麗だ。
「・・・はい・・・喜んで・・・」
目を合わせて応えた。
ツンツンしていた彼女が綻んだ。
それを見ても動揺もせずに微笑み返す彼。
なんだ。ポンコツなりに仲良くやってんじゃん。
「では次の休みにアイスを食べに行かないか? 甘いものは好きだろう?」
まだ誘って無かったんかいっっ!?
やっぱりヘタレだポンコツだ・・・クリスティアーナ様が笑っているからいいけど。
「「 いいな~・・・」」
エリザベス様とまた目を合わせ、苦笑。
「私だけの台詞よサレスティア?」
叶わないだろう恋をしている姫の前で不謹慎だったな。でも。
「誰が幸せでも綺麗になる瞬間が羨ましくなるのです。・・・姫も、思い出に告白すれば良いのに」
「貴女、抉ってくるわね・・・でもそうね、いつかできたらいいかもしれないわね・・・」
穏やかに二人を眺めるエリザベス様は、やっぱり苦笑した。
と、何だかまた廊下が騒がしくなった。
すぐにドアが開き何事かと構えたらビアンカ様が入って来た。
おっ?
「ああ!いた! 婚約者変更ってどういう事ですの!?」
慌てて長く走ってこられたらしいビアンカ様には悪いが、皆で脱力してしまった。
***
こんなはずではなかったんです・・・・・・あれ、デジャヴ?
学園の試験は学年毎に回数が異なる。
一年は学年末試験の一回(補習有り)
二年は科毎に必要に応じて。最低月イチ。
三年は月イチ試験の他に個人で選んで必要なものを受け、就職活動も同時進行。
まあ、夏休み前は一年生だけがのんびりしていられる。
ので、ドロードラング合宿参加の二、三年は目の下に隈がある。
お疲れさまです。
まあそれはいいんだけど、私が呆然としたのは、領までの移動手段の事。
領地ではお馴染みの十人乗りのホバー荷車が五台。連結して、私が運転で、と昨日までその予定でいたのに今朝突然オプションが付いた。
シロウとクロウである。
《アンドレイも共に来るというならば護衛が必要だろう?》
《しかし荷車は五台しか準備出来ぬとさ》
《主が場数を践んでいようと成人前の子供。という訳で上手いこと我らを使うといい》
普通(魔物)サイズのシロクロが荷車の前で阿吽の像よろしくおすわりをしている。喋る毎にフサッと尻尾を揺らす。ああ、可愛い。
いや待て待て。
もう転移でいんじゃね? と言えずにいるのは、シロクロにハーネスが付いていて、その繋ぎ先の荷車が進行方向にコの字に固定されている。
・・・何その形、今までそんな物に乗ったこと無いんですけど・・・
そして、大人しくしつつも今か今かと特にソワソワしてるのがシロクロだ。
「・・・確認するけど、荷車のこの幅じゃあ道を通れないわよね?」
《通れるぞ。すれ違えぬがな》
《だから飛ぶのだろう?》
だからじゃないでしょ! 最初からそのつもりでしょ! 誰の入れ知恵だよ! 面白いけどさ!
よくよく見れば座席は補強されているし、ベルトも装備されている。
「は~。そういう事だそうなので、覚悟決めて好きな席に乗って下さ~い」
真っ青になっている皆に一応呼び掛けた。
「ドロードラングに行くだけで覚悟が要るとは・・・」
アイス先輩が諦めたようにクロウのすぐ後ろの荷車に乗る。あざーす。それに倣って皆がゆるゆると席に着く。
「あ!アイス先輩! たぶん真ん中の荷車が一番恐いと思うのでそっちに移動して下さ~い」
「鬼かっ!?」
そう言いつつも一年生を中心に席を代わってくれる先輩たち。さーすーが~!
「アンドレイ様とドロードラング嬢はどうするんだ?」
「アンディはシロウ、私はミシルとクロウに直接乗ります」
「え!? 鞍もないのに大丈夫なのか!?」
「ええ、わりと。あ、代わります?」
「結構です!!」
そんなバタバタをしつつも準備は終わり、では行ってきます!と、見送りに来てくれた皆に手を振って浮上。
あちこちから悲鳴が。ですよね。地上三十メートルくらいかな?
そんなに上がらなくても。
「恐かったら目を瞑っててもいいよ~。しっかり掴まっ「「「「「 ギャアアアア~~!!? 」」」」」
せめて行くぞくらい言ってから進んであげて!?
初飛行で景色がブレる程の速さって可哀想なんだけど!?
まあ、二頭の力で私らに風圧がかかることは無いので、実はどんなに景色がブレようが快適なのだけど。
後ろを見ればもはや死屍累々。・・・あ~あ。
《しかしな主、ドロードラングに来るような奴は下心があるから最初にカマして来いと言われたぞ?》とシロウ。
「え~? それ誰が言ったの?」
《ニック》とクロウ。
あの人はよ~~!
「ははっ、ニックさんなら言いそうだね」
「アンディ感心しないでよ。まったくいい大人が成人前の子供に何をさせるんだか・・・」
「でもまあ、一理あると思うよ」
「それでもまだ学生なのにと思うの」
「優しいな、先生は」
「もう!」
「ふふっ。ねえシロウ、クロウ。せっかく空を飛ぶのだからその素晴らしさも皆に知ってもらおうよ。どれだけ君らが空を翔るのを好きか空にいないと分からないし、僕らはそうそう簡単には空に上がれない。君らが羨ましいともっと思わせよう。そうしたら誰か一人は飛べるようになるかもしれないよ?」
最後のは私に向かって言う。笑ってるし。でもそうね、これも想像の助けになる。
「お願い」
納得してくれたのか速度が落ちた。ふよふよふよふよと音がつきそうな速さだ。
クロウに張り付いていたミシルがその毛皮から顔を上げる。
「うわ!うわあ!・・・はあ~~っ!すごいっ!すごいね!私たち、空を飛んでるんだね!」
そうそう、こういう反応になれば良かったのに。
そっと後ろを見れば、何人かはミシルの声が聞こえたのか周りをそろそろと見てる。
ミシルのように笑顔になったり、更に青くなったり。
アンディとその様子に苦笑した。
アンディがふと、森の一部に焼け焦げ跡を発見。
お。もうカーディフ領だ。
皆さ~ん、もうすぐドロードラングに着きますよ~。
お疲れさまでした。
作中は初夏?ですが、ちょっとだけクリスマス風にしてみました。悲鳴が響きましたが(笑)
夏ならバーベキューだろ!というツッコミはスルーしまっす( ゜Д゜)ゞ
また次回お会い出来ますように。
たぶん、今年の更新は今回で最後になるかと思います。読んでいただきありがとうございました。
来年もゆっくり更新ですが、おつきあいいただければ嬉しいです。
では、よいお年を~( ゜∀゜)ノ




