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贅沢三昧したいのです!  作者: みわかず
12才です。
102/191

続31話 アイス屋開店です。<ビアンカ・バルツァー>


魔法科では、私とミシルはすっかり腫れ物だ。


四神の眷属を従魔に持ち、危機があれば白虎が駆けつける。

そして、取り憑いていた青龍は完全分離したとはいえ、いまだに義理堅く傍にいる。


強大な力には確かにどうしたらいいかわからんよね・・・亀様が大人しくて好意的なヒト?で良かったよ、ほんと。


特にあのイヤミ族が挙動不審過ぎて、可哀想な気分になる。家を持ち出してくる事もない。

まあ、あまりに理不尽な事をするならば、こっちも素直にたたき潰すけど。


私は助手になってしまったし、ミシルは若葉マークなので個別指導。

ますますミシルがクラスから浮いちゃうなー。どうしたもんかなー。


「ワシもアイスクリームを食べたいのぅ・・・」


エンプツィー様の教職部屋で片付けながら寮の食堂での事を話していたら、エンプツィー様がポツッと言った。


「魔法科の生徒の成績に対しての指導対策案を全員分作り終えてからにして下さい。ちなみに今日も売り切れました」


「無念!」


「ところで、先週回収した三年魔法科生徒作の魔法陣解析の〆切りが今日なんですけど、どこにありますか?」


「・・・ん?」


「またか!!」


「いやいや! 終わってないとは言ってないじゃろう?」


「終わったとも聞いてませんけど? どのくらい終わったんですか?」


「十五人分」


「半分!? こんにちは残業!!」


「アイスクリームを食べればやる気になるぞぃ」


「よし、その前に昇天させてやる。存分に供えてやるよ」


「ま!?待て待て待て!? お嬢が言うと本気に聞こえるのぅ」


「でしょうね、九割本気ですから。ではお覚悟!!」


「いやいやいやいや!?」


「アイス食ってやる気になるんなら、仕事を終わらせてゆっくり食えっつーの!! 私は定時で帰りたいんじゃあああ!!」


「やる!やるから! そのハリセン出さないで! 洒落にならん!」


「九割九分本気だって言ったろうが!!」


「増えた!? 分かった!やるから!終らせるから!そのハリセン勘弁してくれ!!」


やれば早いのに、いっつも趣味(魔法研究)に走る元学園長を締め上げ、できた物を現学園長のもとへ持って行く。


「はい。今回もご苦労さまでした。ドロードラング君が助手になってくれて本当に良かったよ。私らも残業が減って嬉しいねぇ」


「学園長、いつも申し訳ありません」


「ああいや、君も領主ではあるし大変なのは分かってはいるのですけどね。本当に助かっていますよ、ありがとう」


ほんわりと笑う学園長。あ~優しい。思わずほっこりしてしまう。

まあ、私をエンプツィー様付きに推したのはこの人なので、ただ優しい訳じゃないのもわかっているけどね。エンプツィー様の下で長年苦労してたようだから、私の事も完全には他人事じゃないんだろう。孫を心配する爺様かと思う時がある。


「確認して判を押すだけの仕事なんて、残業の内に入りませんよ」


仏の様な笑顔でそんな風に言う。

うぅっ! 




***




今日も今日とて図書室で資料探しです。

エンプツィー様の自室にある本はマニアックな物ばかりなので、生徒向け授業向けの真面目な物は図書室で探すらしい。

学園の図書室に置けない物ばかりを持っているってどうなのさ。


まあ一日中一緒にいるので、別行動はお互いに息抜きになるから、文句を言うほど苦ではない。

図書室の静かさと、ちょっと埃臭い空気すら癒される。


真面目な生徒はたくさんいるが授業中ではなく放課後利用が主なので、授業中である今は司書さんの他は誰も居ない。


そうして目当ての本を探していると、一番奥にある机の上にレポートらしき物があった。誰かが勉強の後に忘れたんだろうなと手に取ると、一番上の紙には「王女と騎士」と書いてあった。


・・・ん?





「きゃああぁぁぁああ・・・ひぃっ!?」


掠れる様な悲鳴に顔を上げると、ルーベンス王太子の許嫁、ビアンカ・バルツァー様が一人でいた。

私と目が合うと引きつった声を発し、そしてわたわたとハンカチを差し出してきた。


「あ、あなた、何で泣いているの!?」


そんなの! この「王女と騎士」が涙無しには読めない悲恋だからですよ~!!

と、ハンカチを受け取りながら言ってみたつもりだったけれど、まったく言葉になっていなかった。唸っているようにしか聞こえなかったらしく、ビアンカ様はちょっと引いた。


「ご、このおはなじ、すっごく切なくて、がなじぐで、・・・うう、ただ想いを伝えるごどもでぎないなんで~!」


「わかった! わかったから落ち着いて~っ!?」


しばし。

ビアンカ様が何だか肩で息をしている・・・と思える頃には、私の昂りも収まり、深々と頭を下げた。


「お騒がせいたしまして申し訳ありませんでした。お借りしたハンカチは、後日新しい物を進呈させていただきます」


ええ。ビアンカ様がくれたハンカチは、涙と鼻水でどうしようもなく無惨な事になってしまいました。自前のハンカチも同様です。


「こちらのお話はビアンカ様の物ですか?ご友人の物でしたか? 勝手に読んでしまいすみませんでした」


「え? え、ええ。私のですけど、忘れてしまったのは私の落ち度。読んでも構わないわ」


「ありがとうございます。とても久しぶりに泣いたので、スッキリしました。とても綺麗な文章で、主人公のお姫様の気持ちが丁寧に描かれていて、思いの外感情移入してしまいました」


「そ、そう」


「特にあの、騎士と中庭で二人きりになった時に、つまづいた姫を騎士が支えたじゃないですか。その時の見つめ合った時の心の動き!その時には隣国に嫁ぐ事が決まっていて、最後に気持ちを伝えるか、告白せずに黙ったままで別れるかの葛藤! そこで!言えば!何かが変わったかもしれないのに!!」


「ち、ちょっと、落ち着きなさいっ」


「だけど・・・、姫という事に誇りを持っていて、そう()ろうとする姫が、毅然とまた騎士の一歩前を歩く姿に、もう!感動ですよ!」


「そ、そう」


「バルツァー国には素晴らしい書き手がいらっしゃいますね! 作者名がありませんでしたが教えてもらえませんか? 探して、他の作品も読んでみたいです!」


思わず詰めよってしまったけど、ビアンカ様は怒ることもなく、目を逸らして煮え切らない。

あれ内緒? あ、そか。私、好かれてなかったんだっけ。


「申し訳ありません!また昂ってしまいました。ビアンカ様、素敵なお話をありがとうございました。これにて失礼いたします」


サッと礼をして背を向けると、「あ、」と聞こえたのでまたビアンカ様を振り返る。


「あ、よ、良かったら、他の話も貸してあげてよ。・・・読む暇があるのなら、だけれど・・・」


金髪縦ロール美少女が、もじもじとしている・・・!


何コレ!? なんのご褒美!? そんな趣味はないけど、ありがとうございます!!


「その代わり・・・」


はい?







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『贅沢三昧したいのです!【後日談!】』にて、

書籍1巻発売記念SSやってます。
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