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第42幕

 帝国軍部隊に襲撃され、負傷したダーナ派遣部隊の各員を町の中に収容した私は、そこでフェルトやサリアたちと合流した。

 ダーナの町の住民たちにも手を借りて騎士たちの手当てを行いながら、私はダーナ派遣部隊の隊長から今回の事態についての報告を受けた。

 もともとダーナに部隊が派遣されたのは、レンハイム周辺地域に帝国軍残党が残っていないかを確認するための予防的措置だったという。

 ダーナの他にも、レンハイムを中心として複数の部隊が周辺地域に向かったそうだ。

 つまり、サン・ラブール連合軍北部方面軍も派遣されて来た部隊員たちも、最初からダーナ付近に帝国軍がいるという確証はなかった訳だ。

「あの白花の竜騎士さまが直々にお越しになるという早馬が参りまして、これは何かあるに違いないと我々も気を引き締めていたところだったのです。しかしながらこの様な事態になり、まったく面目次第もございません……」

 自身も手傷を負ったダーナ派遣部隊の指揮官は、そう言うと顔をしかめて項垂れた。

 私たちがダーナにやって来たのは、オレットが仕組んだ休暇計画の為だ。今回の帝国騎士の動きには関係ないのだが、皆まで言うまい。

 では、帝国軍はどうしてダーナ近郊に現れたのか。

 それは、シェリルと名乗った黒髪の女騎士が説明してくれた。

 味方を守り、1人で奮戦していた彼女だったが、そもそもダーナ派遣部隊の一員ではないらしい。別系統からの命令で、レンハイム近郊に潜伏する帝国騎士の残党狩りの為に動いていた部隊のメンバーだったそうだ。

 ところが、彼女の部隊は敵を追う内に返り討ちにあってしまい、彼女以外の隊員は全滅してしまったらしい。

 しかし彼女は諦めずに追撃を行い、ダーナ近郊で敵部隊を捕捉した。そしてその敵が偶然遭遇したダーナ派遣部隊へと襲いかかり、騎士シェリルが味方を救うべく援護にはいった。そうして私が出くわしたあの状況が出来上がったという訳だ。

「シェリル殿には助けていただき、感謝の言葉もありません」

 ダーナ派遣部隊の指揮官がシェリルに頭を下げると、彼女はふっと薄く笑った。

「どういたしまして。これで私の目的も果たす事が出来ましたから。こちらからも感謝致します」

 私を見つめながら微笑む騎士シェリル。その炎を宿したかの様な赤い目は、こちらを射貫かんとする様な真っ直で強い光を湛えていた。

 その物腰から、シェリルというこの騎士が只者でない事は直ぐにわかった。

 今朝遭遇した帝国軍に、シェリルの様な手練れがいる部隊を壊滅させられるだけの戦力があったのかは疑問に思えるが、しかし敵の全容は不明なのだ。もしかしたら他に、より強力な敵が潜んでいるのかもしれない。

 私はレティシアとも相談した後、レンハイムに向けてダーナ防衛と敵捜索の追加人員の派遣要請を出すことにした。あとはその味方部隊が到着するまで警戒態勢を維持し、待機するしかない。私たちの現在の陣容では敵を探すには数が少なすぎるし、下手に動くと各個撃破の対象になりかねない。

 一通りの状況把握や手配を済ませた私は、その日の夕方頃になって初めて一息吐く事が出来た。ずっと警戒態勢を維持していたので、早朝の出撃からずっと、私はアーフィリルと融合した大人状態のままだった。

 私はそこで、レティシアから一旦部屋を取っている宿に戻り、休息を取る様に言われた。

「体を休める為に温泉に来たのに、アーフィリルちゃんと融合して余計に体力を消耗したら本末転倒でしょ」

 そう言い放つと、レティシアはギロリと私を睨み付けた。少し機嫌が悪そうだった。

 敵がいない状態で、レティシアの言葉にあえて逆らう意味はない。

 私はフェルトと一緒にダーナ派遣部隊の負傷者が収容された町の集会所を出ると、薄闇に沈み始めた石畳の道を歩いて私たちの宿へと戻った。

 部屋に戻ると、そこにはぐったりとした様子で生気を失ったアメルと、苦笑を浮かべるマリアが待ってくれていた。

 私は2人に挨拶してからアーフィリルとの融合を解除すると、ふうっと息を吐いた。

 疲れた……。

 レティシアさんは私の体の事を心配してくれていたみたいだけど、今朝の戦闘ではそれ程力を使わなかった。アーフィリルと融合しているだけであれば、最近では全く苦にはならないのだ。

 それでも、今朝からずっと予想外の事が続いていて、精神心的に疲れてしまったのは確かだったけど……。

 私は暗い顔をしてベッドに横になっているアメルに駆け寄ると、ぽんぽんと肩を叩いた。

「どうしたの、アメル。風邪?」

「うー、セナとのドキドキ温泉休暇が……」

 低い声で唸るアメル。

「帝国軍が現れたのとセナが出撃したのを聞いた途端、アメル、こんなになっちゃって」

 マリアちゃんがそう言うと、小さくため息を吐いた。

 確かに休暇のつもりでダーナにやって来たアメルには、敵襲来の知らせはお休み終了の宣告と同じなのだ。死傷者が出ているこの状況では、休暇を続けている訳にはいかないのだから。

 最初から任務のつもりをしていた私には、特に大きなショックはないのだけれど。

 アメルや、表情には出していないけどやはり落胆しているマリアちゃんの気持ちは良くわかったので、私は2人を温泉に誘う事にした。

 レンハイムから援軍が来るまでは出来る事はあまりないし、敵が現れてもアーフィリルが近くにいてくれれば即戦闘態勢を整えられる。お風呂くらいは問題ないと思ったのだ。

「ねぇ、アメル。髪洗って。さぁ、マリアちゃんも一緒に」

 私はベッド脇に屈みこんで、アメルの鮮やかな金髪を撫でた。

 アメルが、ギロリと私を見る。

 そして一瞬の間の後。

「了解!」

 まるでバネ仕掛けの人形の様に、かばっと跳ね起きるアメル。

 それからの私は、昨日とまったく同じ状態となった。即ち、アメルに連れ回され、頭を洗われたり、体を洗われたり……。

 しょうがないかなと、私はどこか達観した様にアメルたちのなすがままになっていた。

 温泉休暇を楽しみにしていたアメルたちに、せめてお風呂くらいは好きな様に入ってもらえたらと思ったのだ。

 そんなお風呂の後。

 アメルとマリアちゃんには少し元気になってもらえたみたいだけど、私の方は何だかお風呂の前以上にへとへとになってしまっていた。

 ふうぅ……。

 お風呂上がりの私がお水を貰おうと宿屋さんの廊下をとぼとぼと歩いていると、ふと前方にフェルトくんの姿を見つけた。

 フェルトくんは騎士服姿で剣を携え、外に出て行く様だった。

 マリアちゃんに洗ってもらってふわふわになったアーフィリルを抱き締めた私は、何となくそのフェルトくんの後を追い掛けた。

 既に日が沈んでしまったダーナの町は、空気そのものが凍り付いているかの様にしんと静まり返り、剥き出しの肌が痛くなるほど冷え込んでいた。

 もちろん息は真っ白だ。鼻の先があっという間に冷たくなる。

 抱き締めたアーフィリルの温かさだけが、唯一の頼りだった。

 そんな極寒の屋外で、フェルトくんが剣の素振りをしていた。

 その姿を見て私は、思わず目を丸くして「おお」と呟いていた。

 白い息を吐きながら、単純な大上段からの降り下ろしや複雑な型まで満遍なくこなしていくフェルトくん。

 宿の軒先からそんなフェルトくんの姿を見つめる私は、ぽわっと胸が熱くなるのを感じていた。

 強くなる為に常に鍛錬を欠かさない。その姿勢は、騎士として正しいと思う。フェルトくんぐらい強くてもまだその鍛錬を欠かさないというその姿は、私には他人事ながらとっても嬉しく思えたのだ。

 さすがはフェルトくんだ。

 何だか胸の中がむずむずして来て、何だか無性に私も剣を握りたくなった。

 いつ帝国軍が現れるかもしれないこんな状況だからこそ、こうした地道な鍛錬が大事なんだ。

 ……久々に、フェルトくんと手合わせするのもいいかもしれない。

 フェルトくんの素振りがひと段落ついたタイミングで、声を掛けようと私が1歩踏み出したその時。

「熱心な事ね」

 笑みを含んだ女の人の声が、背後から聞こえた。

 振り向くとそこには、体の後ろに手を回した黒髪の女性騎士のシェリルさんが、微笑みを浮かべて立っていた。

 笑みの形に歪んだ炎の様な赤い目が、真っ直ぐに私を見下ろしている。

 シェリルさん、いつの間に町の集会所からこちらにやって来たのだろうか。後ろに立たれるまで、近付いて来るのも気が付かなかった。

「お疲れさまです、シェリルさん」

 私はぺこりと頭を下げた。

「竜騎士サマも、ああやって鍛錬されているのかしら?」

 微笑んでいるのだけれど、どこか冷ややかな感じがするシェリルさんが、フェルトくんを一瞥してからまた私を見た。

「もちろんです。日々の鍛錬こそ、騎士たる者の務めですから!」

 ダーナに来てからはお休み中だったけど、私だって会議や執務の間、時間を作って剣の稽古をしているのだ。

 小さな状態では、未だにオレットさんやフェルトくんに翻弄されてばかりだったけど……。

「騎士として恥ずかしくないように、普段から頑張らないと!」

 私は、むんっと力を込めてシェリルさんを見上げた。

 しかしそこで、私はふと疑問を覚えた。

 小さな状態でシェリルさんに会うのは初めての筈なのだけれど、私が竜騎士だとよくわかったなと思う。白花の騎士団の誰かから聞いていたのだろうか。

「竜騎士サマ。貴女はどうして戦っているのかしら?」

 シェリルさんの目付きが、すっと鋭くなった。

 何だか背筋に冷たいものが走り、思わず私はぶるりと身を震わせて一歩後退ってしまった。

 むっ。

 私はしかし、気を取り直してキッとシェリルさんを見上げた。

「私は、理不尽な暴力から力のない人たちを守る為に戦っています。こんな戦争なんて早く終わらせて、みなさんが住み慣れた故郷で、自分たちの家で、安心して眠る事が出来る様に戦っているんです!」

 私は大きく息を吸い込んで、アーフィリルを抱き締める腕に力を込めた。

 そんな私に対して、シェリルさんはふんっと鼻を鳴らして笑った。

「噂の白花の竜騎士サマは、随分と理想家でらっしゃるのね」

 シェリルさんの口元は笑みの形に歪んでいたけれど、その目はやはり笑っていなかった。

 私は、少しだけ眉をひそめる。

 戦う理由というのは、人それぞれだと思う。それは、今までの経験からも理解しているつもだった。

 でも。

 エーレスタの、いや、どこの国の騎士であっても、騎士である以上は、多かれ少なかれ誰か他の人を守るのだという使命感を抱いて戦っているのだと思う。

 みんな、大切な人やものを守るために命を懸けて戦っている。

 その思いは、何かを奪ってやろう、踏みにじってやろうという邪な意思よりも強い力を生み出す源になるに違いないと私は信じている。

 例え、そんなものただの理想に過ぎないと笑われても……。

 むむむっと眉をひそめる私に対して、シェリルさんはふんっとため息を吐いた。

「まさか、竜騎士サマがこの様な子供でいらっしゃったなんてね。見た目だけじゃなくてね」

 ぼそりと低い声で呟いたシェリルさんが、自嘲のこもった笑みを浮かべた。

「……シェリルさんも随分お強いみたいですけど、どうして戦っているんですか?」

 私は微かな違和感を覚えて、そんな疑問をシェリルさんに返してみる。

 少し見ただけだけど、シェリルさんは相当な手練れだ。そこまで強くなるまでには沢山の努力が必要だっただろう。

 さらにシェリルさんには、味方部隊が全滅してもそれでもなお戦える強い意志の力がある。

 ……何かを守る事を嗤うのなら、他にどんな目的があってそんなに強くなったのだろう。

 私はじっとシェリルさんの目を見つめた。

 真正面から私の視線を受け止めたシェリルさんは、またあの冷たい目でギロリと私を見下ろした。

「ふっ、そんなの決まっているじゃない。強くならなければ生きられないからよ。圧倒的な力で他をねじ伏せなければ、生きていけない。それが、世の中の理というものよ」

 ……生きるために。

 私は小さく頷く。

 それは、わかる……。

 この世の中は、完璧ではない。今回の戦争がなくてもその他の争いは尽きないし、差別や貧困や過去の大きな戦争の爪痕など、厳しい状況に晒されて生きている人が沢山いるのだ。

 でも……。

 私は、むんっと力を込めてシェリルさんを真っ直ぐに見返した。

「……他の人を虐げたりねじ伏せたり、そういうのに力を使うのは、間違っていると思います」

 私はシェリルさんに対峙対しながら、きっぱりとそう言い放った。

 シェリルさんが言う様に力を振るうのは、その使い方を間違えていると思う。ましてや強い力を持つ者なら、騎士さまならば、その力は他を守る事にこそ使わなければならないのだ。

「……シェリルさんも騎士なら」

「他者の為に。そんな事が言える人間は、今まで他の誰かに守ってもらって来た恵まれた人間ね。そんな人間の強さなんて、たかが知れていると思わない?」

 シェリルさんは、暗い目でじっと私を見た。

 私はその迫力に思わず気圧されてしまいそうになったけれど、ギリっと歯を食いしばって何とかその場に踏み止まった。

 ここで、引き退ってはいけない。

 そう思ったから……!

 しかしそこで、シェリルさんは不意にふっと微笑んだ。

「竜騎士サマには、是非今度手合わせをお願いしたいわね。どちらの強さが正しいのか、決着をつけましょうよ。もう、遅れはとらないから」

 冷たい真冬の風が吹き抜ける。

 シェリルさんの黒髪と私の白くなった髪が、夜闇にふわりと広がった。

 三日月型に口元を歪め、燃える様な赤眼で私を見下ろすシェリルさん。

 冬の冷気とは違う冷たいものが背筋を走り抜け、そのまま私を包み込んだ。

『セナ』

 今まで胸の中で大人しく私たちの話を聞いていたアーフィリルだったけど、そこで僅かに身を固くして私を振り仰いだ。

 シェリルさんの手が剣の柄に乗る。

 それだけで私は、びくりと体を震わせた。

 まずい。

 これは、良くない空気だ。

 目の前にいるのは、オルギスラ帝国軍部隊を撃破してダーナ派遣部隊を守ってくれた味方の筈なのに、これではまるで敵と対峙しているみたいだ。

 それも、とびきりの強大な敵。

 まるで、あの機竜士アンリエッタ・クローチェの様な……。

 私は、ギリっと半歩後ろに下がった。

 ここで何か極端な動きを見せたら、即座に何かが始まってしまう。そんな気がしたのだ。

「シェリルさん……」

 私が絞り出す様に何とかそう呟いた瞬間。

「他人の為に戦うっていうのも、簡単な事じゃないぞ」

 剣を手にしたフェルトくんが、私とシェリルさんの間にさっと割って入ってくれた。

 私を背に、シェリルさんの前に立ちはだかるフェルトくん。

 シェリルさんの鬼気に呑まれそうになっていた私は、そこではっと我に返った。

「随分剣呑な雰囲気だが、あんた、何だ。うちのセナに何の用だ」

 フェルトくんの低い声が響く。

「……その殺気、ただ事じゃないな。あんた、何をするつもりだ?」

 フェルトくんが私を背にしたまま、じりっと一歩、シェリルさんに向かって踏み出した。

 沈黙が周囲を支配する。ピリっとした緊張感が、チクチクと肌を刺す。

 私はおろおろしながら、きょろきょろとシェリルさんの顔とフェルトくんの背中を交互に見る事しか出来なかった。

「フェルトくん……」

 小さく呟いた私の声が、意外に大きく響いてしまう。

「……フェルト?」

 その声に、シェリルさんが反応した。

 不敵な笑みを浮かべていたシェリルさんの顔から、すっと表情が消えた。

 シェリルさん、フェルトくんの事を知っているのだろうか。

 私たちとシェリルさんの睨み合いは、そのまましばらくの間続いた。

 どれくらいそのままだっただろうか。

 不意にシェリルさんは、くるりと踵を返して私たちに背を向けた。

「立派な騎士に守ってもらってよかったわね、竜騎士サマ」

「シェリルさん!」

 私は、フェルトくんの背中からひょっこりと顔を出す。しかしその私を、フェルトくんがぐぐっと押し留めた。

「私にはまだ任務があるからね。一仕事終えたら、是非手合わせして欲しいものだわ。なんなら、そこの騎士も一緒で構わないから」

 ふふっと笑ったシェリルさんがマントを翻して私たちに背を向けると、夜の闇の中へと歩き始めた。

「その時は、今度こそ決着をつけましょう」

 笑いながら、手を振るシェリルさん。

 私は、その背中をじっと見送る事しか出来なかった。

「何なんだ、あいつ」

 シェリルさんの姿が見えなくなると、フェルトくんがぶっきらぼうに呟いた。

 ……シェリルさん、部隊の仲間をやられて気が立っていたのだろうか。

 そこに私が、他の人を守るのが騎士だとか言ってしまったから、怒ってしまったのかもしれない。

 私は、小さくため息を吐いて肩を落とした。

 尋ねられた事に答えただけとはいえ、私も少し無神経過ぎたのかもしれない。

 でも、今の状態のシェリルさんには、少し注意を払っておいた方がいいかもしれない。話した感じだと、何だか少し危うさの様なものを感じてしまった。

 周囲の全てを敵にしてしまいそうな、全てを憎んでしまいそうな、そんな危うい雰囲気を……。

 シェリルさんの事に関しては、ダーナ派遣部隊の隊長さんにも頼んでそれとなく見守ってもらおう。

 私はふうっと大きく息を吐いて、強張っていた体から力を抜いた。

「……みんなのところに戻ろう、フェルトくん」

 未だにシェリルさんが去った方向を睨み付けているフェルトくんの騎士服の裾を、私はぎゅっと掴んで引っ張った。

 ふんっと面白くなさそうに息を吐いたフェルトくんが、半眼で私を見下ろした。

「……まったく、何でこうトラブルに巻き込まれるんだ、セナは」

 フェルトくんはわざとらしく大きなため息を吐いた後、ガリガリと後頭部を掻いた。そして私を一瞥したあと、宿の方に向かって歩き始めた。

 私はフェルトくんの服の裾を掴んだまま、その後をついて行く。

「そんな、人をトラブルメーカーみたいに……。でも、助けてくれてありがとう」

 私は片手でアーフィリルを抱き締めたまま、にこりと微笑んでフェルトくんを見上げた。

 こちらを見たフェルトくんが、うっと短く唸って私からついっと目を逸らした。

 私は、ふふふっと笑ってしまう。

 実は、助けに入ってもらった事に加えてもう一つ嬉しい事があった。

 それは、フェルトくんが他の誰かの為に戦うのを認める様な事を言ってくれた事だ。

 出会ったばかりの頃は、先程のシェリルさんと同じ様な悲しい事を言っていたフェルトくんも、少し変わってくれたのかなと思う。

 その変化と、少しでも私の事を認めてもらえた事が素直に嬉しかった。

 私はニコニコしながら、フェルトくんの隣に並ぶ。

「……何だよ」

 フェルトくんがギロリと私を見た。

「別に」

 私はふふんっと澄まし顔を作る。

 フェルトくんが不満そうに鼻を鳴らすと、宿屋さんの方へと視線を向けた。




 2日後の夜。

 レンハイムから増援部隊がやって来た。

 それにともない、大きな損害を負ったダーナ派遣部隊と所属部隊の全員を失ってしまったシェリルさんは、先にレンハイムへと戻ると事になった。

 私に挨拶しに来てくれたシェリルさんは、特に変わった様子はなかった。礼儀正しく落ち着いた様子のベテラン騎士といった雰囲気だった。

 その増援部隊は、私たちもレンハイムに戻って来る様にというオレットさんの伝言も運んで来てくれた。 

 レティシアさんもサリアさんもそうすべきだと言っていたけれど、私はそれを却下した。

 まだダーナの近くに敵が潜んでいる可能性がある以上、その発見と撃退に努めるべきだと思ったのだ。味方も増えたのだし。

 しかしそうして敵の探索に参加し、さらに2日が経過しても、帝国軍を発見するには至らなかった。

 結局最後はレティシアさんに説得され、ダーナの町の事は増援部隊に任せる事にして、私たち白花の騎士団のメンバーもレンハイムに戻る事になった。

 帰りの道中。帝国軍の動向についてあれこれ考えている私をよそに、レティシアさんとアメルはお休みが取り止めになった事について、ずっと文句を言い続けていた。

 レティシアさんは、腰を据えてもっとゆっくり温泉と魔素について研究したかったみたいだ。アメルは、単純に帝国軍に対して罵詈雑言を浴びせていた。

 レンハイムに戻った私は、オレットさんにため息と共に、グレイさんに苦笑でもって迎えられた。

 荷物の片づけなどはアメルたちにお願いし、レンハイム城の塔の部屋の書斎に戻った私は、さっそくオレットさんと情報交換を行う事にした。

 私が大きな執務机に向かって座ると、渋い顔をしたオレットさんがその前に立った。

「……まったく。せっかく休暇を手配してやったのに、何故こうも厄介事に巻き込まれるんだ、セナは」

 今回のダーナの件について一通り説明すると、片足に体重を乗せて立ったオレットさんが、半眼で私を睨め付けた。

 む。

 私だって、好き好んで敵と遭遇している訳ではないというのに……。

 書斎の大きな椅子に腰掛けた私は、執務机の下でぷらぷらと足を振って不満を表現してみる。

「こちらもセナの不在中に色々処理しておきたかったんだが……まぁ、しょうがないか」

 片目を瞑り、無精髭の生えた顎をさするオレットさん。

 今度は逆に、オレットさんがここ数日の間レンハイムで起きた事について教えてくれた。

 サン・ラブール連合軍北部方面軍や白花の騎士団の状態、レンハイムの防衛設備強化に関しては特に何も問題はなかったのだけれど……。

「国境付近で帝国軍部隊を目撃したという情報がある。現在偵察部隊が出ているから、その報告待ちだが……」

 私は最後にそう付け加えたオレットさんの言葉に、きゅっと眉をひそめた。

 私たちがレンハイムを奪還した当初から、帝国軍がレンハイムの再占領を目指して再侵攻を仕掛けて来るのは、時間の問題だろうと言われていた。

 ……とうとうその時が来たのだろうか。

 敵も、レンハイムに駐屯するこちらの戦力は承知している筈だ。

 サン・ラブール北部方面軍主力と私たち白花の騎士団。そしてアルハイム様や私など、4騎の竜騎士を擁するこちらの戦力を打ち崩すのは、容易ではない。

 それでも仕掛けて来るというのなら、敵もそれなりの戦力を用意して来るという事だ。

 次にレンハイムを巡る戦いが起こったなら、それは多分、大きな戦いになるだろう……。

「……帝国軍が攻めて来るんだったら、私のお休みどころではありませんでしたね」

 私は表情を引き締めながら、オレットさんを見上げた。

 先程は私のせいでお休みがダメになったという様なとんでもない言い掛かりを受けたけれど、どちらにせよお休みを切り上げて帰還しなければいけない状況だったのだ。

「まぁ、そうなんだがな。それにしても、ダーナの件は予想外だった」

 オレットさんがぼりぼりと頭を掻いた。

 ダーナの件といえば……。

 私は小さく首を傾げる。

「オレットさん。シェリルさんの事、確認してもらえましたか?」

 シェリルさんとダーナ派遣部隊がレンハイムに向けて発った際、私はオレットさんに対して、シェリルさんの状態について注意する様に伝言をしておいたのだ。

 仲間を失ったシェリルさんが、自暴自棄になったりしない様に……。

「ああ、それな。こちらでも確認はしているが……。その女騎士の身元については、まだ確認出来ていない。北部方面軍では、あちこちに帝国軍部隊の追跡、掃討の部隊を出しているみたいだから、壊滅したっていうその部隊がどれかっていうところまでは特定出来ていないんだ。どうやらその騎士は、ダーナ派遣部隊の隊長が気をきかせて、自分の隊に迎えたみたいだがな」

 こちらも色々慌ただしくてな、とオレットさんが付け加える。

 シェリルさんに新たな仲間が出来たなら、それはそれでいいのだけれど……。

 私の方も色々と落ち着いたら、またシェリルさんのところに顔を出してみようと思う。もう一度話をして、私と手合わせをして気が済むのなら、剣を交えるのもいいかもしれない。

 ……その前に、ここ数日の間に溜まったのであろうお仕事の山が、私を待ち受けているのだけれど。

 私は執務机の上でお腹を見せ、ゴロゴロしているアーフィリルを撫でてから、山の様に積み上がった書類を一瞥する。そして、小さく溜息を吐いた。

 ……あと、そうだった。

 私は、その書類の隣に置かれた紙箱を見た。先ほど、オレットさんとの会議を始める前にマリアちゃんが持って来てくれたものだ。

「えっと、そうでした。オレットさんにお土産があるんでした」

 私はその紙箱を取り上げると、椅子から降りてオレットさんの前に駆け寄った。そして、はいっとその箱を差し出した。

「温泉マンジュウです。グレイさんたちと一緒に食べて下さい。私とレティシアさんたちからの温泉土産です」

 私は、オレットさんを見上げてふわりと微笑む。

「あ、ああ。すまないな。マンジュウ?」

 オレットさんは紙箱を受け取りながら、少し不思議そうな顔をする。

 その足元に、むくりと起き上がって執務机から飛び降りたアーフィリルが、とととっと駆け寄って来た。

 む、アーフィリル、オレットさんのお土産を狙っているのか。

「もう、アーフィリルはおマンジュウ食べたでしょ」

『む、そうなのか』

「お腹空いてるの? 何か食べる?」

『うむ、そういうわけではない。あまり聞かぬ食物の名に、興味を抱いただけなのだ』

 私はしゃがむと、うんしょとアーフィリルを抱き上げた。

 その私の頭の上に、ぽんっとオレットさんの手が置かれた。

「……こんな事になってしまったが、少しは休めたか?」

 珍しく穏やかで優しいオレットさんの声音に、私は一瞬きょとんとする。しかし、直ぐに微笑み、はいっと頷いた。

 色々想定外の事は起きたけれど、温泉は気持ちよかった。機会があったら、また是非行ってみたいと思う。その時には、オレットさんやグレイさんも一緒に行けたらいいのだけれど。

「……すまないな、セナ。これからもよろしく頼む」

 短く息を吐き、申し訳なさそうにそう告げるオレットさん。

 アーフィリルを抱き締めた私は、うんっと首を傾げた。

 別に、オレットさんに謝られる事なんてないと思うのだけれど……。

 むしろ感謝しなければならないのは、お休みをセッティングしてもらった私の方なのだ。

 オレットさんの言葉がどういう趣旨の台詞かはわからなかったけど、私の方こそこれからもオレットさんのお世話になるのは間違いないと思う。

 だから。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 私は、アーフィリルを抱き締めたままぺこっと頭を下げた。

 一瞬の間の後、オレットさんがふっと笑った。

 あれ。

 なんで笑われるのだろう……?

「まぁ、今日は旅の疲れもあるだろう。ゆっくり休め」

 オレットさんが、私の頭をさらにぽんぽんと叩く。

 いい加減背が縮むからと抗議しようかと思ったタイミングでくるりと背を向けたオレットさんが、温泉マンジュウの箱をひらひらと振りながら歩み去って行った。




 早速溜まった書類仕事のいくらかを処理した私は、お風呂に入ってから早々に眠る準備を始めた。

 一度ダーナのお風呂を経験してしまうと、あの大きくて熱いたっぷりのお湯が恋しくなってしまう。

 しかし、無いものねだりをしてもしょうがない。

 こちらのお風呂でもしっかり疲れを取って、また明日からのお仕事に備えなければならないのだ。

 書類仕事はもちろん山積みだし、会議とか不穏な動きを見せる帝国軍への対応とか、こなさなければならない課題は沢山あるのだから。

 明日からの軍議や白花の騎士団の方針について打ち合わせをすべく、つい今し方までまたオレットさんも来ていたのだ。

 しかし不意にやって来たレティシアさんが、そのオレットさんを連れて行ってしまった。オレットさんは、まだ説明しておきたい事があったみたいだけど……。

 どうやらレティシアさんは、ダーナに行っていた間の事についてオレットさんに色々と聞きたい事があるらしい。

 仕事の話があるというオレットさんに、レティシアさんは殿方が夜中に女の子の寝室に居座るべきじゃないと怒っていた。

 それに対してオレットさんは、子供部屋みたいなものだから構わないだろうと冗談を返していたけれど……。

 ……まったく、笑えない冗談だ。

 私も少し眠くなっていたので、レティシアさんの来訪はちょうどいいタイミングだったと思う。

 目をぐりぐりと擦りながら、私はベッドの枕元にダーナでアメルからプレゼントしてもらった木彫りの人形を飾っておく。そして魔晶石のランプの灯を消すと、暖房代わりのアーフィリルを抱き締めてうんしょと布団に入った。

 目を瞑り、はふっと息を吐く。

 明日も頑張ろう。

 そう思った次の瞬間。

 カンっと何か甲高い音が聞こえた気がした。

 続いて、また違う金属音が連続して打ち鳴らされるのが聞こえる。

 気のせいではない。

 ……何だろう。

 私は目を開くと、そっと体を起こした。

 その時。

 ひゅうっと長く鋭い風切り音が聞こえたかと思うと、盛大にガラスが叩き割られる音が響いた。

「わわっ!」

 思わず私は、びくりと身をすくませる。

 この音、隣の居間からだ!

『セナ!』

 アーフィリルが短く警告を発する。

 ……わかっている!

 これは、緊急事態だっ!

「アーフィリル、融合をお願い!」

 私はベッドから飛び降りると、アーフィリルを掲げた。

 即座に寝室が、真っ白な光で満たされる。

 イルカ印のパジャマが純白のドレスに変化する。白く光を放つ長い髪がふわりと広がる。

 アーフィリルの強大な存在を胸の奥底に抱き、私はすっと目を開くと、緑の瞳で居間へと繋がるドアを見据えた。

 さて。

 大人状態となった私は足を開いて絨毯を踏みしめながら、周囲の気配を探る。

 何が起こっているのだろうか。

 まったく、ゆっくり温泉を楽しむ暇もアーフィリルと一瞬に眠る暇もない。

 次から次へと、よくも人を飽きさせないものだ。

 私はふっと薄く笑うと、両手の中に白く刃の輝く短剣を生み出した。

 その瞬間。

 居間に続く扉が蹴破られる。

 そして部屋の暗がりよりもなお濃い闇が広がる様に、黒い塊が私の寝室へとなだれ込んで来た。

 その動きに合わせて、つうっと赤の光が線を描く。

 オルギスラ帝国軍の黒の竜鎧か。

 暗い部屋に赤く輝くのは、その黒鎧たちの眼光だった。

 私は特に驚かない。

 襲撃を察知した段階で予想はしていた。 

 音もなく私を取り囲んだ黒鎧は3体。今まで遭遇した鎧たちよりもシンプルな形状の鎧を身に付け、背中にはマントの様に折り畳まれた翼を背負っていた。

 ここは、塔の上層階だ。

 恐らくはアンリエッタが使用していたものと同じ火を噴く飛翔方法で、居間の窓から直接突入して来たのだろう。

 目的は、この状況から見ても明らかだ。

 竜騎士アーフィリルの命、という事だろう。

 しかし、よく私の部屋の場所がわかったものだ。こちらの情報が漏れているのか。

「お前たち、オルギスラ帝国の手の者か」

 無言で対峙しているのも芸がないと思ったので、私はそんなわかりきった質問を投げかけてみる。

 それを好機と判断したのか。

 私の左後方に回り込もうと動いた黒鎧が、さっと何かを投擲して来た。

 鋭い風切り音が響く。

 私は瞬時に身を捻ってそれを回避すると、こちらも短剣を投げる。

 甲高い金属音が響き、その鎧の眉間に私の短剣が突き刺さった。

 同時に背後でドスッと何かが壁に突き刺さる音が響くが、そちらは黒鎧が投げた得物だろう。

 しかしそれを確認する間も無く、残りの2体の鎧が黒塗りのダガーを構えて突撃を仕掛けて来た。

 私はその右手から迫る鎧に向かって、もう片方の短剣を投げ付けた。

 鎧は、咄嗟に籠手で防御する。

 この至近距離で、なかなかの反応速度だ。

 普通の短剣ならば防がれていただろうが、しかし私が放ったのは魔素の刃を持つ短剣だ。ただの金属装甲では防げない。

 腕を貫かれた黒鎧は、しかし突撃のスピードを緩める事なく迫って来る。さらに、正面からも鎧が迫る。

 丸腰になった私を見て勝利を確信したのか、正面の黒鎧がギギっと初めて声をもらした。

 だが、甘い。

 長柄の武器ならまだしも、小振りなダガーの間合いなど私の手が届く範囲だ。

 私はふっと笑う。

 そしてこちらから、正面の黒鎧に向かって踏み込んだ。

 繰り出されるダガーの軌道を見切り、わずかに体をずらして回避する。

 黒塗りの刃が空を切る音が、至近距離で響く。

 私は、さらにもう一撃を加えようとダガーを引き戻した黒鎧の方に、おもむろに手を突き出した。

 その竜の意匠が施された頭部を、私はむんずと鷲掴みにする。

『ガギギ……?』

 竜鎧が一瞬不思議そうな声を上げる。

 しかし私は構わずに、竜鎧の兜を掴んだ右手に力を込めるとくるりと体を回転させ、そのままその鎧を右後方へと放り投げた。

 白のドレスと余剰魔素の光を放つ髪が、ふわりと広がる。

 放り投げた鎧が、今まさに右手後方から私に踊り掛かろうとしていた黒鎧に激突する。

 私の寝室に、鎧と鎧がぶつかる激しい音が響き渡った。

 2体の黒鎧は、そのまま絡まる様にして私のベッドに激突した。

 その衝撃で、枕元に飾っておいたアメルの木彫りの人形が倒れてしまう。

 おのれ、帝国軍め。

 手の中に使い慣れた白の長剣を生み出しながら、私は倒れた黒鎧たちに歩み寄った。

『グギギギ!』

『ガアアアアッ!』

 獣の様な警戒音を上げて私を見上げる黒鎧たち。

 その爛々と輝く赤の瞳は、私への殺意に満ちている。

 何か情報を引き出すのは無理か。

 私はすっと目を細めると、白の刃を振るった。

 一刀のもとに、2体の黒鎧の首を刎ねる。

 さて。

 取り敢えずの襲撃犯は撃退したが、どうも事態はそれだけでは収まりそうになかった。

 先程から激しい警鐘の音と誰かが戦っている音が響いている。

 私は白く刃の輝く長剣を携えたまま、黒鎧たちが飛び込んで来た居間の方へと向かった。

 果たして居心地の良かった居間は、無惨にも破壊され、荒らされてしまっていた。

 窓はぐしゃぐしゃに壊れ、ソファーセットやテーブルは床の上に散乱していた。

 破壊された窓から、真冬の冷たい風が吹き込んで来る。それと一緒に、微かに何かが灼き焦げる臭いも漂って来た。

 それは、すっかり慣れてしまった戦場の臭いだった。

 私は窓に近寄り、レンハイムの城とその城下町を見渡す。

 街の方はいたって静かだ。いつもの夜の通り、微かな家々の明かりと魔晶石の街路灯の明かりが規則正しく並んでいる。特に騒ぎが起こっている風もない。遥か遠くに見える城壁の方も、今のところは静かな様だった。

 どうやら、街の外から大軍が攻めて来ているのではなさそうだ。

 それに対して、城内は酷い有様だった。

 夜闇に沈んだレンハイム城のあちこちから黒煙が立ち上り、剣戟の音や怒声が飛び交っている。警鐘が鳴りやまず、警備部隊が慌ただしく展開しているのがわかった。

 どうやら襲撃は、私のところだけではなかった様だ。

 レンハイム城全体が、恐らくはあの黒鎧に襲撃されているのだろう。

 街の外周警備が静かなのにも関わらずこの様な状況に陥っているという事は、あの翼持ちの黒鎧に空から奇襲を受けたのか、城の内部に敵の侵入を手引きした内通者がいるのか。

 いずれにしても、あまり良い状況ではない様だ。

 私はさっと髪を振って踵を返すと、足早に廊下へと出た。

 部屋の警備に就いている筈の騎士の姿は見当たらなかったが、私は直ぐに階下に向かって走り始めた。

 魔晶石の明かりが朧に照らす廊下の先、階段がある方向から、何者かが争っている音が聞こえて来る。

 不意に、どんっと塔全体を揺るがす様な衝撃が走った。

 この魔素の反応は、レティシアの魔術スキルが炸裂した時のものだ。

 レティシアが戦っているなら、オレットもいるだろう。先ほどあの2人は、連れ立って私の部屋を出て行ったのだから。

 敵の全容は見えず、状況もわからない。

 厳しい戦況かもしれないが、そうそう敵の好きになどさせるものか。

 この城には今、オレットやフェルトをはじめ、頼りになる私の仲間たちがいるのだから。

 白く輝く剣を携えた私は、真っ直ぐに前方を見据えたまま、夜の城を駆ける。

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