続続31話 アイス屋開店です。<俺の女>
というわけで来ました、ドロードラング・アイスクリーム屋(店名のセンス!本当すみません!)!
無理矢理放課後をもぎ取って来ました。エンプツィー様? 自力でとお願いしてます。
「あら、綺麗にしてるのね」
ビアンカ様のお付きと共にやって参りました。ちなみにビアンカ様と私は制服です。
「いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ」
執事ヤンさんがスマートに私たちを奥の席へと誘導する。ほんと、そつの無い男だよ。連絡したので席を取っていてくれたようだ。時間に遅れずに良かったー。
ビアンカ様と私は窓際のカウンター席。お付きたちは私たちのすぐ後ろの四人掛のテーブル席へ。
「まあ。外が見える・・・」
「はい。庭もご覧いただこうと、二階はこういう造りにしました。高い場所は平気ですか?」
「ええ。こういう席も良いわね」
「ありがとうございます」
「失礼いたします。お持ちいたしました」
柔らかい声の主を見上げれば、二種盛りフルーツ添えのアイスプレートを持って来たのはダジルイさんだった。あれ。
「今ライリーが休憩中なので」
疑問符の浮いた私にそう囁く。なるほどね。今日も混んでいるようだから人数は確保した方がいいよね。店舗は小さいけど邪魔になる人等じゃないし。
は~。今日も格好いいね!
「女性が、あの様な格好を?」
去っていくダジルイさんを見ながら、ビアンカ様が呟いた。
「はい。彼女は一般向けの店舗の責任者なので、こちらの従業員と同じ衣装にしました。彼女は背もありますので、男装でも見目が良いのです」
「男装・・・」
「あ、溶けてしまうのでどうぞ」
「そうだったわね! まあ!果物も綺麗に並べてあるのね。この丸くなっているのがアイスクリーム・・・冷たい!?甘い!・・・美味しい!」
ビアンカ様は一口ごとに口元を手で隠しながらも、静かに綺麗な所作で食べ終えた。
「・・・美味しかった。冷たくて甘いものなんて信じられなかったけれど、これは、美味しかったわ。紅茶味なんて考えもつかなかった。それに、外を見ながらの食事も初めてだったけれど、悪くなかったわ」
あざーす。
「明日中に、貴女に本を届けます」
「え!? よろしいのですか?」
「この店に招待してくれたら本を貸すという条件よ。もしや貴女、私がそんな口約束も守れない人間だと思っているのかしら?」
「いいえ!・・・ですが、え~、好かれていない自覚はあります。その様に仰っていただけるとは思ってもいませんでした」
途端にもじもじとするビアンカ様。ええ~?何で?
「まあ、言いたい事はあるけれど、それはそれよ」
ええ~!? よく分からん。ふと視線をずらせば、お付き方が皆苦笑していた。
??
よく分からんけども、皆さん完食してくれた様なので、良しとした。
ガチャン!
きゃあ!
食器の割れる音と誰かの悲鳴に即ビアンカ様の前に立ち、そちらを確認する。上等な服を着た少々厳つい男が立っていて、ダジルイさんが腕を掴まれていた。その席の下にはプレートとカップが割れている。座っている連れの男もまたニヤニヤとしている。
うわ、何だアイツ等感じ悪。
「お客様、どうなさいましたか? うちの従業員が何か粗相でも?」
ヤンさんが二人の間に割り込みながら、ダジルイさんを掴む男の腕を払った。
男の目が剣呑になる。
「たかが従業員が客になんだその態度?」
!・・・この野郎、どの口が言ってんだよ。
「うちの従業員はよっぽどでなければ粗相は致しません。お客様が何かをなさったのでは?」
「ああ? そこの女を欲しいと思ったんでな。声を掛けたが断られたのさ」
「うちは軽食屋ですので、店員を口説くのはお止め下さい。女性店員と戯れたいのであれば、然るべきお店でお願いします」
ヤンさんが穏やかに返すが、男の威圧感は変わらない。
「こんな美人が店員してるなんて勿体ないから、俺が買い上げてやるって言ってんだよ」
男は下卑た笑顔でダジルイさんを見ている。
ヤンさんの眼鏡がキラリと光る。
私もイラッとする。
「そういう店ではありませんので、ご容赦下さい」
「うるせぇな! 金が欲しいから働いているんだろうが。金なら何でもいいだろうが。俺はその金があるんだよ!」
そう言って、またダジルイさんを掴もうと伸ばした男の腕をヤンさんが掴んだ。
「申し訳ありませんが、俺の女なので、貴方にくれてやる訳にはいきませんし、もう爪の先だって触らせる気もありません。お代はいいのでお帰り下さい」
うわっ!?「俺の女」なんて初めて聞いた!言っちゃうんだ!?冗談でもすげえぜ、ヤンさん!ヒューヒュー!
「はあ!? 適当な事言ってんじゃねぇよ! お前の女だから何だってんだ! 俺が!気に入ったって言ってんだ! 関係ねぇよ!」
・・・こンのクソ野郎が!!
もういい加減飛び出そうとしてふと見れば、俯いたダジルイさんの顔どころか首も手もが真っ赤になっていた。
え・・・・・・ぇぇえええっ!!? まさかっ!?
コックたちも呆気にとられていた。騒ぎを聞きつけて上がって来たのにこの状況だ。
え!? 誰も二人の仲を知らない!?
全員がブルブルと首を横に振る。
あの男を黙らせる嘘だと思ったけど、ダジルイさんのあの様子では事実か!?
えぇえぇえっ!!? いつから~っ!? いや別に報告義務は無いけど!
「どうせドロードラングの女なんて、全員娼婦上がりだろうが!澄ましてんじゃ」
ドガンッッ!!
破壊音に正気にもどれば、うるさい男の姿は無く、出入り扉のあるはずのトコから外の様子が丸見えで、ヤンさんに隠れていたはずのダジルイさんが前に出て、まわし蹴り後の格好になっていた。
目が猛禽を思わせる。彼女の身体から怒りのオーラが揺らめいている。
ああそうだ、この人、騎馬の民なんだった。
・・・蹴ったのか・・・ああ、ドアの壊れた音ね・・・修理だね・・・お客さんに見られたなぁ・・・連れの男の顔!笑う!
「落ち着けよ」
ヤンさんが穏やかにダジルイさんの腰を引き寄せ、彼女の乱れた髪を耳に掛けながら、目を合わせる。・・・エロっ。
と、ヤンさんがちらりと私を見たので、即、親指を立てた。
どうせこっちも堪忍袋の緒が切れていた。
ダジルイさんが一番速かっただけだ。
ヤッチマイナ!
悪い顔でニヤリとしたヤンさんは眼鏡を外し、ネクタイを弛め、袖を捲りながら壊れた出入り口を越えて階段を降りて行った。
ヤンさんから肩をポンポンとされ眼鏡を渡されたダジルイさんは、彼の姿が見えなくなると我に返ったのか、「お騒がせして申し訳ありませんでした」とお客様に一礼し、壊れた食器の片付けを始めた。
ガットは外に下まで落ちた扉を取りに行き、休憩を終えたライリーも片付けをする。そしてコックたちは騒ぎのサービスとして、呆然とするお客様たちに温かいお茶を淹れた。私は、次回は無料で提供致します、とカードを書いた。もちろん今日のも無料。
あと、親方たちに補修の発注。
二分後。
外からのサンドバッグを叩くような音が止み、ちょっとだけ前髪が崩れたヤンさんが袖のボタンを留めながら、いまだに呆然とするお客でいっぱいの店内に戻る。
・・・汗もかいてないんだけど・・・
連れの男は、ヤンさんの視線を避けるように慌てて逃げて行く。外で伸びてるヤツを連れ帰ってくれよー。
ヤンさんは逃げる男に目もくれず、カウンター前に立つダジルイさんに真っ直ぐ向かい眼鏡を受け取る。
と、その眼鏡をダジルイさんに掛けた。そのまま左手をカウンターにつき、自分の体とカウンターで彼女を挟む。
近い近い!
ダジルイさんは困惑しながらもうっすらと頬を染める。
それを確認したのかニヤリとする。さっきのとは違う感じだ。
「ほらな。お前が思ってるよりお前は佳い女なんだよ。眼鏡で少しは誤魔化せるから、今から掛けとけ」
そして、ヤンさんの右手はダジルイさんの耳たぶを触る。
「男避けにピアスでもするか。石、何色がいいか決めとけよ?」
ふっと笑った。
そんな優しい顔するのかいっ!?
そして、ダジルイさんが微かに笑いながら小さく小さく「・・・はい」と答えた。
・・・店内の全員が思ったはず。
なんならご唱和下さい。せーの、
爆ぜろぉっ!!!
「・・・素敵・・・!」
ハッ! ビアンカ様!?
お疲れさまでした。
=NGシーン=====
「はあ!? 適当な事言ってんじゃねぇよ! お前の女だから何だってんだ! 俺が!気に入ったって言ってんだ! 関係ねぇよ!」
・・・こンのクソ野郎が!! のび〇か!?
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こういう台詞は、ガキ大将な彼よりも、眼鏡の彼を思い浮かべます。
結局カットしましたが。
ビアンカがすごい中途半端になってしまいました。クリスティアーナとかもどうにかしないと。青龍も丸っと無視しちゃったしなー。
他にも何だかたくさんあるなぁ~(~_~;)
あ、今回から副題を付けてみます。
次回またお会いできますように。




