いつかあの丘を越えて
「いってらっしゃい、ファレノプシス。暗くなる前には帰ってくるんだよ」
「うん、わかった!行ってきます!」
アドニスに手を振り、真っ直ぐ道を走る。今日は友達と遊ぶ約束をしているのだ。待ち合わせの森へと急ぐ。森への道を真っ直ぐ行った所、大きな木のある場所でいつもは遊んでいる。
「メリ!ごめん待った?」
「ううん!全然待ってないですよ!」
友達のメリの方が先に着いていた。相変わらず袖のブカブカした服は似合っていた。
「今日は何して遊ぼう?」
「川で遊ぶのは寒いし、木登りでもする?」
「いいけど…僕、登れるかなぁ?」
「大丈夫だって!オレが上から引き上げるから!」
そう言って大きな木の幹に足を掛ける
「無理しないでくださいね!」
まず足が掛けられそうな太い枝を探す。そして足場を把握していく。自分は落ちても受身をとることが出来るが、もしメリが落ちるなら助ける事はできないだろう。あそこの枝へ移ればもっと上に行けそうだ。
バキッ
「ファレノプシス君っ!!」
「危ねぇ!」
少し下にあった枝に足を引っ掛ける事が出来た。こうもりのようにブラブラとぶら下がる
「ミャー…すごくひやってしたよ」
「…やっぱ木の上に登るのはやめようか」
「そうですね!」
空中ブランコで飛び移る要領で他の枝を掴み、地面に着地する。パチパチパチとメリが拍手をしてくれた。
「上手ですね」
「元サーカス団の一員だからさ」
木の根本に2人で腰を下ろす。上から木がざわめく柔らかい音がする。
「メリは昔どんな所に住んでたの?」
「僕はですね、海の近くに住んでたのですよ。だから海はすごく好きなんだ!」
「へー!いいなぁ。海って夏は泳げるし、魚は釣れるから楽しそうだ」
「けど…僕は海に行った事はないのです…屋敷から出たことがなかったので」
「…ごめん」
嫌な事を尋ねてしまったようだ
「気にしてなんかないですよ!ファレノプシス君は海に行ったことがあるんだね!」
「サーカス団のみんなで毎年海に行ってたんだ。1度だけだけど、この国から海を渡って東の先果てに行ったことがあるんだ!」
「ミャー!!そんなところに人が住んでるのですか!?」
「いっぱい人がいたけどみんな変わった服を着てたなぁ。女の人はみんなメリみたいな袖が着いた服でロングドレスみたいなのを着てた」
「うーん…想像できないですね」
「形は変わってたけど模様はすごくきれいなんだ!花の模様が多かったな。けど一番きれいだったのは真っ白のやつだな!たまたまその街で見かけたんだ」
「どんな事をしてたんですか?」
「たくさん着飾った人がいて、赤い門がある古い建物で儀式?やってた」
後で聞いた話だとあれはこの国の教会と同じようなものらしい
「近くの家にあるみたいな門ですか?」
「ううん、もっと単純な形。けど朝焼けみたいな色ですごくきれいなんだ」
「うわー見てみたいなぁ!」
「オレももう一度言ってみたいなぁ」
遠くの丘を見つめる。あそこを越えると海が見えるらしい
「けど、その前に僕は海に行ってみたいです…海ってどんな所ですか?」
海で泳いだ時のことを思い出す。オレに泳ぎを教えてくれたのは誰だっけ?
「水は冷たくてすごくしょっぱい。川よりも流れが遅いと思ってると大きな波がきて流される」
「不思議な場所なのですね」
「そうだね。もっと暖かくなったらあの丘を越えて海に行こう。オレが泳ぎ方教えてあげるからさ」
「ミャー!いいのですか!?やったー!」
気づけば丘に太陽が沈みかけていた。そろそろ帰らなくては、アドニスが心配する。
「そろそろ帰ろっか」
「そうですね」
2人で真っ直ぐな道を行き、途中でメリとわかれる。
「またあそびましょうね!」
「うん」
別れの握手をしてお互い歩き出す。クロール、平泳ぎ、背泳ぎ…どれが一番やりやすいかな?多分平泳ぎだろう。団長が自分に最初教えてくれたのも平泳ぎだ。
早く夏になればいいのに
そう思いながら家のドアを開けた